「な、何が起きているってのよ、これ……」
つい先程まで平和で静かだった街並みが赤い炎に包まれ、目の前にはその熱海を強襲したとされる数十体の巨人が暴れ回っている。
瓦礫と炎に包まれた熱海を前に呆然とする葵。
「これは、拙い展開ね。ねぇアンタ、さっさとここから逃げるわよ!」
行軍して来る巨人の群れ、兎に角逃げようと葵は愛車の下へと急ぐが……。
「ふへへ、そういう訳にはいかねぇなぁ」
「っ!」
目の前に現れた仮面を付けた男達が、葵の行く手を阻むようにして囲んでいる。
手に持っている剣やその風貌からしてあの巨人共と関係しているのは明白。武器を持つ相手に……しかもこれだけの人数を相手に流石に下手な行動は出来ないと察した葵は悔しく思いながら下がる。
「アンタ達、一体なんなのよ。こんなに街をメチャクチャにして、どこのテロ組織よ」
「ふひひ、威勢がいいなぁ小娘、だが我々をたかがテロと同列にするのは頂けないなぁ」
「我等は鉄仮面、偉大なるDr.ヘル様に忠誠を誓い、あしゅら男爵様の手足となる下僕よ」
鉄仮面と名乗る男達から聞かされるDr.ヘルと呼ばれる者、それはあの奇妙な声の主も言っていた名前だ。
「それで、あんた等の親玉であるそのDr.ヘルってのは何のためにこんな事をするの?」
「決まっている。世界の征服よ」
世界征服。それは壮大な野望で壮絶な野心で、それでいて滑稽な妄想。普通ならここで思いっきり笑い飛ばすのがこの場のセオリーになるのだろうが、そんな気は起きなかった。
街一つを瞬く間に火の海にした此奴等には、それが可能とするまでの力があると、葵は嫌に思いながらも確信しているからだ。
ソレスタルビーイングといい、コイツ等といい、世界をそうまでして変えたいのだろうか?
葵には分からないし、分かりたくもない。ただ、一つだけ言える事はある。
────それは。
「……それで、あんた等は私達を捕まえてどうするつもり?」
「見せしめだ。貴様等を惨たらしく殺せば我々の、強いてはDr.ヘル様の本気と覚悟を世界中に知らしめる事になるだろう」
「あらそう。けどね、悪いけど黙ってやられる程、私は諦め良くないわよ?」
今、戦わなければ生き残れないという事だ。
状況は多勢に無勢、得物を持った輩が十数名でしかも恐らくコイツ等は人間ではない。
オマケに此方にはボーッとしている足手纏いが一名。絶望的な展開この上ない状況だ。
覚悟を決めるべき。そう決意して飛鷹葵が手に力を込めた。
─────その時だ。
『パイルダァァォァァ! オォォォォォォォォン!!!』
街中に響き渡る声が聞こえた時、鉄の城が突如として姿を現すのだった。
◇
「こ、これが……おじいちゃんが研究室に籠もって作っていたモノ」
『そうじゃ甲児! マジンガーZは無敵のスーパーロボットじゃ! その神にも悪魔にもなれる力でお前の思うとおりにマジンガーを、そして世界を動かして見い!!』
通信越しから聞こえてくる祖父、兜十蔵の言葉を聞きながら兜甲児は思う。
今自分が乗っているモノ、それは祖父が持つ書物の一冊に記されていたある人物と瓜二つだという事。
ギリシャ神話、遥か太古の昔に聳え立っていたあの神に……。
神か悪魔か、そんな事自分には分からない。ただ一つ言える事、それは……。
「ここから、ここから、出ていけぇぇぇぇぇっ!!」
目の前の我が物顔で熱海を荒らすコイツ等を、ぶっ飛ばすという事。
操作方法は乗ったばかりの甲児には理解出来ない。だが、彼には確信があった。
自分にはそれが出来ると、魂の奥底から叫べばコイツは応えてくれると。
「飛ばせ鉄拳!」
叫ぶ甲児に鉄の城、マジンガーZは拳を掲げて応える。───そして。
「ロケット、パーンチ!!」
必殺の拳が、剣闘士に向けて放たれる。巨大な弾丸と化したマジンガーZの拳は同じ体格である剣闘士の体を豆腐の如く打ち砕く。
熱海を言いように蹂躙した巨人の一体を、このマジンガーZが打ち砕いて見せたのだ。
「すげぇ、すげぇよ兄貴!!」
隣に座る弟のシローも、マジンガーZの強さに驚き、そして歓喜している。
「これが、神にも悪魔にもなれる力……」
握り締めたグリップから伝わる熱くたぎる力の感触。圧倒的なその力に甲児は戸惑い、震えていた。
強すぎる。自分が知るどの力にも勝る絶対的な“力”を前に甲児は確信する。
(コイツの力があればシローを、爺ちゃんを守れる!)
