ダンジョンとは無縁でありたい   作:雑食

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 唐突に変なこと言ってしまうが、俺はどうやらトリップしてしまったようだ。

 平和で安心安全な日本から、なにやら古臭い中世ヨーロッパ時代へと。

 最初は驚いて声を上げたものだ。突然見知らぬ地へと放り出されて、かなり困惑した。大人気なく周りを気にせず、泣いてしまった。

 なんか込み上げてくるものがあったんだよ。一人にされてしまった孤独間。もう誰とも会えないかもしれない喪失感。いろいろな感情が一気に溢れたね。あれは思い出したくもない感情だ。

 

 とまぁ、いろいろ出すもん出して一周回って冷静を取り戻した俺は、すぐに現状把握に乗り出した。人間て素晴らしいね、見知らぬ地に放り出されても生きようとする行動があるんだもの。

 

 とりあえず片っ端に様々な人……いや人種に声をかけてみたんだが、なんとまぁ言葉が通じません。思わず笑っちまったよ。話しかけても怪訝そうな顔をされるし、向こうが一生懸命身振り手振り説明してくれてるが、何言っているのか分からなかった。

 

 とりあえず俺は再び泣いた。

 泣きすぎて嘔吐しかけたぐらいだ。嘔吐しなかったところは褒めて欲しい。

 

 再び冷静さを取り戻した俺は、お腹が空き始めた。何かないかと体を弄ると、ポケットにガムが入っていた。これからはガムを聖遺物として崇めていいと思えるほどに感嘆したね。

 

 しかしながら、ガムでお腹は膨れることはなく、むしろガムもそこを尽きてしまった。いよいよ俺も終わりかと思いながら、路地を徘徊していた。

 

 すると俺と同類。簡単に言えばスラムっぽい人があくどい顔をしながら男の人を襲っていた。いきなり殴りかかっては気絶させ、懐を弄るとお金が入っていると思われる袋を持ち逃げしていた。

 

 なるほど、俺もこうすればいいのか。

 ありがとう。俺にアイデアを授けてくれて。

 

 俺はさっそく行動に移した。

 

 路地に息を潜めてまち、人を通るのを待った、

 1時間ぐらい経っただろうか、俺の目には不用心に路地を歩いている男を捉えていた。なにやら剣を帯刀し、胸当てや肘当てなど武装をしているが、俺にとっては関係なかった。

 ひっそりと息を潜め、相手が俺を通り過ぎた瞬間、俺はすぐさま飛び出して、相手の背中に向かって拳を突き出した。俺の耳に聞こえるぐらい、なにやらボキっと音がしたのだが、気のせいだ。気のせいなのだ。

 

 一瞬痛みのあまり声を荒げた男だが、痛みに耐えかねたのか気絶していた。すまないが、これは生きるために君は淘汰されてしまったのだ。焼肉定食っていうじゃないか……あれ、弱肉強食だっけか?

 まぁ、どうでもいい。

 

 俺は懐をあさると、先ほどスラムっぽい人が持っていた袋を見つけた。中を確認してみると、この世界の貨幣らしき丸い金貨が数百枚入っていた。

 

 なるほど、まったく価値がわからん。

これ1枚100円だろうか? とりあえず、これはいただこう。

俺がお金を手に入れることができたら、いつか必ず変えそうじゃないか。……たぶんね。

 今も痛そうに気絶している男を背に、俺はこの街の賑やかそうな方へと足を繰り出した。たどり着いたころにはすでに夕暮れ。

 たどり着いたそこは今も活気に溢れていた。日本でいう商店街ってところだろう。様々な露天らしきものが店を構えている。

 その中でも一際目を奪われたのは、コロッケみたいな揚げ物屋だった。

 近くによってみると、とてもいい匂いだ。

 

 俺の存在に気がついた店主のおじさんは声をかけてきてくれているが、当然のごとくわからない。ただ、ふと屋台に立て掛けてあった文字に目が入った。

 

 ……ふむふむ……30なんたらか。

 

 なるほど数字だけは理解できた。ということは、先ほど盗んだ……いや、頂戴した金貨が30枚必要ということでいいのだろうか。

 おいそれと俺は店主に渡してみると、代わりに揚げたてとほやほやのコロッケもどきを頂いた。どうやら間違っていなかったらしい。

 

