破界せよ、総てを   作:アゴン

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第三話 契約

 

 暗黒大陸。それは次元の壁に隔たれ、三大国家にも手出しされていない地球唯一の未開の大陸。

 

そこにあるのはなんて事ない荒野。何処までも続く荒れた荒野だけが広がっていた。

 

 果てしなく続くかと思われた荒野の大地だったが、一つだけ人工的に造られたと思われる建造物があった。

 

巨大。それはあまりにも巨大な建造物だった。

 

 遠近感が狂いそうな程の巨大な建物、雲よりも高く造られた場所にその男はいた。

 

玉座に跨がり、頬杖しながら何もない空間をただ眺め続けている男。

 

男に身に纏っているのはただの布切れ一枚のみ。風貌はお世辞にも高貴な人間とは思えない出で立ちだ。

 

 だが、そんな些細な事など補って余りある力が、男にはあった。

 

屈強な肉体と強靭な精神を併せ持つこの男の名は“螺旋王”

 

暗黒大陸を統べ、頂点に位置している男。力の象徴、故に王。

 

 その身に宿すのは絶大な力、力は不変。或いは絶対。それは下手をすれば三大国家に匹敵する力。

 

そんな絶対的に不動とされてきた男は今……。

 

「っ!?」

 

 今まで感じた事のない《何か》に初めて狼狽していた。

 

「ぐっ!? むぅ……」

 

「螺旋王!?」

 

顔を抑え、うずくまる螺旋の王に一匹の……いや、一人のゴリラが駆け寄っていく。

 

他にもアルマジロや鳥の格好をした男、蠍の尾を生やした女が生まれて初めて目にする螺旋王の姿に驚愕し、目を見開かせていた。

 

「螺旋王! 如何なされましたか!?」

 

「……騒ぐな」

 

「しかし螺旋王、お顔色が優れませんが……」

 

 片手で顔を抑え、呼吸を荒くし、滝の如く汗を流し、顔面蒼白となっている王。

 

騒ぐなと言うが、初めて見せる王の様子にゴリラ男は安易に引き下がる事も出来なかった。

 

しかし。

 

「……二度も同じ事を言わせるなよ?」

 

「っ!?」

 

 指の隙間から見せる螺旋渦巻く瞳の眼光と口から発せられる殺意に満ちた声。

 

明らかに激昂している王の姿にゴリラ男は震え上がり。言葉を失ったまま三人のいる場所へ引き下がっていく。

 

「貴様等も下がれ」

 

「「「ハッ!」」」

 

 理由もなく、ただ下がれと告げる。その横暴な命令にも決して口は出さず、四人は言われるがままに玉座から姿を消した。

 

静まり返る玉座。螺旋王は流れる汗を拭い、保たれる様にして玉座の椅子に座り直した。

 

「次元の壁を超え、それでも感じた恐ろしく巨大で禍々しい力……そんな奴が存在するとはな」

 

感じた力の方角に視線を向ける螺旋王。だが、そんな馬鹿げた存在を前に、螺旋王は戦士の顔で不敵に笑い。

 

「これも、螺旋の運命か……」

 

次いで、自嘲気味に笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地が震えた。大気が震えた。

 

空が、海が、世界が、恐怖に怯える様に震えた。

 

『なんだ……お前は?』

 

 WLF。世界解放戦線と呼ばれる彼等は目の前の存在に問い掛けた。

 

黄金に輝く逆立った髪と碧色の瞳。全身に纏う金色の炎は灯りを失い暗闇に包まれる商店街を照らしている。

 

 変身。

 

WLFの面々は先程までの優男が何らかの拍子で根本から変わった事に本能的に気付く。

 

圧倒的。目の前にいる男に彼等は唯々圧倒され続けていた。

 

「…………」

 

『『『っ!?』』』

 

 徐に掲げた手。たったそれだけの行動にテロリスト達は一斉にブロリーに向け銃口を突き付ける。

 

巨大な機動兵器とたった一人の………何の武装もしていない人間。

 

戦力差は歴然。……いや、そもそも戦いという言葉すら当てはまらない状況。

 

───────その筈なのに。

 

『………………は?』

 

いつの間にか、隣にいたはずのアクシオ一機が、遥か後方で倒れ伏していた。

 

何が起こった?

