インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版 作:天津毬
皆さまコロナウイルスが大変な時期ですが、お身体は大丈夫でしょうか?
また、いかがお過ごしでしょうか?
アマツはバイト(という名の就職先での研修)以外は自宅でイラスト描いたりしてます。←はよ本編書けや
今回は短めですが、ようやく臨海学校に着く…手前になります。
次回から本格的に臨海学校スタートします…(・ω・`)
7月5日午前9時50分
––––––太平洋海底
「あンの!女狐ェェェェェェッ!!」
––––––束の拠点・ムウ=カイザーライヒ(クロエ命名)。
旧日本海軍の海底潜水艦基地を改造した拠点に、束の絶叫が木霊する。
––––––昼寝のハズがいつの間にか短期間コールドスリープに処されていた束は、目覚めると、
『貴女とはもうやっていきません。では失礼します。 クロエ・クロニクル改めクロエ・アドルガッサーより』
––––––その置き手紙が視界に入った。
…天災は瞬時に助手が裏切ったのだと悟り、憤慨した。
おまけに隠し玉の開発データも根刮ぎ奪われたのか、管理ファイルは全て破壊されていた。
これには束も激おこプンプン丸である。
「ふ––––––ッ、ふ––––––ッ、ふ––––––……落ち着け、落ち着くんだ束さん。紅椿のデータはある。
なにより––––––…」
怒りを鎮めるように切り替えた束は自分に言い聞かせ、自身の義手の内蔵型隠しポケットよりピンクのウサギを彷彿とさせる装飾が施されたUSBを取り出す。
「––––––今、束さんの世界を土足で踏み倒してる害獣どもを駆除するのに一番有力なデータは、この中にある…。」
そう言って、束はコンソールにUSBを挿し込む。
画面に表示されたデータ群を見て、束は顔を狂喜に歪め、
「––––––自立思考金属ナノメタルによる補強と植物の再生力をISコアで統合制御された、機械生命体型インフィニット・ストラトス……【タイプ
天災は高笑いを浮かべた。
––––––それは世界を救う英雄ではなく。
––––––世界を滅ぼす悪魔ですらなく。
––––––他者を巻き込む疫病神。
だが産み堕とさんとするソレは紛れも無く、
「––––––あ、でもまずは、箒ちゃんに紅椿をあげなくちゃ☆」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
同時刻・東京都墨田区
特生自衛隊八広駐屯地・
そこでは、後遺症の残る怪我を負った為に、鞍掛基地新IS学園校舎への編入を先延ばした四十院神楽と鏡ナギの両名が座している。
IS学園防衛戦において神楽は左腕を切断し、ナギはシールドバリア破壊事件で右脚の半月骨を喪い、IS乗りへの道を絶たれた。
現在2人は、そのリハビリとして駐屯地に残留していた。
『昨夜、政府と神奈川県は横浜県都筑区にドイツ人居留区に設定すると発表しました。この居留区は巨大不明生物との戦闘でドイツから脱出したドイツ人に割り当てられた地区であり––––––』
PXの備え付けテレビが映すニュース番組––––––国際連合の世界共通報道番組の日本語翻訳版から流れてくる内容を耳にしていた。
「一種の行政特区だけどね。」
ニュースを見ながら、神楽は呟く。
それにナギが食いつくように、
「そうなの?」
「ええ。一応はドイツの法律も適応される租借地という形で進んでる。ようは大使館や領事館みたいな扱いね。
その方が––––––区の主導権がある程度ドイツであった方が、区内に居留するドイツ人には政府経由でEUから生活保護が降りるだろうし、永住も可能ではあるしね。」
––––––日本は国籍取得が難しいからって、よく考えたわね。と言いながら。
「ただ国内に新たに国境を作るとなると、元いた住民を強制的に追い出すなんて事態になりかねない。だから主体は日本だけどある程度はドイツの法律を適応する––––––という形で総務省・外務省・法務省がドイツ政府と協議してる…らしいわ。」
コーヒーを啜りながら口にする神楽は僅かに間を置いて。