何を思ってこんなスーパーロボットを自分に託すのかは分からないが、今はそれは詮なきこと。この鉄の城の力があればこの化け物達から街を守れる。
そう確信した甲児の前に……。
『よもや、そんな代物を作り出していたとはな……のう、十蔵』
突如として熱海の上空に、巨大な影が姿を現し。髑髏と、二つの頭を持った巨人がマジンガーZの前に立ちはだかった。
◇
「まったく、次から次へと! 何なのよこの超展開は!?」
「隙ありー!」
「あるわけ無いでしょ!」
「ぷげら!?」
襲い掛かる鉄仮面を葵は回し蹴りで撃退。彼女の攻撃で撃沈するのはこれで四人目、足下に転がっている仲間に他の鉄仮面達は葵の予想外な戦闘力に驚愕し、その勢いを完全に殺されてしまっている。
だが、葵の方も既に体力が尽きそうだった。あの巨人相手には黒いロボットが大立ち回りしているし、新しく現れた二体の化け物ロボット相手にもきっと何とかしてくれるだろう。
何だか立体映像で現れた巨大な爺さんが色々言ってて雲行きが怪しいが、きっと何とかしてくれる……というかして欲しい。
コッチは只のレーサー兼モデルの一般人、喧嘩の経験はあっても殺し合いの経験など持ち合わせてはいない。
向こうはモノホンの剣という凶器を携え、こちらの命を確実に狙ってきている。
一度でも気を抜けば、やられるのは此方だ。しかも今寝かせている連中も時が経てば目を覚ます。
命のやり取り。確かに自分は新しい刺激を求めていたが、コレばかりはノーサンキューである。命を懸ける覚悟も度胸も、まだ此方は備わっていないのだ。
(こっちは一人だってのに、少しは手加減しなさいよね!)
隣にいる放心状態のブロリーに舌打ちしながら、次の相手に神経を集中させる。
火の海となった熱海を目にしてから、全く身動きしなくなったブロリー。目の前の光景にショックを受け無抵抗だった彼には鉄仮面の魔の手が迫る事はなかった。
恐らく、抵抗する気のないブロリーを殺すよりも元気の有り余っている自分を先に始末してからの方が後が楽で良いと判断したのだろう。
世界征服を謳っている割にはセコイ連中である。
だが、何だかんだ思いながら目の前で殺されては目覚めが悪い彼女にとって、内心ホッとしている部分も確かに在った。
(いい加減、さっさと終わりたいわ。帰ったらシャワー浴びたい)
などと、今の状況とは程遠い現実逃避をしていると。
「「貴様等! 一体何を遊んでいるかぁ!?」」
「「「っ!?」」」
背後から聞こえてきた重なった独特の声、それが先程の剣闘士の巨人の登場の際に聞こえてきた人物のモノと同じ。
ザワザワと騒ぎ立つ鉄仮面、彼等と同じ方向へ視線を向けると……。
「「その様な小娘一人に、何をグズグズしている! さっさと叩き斬ってしまえ!」」
……異形。振り返った矢先に現れた存在に葵は只そう思った。葵から見て右側の男は浅黒く、その逆の女は寒気を感じる程の白さを兼ね備えている。
「……今日って何かのコスプレイベント? こんなサプライズ聞いて無いんだけど?」
堪らず、いつもの軽口を吐き出す事で平静を装うが、そんな自分を見通しているのか、目の前の男女はクックッと嗤う。
「「ふっふっふ、どうした? 声が震えているぞ?」」
「まぁ、アンタみたいな化け物が目の前にいればそりゃ震えてるわよ」
「「減らず口も、そこまで叩けば大したモノだな……鉄仮面!」」
「はっ! あしゅら男爵様!」
男女……あしゅら男爵の指示に従い、背後から襲い掛かる鉄仮面。振り下ろされる刃を葵は体を捻る事で紙一重に避ける。
