インフィニット・ストラトスadvanced【Godzilla】新編集版   作:天津毬

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今回は千尋と箒のデート回&本ちゃんの戦略機vsIS、そしてイリーナがロシアを嫌悪する理由が書かれてます。


EP-07 同じ世界、違う人々

東京都・渋谷区

「…どうしてこうなった?」

箒は先が思いやられる顔で歩いていた。

そして目の前には楽しそうな千尋。

…千尋が楽しければいいのだが、何故自分たちが閉鎖的なIS学園を飛び出して、ハイカラで若者が跋扈する渋谷に来たかと言うと…話せば長いのやら短いのやら…。

箒は今まであったことを思い出す。

昨日、『織斑墜落事件』の後、理事長室に呼び出され、ロリシカ派兵の話を聴かされたのだ。

唐突だった為に千尋も箒も驚いたが、詳細な計画書を渡され、必要な道具を集める為に、休日を利用して買い物に出てきたのだ。

しかし、ここで以前言っていた、千尋の『飛びっきりスペシャルなの』を箒は食らう羽目になった。

いわゆる、リア充が跋扈する渋谷や表参道などのような賑やかな街に買い物にいく、と言い出したのだ。

箒はサバイバーズギルトのせいかそういう賑やかでハイカラな場所が苦手で、どうするべきかひどく迷ったが、千尋が箒のサバイバーズギルト克服の一環として、『女の子らしい休日』を過ごさせる為に渋谷行きの電車に乗りこまされてしまい、今箒はとてつもなく困惑していた。

「箒姐、ハチ公の陰に隠れてても必要な道具買えないよ〜。」

千尋が笑いながら、言う。

「ううぅ・・・そ、それは分かってる!!け、けど・・・」

箒は赤面しながら辺りを見回す。

ハイカラな場所が苦手なのに、周りはハイカラなものだらけだ。

「はぁ・・・もう、しょうがねぇなぁ・・・」

千尋が箒に近寄って、手を握る。

「ふぇ⁉︎」

千尋に手を握られて、箒は酷くテンパってしまう。

「ささ、行こう行こう。」

千尋に手を繋がれ、引っ張られる形で箒は歩かされる。

この時も、赤面し、相変わらずテンパったままだ。

そして連れてこられた先は、

渋谷区のセンター街のランドマークとも言われるほど有名な、渋谷109デパート。

「こ、ここに入るのか?」

箒が聴く。やはり、困惑し、赤面している。

「うん。」

対する千尋は、さも当然、と言わんばかりに言う。

「か、勘弁してくれ…そ、それに必要な道具ならコンビニでだって…」

箒は言うが、

「水着は?」

ロリシカの基地は男女別の風呂を作れるだけの余裕がなく、水着着用の上で混浴となる。

「あ・・・うぅうううぅ・・・勘弁してくれ…。」

さっきよりも、赤面し、耳まで赤くしながら、言う。

「大丈夫。俺がついてるし、それにすぐ慣れるって。ほら行くよ〜。」

「あぅ〜。」

身長155センチの千尋に身長162センチの箒は連れられながら、109デパート内に入っていった。

「大丈夫だって、デートだと思えば。」

「余計緊張するわ‼︎」

 

■■■■■■

 

