世界を支配する三大国家のひとつ、ブリタニア・ユニオン領土内。中でも神聖ブリタニア帝国の影響力が強く出ているとある街。
シオニーの仕事に護衛として付き添ってきたブロリーだが、混雑する人波に呑み込まれシオニーとはぐれてしまう。
人通りの少ない路地裏で漸く人波から解放されるが、初めて訪れた街故に土地勘などありはせず。
以前エリア11の時の様に誰かに聞いてシオニーの仕事場である外交の会場へ向かおうとした時。
「やぁ、初めましてブロリー君」
その少年は突然と現れた。なんの前触れもなく、まるで瞬間移動したかのように。
少年は自らをV.V.と名乗り、しかも今影の話題となっている金色の正体も見破っている。
ただ者ではない。ここにシオニーがいれば間違いなく警戒心を露わにする事だろう。────しかし。
「………ジョイ君ですかぁ?」
「V.V.だよ、ブ・イ・ツー! 意外と失礼だね君」
明らかに不審な人物である少年を、ブロリーは天然で返した。これにV.V.と名乗る少年は出鼻を挫かれ、頬を引きつらせる。
「そのV.V.とやらが、俺に一体何の用だぁ?」
普段と変わらない口調ではあるが、目線を細目、目の前の少年を怪しげに見やり、ブロリーは警戒心を顕わにする。
ブロリーは天然で其処に少しのお馬鹿要素が含まれているが、底なしの愚か者という訳ではない。
何の予備動作や前触れもなく、気が付いたら自分の目の前にいるのだ。明らかにこれまでとは違う存在にブロリーも自分なりに警戒しているのだ。
「そう警戒しないでくれよ。僕はただキミと話をしにきただけさ。……あぁ、でもキミがその気ならラウンズに推薦してあげてもいいよ」
ラウンズ。それは通常の騎士候とは異なり、神聖ブリタニア帝国の皇帝直属の騎士。その実力はまさに一騎当千、いずれも最強の力を有する者達の総称であり、彼等に命令を与える事が出来るのも皇帝のみである。
だが、そんな事何故今この少年は口にするのだろう? よく見れば身なりの方はかなり上質であり、その身に纏う雰囲気は貴族の様な気品さが伺える。
この少年はどこかの格式の高いお坊ちゃんなのだろうか? 普通の人間ならここで自分失礼な態度に謝罪し、印象良くする為に色々小細工を弄するだろうが。
「……もう一度だけ言う。俺に何の用だ?」
ブロリーはV.V.に対し更に目を細め、警戒ではなく敵意を剥き出しにする。全身から溢れる覇気に周囲の物体は耐えきれなくなり、アスファルトの地面はメコンと凹み、拳からはメキリと鈍い音が聞こえる。
既にブロリーは目の前のV.V.をいつでも殴られるよう戦闘態勢に入っている。しかも、割と本気でだ。
得体の知れない少年、V.V.……その存在にブロリーの中にある感覚の一つが油断するなと騒いでいる。
いずれにしても、金色の男の正体……即ち自分の事を知っている時点で油断はそもそもしていない。
ザワザワと逆立ち始める髪、膨れ上がるブロリーの圧力に流石にまずいと思ったのか、V.V.は両手を上げて降参の意を示す。
「勘弁してくれないかな、死なない体とは言え、流石に君に殴られたりしたら洒落にならないからね」
「…………」
死なない体。V.V.のその一言に僅かながら反応示すブロリーだが変わらず警戒を強めていく。
ブロリーの発する覇気はやがて周囲の建物だけには留まらず、表通りの参道にまで影響を及ぼし始めていく。
砕ける窓硝子、破裂する街灯、参道を歩く人々は突然起こった謎の現象に軽いパニック騒動が起きていた。
騒ぎ立つ人々の声が路地裏にまで聞こえてくる。だが、そんな事などブロリーにはお構いなしだった。
目の前の少年は既に敵として認識している。遂には戦闘態勢を取り、V.V.を何時でも殴れる態勢に入る。
相手に敵意はない。だがそれ以上に不気味だった。此方が相手の降参を聞いているにも関わらず戦う姿勢でいるというのに、ただ笑うだけで何もして来ない。
「────知りたいんでしょ? 君の、自分自身の記憶を」
「っ!?」
ブロリーの目が見開く。知っているのか? この少年は、記憶を失う自分を……知っていると言うのか?