葵の髪の二、三本程がパラパラと舞い散り、黒いアスファルトの上を彩らせていく。
よくもやってくれたな。自慢の髪が斬られた事に怒りを露わにする葵だが。
「「ほう、小娘にしては良く動く」」
「っ! しまっ……ぐっ!?」
コイツに背中を見せたのは失敗だった。などと後悔するのも束の間、背後に立たれていたあしゅら男爵に首を掴まれ、その圧迫される痛みに葵は身動きが出来なくなってしまう。
どうにかして逃げ出さなければ、葵はあしゅら男爵の顔に蹴りを入れて脱出を試みるが。
「「元気のいい小娘だな。……だが!」」
更に強まってくるあしゅら男爵の力。尋常ならざるその腕力に抵抗虚しく、葵は首に掛けられた力に意識が遠退き始めた。
(私……こんな所で、死ぬの?)
F01レーサーとして名を馳せ、トップモデルとして名を売れた自分だが、なんて呆気なさすぎる幕引きだ。
意識が失い掛け、瞼を閉じようとした─────その時。
いつの間にかあしゅら男爵の、葵の首を掴んでいた手に別の人間の手が掴んでいた。
「「何だ……貴様は?」」
(……え?)
それはついさっきまで、足手纏いで……現に何をする事もなく、唯呆然と立ち尽くしていただけの男、ブロリーがそこにいた。
だが……。
「「な、何だコイツは? 気を失っているのか?」」
ブロリーの瞳には何も映ってはいなかった。ただ空虚で、何処までも薄暗い濁った黒が、あしゅら男爵の姿を映し出していた。
「「えぇい、離せ!」」
鬱陶しく感じたあしゅら男爵がその手を離そうと躍起になる。しかし、ブロリーの手は一向に離そうとせず。
「「が、あぁぁぁぁぁぁっ!!」」
あしゅら男爵の手を骨ごと砕こうとするブロリーの力に、あしゅら男爵は堪らずその手を離す。
「げほっ、げほっ……はぁっ、はぁっ」
地に倒れ伏し、今までの苦しみから解放された葵は激しく咳き込みながら顔を上げる。
今までは何の反応も示さなかった男が、突然として動き出した。完全にノーマークだった故に鉄仮面達はあしゅら男爵を助けようとしても、そのあしゅら男爵と密着しているブロリーに近付けずにいた。
「「この、離せぇぇぇぇぇっ!」」
ブロリーの力に膝を地に着かせ、屈し掛けるあしゅら男爵。しかし、腐っても自分はDr.ヘルの側近。あしゅら男爵はブロリーごと持ち上げると、遠くに向かって投げ飛ばし。
「「ダブラスM2! その男を踏み潰せ!!」」
一番近くにいる化け物ロボット、機械獣と称される機械の獣はあしゅら男爵の指示に従いその足を下ろす。
立ち上がらず、倒れたままのブロリーに機械獣の巨大な足が迫り。
ブロリーは虫けらの如く踏み潰されるのだった。
砂塵が舞い上がり、瓦礫となった家屋が吹き飛んでいく。
別の機械獣と戦っている最中のマジンガーZは今の轟音に何があったのだと振り返っている。
飛鷹葵も目の前で人が殺された事を衝撃的に受け、顔面蒼白となって目を見開かせている。
対してあしゅら男爵は踏み潰されたその光景に薄ら笑いを浮かべていた。自分に逆らう愚か者を制裁できた事への優越感。そして、強敵を葬った事に体する達成感に満たされていたのだ。
「「ふふふ、馬鹿めが、我々を侮るからこういう事になるのだ。さて、後は仇敵、オリンポスの裏切り者であるゼウスを葬れば、Dr.ヘルの大願は成就される!」」
「この、悪魔共め」
「「ふはははは! 今更嘆いても遅いわ! コレより世界は変わる! 我々が、Dr.ヘルが、世界を征服するのだ!」」
