インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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お久しぶりです…アマツです…。
仕事が忙しくて執筆出来てない現状で、大変申し訳ありません…。

今回は短い上にそのうち統廃合するエピソードになるかも知れません。
それでもよろしい方はどうぞ…。





EP-54 不穏と日常/間

7月4日午後14時37分

特生自衛隊八広駐屯地

––––––2-A作戦会議室

 

「––––––事故?」

 

光が訝しげに問いかける。

眼前のプロジェクターには、相変わらずクレーターと化したモナーク機関アフリカ支部が映し出されていて––––––その視線を、誠に移した。

 

「ああ。アメリカがオキシジェンデストロイヤーに手を出していた事は事実。ミクロオキシゲンを実戦投入した事も事実。

だが、実戦テストとしてアフリカ支部を攻撃したのではなく、同地にてミクロオキシゲンの最終濃縮実験を経てオキシジェン・デストロイヤーを製造。西サハラで運用する予定だった…が、濃縮実験が失敗し––––––この惨事に発展したと。」

 

「––––––情報元は?」

 

「モナーク北米本部およびモナークインド支部、そしてDOE(米国エネルギー省)、アメリカ大統領特使からの情報だ。最後のは矢口官房副長官経由でもあるし、信用には充分に事足りる。

現在は––––––先の事故でアフリカ上空のオゾン層が不安定となった為、亀裂が発生しないようにする対策チームを立ち上げた…と。」

 

…そう、誠は答える。

誠は矢口蘭堂内閣官房副長官と個人的趣味(・・・・・)で交友がある。

加えて秘密主義体制が色濃く残る特自を内閣に信用させる為に情報交換をよく行う者同士でもある。

だから、情報に虚偽があるとは思えない––––––もちろん、誠も複数のルートを使用してファクトチェックは行った筈だ。

それにこの状況下で他の国に喧嘩を売るような真似を––––––否。国連機関とはいえアメリカ資本のモナーク機関を攻撃し、国内にまで敵を作るような真似をしても、得るものがない。

それにアメリカは中国やロシアと違い、現在は本土が戦場になってはいない。

故に他にいくらでも模索する手段がある。

だから自分達の立場を脅かすカード––––––オキシジェンデストロイヤーによる国連機関への攻撃などという手段を切る必要など無い。

加えて言えば––––––オキシジェンデストロイヤーが炸裂したのは施設の外ではなく、施設の内側。

––––––当事国と当該機関からの情報。

––––––当事国の立ち位置。

––––––国連軍、モナーク機関、米軍、DOEの各衛星が残したデータ。

それらから––––––ほぼ「確実に事故」と判断するのは容易だった。

…だがそれよりも、後者の方が光の気を引いた。

オゾン層の亀裂発生に対応する為のチームを立ち上げたという事は、アフリカ大陸上空の大気状態は極めて危機的な状態にあるということ。

…もし、あと1発でもオキシジェンデストロイヤーが使われたら––––––オゾン層に亀裂が発生し、未曾有の大災害に発展しかねない。

 

「––––––もし、オゾン層に亀裂が生じたら?」

 

だから、問いかけずにはいられなかった。

…無論、専門家でもない誠に問いかけても分かる筈がない。

それでも––––––口に出さなくては、気が済まなかった。

だがその期待に応えるように––––––誠は口を開いた。

 

「…俺個人の推論だが––––––、一番マシな被害でも、アフリカに氷河期が来るくらいの被害にはなるだろう。」

 

その言葉に誰もが息を飲む。

…素人目に見ても、そうした被害が出かねない。

 

「…どちらにせよ––––––今頃モナーク機関も蜂の巣をつついたような騒ぎになってることは、確かだろうよ。」

 

 

 

 

 

◇◇◇◆◇◇◆◇◇◇

 

 

同時刻。

新東京箱根市・市営モノレール環状線

––––––同・車内

 

「いやー、買った買った。今日はご馳走だなぁ!」

 

「ふふ、そうだな––––––。」

 

