インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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あけましておめでとうございます(遅

皆さんお久しぶりです。
というわけで第48話になります。





EP-49 現状ト進展ト、

 

6月16日午前12時28分。

––––––巨大不明生物離岸から2日後。

沖ノ鳥島南方80km––––––水深4000メートル

国連軍直轄・特務機関「モナーク」所有、

––––––SSBN-991_NN潜水艦【ムサシⅡ】

 

光さえ届かない深海。

そこを進む––––––黒い、鉄の鯨が一隻。

かつては、冷戦時代に日本を主体とするアジア諸国と西側諸国が核シェルターとして運用するために造られた原子力潜水艦「むさし2号」。

冷戦崩壊後はバブル崩壊も相まって売り出される形で喪われ、気がつけば亡国機業の所有艦。

そして今は––––––アメリカ情報軍によって亡国機業が壊滅させられた今は。

––––––国連軍直轄巨大不明生物調査特務機関モナーク機関に接収され、NNリアクター搭載艦として運用されていた。

 

 

––––––同艦内・司令室

 

狭く、それでいて無数の複雑な機械群がひしめき電子音を奏でる––––––艦橋構造物直下にして艦体中央に位置する司令室。

 

「間も無くマーキングポイント99に到着します。」

 

艦橋クルーが報告する。

それに頷く、艦長と思しき大佐の階級章を身につけた男と。

スーツ姿の、明らかに場違いな男。

彼はどこか焦燥気味に––––––だが口元は、まるで20年程前に別れた恋人と再会するのを楽しみにしているかのように歪んでいて。

––––––艦長はそれに敢えて触れない。

科学者が変わり者––––––彼に言わせれば変態––––––ばかりなのはいつの時代でも同じ。

もうそれには慣れたからこそ、今は自分の仕事を黙々とすれば良いだけの話。

自分達の仕事––––––任務は、日本海洋研究開発機構の潜水調査船支援母艦「よこすか」がレアメタル鉱床を調査中に発見した、巨大不明生物絡みと思しき物体の調査依頼。

通常ならば海上自衛隊へ調査依頼が行くのだが、海自は現在、IS学園と館山市を襲撃した巨大不明生物・ゴジラの捜索中。

その為にモナーク機関が調査依頼を引き受け、マーキングポイント99––––––物体の所在位置––––––へとムサシⅡを潜らせていたのだ。

 

––––––ふと、

 

「マーキングポイント99に到着––––––各種センサー起動、ライト点灯します。」

 

クルーが言う。

そして海底の状況を示す、各種センサーとライトによって照らされた複合映像が20インチほどのモニターに映る。

それにスーツ姿の男は食い入るように目にして––––––愕然とした。

 

放つ光の向こうにあるのは––––––無数に並ぶ、骸のような形の頭を持つ異形の鳥たちの数十、数百もの軀の山。

異形の鳥––––––ギャオスに似た頭部を持ちながらも、全く別物の外見の軀。

両腕は肘関節より先が剣のように鋭利な刃となっており。

背中から生えている4本の触手らしき器官は鏃のようなハサミ型の機構を持つ。

––––––ギャオスと類似点はあるのだが、明らかにギャオスと対になる存在。

––––––その骸は、19年前の南飛鳥村で見た、イリスとギャオス達の古戦場跡を彷彿とさせる。

だが––––––ここにあるのは全て、イリスだけなのだ。

それも乱雑に打ち捨てられているのでは無い。

…イリスの軀は整然と並んでいる。

––––––まるで、弔われた死者のように。

––––––あるいは寝台に並ぶ赤子のように。

––––––もしくは、出番を待つ兵器のように。

視界に入るだけで400体は下らない––––––イリスの群れ。

スーツ姿の男はモニター越しに映る異形の鳥たちの骸を見ながら険しい顔をする。

 

「……博士、ここは––––––…」

 