掠れた声で言い放つ葵に、あしゅら男爵は高々と嗤いながら言い返す。
最早この場にいる意味はない。あしゅら男爵は鉄仮面に命じ、葵を人質としてマジンガーZの前に連れ出そうと模索し、立ち上がらせる。
自分がどんな事に利用されると悟った葵はあしゅら男爵を殺意の籠もった目で睨み返す。しかし、あしゅら男爵はそんな葵の睨みにも嗤い返すだけ。
「「しかし、よくよく考えれば惜しいことをしたのかも知れん。機械獣と対等である私の力をいとも簡単にねじ伏せたのだ。Dr.ヘルに仕えれば良き戦士となった筈」」
だが、そんな事を考えても仕方のない事。あしゅら男爵は踏み潰した体勢のまま動かない機械獣の足下を一度見ると、踵を返して歩き出す。
────待て、今自分は何と言った?
機械獣と互角、Dr.ヘルによって改造された我が身はまさに生身に於いて最強の力を有する存在となった。
だが、そんな自分をいとも簡単に凌駕する馬鹿げた存在がいた。そんな怪物が機械獣にあっさり殺される事なんて……有り得るのだろうか?
嫌な予感の駆り立てられたあしゅら男爵が、冷や汗を大量に流しながら再びダブラスM2の足下へ視線を向ける。
相変わらず身動きしていない下僕である機械獣、いつでも命令を待ち望んでいるその体勢にあしゅら男爵は杞憂だったかと胸をなで下ろした。
─────瞬間。
眩いまでの光……いや、黄金の炎がダブラスM2の足下から溢れ出した。
◇
まただ、またこの感覚だ。
真っ赤に染まる空、その下には燃え盛る炎の海が、俺の中にある何かを刺激する。
それは音なのか、はたまた声なのか……俺を呼ぶ何かが、俺を刺激してどうしようもなくしてくる。
地獄の底から聞こえてくる怨差の声が、俺にコッチに来いと呼び掛けている。
不快、或いは嫌悪すべきソレ。だが、何故だか俺にはそれが心地良い物に感じる。
俺の中にあるモノが、全てを壊せと囁いている。そして、それに抗えない自分がいる。
だけど……。
『良い事、不本意だけど貴方にはこれから私の護衛をして貰います!』
『絶対に、私から離れてはなりませんよ! これは命令ですからね!』
……あぁ、分かっている。約束だからな。
約束とは“守る”モノ、お前が俺に教えてくれた大事な事。
お前を“守る”。そして、その約束を“守る”為にも……。
先ずは、この場を終わらせる。
気が付けば、あの不快な感覚は消えていた。
◇
誰もが理解出来なかった。
あしゅら男爵も、鉄仮面も、マジンガーZに乗る兜甲児も、その祖父兜十蔵も。
温泉旅館くろがね屋の面々も空に浮かぶDr.ヘルも、その光景に言葉を失い、唖然、或いは呆然としていた。
突如として起こった黄金の炎は荒れ狂う暴風となってダブラスを吹き飛ばし、熱海に燃え広がっていた炎を消し飛ばしていた。
夜空に浮かぶ星とは別に、眩い金の炎が光を失った薄暗い熱海を照らし出す。
そして、その中心には金髪碧眼の姿へと変わったブロリーが一歩ずつあしゅら男爵に向けて歩き出していた。
一歩進めば放電現象が起こり、辺りの瓦礫を弾けさせる。また一歩進めば、今度は大地に亀裂が入り、風が吹き荒れる。
逆立った金髪、つり上がった碧眼。先程までの優男な印象を受けたブロリーは何処にもいない。
明らかに違う。呆然としていたあしゅら男爵は機械獣を操る杖、バードスの杖を掲げて命令を下す。
「「何をしているダブラスM2! 早くその男を叩きのめせ!!」」
あしゅら男爵の命令に従い、今まで仰向けに倒れていたダブラスに赤色光が灯る。
