破界せよ、総てを   作:アゴン

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第二話 降臨、魔を討つ悪魔

 

 

 

『それにしても──────の息子、生まれたばかりで戦闘力1万とはな』

 

『まさにエリートの中でも超エリートって奴だな』

 

『ハハッ、──────の倅が─────を泣かしたぞ』

 

『─────と名付けられたガキ、戦闘力はたったの5の癖に根性だけは大した奴だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼を開けると、広がっていたのは白い天井ではなく、茶色の天井だった。

 

どうやら木材で出来た天井らしく、この家の主が言うには“にっぽん”の家をモチーフに造られているらしい。

 

 家の主、シオニー=レジスは海岸の波打ち際に打ち上げられていた俺を助け、“ほごせきにんしゃ”になってくれたらしい。

 

らしいというのは、それは俺が完全記憶喪失者だから────。

 

コレまで自分が“たいけん”、或いは“けいけん”、“おもいで“、それら全てが頭の中から消し飛んでいると、いしゃから言われた。

 

しかも、名前込みで、だ。

 

 自分が何者でどこの誰なのか、拾ってくれたおんなは記憶が戻るまで面倒をみると言ってくれた。

 

それどころか、おんなは名前も失くした俺に新しい名前もくれた。

 

”ブロリー“ それがここで住む俺の名前。

 

なんだか、懐かしい響きの名前である。

 

「そう言えば、さっきみた夢も……」

 

 そう言い掛けた時、頭がズキリと痛み、胸の中心がズグンと疼いた。

 

いしゃが言うには俺はびょういんに送られた際、それはそれは酷い怪我をしていたんだとか。

 

特に、胸の中心には傷痕が残り、背中にも似た傷痕があったという。

 

胸に突き刺さった何かが、そのまま背中にまで貫通されていたのだとか……。

 

そんなじょうたいで、よく生きていられたものだといしゃは言う。

 

「そうだ。シオニーを探さないと……」

 

 シオニー=レジス。俺を助けてくれたおんなでこの家の主。ほごせきにんしゃで俺の面倒を見てくれるという大変有り難いおんなである。

 

確か、今日は俺のかいものとやらに出掛けるのではないだろうか?

 

びょういんから出て行く際、唯一貰った服を着て、扉を開ける。

 

この引き戸はにっぽんの“ふすま”と呼ばれる代物らしい。

 

 俺はシオニーを探す為に部屋をあとにする。

 

───頭の痛みは、いつの間にか消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

 

 幾つものふすまを開けるも、どこにもシオニーの姿はなかった。

 

リベング、キッチン、ダイニング、トイレに浴室等々、一通り家の中をさがしてみたがおんじんであるシオニーの姿はどこにもなかった。

 

 残されたのはこの《シオニーの部屋》と表札の掛かった一室のみ。

 

……ん? どうして最初に此処を調べなかったって? それは……何となく?

 

兎も角、此処にもいなければ本当にどうしようもない。僅かな望みに賭け、ふすまの窪みに手を掛けると。

 

「ん、んう……」

 

「?」

 

「やだ。また大きくなったの? このブラお気に入りだったのに……」

 

 どうやら正解だったらしい。ふすま越しから聞こえて声を察するにどうやら着替えに手間取っている様だ。

 

丁度良い、コレから世話になるのだ。ささやかではあるが恩返しと言う事も含めて、一肌脱ごうではないか。

 

そうすれば、これからの生活でお互いの気持ちも少しは和らげるだろう。

 

そうと決まれば善は急げ、俺はふすまを開いた。

 

 其処には……。

 

「………………へ?」

 

 スパァァンと、景気の良い音と共に目に入って来たのは、裸のおんなだった。

 

手にしているのは変わった形の布切れ一枚だけ……成る程、あれが先程言っていたブラと言う奴か。

 

そうと決まれば話は早い。俺は呆然としているシオニーに近付き……。

 

「おはようございます」

 

「え? あ、おはよう」

 

 どうやらまだ夢見心地の様子。ならばと、俺は思わせぶりに咳払いをして。

 

「着替え、手伝おうか?」

 

すると、シオニーは目を大きく見開かせて、パチパチと二回瞬きし、次いで顔は瞬く間に赤く染め上げ。

 

「この、馬鹿やろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

「まそっぷ!?」

 

 涙混じりに放たれたアッパーは、昨夜の一撃よりも遥かに強烈だった。

 

……一体、何がいけなかったのだろうか?

