インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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番外編【怪獣基礎学Ⅱ】アンギラス

「はーい、皆さん授業始めますよー。」

 

燈の声が教室に響く。

今の科目もやはり––––––【怪獣基礎学Ⅰ】。

即ち怪獣学である。

 

「じゃあ今回は教本の––––––と、言いたいんだけど、まだ載ってないからプリントを配布するわ。」

 

そういうと、燈は席の最前列からプリントを配布する。

––––––そして、そのプリントに刻まれた怪獣を見て、千尋と箒は絶句する。

全身に走る雷電を纏った甲殻。

肩や腿、尾、頭部に生えた7本もの氷柱めいたツノ。

四足歩行の四肢から生えたナタのようなツメ。

獰猛さを感じさせる牙と眼。

アルマジロとも狼とも見てとれる、合わぬ筈の相性を交えた異形の体躯。

––––––そこに刻まれていたのはコード:【アンギラス】と名付けられた、ロリシカの巨大不明生物であった。

 

「今回紹介するのは隣国ロリシカで今年確認された新種の巨大不明生物を紹介するわ。」

 

そういうなり、燈は生徒に配布したモノと同じプリントを見ながら解説を始める。

 

「––––––プリントに載っている通り、怪獣の名前は【アンギラス】。

今年に入ってから確認された新種の生物よ。

––––––名前はサンスクリット語で『天使』の意味を持つわ。」

 

サンスクリット語とは、古代インド・アーリア語に属する言語であり、インドの他に南アジアおよび東南アジアにおいて用いられていた古代語である。

古代語と言われてはいるが、現代インドの22の公用語の一つとしても機能しており、未だに使われている言葉だった。

––––––その言葉で、アンギラスは『天使』の意味を持つ獣だった。

 

「…天使…天使?」

「えっ…これが?」

「いやどう見ても魔獣…」

 

––––––などなど、名前の意味に関して不評が飛ぶ。

 

「––––––はいはい、気持ちは分からなくもないけど、まずは授業に集中。」

 

そう燈が言って、雑談を切る。

 

「––––––現時点で分かっていることを言うと、このアンギラスはロリシカ共和国領内に生息している個体で、体高は推定50メートル。体長は推定180メートル。

1965年に旧ソ連領タイミル自治管区で確認された【ギョットス】、1983年に旧ソ連領モンゴル人民共和国で確認された【アンジラ】の近似種と思われるわ。」

 

ふと、聞き慣れない名称が出る。

それに箒は反応して挙手する––––––勿論、自衛官流の挙手法である握り拳で。

 

「––––––教官、質問の許可を。」

 

「許可します––––––で、何かしら?」

 

「ギョットスとアンジラとは、どのような個体なのでしょうか?」

 

「––––––そうね、まずはその2種から説明した方が良いかもね。じゃあ教本72、73ページを開いて。」

 

そう言うと、千尋と箒は指定のページを開く。

そこには、ギョットスとアンジラの写真。

アルマジロのような体躯。

ハリネズミのような針山。

凶悪と獰猛さに歪んだ顔。

…外見は確かにアンギラスに酷似している。

多少の差異––––––ギョットスはアンギラスに比べて顔が細長く、アンジラはアンギラスに比べて胴体が太い––––––があるものの、素人ならば見分けがつかないだろう。

どちらからも、" 泥臭い " 雰囲気が漂っている。

––––––だからこそ、アンギラスの外見の異形ぶりに目が行ってしまう。

…その写真下には説明の文が羅列されており、ページの端にはギョットスの出現座標を示すバツ印が刻まれていた。

––––––ギョットスはロシア領(旧ソ連領)クラスノヤルスク地方タイミルスキー・ドルガノ=ネネツ地区(旧タイミル自治管区)。

ロシアのシベリア地域中央、その北部。

北極海に面したタイミル半島に位置する場所だ。

––––––アンジラはモンゴル領(旧ソ連領モンゴル人民共和国)オブス県ウヴス・ヌール盆地周辺。

モンゴル国北東部にあり、ロシア領トゥヴァ共和国国境付近に位置する国内最大の湖たるウヴス湖を中心に広がる世界最北の砂漠と世界最南の寒地高原(ツンドラ)が並存する土地だ。

 

「ギョットスもアンジラも––––––冷戦時代のソヴィエト連邦領…アメリカと対立していた国の領土に出現した巨大不明生物よ。」

 