新車特有の匂いがほのかに鼻をツンと突く。

新東京箱根市自体が居住者の移住途上であり、街自体が閑散としているせいか––––––主要公共交通機関であるはずのモノレールの車内は、千尋と箒しかいなかった。

 

《御状石、御状石でございます。右側のドアが開きます。ご注意下さい––––––》

 

響くのは車内アナウンスと。

 

『––––––であり、IS学園と館山市を襲った巨大不明生物第1号は未だに見つかっておらず、自衛隊と国連軍は捜索範囲を縮小し、本州の沿岸防衛に再度注力する方針を決定しました。

次のニュースです。

EU、ヨーロッパ連合は第2次大陸脱出(ダンケルク)作戦を開始しました。この作戦はアメリカ海軍やイギリス海軍、フランス海軍を中心に展開されており、現地には空母・揚陸艦18隻、輸送艦56隻、その他民間船舶など合わせて104隻もの艦船や1000機近い航空機が投入されており––––––』

 

車内の備え付けテレビの音声だけ。

壁に埋め込まれたモニターに映っているニュースは、人類と巨大不明生物との戦争一色だった。

アレだけ楽しく過ごした時間のうちにも、戦況は推移していたのだと…しかも、より悪化していると––––––嫌でも理解させられた。

 

「オルコットの奴、大丈夫かなぁ…」

 

思わず千尋は呟いた。

欧州はバルカン山脈防衛線が崩壊し、エーゲ海・地中海方面が激戦地となっていると聞く。

それに、バルト海方面もドイツ・ポーランド国境付近が激戦地となっている––––––という噂を耳にした。

イギリスは今のところ被害が出ているとは聞かないが、安心は出来ない。

だから思わず、呟いたのだ。

 

『次は、元箱根港––––––、元箱根港でございます––––––』

 

––––––ふと、そんな事を気にしても仕方がないと言わんばかりに、車内にアナウンスが響く。

 

『––––––速報です。先程気象庁は会見を開き、現在北上中の、極めて強い勢力の超大型台風3号は勢力を維持したまま沖縄から本州を縦断すると判断し、政府は今月8日から10日にかけて西日本と西関東を中心とした地域に、警戒レベル5の大雨・土砂災害特別警報を発令すると発表しました。』

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◆◇◇◆◇◇◇

 

同時刻。

イギリス領テムズ川河口

ボリス島・東フェリーターミナル

––––––軽巡洋艦ベルファスト

 

ロンドン=ブリタニア空港の滑走路に挟まれるように併設されたフェリーターミナル。

そこに、タウン級軽巡洋艦10番艦・ベルファストは停泊していた。

 

「ここが私たちの指揮本部だ。––––––ベルファストは初めてか?」

 

艦内の廊下を歩きながら、クララがセシリアに問いかける。

 

「は、はい––––––。いつも遠目に見るばかりでしたから…。まさか、まだ動くなんて…。」

 

セシリアは驚きを隠せないように答える。

それもそのはず。

ベルファストは第2次世界大戦時の艦艇で、戦後に朝鮮戦争などに派遣されたものの、1963年8月24日に退役し、1971年に陳列艦として大英帝国戦争博物館分館となり––––––テムズ川南端、プールオブロンドンに係留・保存されていたからだ。

だが、巨大不明生物の出現と欧州陥落が現実味を帯びて来たことから、ベルファストは現役に復帰。

最新の衛星データリンクシステムと衛星測位型砲撃用レーダーを搭載し、後部甲板に簡易ヘリポートを設置するなどの改修を受け––––––現在は郷土防衛隊司令部となっていた。

…ふと、外を見ると、

タグボートに係留されながら航行する木造帆船が見えて––––––大航海時代からタイムスリップして来たような、時代錯誤な存在にセシリアは思わずぎょっとした。

 

「––––––な…、なん、ですか?アレ…?」

 

「戦列艦ヴィクトリー号。1778年就役––––––あんなナリだが、列記とした英国海軍(ロイヤルネイビー)に属する世界最古の現役艦(・・・・・・・・)であり、第一海軍卿旗艦だ。」