立ち上がり、その二頭の首でブロリーを押し潰そうとダブラスが迫り来る。
巨大な機械獣の接近、甲児は助けに向かおうと咄嗟に動き出すが、骸骨の機械獣によって阻まれてしまう。
飛鷹葵もブロリーに逃げろと叫ぶ、しかしブロリーは逃げる素振りも見せずフワリと浮かび。
ただコツン、と、ダブラスの胸元を軽く小突いた。
瞬間。
グボンと胸元が抉れたと同時に、金属の塊の巨人は遥か彼方へ吹き飛んでいく。
瞬く間に吹き飛び、熱海の街が見下ろせる高度にまで達するダブラス。
ふと、背中に壁にでも当たったのか、その勢いは突如として止んだ。───何だと思い後ろを振り返ると。
「死ぬがいい」
自分を吹き飛ばした張本人、ブロリーが足を振り上げてそこにいた。
最早訳が分からない。ダブラスに思考出来るほどの理性があれば恐らくは混乱の渦に叩き込まれていた事だろう。
だが、そんな事も考える間もなく。振り抜かれたブロリーの蹴りがダブラスの背中を捉える。
メキリと入ったブロリーの蹴りはダブラスの体に深くめり込み、遂にはその巨体を左右二つに引き裂かれる。
そして、そのまま吹き飛んでいくダブラスの残骸は熱海の街へと戻り、あしゅら男爵の横を通って海に着水する。
次いで引き起こる爆発、舞い上がる水柱が天高く昇り、水滴の雨が地面へと叩き付けられた所で、漸くその場の時間が動き出す。
(何だ……何なんだコイツは!?!?)
いつの間にか消え、そして再び目の前に現れたブロリーにあしゅら男爵はただ混乱する。
化け物だ何だと言われてきたが、目の前にいるコイツこそが真の化け物ではないか。
機械獣を赤子同然にあしらい、尚高まっていく力の波動。ゆっくりと歩み寄ってくる男が、本当にあの優男なのか?
何もかも違う。桁が、次元が、全てが違う。
「お、おおおいお前! それ以上動くんじゃない!」
「それ以上動けば、コイツがどうなっても知らねえぞ!」
そんなブロリーの前に葵を人質にした鉄仮面の集団が遮る。
彼女の前に交差する二本の刃、それらを前にブロリーの動きは停止する。
流石に人質を取られると手も足も出ないのかと、あしゅら男爵は苦笑いを浮かべながら安堵する。
が、しかし。
「…………は?」
次の瞬間には鉄仮面集団の全てが、その命を絶っていた。
ある者は頭部を失い、ある者は上半身ごと吹き飛び、またある者はただの血の海へと消えていた。
そして、ブロリーの腕には傷一つ付いていない飛鷹葵が抱えられていた。
「え? え?」
葵自身も何が起こったのか理解出来ず、ただ辺りを見渡すだけ。葵を地面に座らせ、ブロリーは今度こそあしゅら男爵に向かって歩き出す。
「「た、タロス像よ!」」
バードスの杖を掲げ、残りの剣闘士全てに指示を出す。感情のない巨人の人形は命じられたままにブロリーの下へ押し寄せる。
熱海を襲ったとされる全てのタロス像がたった一人の人間を抹殺する為に動き、圧し潰そうとする。
巨人の群による圧殺。群がり、そして跳躍するタロス像の群れに対し……。
「デァァァァァァァアッ!!」
気合いの籠もった叫び、其処から発する衝撃波と舞い上がる金色の炎によってタロス像の群れは悉く吹き飛んでいく。
更にブロリーは右手の掌に碧の光を集め。
「フンッ!」
空へと舞い上がるタロス像達に向けて碧色の弾幕をぶつけ、夜の空を爆発と轟音に彩らせるのだった。
◇
漸く骸骨の機械獣を倒したマジンガーZのパイロット、兜甲児は思う。
神、もしくは悪魔の力を兼ね備えているのは寧ろ彼の方ではないのか?