水着コーナー。

正確にはスポーツショップだ。

まだ4月なのに水着コーナーがあるはずがないので、スポーツショップに2人は来ていた。

「わ、私はこんなんで良いだろう…」

箒は赤面しながら、スク水タイプの水着を手に取るが、

「え〜もうちょっと派手なのにしたら?」

千尋が、自分の水着を手にしながら、言う。

「と、というか千尋もそれは勘弁してくれ!見てるこっちが恥ずかしいから‼︎」

箒が、小声で言う。

まぁそれもそうだろう。

千尋が買おうとしていた水着は、緋色の、ビキニパンツ…いわゆる競パンというやつだったから。

今時はく男子はいないし、どことなく、見てると恥ずかしいから、箒は赤面する。

「え〜そうかな・・・海外じゃ普通って聞いたんだけど・・・それにぴっちりしてるし履きやすいし泳ぎやすいし。」

千尋は考え込みながら、言う。

「泳ぎやすいって・・・海水浴に行くんじゃないんだから・・・」

箒が呆れながら、言う。

だがそれで少し、箒の緊張が和む。

同時に、少しくらいオシャレなものを選んでも良いかな…という、感情が生まれる。

そして目に付いた水着を手に取り、

「こ・・・これなんて、どう、だ・・・?」

選んだのは、紅色の生地に白いラインの入った、少し、渋めのブラとスカート付きパンツのビキニ。

それを、ハンガーに付けた状態で箒は自分の体の前にまわして、着たようにして、赤面しながら千尋に見せてみる。

「・・・あ」

瞬間、千尋の顔が赤くなる。

そして沈黙。

「ど・・・どうだ⁉︎」

千尋が黙ったままなので、箒は聴く。

「うん、すっごく可愛い。」

「⁉︎〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」

顔を赤面させながらも、千尋は、どストレートに言い放つ。

箒はさらに顔を赤くして、頭から湯気のような何かが噴き出す。

まるで、ゆでダコだ。

「じゃあ、それ買う?」

(コクコク)

千尋の問いに、箒は嬉しさと羞恥心から言葉が出ずに、ただ、首を縦にふる。

2人はそれらの水着を買うとスポーツショップを出た。

「次どこ行く〜?」

千尋が無邪気な、子供っぽい顔をして、楽しそうな声音で箒に聴いてくる。

あらかた買うべきものは買ったから、後は帰るだけだ。

だが、千尋はまだ帰るつもりではないらしい。

もう少し見て回るようだ。

「・・・これでは普通にデートではないか。」

苦笑いしながら、箒は呟く。

いつもなら、すぐ帰るところだ。

「デート・・・デート、か。」

楽しそうな千尋を見ながら、箒は、千尋との”デート”に付き合うことにした。

 

■■■■■■

 

ロリシカ・ギジガ

派遣される自衛隊との合同作戦に備えて、マガダン統合基地からメドヴェーチ中隊はベルホヤンスク山脈の近くにある、ロリシカの第2首都にして、ロシア軍の核攻撃を受けた都市・ギジガの郊外にあるギジガ統合基地に移動していた。

その、市立ギジガ病院。

イリーナに連れられ、リーナは歩いていた。

「あの・・・」

リーナが、イリーナに声をかける。

「ギジガって意外と平和なんですね・・・ロシアの核攻撃を受けたからもっと荒廃してるのかと・・・。」

リーナの言う通り、窓の外から見えるギジガ市の街並みは、所々廃ビルがあり、シグクライミングクレーンが忙しく動き、街を復旧させている区画もあるものの、ほとんどが、整備された清潔感溢れるビルやマンションで構築されていた。

とてもバルゴンとの最前線にひとつとは思えなかった。

とはいえ、未だに残留放射能に汚染されている場所もあるらしい。

「・・・でも、それ以上に悲惨だったりする。」

イリーナが、言う。

それにキョトンとしているリーナに対して、

「・・・今日はわざわざ悪かったな。ついて来てもらって。」

イリーナが、苦笑いを浮かべて言う。

「はぁ・・・あの、ここに何が?私に見せたいものがある、と聞きましたが・・・」

リーナが聴く。

「・・・妹が居るんだ。24歳になるな。」

「お見舞い・・・ですか?」

「ああ・・・。」

イリーナのいつもキツイはずの顔が、母性を孕んだ人間味あるものになる。

イリーナをこんな顔にさせるという事はそれだけ大事な存在なんだろう。

どんな人なんだろう・・・気になるなぁ・・・

リーナはそう思いながら、期待半分、不安半分の状態でイリーナに連れられて、病室に入った。

 

■■■■■■

 

2時間後。

イリーナとリーナは病院を出て、ギジガ統合基地まで歩いて帰っていた。

イリーナもリーナも無言だった。特にリーナに至っては顔面蒼白となっており、それだけの精神的衝撃を病院で受けていた。

「あ、あの、同志中尉・・・」

リーナの声は震えていて、今も思考は混乱していて、言葉を紡ぐのが精一杯だった。

「つまり・・・こういう、ことなんですか?同志中尉の妹さんはロシア軍の核攻撃と残留放射能のせいで、あんな、風に・・・」

「大雑把に言えば、な。」

寂しげにイリーナは呟く。

イリーナの妹と交わした僅かな会話が脳内で再生される。

 