「それに、ダンケルク作戦によって都筑区にはドイツ企業––––––食糧生産プラント技術を持つ農業系と食品加工系、IT系…他にもクルップ重工業やラインメタル社など、自衛隊にも関係のある軍需企業も含めて6社が進出してる。
––––––いざとなれば、容易く部品や知識ある人材をこちらに派遣することができる。
だから、決して日本にデメリットばかりしかないではないわ。」
「––––––ドイツ海軍が横浜に駐留するみたいだけど…。」
「横浜駐留軍ね。アレは都筑区のドイツ人居留区防衛の為の戦力。もちろん場合によっては国連軍として自衛隊にも協力する。
…聴いた話では、予備役の装甲艦1隻、復役した駆逐艦2隻、揚陸母艦1隻が配備されてるみたい。
ただ、駆逐艦2隻は本格的に再度実戦可能となる為に横須賀の米軍施設で陸揚げ整備。揚陸母艦は引き続きダンケルク作戦でドイツ本土から国民を逃す為に帰国の準備中。装甲艦は芦ノ湖整備基地に移動中。
––––––だから日本における稼働率はゼロよ。」
「ゼロって…。」
神楽の言葉にナギは絶句しそうになり、
「––––––仕方ないわよ。ドイツって陸軍国だもの。四方を海に囲まれた日本と違って、ドイツは三方を陸、海に面しているのは北だけだから、当然陸軍へ力を注がなくてはならないし、海軍は疎かになってしまう。
それにドイツ連邦海軍って今はミサイルフリゲート艦が主力だから、ドイツ海軍で駆逐艦といえば、戦時中のものか、2003年に退役して博物館となっていたリュッチェンス級のどちらか。
––––––整備するにも、余裕がなかったんでしょう。だからその分を日本で行うと…そういう考えなんでしょうね。
…まぁ、こっちだって5インチレールガンを運用させてもらってるんだし、一度退役した駆逐艦の大規模改装や装甲艦への艤装換装程度で済むなら安いものよ。
––––––これがグローサー・クリュフルスト級みたいな戦艦の面倒を見ろ、とかだとお手上げだけどね。」
神楽はそう口にする。
––––––同時に、退役艦を無理矢理復帰させなくてはならない現実にナギは畏怖を覚えた。
…いったい、どれほどまで戦場は逼迫しているのか––––––と。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
午前10時30分・茨城県つくば市
在日国連軍つくば基地・執務室
「––––––では、米軍・国連軍上層部は朝鮮半島から在韓米軍を撤退させ、在日米軍に編成した際の余剰戦力を在日国連軍に再編成する…というお考えなのですね?」
U.N.F._Spokes––––––国連軍広報部を意味する英語が刻まれた腕章を付け、ゲストIDをぶら下げた立花が口にする。
手にはマイクが握られており、それは当国連軍基地の司令官に向けられていた。
「ええ。大韓民国軍は済州島に退避した揚陸艦に臨時軍政府を設立し、半島各地の部隊もそちらに撤退を開始しました。それに、東アジア戦線は大幅な再編が求められていますから。」
無難に応える。
––––––彼の言うとおり、現状の東アジア地域は大幅な配置再編が求められ、そしてアメリカ主導でそれが実施されていた。
「現に、南シナ海のパラセル諸島基地、スプラトリー諸島基地、ナトゥナ諸島、東シナ海の沖縄諸島や対馬諸島、ロリシカの樺太といった大陸近傍の諸島部への基地建造を実施しているほか、国連軍のメンテナンスセンターを日本や台湾、フィリピンに設置するなど、今後は大陸近傍諸島を主軸とした防衛体制を確立するという事が国連軍上層部で決定していますからね…。」
––––––つまりそういう事だ。
東アジア方面での大陸の防衛は不可能––––––そう悟った国連ならびにアメリカ軍は、ユーラシア大陸アジア地域から近傍島嶼部への撤退を始めており、海を挟んで睨み合いを続けるという方針に傾いた、という事だろう。
(––––––まぁ理性的に考えれば、そうなるわよね…。)
インタビューをしながら、立花は思考する。