言葉が出ない。今まで警戒していた緊張感が四散していく。
突然に突き付けられた一言は、ブロリーの警戒を削ぐだけではなく、ありとあらゆる警戒網を解いていく。
対するV.V.はしてやったりと三日月に歪む口元を更に深くする。
「知りたいのなら教えて上げるよ。君の事を、君の全てを……」
「なん……だと?」
「さっきも言ったけど、君をナイトオブラウンズに推薦してあげよう。僕の弟はブリタニアの皇帝でね、話せばきっと良い席を用意してくれるよ。君にはそれだけの力があるから」
「…………」
言葉が出なかった。あれだけ思い出そうとしてもただ頭が痛むだけで何も思い出せなかった記憶。それが今知っていると言う人物に出会してしまった。
ナイトオブラウンズ。その席には何の興味もないし、欲しいとも思わない。
だが、目の前に記憶を知っている人物がいるのだ。どれたけ追い求めても知り得なかった記憶が、手を伸ばせば、すぐそこに!
「さぁ、僕と契約して、ブリタニアの騎士になるんだ」
「あ、あぁ………」
前を見れば、微笑む少年が手を伸ばして此方に来いと囁いてくる。
抗えない。自分を知る事が出来る……恐らくは唯一無二のチャンスにブロリーが一歩前に出た。
────瞬間。
『お願いね』
「っ!?」
『あの子を、シオニーちゃんを、守ってあげて』
足の動きが────止まった。
頭に浮かんだあの人の、女将との約束がブロリーの足を止めた。
対するV.V.はどうしたんだと訝しげに眉を寄せる。
自分の予想とは違う行動を取るブロリーに苛立ち始め。
「どうしたんだい? さぁ、早くコッチに……!」
思わず声を強めてしまったその時。
「っが!?」
ブロリーの拳が、V.V.の体を貫いた。ボタボタと落ちる大量の血が、ブロリーの腕に伝って落ちていく。
手応えあり。ブロリーはうなだれるV.V.に仕留めたと確信するが……。
「やれやれ、まさか断られるとはね。流石はリモネシア外務大臣の騎士、中々に意志が固い」
「っ!」
胴体を貫かれた状態でムクリと顔を上げるV.V.にブロリーはギョッと目を剥いた。
確かに急所は突いた。普通なら即死の筈。だが、限にこの少年は平然と生きている。
ブロリーの腕を掴み、体から拳を抜き取ったV.V.は口元の血を拭いふに向き直る。
「流石に一回の誘いで来てくれる訳ないか。けどブロリー君、君は本当にそれでいいのかな?」
「貴様には関係ない。……俺は、自分の力で記憶を取り戻す」
ブロリーの返答にV.V.はただ笑う。
「君との会話は中々スリリングで楽しかったよ。また会おう、ブロリー君」
「逃がすか!」
路地裏の奥、闇へと消え行くV.V.を追おうとするブロリーだが……。
「っ!」
突如、頭上から爆音が鳴り響き、砕かれた瓦礫の山々がブロリーに降り注いできた。
瓦礫の群れを迴潜り、時には足場にして建物の屋上へと登り詰める。
一体何が? そう思ったブロリーの目の前には全身を黒に染め上げた巨大な怪物達が街の空を埋め尽くしていた。
◇
「えぇい! 一体何なのだコイツ等は!?」
街の近くにあるユニオン基地からフラッグを駆るグラハム=エーカーは、突如現れた謎の怪物を相手に激闘を繰り広げていた。
既に組んでいた編隊の三割が怪物の放つ溶液にやられ墜とされている。
至る所から此方を覗く不気味な目、吐き出される溶液を避けながらグラハムはフラッグのプラズマソードを取り出し。
「せぇい!」
擦れ違い様に横に一閃、怪物を見事に両断してみせた。
だが、立ち止まる余裕などない。すぐさまフラッグを飛行形態へと変形させ群がってくる怪物の攻撃を回避し、一撃離脱を図る。
「くそ、何なのだコイツ等は! 数が多すぎる!」
『グラハム。まだ民間人の避難が終わりそうにない、もう少し粘ってくれ!』