––––––燈が口を開く。

 

「前回のゴジラの解説時にみんなにも話したと思うけど、当時はアメリカ率いる西側とソ連率いる東側に分かれて対立していたの。

ちなみに日本は西側––––––だから、この2種が出現した地域は敵地のド真ん中ね。」

 

ただ事実を述べるように淡々と口を開く。

––––––だが淡々と告げられる中に、人類の間で明確な「敵と味方」という亀裂が発生していたということを嫌でも分からされる。

 

「…前回の米軍によるゴジラ隠蔽と同じく、この時もソ連軍による隠蔽が成されたわ。…西側の介入を許せば、党の政治的威信に関わるから、と。」

 

––––––ああ、やはり隠蔽か。と誰かが溜息をつく。

だがそれに疑問を抱いたのか、神楽が口を開く。

 

「––––––教諭殿。隠蔽は分かりますが、如何に対処したのですか?」

 

––––––最もな疑問だ。

前回のゴジラは徹底した箝口令と放送機能、通信機能に対する破壊工作を用いたことで隠蔽を成し遂げたが、最終的にはゴジラが海に帰ってくれたから…というのが大きい。

だが今回はどうか。仮に箝口令を徹底し、放送機能や通信機能に対する破壊工作が出来ても、最終的に怪獣は海に帰らず陸に在り続ける。

…これが継続されている限り、その対処法で隠蔽は成立しない。

 

「…簡単よ。ソ連政府は戦略核兵器でこの2種を焼き払ったの。」

 

––––––つまらなそうに、アッサリと解答した。

 

「…え?––––––核、ですか…?」

 

「そんな簡単に使えるんですか?」

 

思わず周囲の生徒が問いかける。

 

「ええ––––––当時のシベリアとその周囲一帯は、ソ連軍の核実験場だったから。

その中に出現したなら好都合––––––と、ソ連軍はアメリカが知るよりも早くその2種を殲滅したわ。アッサリと。」

 

––––––なんて、拍子抜けな結末。と呟く声が聞こえた。

…正直同意せざるを得ない。

 

「…ま、結末は置いといて説明するわ。ただね…ここらへんの種族、すっごく地味で説明に困るのよね…東側に出た怪獣はただでさえ情報少ないのに……。

近似種のアンギラスも見た目や戦果が派手なだけで未発見情報多過ぎて解説に困るし…。」

 

––––––なんか平然と愚痴ってるような気がするが、気にしないでおこうと生徒たちは思った。

 

「…ま、いいわ。解説するとね––––––ギョットスもアンジラも、水爆実験によって変異した生物よ。」

 

––––––この辺は前回のゴジラと同じね。と燈は口を開く。

 

「骨格などは白亜紀に生息していた恐竜、アンキロサウルスに酷似している。

…国連の調査機関が出した仮説によれば、アンギラス系列の元となったのは、アンキロサウルスと遺伝子的に近い爬虫類だったのではないか––––––と言われていてね…真偽は定かでは無いけど。

…で、攻撃パターンだけど、不明。ソ連が核攻撃で殲滅しちゃったからね。

––––––ただし、甲羅自体の防御力は相当で、核攻撃で手脚が損壊する中、甲羅は原型を留めたままだったと言われているわ。

…ここまでがギョットスとアンジラの説明。」

 

––––––やはりというか、アッサリ終わってしまう。

 

「次はアンギラスの説明––––––アンギラスも基本的な出自はギョットスおよびアンジラと同じと考えられているわ。

ただ––––––あまりにも生態が違いすぎるのよね…。」

 

そういうと、プロジェクターを起動させスクリーンに画像を投影させる。

––––––群青の海としか表現できぬ無数の光。

––––––蒼青の鎧としか表現できぬ雷光の嵐。

それらを身に纏った暴龍––––––アンギラスが映し出されていた。

…その、泥臭い雰囲気に茶色を連想させる配色だったギョットスとアンジラとのあまりの違いに思わず、生徒達はアンギラスを凝視する––––––実物を見た事のある千尋と箒を除いて。

 

「––––––見て貰えば分かるように、アンギラスは帯電体質…ようは、体内に電気を溜めて攻撃に転用できるの。…デンキウナギみたいなモノ––––––と言えば分かりやすいかしら?