その隣で艦長の男が驚愕に満ちた声音で声をかける。

 

それを見てスーツ姿の男––––––芹沢は、艦長の言葉を繋ぐように口を開き、言い放った。

 

「イリスの、墓場…あるいは––––––揺籠(ゆりかご)、か…。」

 

 

 

 

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇

 

6月16日午前12時30分。

八広駐屯地国連軍管轄区(国連軍墨田基地)

第3演習場

 

1班の後方で地鳴りが響き渡り、思わず振り返る。

 

「ぇ––––––…?」

 

彼女らがこの空間で最後に見たのは、無数の刃が並んだ巨大な口で––––––。

 

––––––谷下カナ、死亡判定。

––––––橋隅マキ、死亡判定。

––––––葛川マオ、死亡判定。

 

「くそッ!上に上がって––––––…!!」

 

織斑は咄嗟に急上昇し、すんでのところで回避する。

そしてうなじに雪片を叩き込まんと空中で反転し––––––一瞬、静止する。

…そこに、響く––––––レーザー照射警報。

 

「––––––え?」

 

そして––––––遠方より織斑を貫く、音の光槍が。

 

––––––織斑一夏、死亡判定。

––––––第1班、全滅。

 

 

 

 

 

––––––事態は瞬く間に悪化した。

林道沿いに移動してきた部隊は後方から濁流の如く押し寄せたギャオス梯団に轢殺され、ほとんど全てが全滅。

森林は原生の大木が障害となり林道よりは比較的浸透率は低く、侵攻速度も低下している。

…だが、確実に来る。

バキバキと、人間が枝を踏み折るソレとは遥かに次元の違う音を響かせ、大木を薙ぎ倒しながら––––––死の波(ギャオス梯団)が迫り来る。

 

「––––––全機跳躍開始!NOE(匍匐飛行)で森林地帯を抜けるぞッ!!」

 

箒の号令––––––それで各機は跳躍を開始する。

 

「い、いやッ!」

 

だが金田は恐怖で跳躍出来ないまま、走り出す。

ここから逃げ出そうと、走り出す。

 

「ッ!跳躍しろ金田!そっちは––––––」

 

その先には、センサーに強い金属反応を示す物体群が埋まっていて––––––

 

「ええ⁈なんなのよ⁉︎」

 

苛立ちと恐怖に染まった金田の声と共に。

––––––カチリと、何かを踏むような音がした。

 

「––––––対戦車地雷源が…!!」

 

瞬間、爆音と共に大地が吹き飛んだ…!

 

––––––金田梨沙、死亡判定。

 

…同時に、

 

––––––第5班、全滅。

––––––第7班、全滅。

 

そう、網膜に投影される。

…このままではこの場にいる全員が死ぬ。

––––––箒はそう理解させられる。

…だから。

箒は最後尾に引き返し、その場にいた千尋と共に後方に––––––箒はライフルを、千尋はガトリングの砲口を向ける…!

 

「––––––後退支援射撃ッ!」

 

「了解ッ!!」

 

––––––箒の号令。

同時にけたたましい火薬の爆裂する砲声が(くう)を震わせる。

…当たっているかの確認はしていない。

どのみち効果はあくまで牽制に過ぎない。

それに今優先すべき事は、味方を逃がすことだ。

 

「オルコット!鷹月!私と千尋で食い止めるからお前達は味方の先導を頼む!!」

 

『で、ですが––––––…』

 

––––––貴女がたの身の安全はどうするつもりだ、とセシリアは言おうとして。

 

「命令は発した!行けッ!!」

 

だが遮るように、有無を言わさない鬼気迫る声で箒は怒鳴る。

 

「––––––っ…」

 

…当然、たった2機で食い止められる訳などない。

…しかも実戦を経験したのは31人中たったの3人。

…そして大陸での実戦を経験したのは3人中2人。

––––––どう考えても最初から詰んでいる。

箒は射撃と全周警戒を継続したまま、戦況図ならびに各班の状況図を開く。

 