 

 

 

ありがとう、最近はね、吐き気も脱毛もなくて気分がいいの。・・・イリーナの部隊仲間の人かしら?髪と瞳の色は?お話してくれていると嬉しいな。

私のお友達は、この間いなくなっちゃったから・・・

 

今の私は、見るに堪えないでしょうね。社会復帰だって難しいかも。

でもね、生きてたら、きっと良いことがあるわよ。

 

 

 

 

リーナは、彼女のことが眼球と脳に焼き付いていて、忘れることは有りそうにない。

青白い肌に大小の赤紫色の斑点が点在し、片目は生き生きした黄金色だったが色彩を見れるだけの視力はなく、もう片目は失明・白濁化し、その白濁化した目の周りはケロイドとなっていて、

左足は肌がズル剥けになった跡があり、口の端からは、しゃべるたびに涎が垂れていた。

その異様さには寒気すら感じた。

看護婦とイリーナの会話を小耳に挟んだところ、このところ体調は安定しているが、この先、社会復帰できる可能性が低いこと、さらにもっと言えば30歳まで生きられる確率が40パーセントしかないのだ。

看護婦もイリーナもハッキリとは言わなかったが、このまま緩やかな死を迎える可能性が極めて高い––––––。

さらにもっと驚かされたのは、他の病室や他の病院にも同じような容態の・・・いやそれよりもっと酷い、核攻撃や残留放射能による被曝が原因の患者が大勢いるという事だ。

全部、全部私たちのせい––––––?

リーナは思う。

イリーナから聞いた話によると日本やアメリカから輸入した先端医療で生きながらえているが、国連から独立自治を保証する代わりにバルゴンの存在を隠蔽するためにその2カ国以外からは援助を受けられず、イリーナの妹のような原爆症の患者がこのギジガに集中し、その患者を治療するために先端医療機関も集中し、最前線でありながら5万人の人間が暮らす都市としてあった。

そしてその市民を守る為に大勢の軍人や徴兵された人々が血を流す。

バルゴンという敵と、ロシアという敵を相手に、在ロリシカ米軍と周期的に派遣される自衛隊を増援に交えて絶望的な戦いを強いられる・・・。

リーナは自分の不甲斐なさに潰されそうになる。

こんな惨状をリーナは知らなかった。

習ってすらいなかった。だがやはり、無知だった自分も罪悪に感じてしまう。

こんな酷いことをしておいて、私はロシアと組もうなんて・・・核兵器を使おうなんて・・・‼︎

これだけのことをロシアがすれば自分が、ロシア人の自分が疎まれたり、殴られたり、殺されても当然じゃない–––––‼︎

「別に貴官が責任を感じたり思い悩むことはない。」

「え––––––?」

弾かれたようにリーナは思わず顔を上げる。

「お前が悔やんだところであいつのような人々が治るわけじゃないだろう?」

「あ・・・」

「これからは不用意に核だのロシアだのという発言はするなよ。・・・あと、な、今は私たちに出来るのは彼らをバルゴンから守るくらいだ。だから今は、それに集中しろ。」

イリーナが、リーナに言い放つ。

瞬間、基地の方から警報が鳴り響く。

『サハ共和国領国境よりロシア軍IS部隊の領空侵犯を確認。AH部隊は速やかに撃退に当たれ。繰り返す–––––––』

基地のアナウンスから、そう聞こえた。

「AH部隊・・・?」

リーナが呟く。

「アンチ・ヒューマン、まぁ、対人類用の部隊だ。」

イリーナがリーナに言う。

瞬間、基地の滑走路から白い、雪原迷彩の施された、ガンヘッドとは違う、”人狩り”用戦略機プラティマバスが飛翔していくのが見えた。

「・・・ほぅ、どこのAH部隊かと思えば・・・噂のジャール大隊か。」

イリーナは澄んだ碧眼でその部隊を見上げながら、言った。

 

 

■■■■■■

 

