ダンジョンとは無縁でありたい   作:雑食

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 目が覚めたら夢で合って欲しかった。そんな気持ちになったのは今日が初めてだ。

 薄暗い路地。ジメジメとした地面がより一層不愉快にさせる。

 ふと隣を見れば昨日出会った少女が俺の肩を枕にして寝ていた。いいご身分じゃないか。

 だが、この子は親に捨てられてしまったのだ。よっぽど人肌が恋しいのだろう。今日は大目に見てやろうじゃないか。

 寛大な気持ちで少女の起床まで待つこと数十分。少女は目が覚めると、俺を見てはいきなり突き飛ばした。

 

 ……痛……くはない。

 昨日から不思議に思っていたが、どうやらトリップ時に身体が強化されている気分だ。こんなゴツゴツした地面で寝ても、あまり体が痛くもなかった。少しだけ嬉しい反面、なんか後戻りできない気分で気持ちが上がらない。

 起き上がっては少女の方を見ると、何やら申し訳そうに何かを喋っていた。

 多分、謝っているんだろう。

 しかし、言葉が通じないとは中々どうして不便だ。

 どうにか言葉を覚えたいところだが、いかんせん書物らしきものがないとどうしようもない。

 ……最悪、目の前の少女に教えを乞うのが手っ取り早いのだが、まず言葉を教えて欲しいと伝えることもできないのが難点だ。

 いやはや、これは盗人生活まっしぐらだな! はっはっは……はぁ……

「おい」

「……?」

「本、おまえ、持ってる?」

 本を開く動作をしてみたり、少女を指差してみたり、意味不明なokサインをしてみたり、身振り手振り説明すると、少女はどこか納得したように軽く頷くと、どこかへと走って行ってしまった。

 ……伝わったよな? 俺を置いていったりとかはしないよな? やめてよ? 

 君が唯一の頼りなんだから、路地暮らし同士これからも仲良くしようじゃないか!

 

 そしてあれから小一時間が経過した。

 

 

 ……なるほど、これが裏切られた気持ちか。

 いい度胸じゃないか名もなき少女よ!

 

 うぉおお!!!

 

 俺は泣いた。また泣いた。

 すると俺の肩を誰かが叩いた。

 振り返ってみれば、俺を裏切らなかった少女だった。

 俺は抱きついた。年甲斐もなく年下の少女に抱きついた。

 必死に抜け出そうと少女は抵抗を試みるが、俺の腕からは逃げられず、なすがままに受け入れ始めた。

 

 数分も経たずに、落ち着きを取り戻した俺は少女から離れた。

 少女の顔を伺ってみると、少し赤み帯びていた。

 ふと少女の手元を見ると、一冊の本を持っていた。

 

 おぉ! 俺の要望が伝わったのか。

 さすがジェスチャー! 世界共通、異世界共通の文化だ。

 

 俺は少女から本を受け取ると、地面に腰掛けて本を開く。

 隣に少女も座り、横から本を除き込む。

 

 ……さて、なになに?

 この世界の文字に……絵?

 一番最初には三文字の文字が書かれており、その隣にはりんごらしき絵が書かれている。推測するに、この三文字でりんごと書くというのは分かるが、発音しようにも読めん。

  

「……さっぱりわからん」

 

 すると少女は一つの文字を指すと、一つの言葉を発音した、

 

「ーー!」

 

 次に隣の文字を指すと、また言葉を発音した。

 

「ーー!」

 

 最後に一番最後の文字を指すと、また言葉を発音した。

 

「ーー!」

 

 そしてりんごの絵を指差した。

 

 おぉ! さすが少女じゃないか。伊達にエルフではないな。さきほど小一時間おいてけぼりにしたことは水に流そうじゃないか。

 俺は少女の手を借りながら、この世界の文字を勉強した。

 

 

 ◇

 

 

 目が覚めると、男の顔がすぐ目の前にあった。思わず突き飛ばしてしまったことに私は謝るが、困ったことにこの男とのコミュニケーションは絶望的だった。言葉が通じない。

 本来ならこの男を見捨てでも、どこか遠い場所に逃げたい気分だった。しかし私はこの男には恩がある。見ず知らずの私を助けてくれた恩が。それに私の居場所はすでに存在しない。そう私の居場所はもうーーーー

 

 「おい」

 

 「……?」

 

 「本、おまえ、持ってる?」

男は一人でに身振り手振り動作を取り始めた。

 何かを開く動作をしてみたり、私を指差してみたり、意味不明なokサインをしてみたり、正直最初は何をしているか理解はできなかったが、男の言おうとしていることが何となく伝わってきた。

 男は本が欲しいのだ。

 それも言葉が分かる本が。

 それなら心当たりがある。

 私は軽く頷くと、本の元へと向かった。

 どうして私がこんなことを、頭の中でなんども思ったが、こうしている方が私の心は落ち着いていた。

 

 

 

 

 小一時間ぐらいたっただろう。

 思ったより時間が経ってしまったが、あの男は心配してないだろうか……

 ……なぜ、私があの男の心配をしているのだろうか。

 どうも、あの男に出会ってから調子が悪い。

 私は路地に戻ると、原因の男は泣いていた。

 それも大人気なくわんわんと。

 肩を叩いて帰ったことを知らせると、男は突然抱きついてきた。力強く私を抱きしめる。

 抜け出そうと試みるが、Lv4である私の力よりも強い力で抱きしめてくる。

 一体何なんだこの男は……

 私はいつの間に男にされるがままに抱きつかれていた。

 

 数分も経たずに男は落ち着きを取り戻し始め、私から離れる。

 何とも言い難い空気が私と男の間に流れた。

 

 ふと私は先ほどの事を思い出すと、自分の顔が熱くなってきているのが分かった。

 

 ……違う、そうではない。早く本を渡さなければ……

 

 私は持っていた本を渡すと、男は嬉しそうに受け取った。

 地面に座り込むと、渡した本を読み始める。

 私も男の隣に腰を下ろし、本を横から覗き込んだ。

 

 本と男を交互にみるが、どうやらまったくもって理解していないようだった。

 この本は簡単に言えば子供向けの本だ。わかりやすく文字と絵で表現し理解させる。

 なんども首を捻らせる彼を見て、これ以上見ていられなかった。

 私は最初の文字を読み、次の文字、最後の文字を読み、そして文字の意味である絵を指した。

 男の様子を伺うと、笑顔でこちらを見ていた。

 どうやら満足していただけたようだ。

 私もそれを見て嬉しくなり次の文字を読み始めた。

 

 気がつけば丸一日と言っていいほど、私は彼のそばで文字を読み続けていた。

 

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