《各班状況図》

––––––第1班、全滅

––––––第2班、3名生存・1名死亡

––––––第3班、全滅

––––––第4班、2名生存・2名死亡

––––––第5班、全滅

––––––第6班、全滅

––––––第7班、全滅

––––––第8班、3名生存

––––––現在31名中、8名生存

 

…開始10分足らずで、全戦力の75%を喪失。

普通に考えれば降伏か撤退もの––––––だが、相手は人間ではない。

故に、『逃げ続けながら殺し続ける』しかないのだ。

 

「千尋、後退しつつ脚を狙え!!」

 

––––––上等だ。

これ以上死なせるものか、せめて後ろの6人だけでも––––––。

…ふと、思考を遮るように警告音が鳴り、戦域マップが投影される。

––––––それを見て、血の気が失せた。

戦域図には、自分たちの光点(グリップ)に覆い被さるように、敵を意味する光点で埋め尽くされていたからだ。

…だが、射撃を継続している梯団は未だ600mは離れている。

…振動計も、地中侵攻の気配はない。

––––––それが何を意味するか、2人は同時に結論を弾き出し、

 

「––––––上だッ……!!」

 

見上げる。

そこには––––––鋸山のように、無数の刃めいた歯を並べた口が。

 

 

––––––篠ノ之千尋・篠ノ之箒、死亡判定。

 

…76秒後。

––––––第2班・第4班・第8班、全滅。

 

 

 

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇

 

6月16日午前12時50分。

八広駐屯地国連軍管轄区(国連軍墨田基地)

第3演習場管制室

 

 

––––––それが先程あったコトだ。

 

 

管制室のコンソールを操作している真耶は今一度、各々の面々を見る。

隣に立つ千冬は頭を抱えていた。

ロリシカ陸軍教導派遣将校と特生自衛隊教導派遣将校、ドイツ連邦陸軍臨時教導派遣将校の全員から評価はボロボロ。

––––––その片隅で、素人に実戦の記録をやらせても仕方ないだろう…と言わんばかりに顔を歪める国連軍教導将校と陸上自衛隊派遣視察将校。

…まぁどのような反応であれ。

各自の評価がボロクソであることに代わりはない。

 

「––––––まぁ、これで大陸の情勢が少しは彼女らも理解してくれたでしょう。」

 

…ふと、ユリアが呟く。

––––––それは、世論のほとんどが考えている、『素人でも《世界最強の兵器のIS》を使えば部分的にでも戦局を覆せる』という思想を覆すには十分だった。

…なるほど、つまり今回は敢えて負けて当然という環境に放り込んだのか––––––そう、真耶は理解する。

…確かにそうだ。

今回演習の舞台となったポーランド首都ワルシャワ郊外の森。

そこはもう、現在は存在しないのだ。

…否。

そもそも6月16日現在は––––––ワルシャワという都市自体が存在しない。

ワルシャワは6月10日の時点で巨大不明生物に包囲され––––––1000万人近い市民と共に玉砕し、陥落と同時に在欧アメリカ軍と欧州連合イギリス・フランス合同軍団による核攻撃で地上から物理的に消滅したのだ。

今回の演習データの元となったカンピノス森林戦は、巨大不明生物による包囲網が完成する直前の6月9日––––––ワルシャワから最後に脱出できた部隊が行った、撤退作戦であった。

 

––––––生存者307人。

 

––––––戦死者1016万人。

 

…それが、ワルシャワ攻防戦で生き残った人数と戦死者数だ。

 

––––––こんな状況下で、自分たちはタッグトーナメントを開催していた。

その事実に、真耶の背筋に悪寒が走る。

…そして、

 

(––––––今も…大陸ではそんな地獄が、現在進行形であるのでしょうか…?)