「そうしたいのは山々だが……くっ!」
通信越しの親友の言葉に何とか応えたいと思うグラハムだが、如何せん数が多すぎる。
たった数機のフラッグで何万の住民を守りながら数百の怪物と戦うのは、幾ら自分達でも不可能だと誰もが思う。
「何を弱気になっているのだ私は! 自らこの場へ来る事を志願し、戦う事を決めたのだぞ!」
だが、グラハムは思う。自ら決死の覚悟で、やってやると決めて、この戦場に出てきたのだ。
「ならばこの状況、私の無理でこじ開ける!」
飛行形態から戦闘形態への空中変形。多大な負荷をその身に受けながらリニアライフルを怪物に向ける。
しかし。
「なにっ!?」
グラハムの高機動を物量で以て先回りを果たす怪物達。背後から迫る顎にグラハムも覚悟を決めた───その時。
「っ!」
割って入ってきた弾幕が怪物の横っ面を蜂の巣にしていき、怪物は四散しながら地上へと墜ちておく。
味方の増援だろうか? 放たれた弾幕の方角へフラッグの光学カメラを向けると。
「三機の……戦闘機?」
それは、見たことのない機体だった。赤、白、黄色、三色カラーの戦闘機が此方に向かって突っ込んでくる。
一体どこからの機体なのだろうか? グラハムの頭が僅かに混乱すると。
『チェェェェンジゲッタァァァァワァン!!』
三機の戦闘機が共に上昇し、一体のスーパーロボットへと相成った。
◇
「何なのよ、何なのよこれはーっ!」
突如として襲いかかってきた黒い怪物は街を襲い、シオニーのいる大使館は怪物の無差別な攻撃によって崩壊していた。
既に外交相手であるブリタニアの大使は避難し、残るは自分だけとなった。
「シオニー外務大臣、こちらです!」
ブリタニアのSPの指示に従い、車へと乗り込もうとするシオニーだが。
「シェギャァァァァッ!!」
怪物の一体が目の前に降り立ち、車諸共SPを踏み潰してしまう。
「きゃぁぁぁっ!!」
爆散する車の爆発に煽られ、地面に叩きつけられるシオニー。衝撃が全身を襲い、激しい痛みが身体中に襲い掛かる。
痛みで身動きが取れない……そんな彼女を格好の獲物と思ったのか、黒い怪物の六つの目が怪しく光る。
「ひっ!」
逃げなければ。必死に逃げようと足を動かすシオニーだが、腰を抜かしてしまい立つことすらままならない。
黒い怪物がその顎を開き、シオニーに迫る。
「シオニー!」
そんな時、ビルの屋上から飛び立ったブロリーが勢いを付けて怪物の頭を踏み潰す。
アスファルトを砕き、地中深くめり込んだ怪物の頭は腐臭を放つ肉塊となって辺りに散らばる。
「シオニー、大丈夫か!?」
「ブロリー?」
茫然自失になっているシオニーの肩を掴み、軽く揺さぶる。擦り傷や打撲らしき傷痕は目立つものの、それ以外の怪我は見当たらない事にブロリーは安堵の溜め息を漏らす。
プルプルと肩を震わせるシオニー。よほど怖かったのだろう。
もう大丈夫だと、ブロリーがシオニーの頭に手を伸ばす……が。
「この、バカァァァァアッ!!」
「アダチン!?」
キレの利いたシオニーの右コークスクリューがブロリーの顔面に綺麗に入る。
「なんで側にいなかったのよ! あなたがいない間、私がどれだけ怖い思いをしたか分かってる!?」
「……ごめん、です。……道に迷って」
ポタポタと鼻から流れる血を抑えながら釈明するブロリー。……機械獣やテロリストの攻撃にも掠り傷すら負わせられなかった。そんなブロリーを鼻血を吹き出す程に殴り飛ばしたシオニーは、色々人間やめているのかもしれない。
「と、兎に角ここを離れるわよ! もうすぐブリタニアの本軍があの化け物を駆逐する為に動くはず。ここは戦場になるわ」
「……戦場?」
戦場。それはいったいどういう意味だ?