 

アクシオは全長20m近くあり、その重量は80tを超える機体。

 

機動兵器の中では比較的普通の重さだが、それでも人の手ではどうしようも出来ない代物。

 

ましてや“吹き飛ばした”等と、有り得る訳がない。

 

 だが、火花を散らして爆散するアクシオわ目の当たりにして、彼等は一気に理解してしまう。

 

『う、うわぁぁぁぁっ!!』

 

恐怖に駆り立てられたWLFのメンバーは、次々と目の前の存在に向けて一斉砲撃を加える。

 

砲撃、ミサイル。人に対して撃つべき代物ではない兵器が弾幕となり、たった一人の男を殺す為だけに放たれる。

連鎖する爆発、爆風に煽られ吹き飛んでいく瓦礫。

 

地面は抉れ、黒い煙が辺りに充満した所で、漸くミサイルの雨は止んだ。

 

間違いなく死んでいる。それも跡形もなく。

 

コックピット内でそれを確信したテロリストは、緊迫した空気から解放され、ニヤリと口を歪める。

 

そう、生きている筈がないのだ。

 

生きている筈が……。

 

そう自分に言い聞かせ、モニターの映像を凝視すると、

 

「何なんだぁ……今のはぁ?」

 

 煙の中から現れる無傷のブロリーに、テロリスト達は恐怖で目を見開かせる。

 

バカな。有り得ない。整備不良か? 照準が合っていないのか? 頭に浮かぶのは全て目の前の現実から逃避する為の思考の渦。

 

だが、どんなに否定的な言葉を並べても、目の前の怪物は消えなかった。

 

『あ、あぁぁぁぁぁっ!!?』

 

 再び向けられる銃口。今度は通信で仲間を呼び寄せてより強力な火力で撃とうとしたその時。

 

『へ?』

 

 既に目の前には金色に輝くブロリーが迫り。

 

「死ね」

 

たったそれだけを告げると、ブロリーはアクシオの胴体に拳を突き刺し。

 

「デヤァッ!」

 

腕を引き離すと、内側から激しい火花が散り、アクシオは内部爆発により跡形もなく消し飛んだ。

 

『あ、ああ………』

 

 理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない理解出来ない!!

 

 人間は理解出来ない場面に陥った時、およそ二通りの行動をする。

 

一つは得体の知れない存在の排除、そして得体の知れない存在からの逃走。そして、この時彼等が取る行動は一つ。

 

『う、うわぁぁぁぁっ!!』

 

『化け物だぁぁぁっ!!』

 

ブロリーという未知の存在から逃げ出す為、彼等は逃走を図る。

 

無論ブロリーも奴らを逃がすつもりは毛頭なく、足に力を込めて追撃を図ろうとするが。

 

『この、化け物がぁぁっ!』

 

 頭上から押し寄せてきた巨大な機動兵器、戦車型ジェノサイドロンに踏み潰されてしまう。

 

『や、やってやった! ざまぁみやがれ!』

 

ジェノサイドロンはアクシオとは全く別の会社が作り上げた兵器で、その大きさや重さ、共にアクシオの比ではなく、踏み潰されたら最期、潰れたプチトマトの出来上がりである。

 

『お、おおっ!?』

 

……もう一度説明しよう。この戦車型ジェノサイドロンはアクシオやモビルスーツに比べ非常に大きく、より重さも増しているのだ。

 

間違っても、“片手で持ち上がれる”代物ではない。

 

 しかしブロリーはおよそ100tはゆうに超える鉄の塊を、あろう事か頭上に投げ飛ばし。

 

「これ以上、ここを荒らすな」

 

左手の掌に碧色の光を収束させ、次の瞬間にはジェノサイドロンを呑み込む程の巨大な閃光を放ち、彼方へと消し飛ばすのだった。

 

 リモネシアという小さな島国から、巨大な閃光が空に向かって放たれる。

 

その事実は後ほどシオニーをあらゆる意味で苦しませる要因となるのは……今は伏せておく。

 

 一通り片付け、再び戻ってきた静寂。

 

未だ光を纏い続けているブロリーは今までの自分の行動を思い出し、自身の両手に視線を落とす。

 

(これが……俺の力、なのか?)