 

 窓を突き破り、地面に突き刺さるまでの間、俺はその事で頭が一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……です」

「……………」

 

 あのシオニーにとって衝撃的過ぎた出来事から一時間が経過し、二人は商店街の大通りを歩いていた。

 

商店街はシオニーの家から徒歩で30分程掛かる距離にある、小さな商店街だ。

 

 無言で歩くシオニーを後ろから付いていくブロリー、体格に差の有りすぎる二人は端から見れば童話の美女と野獣そのものに見える。

 

ただ、野獣の方はしょんぼりとうなだれてまるで叱られた子供の様だ。

 

「……次はないから、そのつもりで」

 

 シオニーの言葉にブンブンと首を縦に振り、反省を露わにするブロリー。そんな彼にヤレヤレと呆れながらも許すことにすると。

 

「おや、シオニーちゃんじゃないかい」

 

「っ!」

 

 背後から聞こえてきた声、何だと振り返るブロリーに対し、シオニーはビクリと肩を震わせる。

 

「こっちに来たのは久し振りだね~! 今日はお仕事お休みかい?」

 

「え、えぇまぁ……そんな所です」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべて近付いて来るのは割烹着を身に付けたのは、人当たりの良さそうな中年女性。

 

シオニーとは知り合いなのだろうか? 問い掛けようとするブロリーだが、依然として気まずそうにしている彼女の顔に戸惑ってしまう。

 

「あら? そちらの子は見ない顔だけど……シオニーちゃんの知り合い?」

 

「ブロリー……です」

 

 取り敢えずシオニーから教わった自己紹介で簡単に挨拶だけはしておく事にした。

 

「ブロリーちゃんね、あたしはあそこの定食屋を営んでるおばちゃんよ」

 

 おばちゃんの指差す方へ視線を向けると、そこには《早い、安い、美味い!》と暖簾の掛かった一軒の定食屋が佇んでいた。

 

そこはかとなく香る芳ばしい匂いが鼻から入り胃袋を擽り、ブロリーを空腹へ誘う。

 

しかし。

 

「遠慮します」

 

 シオニーの低い声に、二人は目を丸くさせる。

 

「今日、私達は他にやる事がありますから……」

 

「そ、そうかい。ならまた時間があったら来てね。待ってるから」

 

「失礼します。……ブロリー、行くわよ」

 

 おばちゃんの言葉の言葉に最後まで聞かず、シオニーはまるで逃げるかの様に踵を返す。

 

良く分からないまま後を追うブロリーだが……。

 

 

 ──────ぐぎゅるるるごごぅぅぅ。

 

 

「お腹……減りました」

 

 怪獣の雄叫びにも似たブロリーの腹の音が、商店街に鳴り響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガツガツガツガツガツガツムシャムシャングングングングガツガツガツガツガツガツガツガツ………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 お昼時の定食屋。普段は昼食に来るお客に賑わう場所だが、今は嘘の様に静まり返っている。

 

テーブルに所狭しと並べ立てられた白い巨塔は全てブロリーが平らげた料理のあった皿の数々。

 

20………いや、50人前はあるだろうか。高く積み上げられた巨塔は今尚高くなっていく。

 

質量保存の法則を完璧に無視しているブロリーに、シオニーと定食屋の女店長であるおばちゃんはアングリと口を開いている。

 

そしてその光景を外から見た人々は、ブロリーの有り得ない食事風景に驚き、定食屋の暖簾を潜れずにいた。

 

(そうだ。コイツ、かなりの大食漢だった……)

 

 頭を抱え、悶えているシオニーを余所に未だ食べ料理を続けるブロリー。

 

幾ら朝御飯を食べて来なかったとはいえ、これは明らかに食べすぎだ。

 

「おかわり」

 

(まだ食う気か!?)

