エクリュア・ウェフ=トリュズ・ノールは、その空色の瞳でみつめていた。その視線の先には現在の自分と同じ艦に所属している地上人の年老いる貴族の青年がいた。
その青年………リン・スーニュ=ロク・ハイド伯爵・ジントを見つめながら自分の行動をエクリュアは起こそうとしていた。それは、このソビークに向けて、彼女なりの楽しみの計画の一つであった。
彼女は、以前にジントがソビークに来たことがわかっていた。そして、ラフィールが来れば、彼も絶対に来ると確信していた。それを見越しての今回の行動であった。
そして、彼女にとって目障りのユーリルがジントの前にいたが、エクリュアの存在には気付いていたが、ユーリルはあっさりとその場をさった。そこで、エクリュアは素早く行動に移ったのであった。
「エクリュア十翔長どうしてここに?……それにその姿は……?」顔に思いきり驚きと疑念の表情をジントは上げていた。
ジントの指摘した通りにエクリュアの姿は、様々な奇抜な衣装が観賞できるソビークの会場でも異質だった。空色の髪には頭環とはべつに、長いヴェールがあり、そして手には花束を持ち、白いドレス姿であった。いわゆる『うぇでぃんぐどれす』というものであった。
「その姿は…確か、『うぇでんぐどれす』だったような気がする。でも、それって、地上世界の結婚式のとき着る衣装じゃないかな。リナとティルの昔の写真に会った気がする。」
ジントは思い出したようにつぶやいた。
しかし、エクリュアは、黙ったまま、そっとジントの隣に座り、花束を横に置いた後に紙の本をジントに渡した。
「読んで」
エクリュアは、食い入るような瞳でジントを見つめていた。
その迫力に負けたジントは、あっさりと彼女の要求にこたえた。
「ああ、うん。わかったよ。」
タイトルが「伯爵と貧しい士族」と書かれていたものに、そっと手を取りパラパラとめくってみた。それは、柔らかくて美しい絵の絵本だった。ジントは、この絵を見ながら、エクリュアには、こっちの方が才能があると思った。もちろん、ジントが思った、もうひとつの才能というのは、音楽的才能のことであった。
エクリュアがジントの側でじっと見つめながらジントは、その絵本にひきこまれていった。
話の内容は、異国の伯爵の青年と貧しい士族の少女の話だった。異国の伯爵は、自分たちの一族と違って年老いた。士族の少女の国では皆年老いるということがなかった。
そして、身分も違い、老衰という環境も違う二人の淡くてせつない恋の話だった。
途中に出てくる悪の王女という登場人物に少し苦笑したが、なかなかの傑作だと思った。
最後のシーンが教会で結婚式を挙げるというのが、ちょっと感動したのであった。
だが、次の瞬間、ジントの表情は硬直した。裏表紙にある言葉がのっていたのが、彼をそうさせたのだ。
_________________親愛なるハイド伯爵へ贈る___________
…………………………私の想いをこめて…………………
ノールより
ジントは、この紙の本の意図を理解した。彼の冷凍野菜並みの洞察力でもエクリュアがこの絵本に自分の気持ちを込めていたと感じた。
「あの、もしかして、これって?エクリュア十翔長?」困惑しながらもジントはなんとかエクリュアに声をかけた。
すると、そのとき、エクリュアの表情が変った。これまで、無表情であったものが、頬を桜色に染めて、そして、微笑んだ。満面の笑みだった。ジントのこれまでのエクリュアとの時間の中で初めての表情が豊かな微笑みだった。
事実、その微笑みは、『天使の微笑』というのにふさわしいものであった。普段の彼女の表情から想像するのは不可能、クゥー・ドゥリンあたりが評するなら惑星じゅうの宝石をかきあつめても、足らないくらいの微笑だといいそうだなとジントは思った。
実際、ジントはその笑顔に内心、ドキドキさせていたからであった。そして、ジントがぼーっとエクリュアに見惚れていた。
すると、エクリュアはジントの左手を握り締めた。
「(まさか…左手の薬指に結婚指輪をはめるなんて………ないよね)」
ジントは嫌な予感がした。そして、案の定、その予感は的中することになる。エクリュアの左薬指にはすでに指輪がされていて、そして、ジントの予想通りその手には、指輪らしきものが大切そうに握られていた。