コルイマ山脈近郊

そこをIS・・・ミステリアスレイディの簡略型であるIS、チボラーシェカ4機が隠密性を高めるために速度を落として飛行していた。

「ちょっと何よこれ⁉︎ハイパーセンサーがめちゃくちゃだわ‼︎」

女の1人が叫ぶ。

ハイパーセンサー、レーダーサイトよりは劣るが広大な索敵範囲をもつシステム・・・とされているそのセンサーは、今はノイズだらけで何も映していなかった。

「故障でもしたんじゃな〜い?だって下等な男が整備したんでしょ?」

もう1人の女がそういう。

だが、その女の機体のハイパーセンサーも調子が悪かった。

というより全員のハイパーセンサーが不調を訴えていた。

原因は整備不良––––––と彼女らはした。

『ロシア軍IS部隊に告ぐ–––––貴官らは我が国の領土に侵犯している。ただちに退去せよ。繰り返す、ただちに退去せよ。』

瞬間、オープンチャンネルで凛とした女の声が響く。

「隊長‼︎」

部下の1人が隊長の女に叫ぶ。

「あわてる事ないわ。訓練通りにやりなさい。どうせ連中の機体じゃチボラーシェカの機動性にはついてこれないわ。」

隊長の女が言う。

確かに、第2.5世代のチボラーシェカなら旧式の戦略機ガンヘッドを圧倒するくらい容易いだろう。

相手が、”ガンヘッド”なら。

『––––––了解、貴官らは撃墜する。』

瞬間、眼下の針葉樹林から、36ミリの砲声と共に砲弾が飛びかう。

4機のチボラーシェカにそれが命中するが、全て絶対防御で防がれる。

IS乗り達なハイパーセンサーの認識範囲内からいきなり砲弾が来た事で虚をつかれたが、直ぐに立て直す。

「こっちには絶対防御があるわ‼︎全機散か–––きゃあ‼︎」

瞬間、今度は反対側から120ミリ滑腔砲の高速徹甲弾が飛んで来る。

それも絶対防御に防がれるが、またしても虚をつかれる。

女の1人が望遠カメラで発射起点を探る。

「せ、戦車⁉︎あんな旧式兵器に気付かなかったの⁉︎」

女が叫ぶ。

その間にも絶え間なく36ミリ機関砲の砲撃と120ミリ滑腔砲の砲撃は止まない。

「だ、誰かなんとかしてよぉぉ‼︎」

「落ち着きなさいよ‼︎絶対防御があるから––––––。」

瞬間、そう叫んだ女の絶対防御の発動装置がエラーを起こし、飛んで来た高速徹甲弾が最後の最後に発動された薄い、絶対防御を貫通し、その女を、人間だったものの残骸に変えた。