 

体の奥底から感じる溢れ出る奔流。それが自分の力だとブロリーはまだ自覚していない。

 

女店長が殺され、それを当然としている奴らに無性に腹が立ち、湧き出てきたモノを吐き出した途端、自分の姿は変わっていた。

 

「あぁそうか、これが……“怒り”なのか」

 

 あの時感じたモノ、それは何一つ混じっていない純粋な怒りだったのだ。

 

欠けていたパズルのピースが一つ嵌まった様な気がした。……ひとまず、この場はどうしようか?

 

ブロリーは自分なりの解決方法を頭の中で模索し、検討していると。

 

「ん?」

 

 バタバタと音を立てて近付いてくるヘリの大群と、埃を巻き上げながら近付いてくる機動兵器の群れ。

 

恐らくは、逃げ出した奴が仲間を呼び寄せたのだろう。

 

やれやれと思いつつも、ブロリーは全身に力を込め、金色の炎を燃え上がらせる。

 

すると、視界の端に横たわる女店長の亡骸が入ってきた。

 

死んでいる。なのに安心しきった顔で笑っている彼女の死に顔にブロリーは見つめ……。

 

「……俺は、まだ“守る”というのがどういう意味なのかは分からない」

 

一体、“守る”というのはどういう意味なのか? どんなに考えても答えは出ない。

 

だから、探してみることにした。守るという意味を、守るという意志を。

 

「だから、まずはこの場所を守ろうと思う」

 

ここは自分が記憶を無くして初めて訪れた場所であり、思い出の場所。

 

既に商店街は壊滅、守る事など最早叶わないが……。

 

「でないと、きっとシオニーも守れないと思うから」

 

それでも、ブロリーは守ると誓い。迫り来るテロリスト達の群へと掛けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

 

 鼓動が激しく脈打ち、額から大粒の汗が幾つも流れ、アスファルトの地面を濡らしていく。

 

暗い闇の中、シオニー=レジスは走り続けていた。

 

数時間前までユニオンの重役との会談の準備をしていたが、WLFの襲撃という突然の報せにシオニーは会談のある会場から飛び出し、襲撃されたとされる商店街に向けて駆け出していた。

 

会談は当然中止。先方への謝罪もせず、シオニーはひたすら走り続けていた。……当然だ。あそこの商店街は昔、学生時代だった頃の彼女が学校帰りによく立ち寄っていた思い出の場所であり、原点。

 

外務大臣になり国を動かしている立場となっても、それだけは変わらない。

 

そして、今その場所がテロリスト達に蹂躙されているのだ。

 

本来なら、“襲われる事は無いというのに”

 

 我を忘れ、車やSPも使わず。自分の足で商店街に向かう最中疲弊した足がもつれ、何度も転び、その度に生傷が増えていく。

 

服は破れ、ヒールの踵はへし折れ、裸足になりながらも尚、彼女は走り続け、気が付けば夜明けとなっていた。

 

 ──────そして。

 

「嘘……でしょ」

 

満身創痍の彼女に待っていたのは、瓦礫の山となった変わり果てた商店街の姿だった。

 

 焼け落ちた家屋、水道管は破裂し、至る所から水が噴き出している。

 

凄惨な光景にシオニーは力が抜け、愕然とした面持ちでその場にうずくまってしまう。

 

 ……壊れてしまった。自分が守りたかったモノが。

 

「どうして……こんな事が」

 

悔しさと怒りでどうにかなってしまいそうだ。

 

怒りに身を任せ、地面を殴ろうと拳を振り上げた時。

 

「シオニー?」

 

ふと、声が聞こえた。

 

 つい最近まで聞き慣れた声のする方へと視線を向けると、記憶喪失の男、ブロリーが其処にいた。

 

黒髪で黒目、自分の知る男の変わりない姿にシオニーはどこか安堵した。

 