 

それにセシリアは再び目を剥いた。

18世紀に造られた艦艇が未だ現役であること。

そして何より––––––

 

「現在は104門あった砲のうち、艦首楼のカロネード砲を除く全てを在庫処分寸前だった陸軍のL16_81mm迫撃砲およびL6ウォンバット120mm無反動砲に換装––––––重量過多による浸水に備えて浮力型フロートを装備。動力は流石に帆で風を受け止めて進むんじゃ遅いから、タグボートを推進器代わりに使用…と、それなりの大改装はされている。」

 

––––––こんな船を引き摺り出さなくてはならないほど戦況は逼迫しているのだという現実が、セシリアの意識を支配する。

 

(––––––ヨーロッパがこの状況なら…アジアは…、日本は、どうなっているのでしょう…?)

 

ふと、神楽や簪。そして千尋と箒が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

◇◇◇◆◇◇◆◇◇◇

 

 

 

 

––––––セシリアの心配を他所に。

 

 

 

 

午後18時31分

新東京箱根市函南地区・鞍掛国連軍基地

––––––同・生活隊舎207号室

 

元箱根駅で降りた後、市営バス箱根カルデラ環状線に乗車。

バスに揺られながら160メートル程登り、箱根峠停留所で降りて2〜3分も道なりに歩けば鞍掛基地はすぐだった。

 

(…ここの立地、案外悪くないかも知れない。)

 

ふと、千尋は思う。

…ひとつ懸念があるとすれば––––––雨天下における落雷が心配ではある。

––––––閑話休題(それはともかく)

千尋と箒の二人は割り当てられた部屋に戻るなり、ビニール袋ごと食材を持って台所に立った。

 

「さて、と––––––。」

 

千尋がストレッチ代わりに首をコキコキと鳴らす。

 

「ああ––––––。」

 

応えるように箒も伸びをして、身体をほぐす。

––––––そして、

 

「「––––––やるか…!」」

 

それぞれが食材と道具を手に取った。

 

––––––今日の夕食の献立は三つ。

鶏の唐揚げ。

蜜柑カレー。

マグロの刺身。

 

野菜がないというのは栄養が偏る気もするのだが、2人にとっては全く関係なく、ひとまず美味にありつくことだけを考え調理する。

 

(今度は鶏ひき肉のそぼろとかー、親子丼とかハンバーグとかも食いてぇなぁー。他にも焼豚乗っけたラーメンとか、鯨肉のベーコンとか、豚カツとか––––––そういうのも食いてぇなぁ〜。)

 

(今日は特別に肉系ばかりを許可したが…、少しは野菜も食べさせなくてはな––––––それでなくても千尋は野菜を残しがちなんだから…。)

 

そんなことを2人考えつつ、千尋は唐揚げ粉をまぶした鶏肉を熱した油に放り込み、箒は鍋で炒めた野菜に水とカレーの素を流し込んでいく。

…ところで今更だが、帰りしなに寄ったスーパーは非常に品薄となっており2人は驚いた。

東京や新東京箱根の都心部にはあった一部の野菜や香辛料が消え失せ、地方から取り寄せたのか––––––野菜でさえ値段は非常に高い。

それだけに、今後のビタミンの確保ルートを考えると、やはり野菜や青物は大切だ。

ただでさえ近年は猛烈な暑さや寒波といった異常気象に見舞われて野菜が高騰化していたのに、ここに来て巨大不明生物との戦争と核の冬––––––夏野菜はともかく、冬野菜は壊滅的被害を受けることは必至だった。

だから今のうちに––––––と、買い溜めする人間が多くいたのだろう。

残念ながら、今後それらは合成食料になっていく可能性が非常に高いのだが。

 

「箒––––––刺身のサイズはこんくらい?」

 

千尋が切った刺身を皿に乗せて、箒に見せながら訊く。

応えるように、香ばしい香りが立つカレー鍋をかき混ぜながら箒は覗き込む。

 

「ん?あぁ、そのくらいで大丈夫だ。…では、カレーもよそってくれるか?」

 

「あいよ!」

 

はたから見ればそれは、思いっきり新婚カップルである。

そんな客観的な視点なんざ知らん!俺らは腹減ってるから飯食いたいんだ!!