「リン前衛翔士、いえ、ハイド伯爵閣下、これをうけとって、お願い。」
エクリュアの表情はうっとりとしていた。恋する乙女はこのような表情なのかというくらいこの状況に陶酔していた。そして、ジントの左手をとると、もう、そこには彼女の意識が完全に集中していた。彼女の野望が実現する瞬間が近づいていたのであった。
ジントは状況を把握していたが、彼の鈍さは状況を打開する速度を失っていた。そして、わけのわからないまま、ジントの左薬指に指輪がもうすぐはめられようとした瞬間、突然大きな凛とした声が響き渡った。
「やめるがよい」
アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール、そのひとであった。
そして、エクリュアとジントの間に入って、指輪をはめようとしている腕をラフィールはおさえこんだ。
「なぜ、邪魔するの?殿下」
エクリュアはさきほどの恍惚した表情とは全く違い、絶対零度の冷たい視線を送った。しかし、その瞳の奥にはあきらかに敵意がラフィールに向けて送られていた。
「そなたこそ、なぜ、このようなことをする。エクリュア。ジントが困っているぞ」
そういって、黒瑪瑙の瞳でラフィールは睨み返した。
二人はジントの隣で睨み合っていた。そして、その空気は深刻な状況を感じさせていた。そして、その状況を少しでも打開しようと彼は勇気をもって、行動した。
「えーっと、とりあえず、二人とも僕の手を離してくれるとありがたいんだけどな」
その言葉を聞いた瞬間、ラフィールとエクリュアは、ジントを一瞬睨んだ後、同時に手を離した。そのときに、エクリュアが持ってきた本が地面に落ちて、ある個所が開いていた。
そこには、「死ぬがよい」というセリフを言う悪の王女とその次のページには、それを打ち倒した伯爵と士族の接吻の場面がのっていた。
そして、それをラフィールが見た瞬間、彼女はその内容を瞬時に理解した。それと同時にたださえ、ジントの手を握り締めていたエクリュアに対して怒っていたのに、さらに拍車をかけて、思わず、その本を踏みつけたのだった。
エクリュアは、その本を拾うとラフィールと対峙した。そして、二人の表情がゆっくりと変っていくのをジントは見てしまった。アーヴの微笑の表情へ豹変したのであった。
ジントが解放されて彼がほっとしたのもつかの間で、今度は、一定の間合いをはかりながら二人がアーヴの微笑で睨み合うという恐ろしい状況へ向かっていた。
「(ど、どうしよう?なんで、こんなことになったんだ。二人とも怖すぎるよ。でも、どうにかしないと)」
頭では考えても、ラフィールとエクリュアの迫力にジントは動けなかった。
エクリュアはラフィールから一定の距離から離れると突然、頭に乗っていたヴェールを地面に投げて、拳法の構えをした。そして、左の人差し指を曲げて、相手を挑発する動作を無言でした。
「(かかってこいか。私と格闘戦。いや、喧嘩をするつもりか。まあ、よい、叩き潰してくれる)」
ラフィールもすでに怒りで頭に血が上っていたためにその挑発に乗った。
「おやおや、とんだ状況になったね。リン主計前衛翔士。」突然現れるソバーシュ
「そうですね。まさに予想以上の修羅場ですね。わが君も大変だ。」その隣にはサムソンがいた。
「サムソンさんにソバーシュさん。いつのまに……それより止めてくださいよ。今にも二人の喧嘩が始まりそうですよ」
「エクリュア十翔長の構えは天空深海拳だからね。かなりの使い手みたいだ。これはなかなかとめられないよ。リン主計前衛翔士、こっちが大怪我するよ」大げさに言うソバーシュ
「坊や。殿下の構えは噂のアブリアル柔空技(柔術と空手を合わせたような格闘技)か。いやあ、生きてそれを見られるとは故郷のやつに自慢できそうですぜ。もっとも、両方も殺人拳だからな。」陽気に言うサムソン
「え…二人とも何を言っているのですか。そんな殺人拳なんて、どうしよう?」
ジントがオロオロとしているまに、ついに二人の戦いが始まった。
次の瞬間、二人は一瞬で間合いをつめるとガシィという鈍い音ともに激突した。