 

––––––そう真耶は、内心呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇

 

同時刻

ドイツ・ポーランド国境

───オーデル川・ブライエン泊地

 

ドイツ領キュストリーナーフォルラント。

ポーランド領コストシンナド・オドロン。

その両国地域に挟まれた国境河川。

そこにはドイツ領を抉るように、大型艦艇8隻が展開可能な泊地が形成されていた。

オーデル川防衛整備計画───ウクライナおよびポーランドの陥落を想定したドイツ連邦軍の防衛配備計画───により形成された人工の湾港には、黒鉄の牙城が浮かんでいた。

…ここに。

戦艦

「グローサー・クリュフルスト」

「グナイゼナウ」

巡洋艦

「リュッツォウ」

「ウンゲドゥルト」

装甲フリゲート艦

「ガルスター」

「リーデル」

───から成るドイツ連邦海軍第3機動群第5砲術戦隊と、

フリゲート艦

「ゲネラウ・カジミェシュ・プワスキ」

「ゲネラウ・タデウシュ・コシチュシュコ」

───から成るポーランド海軍オーデル川防衛臨時編成艦隊。

それら2艦隊と、ブライエン泊地より下流へ20キロ下った先───ドイツ領レチン泊地に展開している、

巡洋艦

「ロサンゼルス」

「デイトン」

ロケット砲艦

「GB-004」

「GB-005」

「GB-007」

「GB-019」

───から成る、在欧州アメリカ海軍のオーデル川支援臨時艦隊。

さらにそこから下流に60キロ下ったシュチェチン近郊の泊地に、

戦艦

「ニューハンプシャー」

ロケット砲艦

「GB-008」

および

戦艦

「ネルソン」

「レナウン」

───から成る、在欧州アメリカ海軍並びにイギリス海軍のシュチェチン駐留艦隊。

それら4艦隊が展開していた。

この戦区では各艦隊が連携することで、ポーランド撤退作戦の支援ならびにオーデル川の防衛は実現している。

…その中で、ブライエン泊地は最重要防衛拠点となっていた。

なにしろ、オーデル川沿岸部の多くは丘陵地帯が広がっている中、ブライエン泊地の対岸───コストシンナド・オドロンより東のポーランド領は、オーデル川に注ぐバルタ川沿いに直線距離にして100kmにも及ぶ平野が続いている。

…そしてギャオス陸棲種は平野部を好んで侵攻する習性がある。

加えて、市街地に対して集中的に侵攻する───仮説ではあるが、渡り鳥のように電磁波に反応する為に、電磁波が過密な都市部を狙うのではないか───という習性も持つ。

このことから、ビスワ川防衛線を突破した個体群は、旧ビドゴシュチ市街を経由してブライエン泊地方面に侵攻して来ている。

…何しろ、ブライエン泊地の後方、60km西方には。

 

───ヨーロッパ有数の大都市にして、ドイツの首都である、ベルリンが存在しているのだ。

 

 

 

世界標準時間(グリニッジ)午前3時10分。

ブライエン泊地

ドイツ連邦海軍第3機動群第5砲術戦隊旗艦

戦艦「グローサー・クリュフルスト」

───同・艦内。

 

ガラス越しに砲声が木霊(こだま)する艦橋。

その中はやはり、緊迫した空気が張り詰めていた。

 

「ゴジュフヴィエルコポルスキ要塞、防御戦闘を開始───ギャオス梯団先鋒、当防衛線到達まで50分弱…!」

 

通信士の報告が響く。

それに艦内の緊迫感は更に際立っていく。

ふと、マグカップに入れたコーヒーをぐいと飲み干しながら、グローサー・クリュフルスト艦長は東の地平線を睨みつけた。

 

「───砲術長、貴様の砲員達は敵がどれだけ近づけば命中弾を叩きだせる?」

 