––––––戦線が伸び過ぎて、兵站や補給が足りなくなり、ジリ貧に持っていかれる大陸内陸部を無理して維持するより、火力集中投射率の高くなる大陸沿岸部沖合に艦艇を配置し、対岸の諸島部に機甲戦力や戦術機を配備した方が、極めて効率的に、かつ的確な防衛戦を展開することが可能となる。
…もちろん、政治的な理由もあるだろう。
特に極東アジアの大陸側には東側国家ないしそれに準ずる国家しか存在していない。
アメリカ主導の国連軍としては、東側国家の救援も視野に入れてはいるが、基本的には西側諸国の安全保障を優先する––––––そういうことなのだろう。
…まぁ、素人目に見ても大陸はジリ貧なのは分かる。
けど、これは電波に乗せるインタビューだ。
多角的かつ、公平性の高い情報が必要になる。
––––––だから、
「そうですか…では、極東の現状を維持することは可能なのでしょうか?」
問いかける。
…それに司令官は苦い表情を浮かべながら、
「––––––最善は尽くします。しかし結論から言うと無理でしょう。
特に指揮系統の混乱が生じている朝鮮半島方面の防衛はほぼ不可能に近い。
––––––よく持って、3日でしょうか。」
よく持って、3日。
3日もすれば、日本は最前線になってしまう。
立花は思わず目を見開くと共に、仕方ないのだと諦観する。
––––––朝鮮半島は。
巨大不明生物によって北朝鮮が陥落し、38度線を打通して韓国に侵攻すると同時に、北朝鮮領内の金剛山ダムを破壊。
それによってダム下流に位置していた韓国の首都ソウルに200億トン––––––波高120メートルもの濁流と土石流が北漢江を経由して津波となって38度線を越境。
ソウル中心部に至っては一時的に完全水没し、政府機能を喪失。
さらにソウルに中央集権化が進んでいたこと、地方との通信設備を喪失した事により指揮能力、通信能力を喪失。
侵攻に気付いたのがレーダーや通信などではなく兵士の目視確認という有様であった。
そして残存する各基地に連絡を入れるも、日本からの侵略と勘違いした市民や北朝鮮工作員らによる大規模な暴動によって碌に行動出来ず、さらに巨大不明生物の侵攻速度も相まって、防衛線を引くより領土の失陥の方が早いという有り様だった。
通信指揮系統の寸断。
インフラ設備群の壊滅。
政府閣僚および軍上層部の戦死。
一部の暴徒化した一般人による混乱。
…巨大不明生物の侵攻以外に、それらの問題に見舞われ、もはや朝鮮半島は戦線の維持すら不可能となっていた。
現在は釜山駐留国連軍の支援で辛うじて持ち堪えていたが、それも司令官の言う通り、あと数日が限界だろう。
––––––現に、在韓米軍は日本本土に撤退後、在日米軍指揮下で北九州戦線や山口県岩国基地に配備されるなど、日本列島への撤退が実施されている。
…これが極東アジア各地で起きて行けば…なるほど、確かに––––––今年中に世界は破滅するかもしれない。
最後にいくつか質問をしながら、立花はそう思う。
––––––誰かが言った。ヒトは極限状態に追い詰められて初めて結束できるものだ、と。
(…じゃあまだ、その極限状態でさえないってワケ?もう今月までに30億人––––––世界人口の35%が死んでんのよ⁈)
––––––インタビューを終えて廊下に出た立花は頭痛を覚えながら、内心呟く。
「––––––立花さん。」
ふと、廊下から声がした。
見れば自分と同じく、広報官の腕章とゲストIDをぶら下げた––––––元IS学園新聞部部長、黛薫子がいた。
そもそも、広報官紛いのことをしているのも、彼女がIS学園新聞部を通じて国際チャンネルへの情報発信サービスを開始しようなんて言い出したからだ。
…確かに、IS学園は一応は国連の組織だし、日本国内のマスメディアの大半が機能不全となっている今では、その発信は支持出来るものだろう。
––––––最も、密着すべき相手はもっぱら国連軍なのだが。
「極東方面の情勢、どうだった?」
「––––––最悪、の一言に尽きますよ…欧州方面はどうです?」
「こっちもね––––––…IS学園に教導に来てて、ドイツに帰ることになった軍人さんに聞いたところ、良くない内容ばっかね…。