まぁ、デンキウナギは触ったら感電死する程度だけど、アンギラスは体内の電気を放電する上にソレで地面抉ってクレーター作っちゃうレベルだから、全く別次元なんだけど。」

 

あはは、と笑いながら燈が言う。

––––––笑いどころではない。

こんな " 怪物 " としか形容しきれぬ生き物が実在し、現在進行形でユーラシアを闊歩していると考えると怖気が走る。

 

「まぁ地面を抉る、といっても、雷そのもので抉ってるわけではないわ。」

 

燈は紡ぎ、

 

「実際には––––––土中の水分や水そのものを蒸発させる水蒸気爆発を引き起こすことで、地面を抉るほどの威力を引き出しているの。

あとはアンギラスそのものの大質量を用いての、物理的な要因ね。」

 

永久凍土を踏み砕き、蒸発させる高熱を全周囲に放出する一撃を、当たり前の様に連続で放つ。

…明らかにギョットスやアンジラとは次元が違う。

––––––だがふと。

1人の生徒がある事に気づく。

 

「あの先生、なんか周りに蝶々が飛んでるみたいなんですが…」

 

見ると、確かにアンギラスの周りには無数の青いチョウが飛んでいる。

それは、アンギラスから与えられる生体電流を帯びてスパークしながらアンギラスの周りを滞空している。

…さながら、蛍のようだ。

 

「ああ、これはね。シベリアで生息が確認されたシベリアアオライチョウ。世にも珍しい帯電体質の昆虫。

この蝶は変わっていてね––––––春や夏に僅かな水分を蓄え、秋と冬は一切を断食し、その期間は外部からの電力供給で生きるという、半分機械の領域に片足突っ込んでる存在なの。

アンギラスと一緒に出現するまで存在も知られていなかったわ。」

 

そも、マイナス50℃以下になる極寒のシベリアに蝶がいるなんて誰も思わないしね––––––と燈は笑いながら言う。

 

「それに、アンギラスと違って強力な体内炉心を有していないから、仮に生きれても極低温のシベリアでは生体電気が枯渇する。

寒冷地ではバッテリーが電池切れするのが早いって現象に似てるわね。」

 

燈の言う通り、バッテリーや蓄電池はマイナス気温下ではすぐ充電切れを起こす。

電化製品の実例で挙げるなら、スマートフォンは冬場の充電量が100%でも夏場の半分程度の時間しか稼働しない。

他にもEV車とかは夏や春などは充電を完全にすれば3万5000kmほど走れるというが、冬場は同じ分充電しても僅か200kmしか走れない。

––––––それ程に寒冷地と電化製品の相性は悪い。

…故に、寒冷地であるシベリアに住むアオライチョウはとっくに絶滅していなければおかしい存在だ。

 

「だからこそ、そんなシベリアアオライチョウは、電力を常に放出アンギラスと一緒に行動している––––––というワケ。

アンギラスから電力を常時与えられる事でシベリアアオライチョウは生きられるし繁殖も出来る。

シベリアアオライチョウからすれば、アンギラスは共生関係にある生物であり、自らの一大コロニーそのものというワケね。」

 

––––––怪獣と暮らす生き物。

なるほど、そんなのもいるのか––––––と、千尋は思った。

それと同時に––––––箒を見て。

 

(なれるかなぁ…俺も…)

 

––––––そう、内心呟いた。

それからも少し、怪獣学の授業は続いた––––––。

 

 

 

 




補足:
【ギョットス】…外見は昭和アンギラス。名前の由来はゴジラの逆襲時に東宝社内で行われた対戦怪獣の社内公募にて落選した土屋嘉男氏の投書した名前。
【アンジラ】…外見はFWアンギラスをデブらせたような感じ。名前の由来は海外版「ゴジラの逆襲」において何故か変わっていた名称。
【アンギラス】…外見はFWアンギラス+千年竜王アンギラス+α(モンハンのジンオウガ)。ぶっちゃけシリーズ通して不遇具合が可哀想過ぎて魔改造施したいという欲求から生まれた怪獣。
予定ではヘドラを単騎攻略したりスピットエビラを瞬殺したり、暴走メカゴジラ(機龍ではない)の顎を粉砕して首チョンパしたり、大陸を吹っ飛ばしたりと色々とギドラ族の存在感を食ってしまいかねないキャラ。
…やり過ぎたと反省はしてるが後悔はしていない()

千尋「あのさぁ…。」

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