その刹那、ラフィールとエクリュアが一撃で相手をしとめようとした手刀と拳はその間に入った一人の美少女によってとめられていた。そして、止めた瞬間に二人を押し返して、ふっとばした。
その美少女は金色の瞳をしたユーリルだった。
「殿下、エクリュア十翔長、これは、どういうことです?ソビークにおいて、喧嘩など許されることではありません。」
凛とした透き通るような大声が休憩所に響き渡った。
「エクリュアが先に挑発してきたのだ。喧嘩を売られて受けないなどアブリアルの名折れだからな。」反論するラフィール
「殿下、今後もそれを続けるならソビーク実行委員会の名においてあなたを永久にソビーク出入り禁止にします。この件はちゃんと、『かたろぐ』にものっています。」
毅然とした態度でユーリルは、もう一人の当事者であるエクリュアにも告げた。
「エクリュア十翔長、あなたがもし、これ以上この騒動を続ける気なら、殿下同様に出入り禁止にします。それだけではなく、あなたの本はソビークにおいて発売禁止本に指定されます。それでもいいのですか?」
「わかった。もうしない。」
その言葉が効果あったのか、エクリュアはそうつぶやくと、手に持った本をジントの手において、ゆっくりとその場を去っていた。
「わかった。シュリル前衛翔士、そなたの言う通りだ。これ以上はしない。大人しくする。だから、出入り禁止はしないでくれ」
さすがにラフィールもソビークの出禁は、きついと思った。
「それで、殿下、今回の騒動の原因は何ですか?それによって、今後の処分も私の上役と話し合って決めないといけません。」
とがめるような目つきで言うユーリル
「それは、エクリュアが無理矢理ジントがいやがる行為を行おうとしていた。それを止めようとしただけだ。さらに、この不敬罪に値する本を作っていたのだ。それを見て、怒りがでたうえに、さらに私を挑発したのだ。私は悪くない。」
そういって、ジントが持っている本を指を指すラフィール
「そうですか、ちょっと、ハイド伯爵閣下、その本を拝見させていただきます。」仕事モードに入っているので、称号を言うユーリル
「ああ、わかったよ。」
エクリュアが作った本をジントは渡した。
しばらく、エクリュアの本をユーリルは読んでから言った。
「この程度の表現が不敬罪なら、ここのソビークにはかなり逮捕者がでますね。殿下、ここでは、表現の自由と平穏にソビークが開かれることが最優先事項だということはわかっているはずです。だいたい、不敬罪なんて、あってもないようなものでしょう。」
「しかし、アブリアルを怒らせるには充分の内容であろ」なおも食い下がるラフィール
「そうですけど……。あれ、ここに足跡がありますね。これは、誰が踏んだのですか?ハイド伯爵閣下ですか?」
「違うよ。僕じゃないよ。」
「では、誰ですか?」
「えーっと」そういいながら視線はラフィールに行くジント
「なるほど。エクリュア十翔長が喧嘩を売る理由もわかりました。殿下、いくらなんでも、それはひどいですよ。彼女が怒る理由もわかります。この件に関しては謝るべきです。」
「謝るきなどない。私は怒っているのだからな。」意固地になるラフィール
「そうですか……今回の騒動の処分は決まりました。殿下とエクリュア十翔長には仲直りしてもらいます。今後、遺恨が残っている限り、明日以降のソビークの参加は認めません。」
結論を出すユーリル
「シュリル前衛翔士、なぜ、わたしがエクリュアと仲直りしないといけないのだ。そんなのは、個人的問題であろ。それがソビーク実行委員会の権限で禁止するなど、職権乱用ではないか。そなたの上司といただすがよい」
「わかりました。殿下も一緒にきてもらいます。ソビーク実行委員会の最高責任者に判断を任せます。たぶん、私の判断が有効になると思いますけど、それと、ハイド伯爵閣下、あなたも、きてもらいます。一番、冷静に今回の状況を判断できそうですしね。」
「わかったよ。ユーリル。とりあえず、自分なりの意見をいうよ。」
その後、ユーリルは端末腕環(クリューノ)とは違う通信機を使い、アーヴ語とは異なる言語で連絡をして、ラフィールとジントをソビーク実行委員会の本部まで、案内した。
「ラフィール、ソビークの最高責任者って誰だろう?」思わず質問するジント