と言わんばかりに、2人はさっさとテーブルに献立を乗せた皿を並べて行く。

テーブルの上には、

鶏肉の唐揚げ。

みかんカレー。

マグロの刺身。

玉葱のコンソメスープ。

––––––今日買った品々を使った料理が並んでいた。

それを前にして––––––

 

「「いっただっきまーすッ!/いただきます。」」

 

––––––胃に恵みを与えてくれる、かつて命があった者たちを食すことへの感謝の言葉を述べて。

 

「––––––よっしゃ唐揚げェ!!」

 

「あっ待たんかコラ!!」

 

––––––眼前の夕飯に食らい付く。

パリッと軽快な音を立てながら、歯が鶏肉を包む衣を噛み砕く。

そのまま歯は油で熱された鶏肉を貫いて。

ジュウ、と肉汁が口内に溢れ出し、味の暴力が千尋の味蕾を犯していく––––––!

 

「びゃあ゛ぁ゛ぁ!うまひぃ゛ぃぃ゛ぃ゛!!」

 

千尋と箒に割り当てられた部屋に、軽快かつ素っ頓狂な声が響く。

およそ二週間––––––合成食料によって味覚を忘れていた舌は、突如襲いかかって来た美味の暴力によって、一瞬にして陥落した。

 

「ふへへ…美味すぎて舌と脳みそ溶けりゅ…。」

 

なんて、千尋は蕩けた顔を浮かべて悦に浸る。

––––––それはもう、このまま味蕾が死んでしまいそうな程に幸せだ。

 

「しっかり噛んで飲み込めよ?まったく…。」

 

そんな千尋を見て、箒は呆れながら告げる。

––––––なんて言いながらその実、箒自身も自らが作った料理の味に惚けているのだが。

 

(––––––いつ以来だろう。こんなにゆったりとして、美味い食事は。)

 

思わず、箒は微笑む。

––––––けれど。

この平穏は長くは続かない。

––––––そう思わせる予感が、2人はしていた。

 

 

 

 

 

 

––––––同時刻

静岡県下田市

北緯34.6533427

東経138.9668389

 

「づ…づいだぁ…。帰って来たぜ…ジャァァァープ…」

 

その予感を体現するように、篠ノ之束がついに日本本土に上陸していた…!

 

IS学園まで、92km––––––篠ノ之束、IS学園到着まであと19時間。

 

 

◇◇◇◆◇◇◆◇◇◇

 

 

 

『––––––私達は間違ってた。あの連中を殺してでも、【解読不可】デストロイヤーは作らせるべきじゃなかった。

…これを聴いてる人が居たら【解読不可】後世に伝えて欲しい。どうか絶対に【解読不可】度と、オキシ【解読不可】ロイヤーを使わせないで。

使った結末が、【解読不可】の氷結という、最悪の事態に繋がったの…!だから…お願い。…二度と、作らせないで…。

……寒い…。【解読不可】暖房設備も停止して、【解読不可】が流れ込んで来てる。外は【解読不可】この施設も、よくもって【解読不可】。

【解読不可】状況だから、助けは来れない。

……だから、私が見つかる時は、もう【解読不可】だと思う。

…ごめんね…【解読不可】ママ…もう貴方に会えそうに、ない…。だから【解読不可】して、元気でいて…愛してるわ……さよなら【解読不可】––––––』

––––––(20██年██月██日、アフリカ大陸・コンゴ共和国ブラザヴィル特別市・国連管轄地下シェルター内の女性凍死体から発見したテープより)




というわけで今回はここまでとなります。

次回以降もやはり不定期になると思います…。
次回から福音事件に本格的に突入かなぁ…。
次回も不定期ですが、どうかよろしくお願い致します。



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