––––––ドイツが最前線になったとか、バルカン半島がヤバいとか、ロシアがウクライナとの国境を2000発近い水爆で爆砕して海峡を構築したとか、アメリカが旧ポーランド領で衛星兵器から質量弾爆撃を敢行したとか…とにかく、悪い話ばっかり。」
「…もう良いです。聞いてたら頭おかしくなりそう––––––…楽しい話題、なんかして下さいよ。」
「うーん、悪い話ばっかじゃないのよ?欧州連合軍は10年前から検討されてた、PICフロートを用いた【空中機動艦隊】なんてものの投入まで始めたらしくて––––––」
立花/あたしは溜息をつく。
この人は一度火が着くと、熱意が覚めるまで一切話題を変えようとしない。
––––––そういえば、あたしらは広報官という立場上行けてないけど、他の子は臨海学校という名目で、箱根の新校舎に引越しに行ってるんだっけ…。
空を見上げながら、あたしはそう思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
同時刻
神奈川県・新東京箱根市(旧足柄下群箱根町)
芦ノ湖南岸
箱根外輪山船舶昇降機・箱根関所出入り口
––––––ドイツ連邦海軍装甲艦アドミラル=グラーフ=シュペー
「海––––––じゃ、なァァァァァい!!」
「でも海みたーーーい!!」
「…そりゃ、湖だからな。」
甲板上でぼんやりと風景を眺める千尋は思わず呟く。
相模湾から小田原市根府川地区を経由して、はるばる装甲艦を乗せた船舶用巨大リフトに揺られながら山肌を登ること、およそ7キロ。
終着点である––––––標高740メートル、箱根カルデラ内に形成された堰止湖である芦ノ湖南岸に到着した。
大半の生徒は芦ノ湖に気を取られているが、
「––––––なるほど、芦ノ湖で直接荷物を下ろせるようにしただけでなく、湖そのものをモスボールを兼ねた整備基地にしたのか…。」
箒が感心したように言う。
確かに、箱根関所跡港には貨物船の他に、アメリカ海軍の旧式艦艇が何隻か鎮座しており、現在改修工事を受けていた。
…海水であれば船体の腐食が進んでしまうが、淡水ならばある程度は抑制できる。
そして現在、ユーラシア近傍諸国への防衛配備計画として、旧式艦を近代化した上で実戦配備する為の整備基地が現地に多く設置されていた。
日本も例外ではなく、琵琶湖運河や霞ヶ浦湖などの淡水湖をモスボール艦近代化改修拠点として整備していた。
ここ芦ノ湖の整備基地は申し訳程度の広さだが、大阪湾・伊勢湾・若狭湾と3つの海に繋がる琵琶湖運河や太平洋と接続した霞ヶ浦湖と比較すれば、海水を完全に遮断できる分、腐食速度は落ちる上に、東日本における整備基地の中では一番水深が深い為、船艇の整備もしやすい。
––––––何より有事の際に臨時分散首都として機能する新東京箱根市に近いという事もあり、保険として設置されていた。
「…仕舞いには、街が要塞化されたり、紫色のロボットが配備されたりするかもな。」
––––––千尋は久しぶりに冗談を言う。
それが少し、箒を和ませたのか、
「––––––なんだそれは…前者はともかく、後者はありえんだろう。」
小さく失笑しながら箒は言う。
「…んで、着いたらどうするよ。まずは泳ぐか?」
基本的に芦ノ湖は急激に水深が深くなる為に遊泳は禁止されている。
––––––だが鞍掛基地の峠下には、自治体がリゾート施設として再開発した白浜遊泳森林浴場という施設が存在しており、遊泳はそこでなら可能だった。
無論、ここにいる他の生徒達もそこで泳ぐつもりらしい。
「いや、まずは基地に挨拶だろう。常識的に考えて。」
なにを考えている。
という顔で箒は言うので、
「––––––真面目かっ」
揶揄うように、千尋は口にした。
––––––この一瞬が続けば、幸せなのに。
そう、心の片隅で思いながら。
今回はここまでになります。
さて、次回は水着回……季節違いすぎだけど気にしたら負けです(何が)。
それにしても束さんの言ってた【タイプE】…なんでしょうねぇ…?
次回も不定期ですが、極力早く投稿致します!