 

 そんな彼女の気も知らず、皿を掲げてお代わりを求めるブロリーにシオニーはいよいよキレそうになるが。

 

「ごめんねぇ、材料が無くなっちゃって……もう料理作れないのよ」

 

(とうとうコイツ、店の材料全て平らげやがった)

 

 呆れてもう言葉が出ない。店の中にある食材を食らい尽くしたブロリーにシオニーは昔流行ったレトロゲームに出てくるピンクの悪魔なるキャラクターを思い出した。

 

「いやぁそれにしてもお兄さん、良い食べっぷりだねぇ、作ってるコッチまで嬉しくなっちまうよ」

 

 ブロリーの異常な食欲も、この人にすればその程度の感想絶賛しかいだかない。大物に思わせる女店長を余所にシオニーは席から立ち上がる。

 

「今は持ち合わせがないので、後日此方に請求して下さい」

 

「あ、シオニーちゃん!」

 

 レジに一枚の紙切れを置くと、シオニーはそそくさと店を後にし、商店街の奥へと消えていく。

 

ブロリーも急いで追いかけようと、立ち上がるが、待ってくれと女将に呼べ止められる。

 

「ねぇ、ブロリーちゃん。あなた、シオニーちゃんとどれ位の付き合いなの?」

 

 どれ位の付き合いと言われても、ブロリーは答えようがなかった。自分は人との付き合いどころか記憶ごと全てを失っているのだ。

 

故に、ブロリーは女店長の質問に答えられる術はなかった。

 

「シオニーちゃん、昔は良く学校帰りにウチに寄っていたの。お腹すいたって、当時のこの国はあまりお金がなくってね。店も大したモノが出せずにいたんだよ、それでもシオニーちゃんは毎日ウチに遊びに来てくれて、出された料理に文句一つ言わないで美味しい、美味しいって言ってくれたのよ」

 

 懐かしく、だけど悲しそうに語る店長に次第にブロリーは聞き入っていた。

 

「だけどあの子が今の仕事に付いてからここに来る事は一度もなかったの。何でも地域開発に忙しいみたいでね」

 

「……………」

 

「確かに昔と比べればこの国は豊かになったわ。欲しいモノも手に入り易くなったし、交通も便利になったけど……代わりに心が廃れて行った。最近じゃ銃を携帯する物騒な連中だって増えてきたし、テロリストが潜伏しているなんて噂も耳にするんだよ」

 

 昔の方が良かった。喩え貧しく、餓えていても其処には当時のシオニーの様な希望に満ちた子供達も、また大勢いた。

 

確かに、今は昔と違いこの国は豊かになった。様々な国々と合流する事で物も増えたし、交通も便利になった。

 

だが、急激に変わったその一方で人々の心も変わっていった。今ではテロリストが潜伏しているという物騒な噂まででている。

 

「でも、それでも、シオニーちゃんはこの国を良くしようと、あの子なりに頑張った結果だから……」

 

 だから、自分達は何も言わない。そう言って笑う店長の顔は、何だか泣いている様に見えた。

 

「こんな事、あんたに頼むのは筋違いだけど、お願いだよ。あの子を守ってやっておくれ」

 

「?」

 

「あの子は無理をしている。あたし達の為に骨身を削って………だから、近くにいるあんたにシオニーちゃんが壊れないよう、道を外さないよう、守ってあげて欲しいのよ」

 

 どうか、どうか、手を握る力を少しだけ強める店長にブロリーは静かに頷き。

 

「ありがとう」

 

店長のその言葉は、ブロリーの中へ静かに溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、意外にも早く合流した二人は本来の目的であるブロリーの服の買い物へ向かい、それも無事に終わり。現在はシオニーの自宅へ向かっていた。