「「「え・・・?」」」

全員がその光景に唖然とする。

『––––––総員傾注、無礼な蛮人共に、礼儀を教えてやれ。』

チボラーシェカ指揮官機の敵の無線を傍受する情報収集システムが、先程警告を発した女の声を拾う。

瞬間、眼下の針葉樹林から、白い、雪原迷彩を施された、戦略機がメインカメラの赤い輝跡を描きながら、飛び出す。

その数6機。

ガンヘッドとは違うまた別の機種。

その機体は2機1チーム、計3チームを組みながら、接近してくる。

戦略機のセオリー通り、2機1チーム(分隊)で、攻撃を仕掛けてきたのだ。

「う・・・」

女の1人が呻くように、ガトリングが内蔵されたランスを構え。

「うわぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

次の瞬間には絶叫しながら戦略機に向けてガトリングを斉射する。

戦略機はそれを多目的追加装甲シールドで防ぎながら突撃してくる。

「くそ‼︎全機、ナノミストの使用を許可‼︎」

指揮官機の女が叫ぶ。

「た、隊長それは‼︎」

ナノミスト––––––ミステリアスレイディの水のナノマシンの元となったナノマシンだ。

あちらは水を使うことで湿度を利用した攻撃ができるが、ナノミストはただの金属片で弾除けにしかならない。

おまけに普段は使うことを禁止されていた。秘匿兵器だからだ。

だが、部隊全滅の危機になった今、使わない手はない。

「構うな‼︎」

「しかしそれは使用許可を政府に取らな––––––」

瞬間、シールドエネルギーが20パーセントを切っていたその女を、錆色の日本刀が貫く。

だがその日本刀は人間やISが扱うには大き過ぎる。–––戦略機の、長刀だ。

「投擲したのか–––⁉︎くそ‼︎ナノミストを使え‼︎ジモーネ‼︎ナノミストを展開しろ‼︎」

たった一人生き残ったIS乗りのパイロットに指揮官機の女が怒鳴る。

「は、はい‼︎」

ジモーネも直ぐにナノミストを展開する。

黒い霧がチボラーシェカを包み、戦略機から放たれる36ミリや120ミリ短距離滑腔砲の砲弾を弾く。

(よし、これで絶対防御を節約できる・・・だがこのまま撤退すればきっと収容所送りだ・・・せめて戦果のひとつくらい––––––⁉︎)

指揮官機の女がそう思った瞬間、けたたましいモーター音が響いた。

瞬間、ナノミストを突き破るようにして、巨大な電動ノコギリのついた剣––––––チェインソードが女に迫る。

すんでのところで絶対防御が発動され、チェインソードを受け止めるが、ギャリギャリと火花を散らして絶対防御を切り刻み、シールドエネルギーの残量が凄まじい勢いで減っていく。

そしてそれをチェインソードの主––––––

戦略機・”プラティマバス”が赤いメインカメラの眼光を光らせながら、見下ろしていた。

「あ、あ・・・あ–––」

指揮官機の女が恐怖で声にならない声を出す。

「た、隊長いま––––––きゃあ‼︎」

ジモーネが指揮官機の女を助けようとナノミストを展開しながら近づくが他のプラティマバスが36ミリで集中砲撃し、チェインソードを振り下ろし、ジモーネのチボラーシェカのスラスターに命中し、スラスターは爆発。

PICを喪失し、そのままチェインソードを絶対防御が受け止めるがジモーネのチボラーシェカは衝撃で地面に叩きつけられ、機能を停止する。

「あ・・・あ、ああ・・・」

頼みの綱だったジモーネもやられてしまう。

『分をわきまえろ––––––ロシア人‼︎』

チェインソードを突き立てているプラティマバスの女が叫ぶ。

瞬間、チボラーシェカの絶対防御をチェインソードが貫き、指揮官機の女を、切り刻み、肉塊へと変えていった。

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

渋谷区。

センター街の外れにある、小さなカフェ。

今年で60歳になる老男性とその孫娘でいとなわれている、地元人の集まるカフェ。

木製の床に白の壁紙。そのどれもが汚れたり傷んだりしていて、年代を感じさせるがそれがどこか良さを引き出している、そんな店だった。

そこに千尋と箒はいた。

店内にはスーツ姿のサラリーマン一人、私服姿の男女二人、子連れの親一人と、あまり客はいないが、落ち着いた雰囲気の光景だった。

千尋と箒は隅っこのテーブルに座るとメニュー表を手にして、会話をする。

「箒姐は何食べる〜?俺はハンバーグとフライドポテトとサラミピザ。」

「お前・・・肉や芋ばかりではないか。少しは野菜を食え。野菜を。」

「え〜だって野菜嫌いなんだもん・・・。」

千尋が口を尖らせながら、子供みたいな事を言う。

それを箒が咎める。

「好き嫌いが許されるのは小学生までだ。」

「はいはい。」

「はい、は一回。」

「はぁい。」

まるで、本当に、子供と母親のような構図–––に見えなくもない状況だった。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

ウェイトレスが聴く。

「じゃあ俺はハンバーグとフライドポテト、あとサラミピザで。」

「だから野菜を・・・ま、良いか。私は宇治抹茶パフェで。」

「畏まりました。」

そういうとウェイトレスは水をいれたコップを2つ置いて、厨房の方へ、消えていった。

 

数分後・・・

 