「そなた本当に常識が無いな。『かたろぐ』を見てみろ。そこの一番最初のページにのっているぞ。挨拶の文が書いてあるのがそうだ。ラムケーム会長だ。」なぜか、胸を張るラフィール
「あ、本当だ。顔も乗っている。何々、ソビークは代々、このラムケーム一族のコミケーク家がとりしきるのか。なるほどね。」感心するジント
ジントとラフィールが待合室らしきところへ行く途中に、顔見知りの人物が座っているのを確認した。
「アクリアさん、どうして、ここに?それに、その姿は……?」
ジントは、自分の家臣であるミルフィーユに驚きながら声をかけた。
「あら、わが君、それに王女殿下こんにちは。私はユーリルちゃん同様にお仕事です。」そういって、腕にあるソビーク実行委員会の腕章をミルフィーユは見せた。
「そうか、それにしても、その姿はなんだ?実行委員会は、『こすぷれ』もするのか?」ラフィールは疑問に思った。
ミルフィーユの姿は、ソビーク実行委員会の本部でも異彩を放っていた。桃色のわんぴーーすで短い丈のすかーとに赤く胸の辺りに星型の刺繍があり、その衣装には可愛らしいフリルがついていて、髪形はいつもの巻き毛ではなく、おさげだった。ミルフィーユ曰くツインテールというのが正式名称だったみただけど、そこに黄色のリボンもついていた。
そしてさらに驚いたことに指揮丈とはまったく違う白い杖があり、彼女がいうには、『魔法の杖』ということらしかった。
いやゆる典型的な「魔法少女」のこすぷれだった。
「魔法少女というの。殿下は知らないのですか?私の見た目だとけっこう、似合うみたいなのです。ソビークの中でも違和感なく監視行動にこれでいけますから。それに一応、決めのポーズと呪文もありますよ。」
そういってミルフィーユは、踊るように跳ねて、そのあと、杖をふりかざして、何やら意味不明の言葉を言った後、満面の笑みをして、ポーズを決めた。
そのとき、彼女の短い丈のスカートから純白の下着がチラリと見えて、ジントは思わず赤面してしまった。
「あの、その見えてますよ。」
「あら、わが君、その表情は私に欲情しましたか?」かわいい笑顔でとんでもない発言をするミルフィーユ
「そんなわけないじゃないですか?からかわないでください。」動揺するジント
「あら、残念ですわ。もし、欲情したらわが君の夜伽の相手を家臣としてしてあげてもよかったのに。もちろん、この姿でね。」ますますからかう風に言うミルフィーユ
「そなた、領主に対して無礼だぞ。ジントももっと毅然とこんな発言するものには怒るがよい」
「あはは、わかったよ。アクリアさん、なるべく、そういうことは言わないでくださいね。」
「はい、わかりました。わが君。肝に命じておきますわ。それでは、ソビーク実行委員会の仕事があるので、また、今度お会いしましょう。」
そういって、ミルフィーユは去っていった。
「それにしても、あのものもソビーク実行委員会に入っているのか。ちょっと、気になるな。なあ、ジント」
「うん、そうだね。でも、まあ、偶然じゃないかな。それより、もうすぐ、ここに来るみたいだ。」
ジントがそういって、間もなく、待合室に一人のアーヴの青年が入ってきた。その青年にも腕にソビーク実行委員会の腕章があって、穏やかな笑みをしながらユーリルと一緒にジントたちのもとへ、やってきた。
「僕が、今回のソビークの最高責任者のシュリル・ウェフ=キルヒム・ダリシュです。ユーリルから王女殿下とハイド伯爵閣下とノールの騒動を聞きました。とりあえず、二人とも状況説明をお願いします。」
「なんで、ダリシュが最高責任者なの?」驚くジント
「そうか……そういうことか。そなたに一つ聞きたいことがある。ラムケーム会長ではないかのか?」
ラフィールは何かを感じ取っていた。
「ええ、彼女は名目上の会長です。まあ、平たく言えば、飾りですね。このソビークの全権は僕が握っています。まあ、影の会長というのが僕の通称みたいですけどね。ちなみに、これはあくまでも代行ですけどね。」
「なるほど、わかった。しかし、まさかな、そなたが最高責任者とはな。」
「ラフィール、理解したのかい。僕はさっぱり、わからないよ。」鈍いジントはまだ、状況が理解できなかった。