 

海沿いの街道は夕焼色に染まり、夕日に照らされた海も暁に輝いている。

 

 だが、そんな明るい光景に対し、二人を包んでいる空気は重苦しかった。

 

会話が無いわけではない。しかし、あの商店街での定食屋の一軒以来、シオニーの様子はどことなく変だった。

 

「一応サイズは合ったけど、帰ったら確認しておきなさい」

 

「はい……」

 

 それだけ言うと再び沈黙に包まれ、アスファルトを踏み締める音だけが響き渡る。

 

「……シオニー」

 

「…………」

 

「さっきの事なんだが……」

 

 ブロリーからの一言にシオニーは肩を震わせる。

 

「あの人、心配……してた。シオニーの事」

 

 あの人、それは十中八九あの定食屋の女将の事だろう。

 

彼女からシオニーの事を守って欲しいと頼まれたのはいいが、記憶のないブロリーは守るという言葉の意味すら分からなかった。

 

ただ、余りにも必死だった。必死に訴えてきたのだ。目の前で立ち止まる小さな女を。

 

今の自分には過去も記憶もなく、満足に言葉の意味すら理解出来ない。だが、それでも命の恩人であるシオニーには何らかの役に立ちたいとは思っている。

 

だから……。

 

「俺は、難しい事は分からない。何かが出来るとも思えない。けど、あまり無理は……」

 

「知った事言わないで!!」

 

「っ!」

 

 叫びにも似たシオニーの一言にブロリーは押し黙る。彼女が見せた明らかな拒絶の色、振り返りに見せた瞳は刃の様に鋭くなっていて、だけどその奥にはやりきれない悲しみが滲んでいた。

 

「「…………」」

 

 嫌な沈黙が二人を包み込む。波の流れる音が耳元に木霊する。

 

すると、シオニーの懐から着信が鳴り響き、電話に出ると二、三程相槌を繰り返し、それが終わると此方に向き直った。

 

「今、政府から緊急の仕事が入ったのでこれから私は其方に向かいます」

 

「あ、あの………」

 

「帰りは遅くなるので、先に休んでいて下さい」

 

 ブロリーの言葉にも耳を貸さず、その場を去っていく。その際、シオニーの顔は既にあの激情に歪めたものではなく。何時もの凛とした顔付きになっていた。

 

残されたブロリーは、暫くはそこで立ち尽くすが、日が完全に落ちると同時に、シオニーの自宅へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、シオニーの自宅へ戻ってきたブロリーは、特に何もする事はなく、買ってきた荷物を部屋の隅に置き、布団の上でボンヤリと天井を眺めていた。

 

外は既に暗く、街の灯りが夜空を照らしている。

 

 ブロリーが考えていたのは、やはりシオニーの事だった。守って欲しいと言われても空っぽの自分ではどんなに頭を絞っても答えなど出ては来なかった。

 

「俺は……一体」

 

何故、何の為に此処にいるのか?

 

ふと、頭の隅にそんな疑問が浮かび上がった……その時だった。

 

 

─────ズドォォォォ……ン。

 

 

「っ!?」

 

 突如として聞こえてきた外からの轟音と、次いで響き渡る衝撃。

 

何事かと思い外に出ると、先程まで夜空を照らしていた街が、紅い炎に包まれ燃えていた。

 

「これは……一体……」

 

訳が分からず、呆然とすると、空から数多のミサイルが街に直撃。炎は更に燃え広がりその激しさを増していく。

 

「っ! あそこには商店街が!」

 

 我に返ったブロリーは昼間に行った商店街とそこに住む人々の事を思い出し、気が付けば街に向かって走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……これは?」

 

 一面に染まるのは紅、赤、朱。燃え盛る炎は家屋を呑み込み、辺りには血と硝煙と焼けた人の臭いで充満している。

 

丸焦げとなった死体、瓦礫に圧し潰された死体、庇う様に覆い被さった母と子の死体。

 

死体、死体、先程までの賑わっていた商店街が地獄と化した。

 

まるで人々の悪意が集約された場所、怨念に満ちた声さえ聞こえてきそうなのに。何故か落ち着いている自分がイル。

 

 吐き気がする。反吐が出る。軽蔑する。差別する。憎悪する。

 

───なのに、今はそれが心地良い。

 

(俺は……これを知っている?)