そしてふと、艦長───海軍大佐の階級章を付けた女───は砲術長に問いかける。

…衛星データリンクも存在する現在では、戦艦の砲命中精度も極めて上昇した。

だが、基礎的な知識がなければそれも意味がない。

ドイツ連邦海軍が戦艦の運用を再開した当初悩まされた点は、大口径艦載砲運用ノウハウの衰滅だった。

大戦の時代には空母と航空機、冷戦の時代にはミサイルとロケットにより戦艦はその存在価値を叩き潰され、一時は兵種そのものの消滅にさえ至った。

それは長年戦艦ビスマルクⅡを運用して来たドイツ連邦海軍も例外ではなく、戦艦の衰退によって砲術運用ノウハウも衰え、ウクライナでのギャオス発生直後はまともに運用が出来ず、未だに現役の運用実績がある海上自衛隊やアメリカ海軍の元で再教育するところから始まった。

そしてグローサー・クリュフルストの砲術員も同様だったが、就役が遅れた為に砲術訓練は僅か2ヶ月の即席。

一応、補助要員(オブザーバー)として陸軍砲兵部隊まで乗せているが…正直なところ、不安要素が大きい。

───だが砲術長は艦長の女に対して、軽く告げた。

 

「…レーダーを用いるなら35000、光学なら27000、戦術機やヘリ、要塞陣地の弾着観測支援があれば39000は可能です。」

 

「───よろしい、充分だ。」

 

───マグカップから最後の一滴を口に放りこみながら、そう返す。

 

「砲術長。敵先鋒が距離40000に到達次第主砲発射準備。発射のタイミングは貴様に任せる。必要なら操舵手への指示、戦術機隊との交信も許可する。遠慮無く連中を叩き潰せ。」

 

「了解ッ!」

 

「通信手、僚艦に伝達。距離40,000で攻撃準備。旗艦砲術長の指示に従え、以上だ。」

 

───彼女の指示により、艦内の緊張はいつしか高揚した戦意へと変わっていく。

…だが、それでも彼女の顔は曇ったままであった。

 

(───ついにドイツは…最前線国家となってしまった…!)

 

憂いと不安が内心で荒れ狂う。

だが、嘆いたところでこの戦争が終わるわけではない。

…というか、それで解決するならとっくにそうしている。

それて解決しないのだからもう───現状を受け入れるしかない。

…最も───

 

「ただでやられるつもりは毛頭ないがな。」

 

そう呟くと同時に。

 

「ギャオス梯団、距離40000───切ります!!」

 

「全艦砲打撃戦準備!砲術長、主砲装填。弾種、DM93対獣爆裂徹甲弾(トールハンマー)

───リュッツォウ、ウンゲドゥルトには203mm対艦徹甲弾。ガルスター、リーデルには対艦ミサイルを撃たせろ。

要塞陣地の砲撃開始と同時に一斉射!」

 

「了解!」

 

───東欧の戦況と欧州全体の戦力や兵站を鑑みれば、この戦線はよく保って1ヶ月から3ヶ月。

つまり、陥落は必至だ。

なにしろ───

…ポーランドにおける米露両国の過飽和絨毯核迎撃戦。

…ロシアのムルマンスク方面への大規模疎開と、各戦線からの離脱。

…中欧、西欧、南欧で展開されている5億人の大陸脱出作戦。

…ポーランド陥落によるドイツ領へのギャオスの大規模侵攻。

───そうなる要素が多過ぎる。

だが嘆けど事態は好転しない。

今は、ただ自分達に出来る事に全力を尽くし、一人でも多く生き残れるようこの戦線を支えること。

───それだけに集中する。

 

「───オーデル・ナイセ要塞線、対地面制圧砲撃を開始!」

 

それを合図に、彼女は裂帛の号令を打ち鳴らした。

 

「───撃ち方始め(Abschieβen)!!」

 

直後───幼き巨艦は異形の群れに、鉄火の咆哮と共に牙を剥いた…!