「ジント、相変わらず鈍いな。これまでの情報を統合するとわかるであろ。ソビーク実行委員会をとりしきっているのは、実は紋章院だ。しかも、秘密警察的な役割の方の部署であろ」
ラフィールは冷静に状況を分析して明快な結論を出していた。
「王女殿下、さすがです。正解です。このことは、一応、秘密なんで、公にしないでくださいね。表現の自由と誰でも解放できる平等さをうたっているソビークが実は、紋章院がしきっているとなると、色々と評判が落ちると思うので、お願いします。」
ダリシュは穏やかに言った。
「そうか、でも、どうして、紋章院がとりしきっているのだ。その点に少し疑問を持っている。」
「簡単な理由ですよ。このソビークはかなりの長い間続いている饗宴ですが、数百年前に爆破事件がありましてね。大量のアーヴの死傷者がでました。確かにアーヴに敵対する勢力にとっては、これほどアーヴがあつまる饗宴も滅多にない。それに、出入りは自由というのが彼らを犯行にいたらしめた理由です。そこで、ラムケーム一族だけでは、運営するするのは、警備上に重大な問題あるということで、僕達、紋章院の出番というわけです。」
「なるほど、そんなソビークにはそんな秘密があったのか。何回かここに来ているが、初めて知った。」
ラフィールはダリシュの説明に納得した。
「殿下、ちなみに、僕はあくまでも代行です。本当は、他の人にこの役割の人がいるのですけど、その人が現在、大怪我をして入院中で、僕がまあ、不肖の見ながらこれをひきうけたのです。」控えめに言うダリシュ
「そうなんだ。ダリシュが専属ということではないんだね。でも、大変だね。君も。」ようやく状況を理解するジント
「ちなみに、ここに来る皇族方の護衛も密かにやっているのですよ。殿下。ユーリルはパリューニュ子爵殿下の担当だったのです。皇族は過激派たちの格好の獲物になりますからね。」
「わかった。それで、シュリル前衛翔士があの場にいたのか。」
「ええ、そういうことです。殿下。テロ対策の他にも仕事があります。これほど、大きな市場ですから、紙の本と偽って不法な商品の取引とかも犯罪組織がよくやっているのです。樹を隠すなら森の中ということです。」
真剣な表情でユーリルは言った。
「……なんだか、ソビークがただのお祭り騒ぎではないように見えてきたよ。ラフィール」
「私だって、そうだ。そんなことは、思いもしなかったからな。」その情報を聞いて、少し気分を悪くするラフィール
「大丈夫です。ここにくる皆さんが、ソビークを純粋に楽しめるように僕らは頑張っています。そのためのソビーク実行委員会です。」
ダリシュは、安心感を与えるような微笑で言った。
「そうか、そうだな。影でそなたたちが、努力をしているのだな。確かにそのような不穏なことは、ここ数百年間は、ソビークにおいてなかったしな。そなたたちの努力のたまものといえよう。そなたたちに百万の感謝を。」
「殿下、ありがたいお言葉で恐縮します。では、僕達の話はここでおしまいにして、殿下とノールの喧嘩騒動のことを詳しく説明してください。ジントから聞きます。」
そういってダリシュは二人の説明を真剣に聞き始めた。
10分後、一通り、話を聞くとダリシュは結論を下した。
「王女殿下、ノールに謝罪をしてください。喧嘩に関しては今回はユーリルが未然に防いだのとがめないですが、本を踏みつけたという行為に関しては謝罪してください。これは、ソビーク実行委員会の最高責任者としての要請です。」
ダリシュは厳しい表情で伝えた。
「しかし、それは…できぬ。今さら、謝ることなどできぬ。」
頑なに拒否するラフィール
「そうですか、殿下。ちょっと、これを読んでください。ノールがこれまで、作った本です。」
そういって、ラフィールに数冊の本をダリシュは渡した。
「まあ、読むだけならよいであろ」
しばらくするとラフィールは、その本を最初は、いぶかしげに読んでいたが、だんだん熱がこもったらしく「うぬぬ」とか「むむ」とかいって、完全にその本に集中していた。
ラフィールが一通り読み終わると、ダリシュがいつものニコニコと穏やかな笑みをしながら尋ねた。
「それで、感想はどうです?殿下。」
「面白かったし、この本を描いている情熱が伝わってきた。その想いもな。」