 

 不思議と感じた懐かしさ、この地獄に自分は嘗て其処にいたのか?

 

それとも、地獄そのものを生み出していた存在なのか?

 

 視界映った一枚のガラスの破片。そこをのぞき込むと……。

 

「これが……俺?」

 

 其処に映るのは口を三日月に歪めた自分だった。辺りは地獄に包まれているのに、何故自分は嗤っている?

 

愉悦に浸り、快楽に身を染めるその姿はまるで────。

 

「う、うぅ……」

 

「っ!」

 

 聞こえてきた呻き声が、思考の海に浸っているブロリーを引き上げる。

 

生きている人がいる。ブロリーは辺りを見渡し、かすかな声に耳を澄ませると……。

 

「あ、うぅ……」

 

「!」

 

 見つけた。

 

声のする方へ走り、着いた先には────。

 

「あんたは……!」

 

 ほんの数時間前に自分にシオニーを守って欲しいと頼んできた定食屋の女店長が、瓦礫の下敷きとなっていた。

 

「待ってろ! 今助ける!」

 

すぐさま彼女の下へと駆け付け、瓦礫に手を添えると。

 

「ふんっ!」

 

自身の倍以上ある巨大な瓦礫の塊を何の苦もなく払いのけた。

 

一瞬、何故自分にこれほどの力があるのか躊躇するも、それ処ではないと頭を振り、ブロリーは女店長を助け起こした。

 

しかし。

 

「っ!?」

 

 彼女の体を見て、ブロリーは目を見開いた。頭から流れる血、左腕は痛々しく変形し、何より────下半身がなかった。

 

「ん、んぅ……」

 

「おい、しっかりしろ! おい!」

 

「その……声、ブロリー……ちゃん?」

 

「待ってろ。すぐびょういんに連れ行くから!」

 

 無理だ。

 

出血の量が多すぎるし、既に彼女は人体の七割以上がその機能を失っている。

 

だが、それでもブロリーは助けたかった。

 

彼女を抱え、病院に向けて走り出すブロリーだが。

 

「っ!」

 

瓦礫を押し潰しながら現れた鉄の巨人に行く手を遮られてしまう。

 

「なんだ……コイツ?」

 

 突然現れた巨人、その名は“アクシオ”。とある財団が開発し、販売している機動兵器である。

 

『貴様、こんな所で何をしている?』

 

「喋っただと!?」

 

だが、記憶喪失であるブロリーにはそんな知識などなく、目の前の機動兵器は彼にとって鉄の巨人が言葉を話している様に思えた。

 

『答えろ! こんな所で何をしていた!』

 

「そうだ、コイツに構ってる場合じゃなかった」

 

 こんな奴を構う暇など今はない。ブロリーは急いで元来た道を引き返すが……。

 

『逃がすか!』

 

「ぬぐっ!?」

 

アクシオから放たれたロケットランチャーがブロリーの前に着弾。爆風に煽られ、ブロリーは地面に叩きつけられてしまう。

 

 痛みはない。常人ならば痛みに悶えて身動きが出来ないだろう衝撃を、ブロリーは女店長を抱えたまま平然としていた。

 

「今の爆発は……」

 

 被さってきた瓦礫を押しのけ、爆発があった場所を見ると。地面は抉れ、定食屋があった場所は跡形もなく消し飛んでいた。

 

ブロリーは今の爆発に見覚えがあった。此処に来る途中に何度も目にしたモノと同じだったのだ。

 

(じゃあ、ここをこんなにしたのは……コイツなのか?)