先の女性ウェイトレスとは違う、男性ウェイターがメニューを持ってくる。

「お待たせ致しました。」

「あ、ありがとうござい、ま・・・」

千尋が固まる。

箒も固まる。

何故なら、相手は、

「「頼人(さん)⁉︎」」

特務自衛隊所属であり千尋たちと墨田駐屯地での同居人であり上官である神宮司まりも三佐の部下の永井頼人三尉だったから。

「なんでここに⁉︎」

千尋が思わず聴く。頼人は今IS学園警備課第1学園守備隊所属だから、こんなところで油を売っている場合ではない。

「丁度暗部の監視官に欠番ができてなぁ・・・丁度、千尋たちが行く渋谷だったから、光さんが臨時の監視官に指名して・・・さぁ。」

つまりはそういうことだった。

今、暗部––––––情報庁傘下の部隊が考案と連携してテロ予防のために民間人に扮したコマンド・・・監視官を首都圏のあちこちに配置して警戒網を構築していたのだ。

今回は1人欠員になったから補充に頼人が派遣された––––––という事だろう。

だが、

「・・・なぁ、情報庁と警視庁のシマに防衛省が介入して良いのか?」

千尋が聴く。

すると頼人はうんざりした顔をして、

「普通に考えてダメだろ。光さんの事だから、なんか工作でもしたんじゃないか?」

頼人は言う。

普通、そういう裏工作も、ダメだ。

けど頼人がいるという事は、多分・・・交渉したんだろう。光はいざとなると土下座までするからなぁ・・・

千尋は思う。

「まぁ、とりあえずご注文の品だぞ。」

そう言いながら千尋と箒にメニューを置く。

「あ、さんきゅ。」

「ありがとうございます。」

「じゃ、ごゆっくり楽しいデートを〜。」

「「ちょっ⁉︎」」

なんて会話を交える。

千尋はとりあえず注文したメニューに食い付く。

「うん、うまうま〜。」

「おい千尋、食べ物を口入れたまま喋るな。あとポロポロこぼすな。」

箒が千尋を注意する。

・・・でも、たまには、いいか。

箒はそう思うと宇治抹茶パフェをスプーンで掬って口に運んで、食べる。

そうしている内に千尋は頼んだメニューを平らげてしまう。

箒はまだ半分しか食べていない。

そしてそんな箒の宇治抹茶パフェを、ジーッと千尋は見ていた。

『ちょっとで良いから分けて欲しいなァ・・・』

そう言いたげな顔をしている。

「・・・はぁ。」

そんなんなら、最初からこれも注文してれば良かったのに。・・・もう、しょうがないなぁ。

箒はそう思いながらもスプーンで掬って、千尋に差し出す。

「食べたいんだろう?ホラ、あ〜んしろ。あ〜ん。」

微笑みながら、箒が言う。

「え?いいの?じゃあ遠慮なく!あ〜・・・」

千尋は嬉しそうな顔をしてする・・・が、遮って。

「オラァ‼︎全員動くな‼︎」

ドアを蹴破って、武装集団が入り込んでくる。強盗だ。

周りの客はパニックになる。が、強盗が凶器で脅して黙らせる。

千尋と箒はそれを冷静に見続ける。

犯人と”凶器(エモノ)”を、見る。

ナイフを持った男が2人。鉄パイプを持つ男が1人。拳銃を手にした男が1人。

その誰もが慣れない手つきや構えでいる。全員、素人だ。

このまま犯人が金を盗むまでジッとしていても良い。

だが、せっかく食わしてもらった店にも申し訳ないし、何より今監視官をしている頼人が黙ってるわけ––––––

「すみませんがお帰り願いますか?流石に他のお客様のご迷惑ですし。」

案の定、にっこり笑いながら頼人が強盗に言う。

「あぁ⁉︎テメなめてんのか⁉︎」

すると強盗はナイフを突き刺そうとする。

ナイフは–––サバイバルナイフの類いだ。防刃ジャケットなしに食らえば流石にマズイ–––––––‼︎

千尋と箒はそう思い、千尋はハンバーグを食べる時に使ったフォークを、箒はスプーンを持って立ち上がろうとする。

何が出来るわけではないが咄嗟に立ち上がってしまう。

だが間に合わない。

ナイフは頼人の胸に一直線で––––––とても、間に合う距離ではない。