祖父の作り出したマジンガーZを疑うつもりはない。だが、それでも思わずにはいられない。
本物の悪魔とは、神とは、彼の事を言うのではないのかと
気が付けば、空を覆っていた影は消えていた。
熱海を埋め尽くしたていた炎も消え去り、金色の男のおかげもあって敵は見事に迎撃できた。
お礼を言った方がいいのかな? 兜甲児がブロリーに対しそう思ったその時。
『お、おい坊主、大変だ!』
「その声、あの時の不良刑事?」
『じ、爺さんが! 爺さんが!』
一つの別れが、少年二人を待ち受けていた。
◇
夜が明け、朝日が熱海の街を照らし出す。
瓦礫となった街並み、しかしそれでもこの程度の損害で済んだのはひとえにマジンガーZと一人の青年のお陰と言えよう。
機械獣や鉄仮面集団を従えていたあしゅら男爵の姿は何処にも見当たらない。
恐らくは、あの時タロス像を襲わせた時、隙を突いて逃げ出したのだろう
一方で燃え広がっていた炎は消え、二次災害の可能性は今の所はない。避難していた人々もヒョッコリと顔を覗かせていた。
そんな中、飛鷹葵は目の前の男の背中に釘付けとなっていた。
襲い来る巨大な怪物達をその圧倒的な力でねじ伏せ、世界征服を目論む組織を撃退した男。
今までとは違う、熱く燃える何かが葵の中に広がっていく感覚を彼女は確かに感じた。
「……ねぇ、貴方は一体……何者なの?」
葵の問いに、ブロリーは視線だけ彼女に向ける。
─────ドクン。
碧色の眼光に葵は自分の鼓動が高く脈打つのをが分かった。
そして、ブロリーは葵の質問に答える事なく、フワリと空を飛ぶとリモネシアに向けて飛び立っていく。
瞬く間に……それこそ、瞬きをしている間に去っていくブロリーに、葵は彼がどこに向かったのか分かるはずもなく。
「………絶対、突き止めてやる。アンタの事」
体の芯が熱くなる事を感じながら葵は立ち昇る朝日に誓うのだった。
一方で海岸沿いで一部始終見ていた機体が二つ、熱海の街を見つめていた。
『どう思うティエリア』
『どうもこうもない、あれが恐らくヴェーダが報告していた“金色の炎”の正体だろう』
『俄には信じられないな、人が空を飛ぶだなんて……』
『スメラギ=李=ノリエガに至急報告を、我々も離脱する』
『向こうはアクシオンの新型を捕まえたみたいだし、すぐ合流しないとね。彼に対する対応はその後になりそうだけど』
『……帰投する』
(本音は、彼と敵対したくないけどね。出来ることなら)
その後、太平洋上に通信障害が発生したと同時刻、緑色の光が観測されたという報告が各国に出回る事になった。
しかし、後に世界はある話題で持ちきりとなる。
“生身の人間が巨大なロボ相手に圧倒”と。
そして、これがソレスタルビーイングに次いで世界に衝撃的な事になるとは、この時シオニーは想像すらしていなかった。
「出来るわけないでしょう!!」
ですよねー。
……この作品を書いて勝手ながら思いました。サイヤ人って、本当厄介な存在だなと。
そしてアンケートの方もまだ受け付けております。今の所暗黒大陸へのルートが多いみたいですね。
ご感想、ご指摘と共にお待ちしております。