 

────────ドクン。

 

「ブロリー……ちゃん」

 

「済まん。邪魔が入った。すぐ終わらせるからもう少しだけ持ってくれ」

 

「シオニーちゃんの……事、お願い……ね」

 

「あぁ、任せろ。よく分からないがなんとかする。だから……」

 

 死ぬな。そう口にしようとした時、腕の中にいた女店長はニコリと微笑み。

 

「ありが……とう」

 

それだけ言い残すと、力無くうなだれた。

 

───────ドクン。

 

「……おい?」

 

 揺さぶる。目を瞑り、眠っている彼女を起こそうとブロリーは何度も彼女の体を揺さぶる。

 

だが、それでも彼女の目は開く事なく、ブロリーは彼女が死んだ事、そしてその意味を漸く理解した。

 

──────ドクン。

 

 

『おい、そっちにはいたか?』

 

『いや、まだ見つかっていない』

 

『ん? 何だソイツは?』

 

 いつの間にか、ブロリーの周囲は多くの機械兵器に囲まれていた。

 

アクシオと色違いのモノ、更には戦車型ジェノサイドロンと呼ばれる巨大な兵器。

 

様々な機械兵器がブロリーを囲み、逃げ場を無くしていた。

 

『あ! 俺コイツ見たぞ! 確かシオニー=レジスと一緒にいた奴だ』

 

『何? 本当か?』

 

『間違いない。俺も商店街で一緒にいるところを見た』

 

『よし、おい、そこのお前! 我々と一緒に来て貰おうか?』

 

 ……どうして、あの女将は最期まで笑っていたのだろうか?

 

痛くはなかったのか? 怖くはなかったのか? 何故自分に、ありがとうなんて言ったのか?

 

分からない。分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からナイワカラナイ。

 

 

 何故彼女は、あったばかりの自分シオニーを守ってくれと頼んだのだろうか?

 

『貴様にはシオニー=レジスを誘い出す為、我々WLFの人質になって貰おう』

 

 過去も記憶も、全てを失った空っぽの自分に。

 

そう、空っぽなんだ。何もない、何もありはしない。何もない筈なんだ。

 

なのに。

 

(どうして、こんなにここがざわつくんだ!?)

 

 胸の奥底が、自分の中にある何かが叫んでいる。全てを吐き出せと。

 

「……なぁ、どうしてお前達はこんな事をする?」

 

『……決まっている。世界を解放する為だ』

 

『我らは世界解放戦線。大国に支配されたこの世界を変えるべく戦っているのだ』

 

「だから……殺したのか?」

 

『世界は変わらなければならない。これはその為に伴う痛みだ』

 

 ────────ドクン。

 

『話は終わりか? なら今度はこちらの番だ。来て貰おう』

 

 アクシオの鉄の手が迫り来る。

 

 ───────ドクン。

 

 鼓動が煩い。燃える炎が煩い。崩れる瓦礫が煩い。全てが煩い。

 

だから、全部……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊してしまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!」

 

 それは雄叫びであり慟哭だった。あらゆるモノがブロリーから吐き出され、大気を大地を、空を海を、世界の全てを震撼させる。

 

やがて揺れは収まり、辺りは静寂に包まれる。辺りの炎は消し飛び、夜の帳が幕を下ろしていた。

 

 ─────いや、一つ違った。

 

暗闇に燃える一つの炎。それは今までの紅ではなく、力強い金色の炎。

 

その炎を身に纏い、瓦礫の上に佇んでいるのは一人の男。

 

 逆立った金髪を靡かせながら、男────ブロリーはWLFと名乗る男達に向き直り。

 

「クズ共がぁ」

 

『『『っ!?』』』

 

「まずお前達から血祭りに上げてやる」

 

その碧に輝く双眸で射抜くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒れる悪魔よ、総てを破壊せよ。

 

 

生きているのなら、神をも殺せるその力で─────。

 

 




所々平仮名が多い箇所は記憶を無くしたブロリー視点で描いたものです。

全ての記憶、知識を失った描写をしたいが為にこのようにしましたが、如何でしたか?
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