 

 

 

 

 

 

◇◇◆◇◇◆◇◇

 

 

茨城県つくば市・在日国連軍つくば基地

 

国連軍が駐留する基地。

横田基地のバックアップも兼ねているらしく、在日国連軍の中では極めて大きな施設だった。

また、当基地はモナーク機関の実働隊であり、巨大不明生物–––––– G.U.L.F.(Giantic Unknown Life measures Frame)戦に特化した、

Gフォース––––––Anti G.U.L.F. Interception Force ––––––という部隊が配備されている。

––––––簪も彼らにマルチロックオンシステムのプログラミングの腕を買われ、国連軍にスカウトされたのだ。

故に現在彼女はIS学園仮設校舎を離れ、当基地に配属されていた。

––––––だがそこには、予想外の人物がいた。

 

「ど、どうして貴女がここに……⁈」

 

––––––つくば基地94番格納庫。

そこで簪は思わず声を発してしまった。

…眼前にいるのは、金髪のブロードヘアにウサギめいた雰囲気の少女––––––シャルロット・デュノアだったのだから。

 

「ぁ––––––君は確か、日本代表候補生の…えーと、カンザシさん?」

 

「そう、だけど––––––いや、そうじゃなくて!」

 

どうしてスパイ容疑で拘束されたシャルロット・デュノアがここに居るのか––––––そう問いかける。

 

「あ––––––…、話せば長いんだけど…」

 

––––––そう言って、苦笑しながらシャルは口を開いた。

 

 

「––––––つまり、日本に亡命したけどまだ仮国籍で永住権取得に至っていないから、日本国籍を取得する一番の近道である在日国連軍に勤務することにしたら、高速切り替え(ラピッドスイッチ)の腕前を買われて、【M計画】に参加することになった…と。」

 

「––––––掻い摘んで言うとそうなるかな…」

 

たはは、と笑いながらシャルは簪の言葉を肯定する。

対する簪は、ある種同情を浮かべる。

それはスパイに仕立て上げられた過去があるから…ではない。

––––––姉と同じように、歳並みの生き方を許されないだろう立場となった事に対して、である。

だがそんな事は気にしていない。

––––––そう言わんばかりに、シャルは手早くメンテナンスブースのコンソールを叩いて行く。

…彼女が組み上げているものは、彼女がかつて専用機としていたラファール・リヴァイヴ・カスタムで得意としていた高速切り替え(ラピッドスイッチ)を応用した兵装変更システムである。

現在シャルが弄っている––––––簪もこれから弄ることになる––––––機体は、多種多様かつ重量が極めて大きい装備を大量に搭載している。

…故に、装備を切り替えるタイムラグを少しでも減らす為に、高速切り替え(ラピッドスイッチ)の技術を応用したプログラムを書き込んでいる。

––––––マルチロックオンシステムのプログラミングを行なった事のある簪には、それが直ぐに理解できた。

 

「––––––ふぅ。」

 

溜息を吐き、プログラミングを行なっていたウィンドウを閉じる。

…どうやら一通りプログラミングが終わったらしい。

 

「––––––とりあえずコレが僕たちが開発する事になる…とは言っても後はプログラミングだけど…まぁ、関わることになるって点では間違いないかな。

…国連軍のM計画開発兵器であり、巨大不明生物と拮抗可能な状況まで人類を持って行く––––––矛のひとつ。」

 

シャルが呟くと同時に、ウィンドウが閉じられたスクリーンには、機体の名称らしき画面が映し出され、

 

Mobile

Operation

G.U.L.F.

Expert

Robot

Aero-type

 

「––––––M.O.G.E.R.A.(モゲラ)…?」

 

それを見た簪は、各行文の頭文字を繋げて、ふと呟いた。

 

 




今回はここまでになります。

Q.話の展開遅すぎない?

A.ですので次回はバッサリ飛ばします(ホントは色々あるけどそれは番外編の方でやります)。




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