ナイフが頼人に刺さる–––瞬間、頼人から殺気が溢れる。

瞬間、左の肘と左の膝間接で、ナイフを挟んで止める。

その光景に全員が唖然とする。

「んな⁉︎くそ‼︎」

強盗は頼人からナイフを抜くと同時に、頼人は床を、蹴る。

ナイフを突き刺そうとした強盗を横切り、振り向きざまに、延髄に、拳を打ち込む。

するとその男は延髄に打ち込まれた衝撃で判断が鈍らされてしまうが、ナイフを相変わらず振り回す。

それに連動するように千尋はフォークを、もう1人のナイフを持った強盗の手首に向け投擲する。それと同時に床を蹴る。

千尋の投擲したフォークが手首に刺さった強盗は痛みでナイフを落とす。

それに一瞬遅れて千尋がスライディングで飛び込み、床に落ちたナイフを拾い上げると同時に足を上げて、男の股間を蹴り上げる。

瞬間、その男が股間を押さえて床に転がる。

その千尋に、今度は鉄パイプを持った男が鉄パイプを振り下ろす。

千尋はそれを後転して、回避。すかさず体勢を立て直す。

だがそこにさらに鉄パイプを振り下ろす。

それを千尋はナイフで鉄パイプを滑らせながら、受け流す。

そこに椅子の背もたれを持った箒が突撃して来て、椅子を鉄パイプを持った男に振り下ろし、ぶつける。

それで鉄パイプを持った強盗は伸びてしまう。

「お〜い箒、避けろ。」

突如、気の抜けた頼人の声が響く。

「へ?」

箒がそちらを見ると、頼人が相変わらずナイフを振り回す男の顔面を蹴る。

瞬間、男がこちらに蹴り飛ばされてくる。

思わず、少し色っぽい悲鳴を上げながら、頭を押さえて、伏せる。

頼人の蹴り飛ばした男は店の柱に命中し、そのまま伸びてしまう。

「さて、残りはキミかな?」

すると、店主の老人が少し用意をしていて遅れたのか店の奥からでてくる。

手には––––––金属バット。

「く・・・くんじゃねぇ‼︎」

強盗の男はすかさず拳銃を店主に向ける。だが、撃たない。

「撃たないのかい?まぁそれもそうか。ソレ、改造モデルガンだからねぇ。」

店主がニッコリと笑いながら––––––目は笑っていない顔で、言う。

すると、店の表に黒塗りのベンツが3台止まる。

そして中から厳つい外見の男性数名と、着物をきた女性が出て来る。

「あの人・・・」

千尋が思わず呟く。

「知っているのか千尋?」

箒が聴く。

「あの人、光の知り合いの人だ・・・紺碧組の組長、青野翠さん。」

翠と言った女性が店に入ってくると、千尋と視線が合う。

「あら、千尋くん。お久しぶりね。此処は私達が始末するから、早く行っちゃいなさい。警察沙汰になる前に。」

翠が微笑みながら、言う。

「あ、はい‼︎行くよ箒姐‼︎」

「え?あ、ああ・・・」

千尋は会計をして、箒の手を掴みながら、店からズラかる。箒は困惑しながらも千尋と共に走っていく。

 

数分後、黒いベンツに連行される武装集団を通行人が見かけたという・・・。

 

「「はぁ・・・はぁ・・・」」

しばらく走り続けていた千尋と箒はバテバテだった。

「な、なぁ千尋、あの翠とかいう人、始末するって言っていたが、何する気なんだ?」

箒が千尋に聴く。

「はぁ、はぁ・・・あの人、さ・・・旭日院の工作を揉消す為の組織・・・紺碧組っていう、”ヤのつく仕事”をしてるとこの組長、なん、だよ・・・光との中学からの悪友らしい。」

千尋が、応える。

紺碧組という名前は箒も聴いたことがあった。

東京の首都圏、渋谷や新宿をシマに持つ、ウワサでは警察に干渉するだけの暴力団、と聴いた事があった。

現物を見たのは、今回が初めてだが。

「ふ〜さっきはエライ目に遭ったよな〜。」

千尋が、箒を元気付けるために明るい声音で、言う。

箒はそれに苦笑いしながら、まったくだ。と応じる。

空は夕方の少し前といった感じだ。

箒は空を見上げながらふと思い出したように呟く。

「なぁ、千尋・・・行きたい場所が有るんだが・・・良いか?」

「ん?いいけど・・・」

千尋が、また珍しいと思い、応じた。

 