 この世界にきて初めて食べるものに、抵抗がないわけではないが、匂いに耐えきれず、そのままパクリと頂いた。

 

 ……実にこれはいい。何個でも食いたくなるような味だ。

 

 俺は追加で二つほど買うと、馴染み深い路地へと向かった。宿屋で寝泊まりしたが、金がもったいない。せめて今日は路地で我慢しようじゃないか。おそらく三日と持たないかもしれないが、それはその時になって考えよう。

 

 再び、俺がこの世界に降り立った路地へと戻ってくると、先客がいらした。

先客といても先ほど殴って気絶させた男ではなく、フードをかぶった少女だ。よくよく観察してみると、耳が長い。

 

 ……ははーん。これはエルフか。聞き込みをしていたときにもケモノ耳が生えていたり尻尾が生えていたりと結構な人種がいたが、エルフは初対面だ。

 

 ……これは耳を触っていいのだろうか。人間と同じ感触なのだろうか、構造はどうなっているのだろうか? いやはや気になるところだが、これではただの変態ではないか。

 

 俺はゆっくりと少女の肩をゆらすが、どうやら完全にぐったりと動かない。

 

 ……仕方ない。同じ同類としての情けだ。

 

 渋々、さきほど頂いたコロッケもどきを少女の口元へと近づける。

 

 …ほらほら飯だぞ。

 

 すると少女の目が覚めた。現金な奴め。

 起きると否やこちらを見ては、すぐさま俺から飛び退いた……しかし、体力すらないのか、足を詰まらせ地面に転げ回る。

 

 ……何がしたいんだ……

 

 突然な事に一瞬驚きも、俺は少女の方へと近ずいては、

 コロッケもどきを少女に手渡した。

 いきなりの事に、少女の方も困惑していたが、俺はもう一つのコロッケもどきを食べると、少女は訳がわからないと言わんばかりに唖然していた。

 なるほど、これは重症かもしれない。この少女は親に捨てられたのだ……くっ、食事を与えられたことがまともにないのだろう。なんて可哀想な奴なんだ……!

 俺は少女に食べろと言わんばかりに、大げさにジャスチャーしてやると、少女は渋々食べ始めた。

 

 ……うむ、それでいいのだ。

 だが、いつか恩は返せよ? 30円だぞ? もしかしたら300円? とりあえず金貨30枚は徴収してやるからな。

 

 そんなことを思いながら、俺は少女と一緒にコロッケもどきを美味しく頂いた。

 

 

 

 

 

 目がさめると、じゃが丸君が目の前にあった。決して匂いで起きた訳ではない。そこは重要なところだ。

 そして視線の橋には男の姿が映った。私はすぐさま男と距離を取った。しかし、私には体力が一欠片も残っていなかった。無理に体を動かしたせいか、体のいたる所から悲鳴を上げ、脳がそれ以上止めろと言わんばかりに体の動作を奪った。足を地面に取られ、そのまま硬い石の上を転げ回る。

 

 倒れた拍子に男の顔を私の目が捉えた。唖然とした様子でこちらを伺っていると、近づいてはいきなりじゃが丸君を手渡してきた。

 

 ………? これはなんだ? 私にどうしろというのだ。

 

 すると男はもう一つじゃが丸君を取り出しては食べ始めた。こちらの様子を伺っては、意味不明な言語で喋り始めては、困った顔をし始める。そして私に可哀想な目を向けると、大げさな動作でじゃが丸君を食べろと催促してきた。

 

 ………この男のやることが理解できない。

 ただ、男の考えていることはおそらく違う。たぶん、男は勘違いしている。それだけは私の中で確信めいていた。そんな可哀想な目でこちらを見るな。

 

 しかし、私はこの男は決して悪い人には見えなかった。

 私は男の言う通りにじゃが丸君を食べると、久しく忘れていた人の暖かさに触れた気がした。

 

 ……そして勘違いしている男の誤解をいつか解こうと心の決めた日でもある。

 その前には、まずはじゃが丸君を美味しく頂こう。

 私は隣に座っている男と一緒にじゃが丸君を美味しく頂いた。

 

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