家が壊れるのか? 人が燃えるのか? 食べ物が無くなるのか? 家族がいなくなるのか?
「……シオニー」
「ど、どうしたの?」
「頼みがある」
胸の中に感じるざわついた感覚。
ブロリーは真剣な面持ちで主であるシオニーを向かい合い。
「俺を、戦わせてくれ」
自ら、戦いに出ることを求めた。
◇
「ったく、うじゃうじゃ湧いてきやがって、鬱陶しいんだよインベーダー共が!」
「なんだ竜馬、泣き言か?」
「だったら俺が代わりにコイツ等を始末してやるぜ?」
「ほざいてろ。隼人、武蔵、コイツ等は俺が皆殺しにしてやるって決めたんだ! ソレスタルビーイングに合流する前の丁度いい肩慣らしになる!」
「そういう割りには手こずってないか?」
「うるせぇ!」
通信越しから聞こえてくる仲間の声に竜馬は更に苛立ちを募らせる。
ソレスタルビーイングと合流する為、自分達の愛機である『ゲッター』を駆っていた最中、ブリタニア領土で謎の侵略者『インベーダー』と遭遇。
街を襲っているコイツ等を全て倒す為に戦うのはいいが、如何せん数が多い。
ただ戦うだけならまだしも、街を、人を守りながら戦うというのは中々骨が折れる。
ユニオンの機体らしきフラッグも善戦してはいるが、やはり数の力にはどうしようもできないようだ。
……癪にさわるが、ここは同じゲッターパイロットである二人にも手伝って貰うしかない。
「ちっ、仕方ねぇ! 隼人、武蔵、お前等も手伝……」
そこまで言いかけた時、竜馬の目が大きく見開いた。
今、人間を襲おうとしたインベーダーが、金色の閃光に貫かれ、跡形もなく砕かれたのだ。
街を蹂躙するインベーダーを次々と駆逐していく一筋の閃光。
通信からは隼人、武蔵のそれぞれ困惑の声が聞こえてくる。
地上に降り立ったインベーダーを瞬く間に駆逐した閃光は、今度は空から狙うインベーダー達目掛けて飛び立つ。
「……なんだ。ありゃあ」
竜馬は言葉を失う。人が、自分とさして変わらない人間の男が、金色の炎を纏って空を飛んでいるのだから。
「まさか……奴は」
「隼人、アイツを知ってやがるのか!?」
「……金色の男。まさか実在したのか!?」
驚きの声を上げる隼人。
驚愕に打ちのめされている彼等を前に、金色の男─────ブロリーがゲッターの前に降り立つ。
此方を見向きもせず、ただインベーダーのみを破壊していくブロリー。
その圧倒的な強さにユニオンのエース、グラハム=エーカーはその力に心奪われていた。
今回は短め、ゲッターはソレスタルビーイングの所へ合流する前に一度戦っているという設定です。
原作で言えば七話のBといった所かな?
まだまだブロリーのスーパーロボット達との競演は先になりそうです。
本格的に参戦するのは原作20辺りかな?