■■■■■■

 

墨田区跡地・墨田慰霊公園

夕方時の、夕日が世界を緋色で染め上げる時間帯。

東京スカイツリー付近にある、公園。

そこが箒の行きたい場所だった。

芝生で整備され、タイルが敷き詰められた道を中心に、左右対称等間隔に10万人近い人たちの名前が彫られた大量の四角柱が並べられている。

ここは、墨田大火災の後に建てられた、公園だった。

もっとも、公園といっても半ば墓地とかしている。

理由は簡単だ。

遺体が見つかっておらず、旧墨田区の地に埋まったままだから。

千尋も箒も無言だった。

2人にとってここは、ひどく大事なところだから。

千尋という存在が生まれ落ちた場所。

箒が持っていた個性を無くした場所。

そして目の前で大勢の人が死ぬのを目の当たりにした場所。

ありとあらゆる意味で、2人にとって大事な場所だった。

しばらく無言で歩き、公園中央にある、幾重もの鉄の螺旋で形作られたモニュメントの前に、2人はやってくる。

瞬間、2人の鼻腔にあの日の、炎の上がる熱、人が焦げる匂い、助けを求めて呻く人の声–––––それらが、一瞬鮮明にフラッシュバックする。

やはり、2人とも無言のままだった。

気が付けば既に日は暮れ、月が空から地上を見下ろしていた。綺麗な、満月だった。

「・・・そういや、さ。」

千尋が先に沈黙を破った。

「あの日も・・・墨田大火災の日も・・・綺麗な、満月だったよな。」

「・・・ああ。」

あの日と同じ様に整然と醜い地上を見下ろす満月を見上げながら、千尋は言う。

そしてそれに箒も反応する。

あの日、文明の灯––––––電気も、原始の灯––––––炎も消えたあと救助を待つ間、頼りにしたのは今見上げている月の光だった。

そしてあの日、箒は思った。

人間は支配者を気取っているが、結局は自然に抗えない、小っぽけな生き物なんだ––––––小っぽけで弱いからこそ、文明という名の温室でしか生きられない。

・・・じゃあ、もしあの日みたいに文明が突然消えてしまったら?

「なぁ、千尋・・・」

「なに?」

「もし・・・もしもだぞ?・・・世界が終わって、文明が消えたら、人はどうなるんだろうな・・・?」

「⁉︎−––––ッ・・・」

箒がそんな事を聴く。

千尋は光から世界が滅ぶ事を聞かされているから、どうとも言い難い顔をする。

だが、覚悟を決めた顔をして、箒に、言う。

「箒姐・・・」

「なんだ?」

「もし、いや確実に、今年に世界が滅ぶとしたら、箒姐はどうする?」

「え・・・?」

 

 

 

■■■■■■

 

 

中央太平洋・篠ノ之束の偽装島

地下・研究所。

「うんうん。ゴーレム4機の調子は万全だね‼︎あとはIS学園のクラス別対抗戦に送り込むだけ‼︎

いっくんのモテモテハーレムのためにも、この子達にがんばって貰わなきゃ‼︎」

6年前に、墨田大火災を間接的に引き起こし、10万人を大量虐殺した天才もとい天災篠ノ之束は、まったく懲りる事無く。

『いっくんハーレム計画』なるものに着手していた。

この数年、束は一夏と友人の千冬にゾッコンだった。

というのも、束が愛して止まない箒を、箒の住む墨田区ごと殺しかけた為か、束側から箒への連絡手段が一切絶たれた為である。

「はぁ〜あ、クラス別対抗戦の日に、早くならないかなぁ・・・」

束は無邪気で、それでいて悪意が無自覚に混じった笑みを浮かべて言った。

 

 




今回はここまでです。

・・・書いていて気付いた事。
自分はデート回とか書くのが下手クソ過ぎる‼︎
なんとか箒をテンパらせたり、千尋のショタでカバーしたけど中身がほぼスカスカだ・・・。


ロリシカでの対人類戦やイリーナの妹くらいしか見せ場ないかも・・・

次回からはロリシカ編です‼︎

次回も不定期ですが宜しくお願い致します。

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