ダリシュの意図をよみとったらしく、少し困ったようなラフィールはした。
「そうですね。殿下。それともう一つ、情報があるのです。殿下が踏みつけたあの本にノールがどのくらいの日数をかけたのかも教えましょうか?」
「いや、いい。わかった。確かに、私はその手の本を製作したことないが、よく読めばわかる。その本は、エクリュアの魂の一部であり、誇りだということもわかった。私は、ちゃんと謝罪しよう。」
最後は自分の行動を恥じ入るような表情でラフィールは言った。
「そうですか、それは、ありがたいです。実は言うと、ノールはこの本部にすでにいます。とりあえず、呼ぶのでお願いします。彼女も殿下が謝れば許すといっていました。これは、僕が保証します。」ダリシュはすでに手を打っていた。
こうして、その後、エクリュアがその待合室へ入り、ラフィールはしっかりと今回のことに対して謝罪した。すると、ジントがそこへ珍しく提案した。
「ラフィール、もし謝罪を行動で示したいなら、その本を買うべきだと思うよ。もちろん、ラフィールが決めた価格でいいと思うけど。ここは、ソビークなんだしね」
「そなた…確かにそなたの言う通りだ。エクリュア、その本の在庫を全て買おう。しかも、そなたの言い値の10倍で買う。こんなことでしか、そなたの本をあしげにした贖罪にはならないと思うがいいか?」ラフィールにしては、めずらしく控えめに言った。
「殿下、ありがとう。わかった。それに助かる。」無表情ながらエクリュアは嬉しそうな雰囲気をだしていた。
「それにしても、珍しくジント気がきくな。驚いたぞ。」
「まあね。(本当は、さっき、ダリシュに言われたことだけど、黙っておくことにしよう。彼にもそういわれたしね。)」
「殿下、もう一つ、頼みがある。リン前衛翔士と私と二人の写真の許可が欲しい」なぜか、頬を桜色に染めて言うエクリュア
「……わかった。写真くらいなら。しょうがないであろ」少し不満だが、しぶしぶラフィールは了承した。
「では、僕がとるよ。二人とも並んで」手際よく準備するダリシュ
「うん」「わかった」
「はい、チーズ」
「ありがとう、ダリシュ、殿下、そして…リン前衛翔士」
そういって、ウェンディングドレスのエクリュアと三銃士のダルタニヤンのコスプレをしたジントの写真を大事そうにエクリュアは抱えて、その場を去った。
「これで、一見落着ね。私も艦長と副長が険悪な艦で戦争したくないし、良かったわ。これが本音よ。ジント」同意を求めるようにユーリルは言った。
「確かにそうだね。二人とも仲良くしてくれるとありがたいよ」とてつもなく重いため息をつくジント
「まったく、本当にわかっていないんだから(真の原因はジントということを)」その様子を少し困った風にユーリルは言った。
「ユーリル何かいったかい?」
「いや、何でも無いわ。あ…どうやら、私に任務がきたみたいよ。怪しい行動をする人物が数名、ソビークの会場をうろついていると情報があったわ。今から行くわ」そういって、ユーリルは、颯爽とその場を去っていった。
「そうか、こうやって、騒動が起きる事前にソビークを守っているのか、ダリシュ達も大変だね」
「そうだな。でも、ソビークに来ている人々がここを楽しみ、そして、幸せにしてくれるなら僕らの仕事を報われるさ。ジント、僕も指揮所へ行くからな。また、今度な」
ダリシュもその場を去っていった。
「さてと、もう買うものも買ったし、そろそろ帰るか。ジント」
「うん、でも、荷物はどうするの?」
「そなたの帝都城館に行く。そこなら二人きりで邪魔されずに私の今回のソビークの戦果を検分できるぞ。ジント」にこやかに言うラフィール
「えーっと、わかったよ。王女殿下の仰せのままに」
「ばか」
結局、その後、ジントは理解不能な紙の本に興味を持ちつづけて、さらにラフィールがそれを手にいれたことをうらやましがるという難行苦行に再びつきあせるはめになるのは、言うまでもなかったのだった。
(完)
この話は完全にネタです。
コミケの話題が原作者の超外伝で出てきたのでそれをもとに考えました。
しかし、この文化は宇宙空間の生活になっても続くなら相当のものなりそうです。
今後も星界の紋章・戦旗の二次小説を載せていこうと思うのでよろしくお願いします。