立ち上がろうとすると、今までの疲労が一気に襲い掛かり、シオニーは前のめりに倒れてしまう。

 

しかし、寸での所でブロリーの太い腕に支えられ、冷たい地面に倒れる事はなかった。

 

「あ、ありがとう」

 

「……………」

 

 シオニーの体のあちこちに刻まれた幾つもの生傷。痛々しく、且つ細い体の彼女をブロリーは優しく抱き抱える。

 

「ちょっ!? いきなり何を!?」

 

お姫様抱っこの体勢となってしまった自分の体。早く下ろせと訴える彼女だが、予想以上に疲弊している自分には丸太の様に太いブロリーの腕から逃れる術はなく、シオニーは大人しくされるがままに連れて行かれる。

 

「……ねぇ、皆は?」

 

「……………」

 

 顔を伏せ、何も答えないブロリーにシオニーは悟ってしまう。

 

嗚呼、やっぱりと。

 

結局、どんなに権力を得ようと守れない自分に、シオニーはブロリーの腕の中で静かに涙を流し。

 

「ごめん……なさい」

 

 その言葉は、誰から誰に対して言ったモノなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こは?」

 

 ブロリーに連れてこられて来たのは開けた場所だった。

 

辺りは瓦礫に囲まれているのに、不思議と目の前の場所には何もなく、広場の様になっている。

 

一体何なのだろうと、自分を近くの瓦礫に座らせ、一人広場に向かうブロリーに問いかけると。

 

「………おはか、まだ途中」

 

言われて気付く。広場と思われ た地面が至る所に僅かに盛り上がっており、それぞれ石が積まれており、その側には一輪の花が添えられている。

 

何処にでも生えていそうな名もない花、体の大きなブロリーには似合わず、思わず笑ってしまいそうになる。

 

だけど。

 

(ありがとう)

 

 一人せっせと泥だらけになりながらも墓の形を整えたり、花を添えたりしているブロリーに、シオニーは心の内で呟いた。

 

………そう言えば、何でブロリーは無事なのだろうか? 今更過ぎる疑問に首を傾げると……。

 

「っ!?」

 

 視界に入ってきた物体に、シオニーは目を見開かせて驚愕を顕わにした。

 

壁かと思われた瓦礫が、実はヘリオンと言うAEUが開発したモビルスーツだった。

 

グシャリと歪に変形し、俄にはそうは見えないが、残ったヘリオンの独特のフォルムが間違い無いと彼女に告げている。

 

それだけではない。目を凝らして良く見ると、其処には様々な機動兵器の成れの果てがあった。

 

ファイヤーパロット、アクシオ、戦車型ジェノサイドロンに地上空母型のジェノサイドロンまで。

 

テロリストが使用しているほぼ全ての機動兵器が、無惨な残骸となって壁となって積み上げられている。

 

一体……誰が。そう思うと同時にシオニーはハッとなり、目の前のブロリーに視線を向ける。

 

 時空振動の際、記憶と共に全てを失った男、ブロリー。

 

有り得ないと思う。馬鹿げていると思う。

 

……だが、そう思わずにはいられない。

 

警察組織はあっても、三大国家の様な大規模な軍隊を所有していないリモネシアでは、WLFという国際テロ組織に対抗できない。

 

だから、と、そう考えるのはあまりにも不自然だろうか?

 

「ブロリー、貴方は……一体」

 

何者だと問い掛けようとするシオニーだが、いつの間にか立ち上がって此方に振り返っていたブロリーの姿に息を呑み、言葉が続かなかった。

 

 黒い瞳と髪、それは日本という国に於いて代表的な色なのだが、シオニーには全く別物に見えていた。

 

全てを呑み込む漆黒の色。闇色に染まり、奈落の底とも思える魔性を秘めた色彩。

 

「シオニー……俺は」

 

 朝日が昇り、太陽を背にするブロリーはより黒く染まっていく。それはまるで……。

 

「お前を、守る」

 

 ───────悪魔の様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は廻る。

 

 クルクル、クルクル。

 

 今ここに、契約は成された。

 

 




シオニーはブロリーを手に入れた!
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