やさぐれかな   作:螺鈿

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カナという女

 

 

「これだ、この仕事をくれ!」

「おいどけ!こいつはおれのだ!!」

「あぁっ!? 俺宛の依頼書盗んだの誰だぁ!」

 

 自らのギルドを救うために平行世界で起こした大活劇も束の間。取り戻したギルドという名の自らの家。魔法と拳と笑い声が飛び交う筈の憩いの場の惨状に、安息の日々を過ごす予定のルーシィは唖然としていた。

 

「一体なにごとなの~?」

 

 押し寄せる人並みを避けるため、酒場のカウンター下に隠れたルーシィの顔を覗くように黒髪が降りてきた。

 

「明日になればわかるさ」

 

 少しだけ笑みを含んだ声で自分を引っ張り出したのは、背まで伸びる黒髪がよく似合う、見知った顔だった。

 カナという名の女性魔導士。この『妖精の尻尾』というギルドにおいて、自分と同年代ながら古参の実力者。昼間から酒を樽で飲み歩くこのギルドの名物的存在だ。

 

 自意識過剰でなければ、彼女はよく新参の自分を気にかけてくれている。自身の父に関わる騒動にも協力してもらい、その後もからかいながらも相談に乗ってもらったりアドバイスをくれたり、暇な日や自分が落ち込んだ日には買い物に付き合ってくれたりもした。

 自分もそんな彼女に懐いていると自覚している。だからこうして話しかけてくれるのは不思議ではない。不思議ではないのだがどうしても違和感を感じた。

 

 ・・・・その理由など分かっているのだが、彼女の普段があまりにあまり過ぎたのだから、こうして思考停止してしまうのも仕方がない。

 

 

「はい、依頼の達成報告書。あと、次はこの依頼にいくから」

 

 その違和感の持ち主は平時と同じ調子で、けれど平時とは全く違った様子でカウンターの向こう側・・・・ミラジェーン、愛称がミラというギルドのメンバーでこの酒場の女性店員に仕事の成果を告げていた。

 

「あら、はやいのね。でも前の仕事からすぐにこれは危険じゃない?」

 

「この程度の相手に心配される程飲んではいないよ」

 

「そうじゃなくて・・・。カナ、あなたがこの手の依頼をやる時は大抵その”後ろ”まで相手にするから」

 

「それも含めて今日の昼までには終わらせるつもりだよ」

 

「はぁ、もういいわ。そのかわり仕事が終わるまで飲酒は禁止ね」

 

「りょーかい」

 

「いったそばから飲まない!」

 

 いつも通りの漫才のような会話と言動。一体飲んだ分はどこの異空間に飛ばされているのかといいたくなるような酒豪の彼女が、普段通り、実に普段通り樽を抱えて去っていった。

 

「仕事・・・こなしていたのか」

「カナが自分から新しい依頼を受注するなんて・・・」

「それもこの時期に?」

「いつもはやる気ないのに」

 

 本当に、あんまりにあんまりすぎて。彼女とカウンターまでの間には人が避けて道ができていた。

 

 そうだ。彼女は普段仕事をしない。

 仕事に対してはやる気がなさそうに見えて、というか完全になくて酒ばかり飲んでいる。それも樽で。

 毎日昼過ぎか夕方にふらりと現れて、酒場の喧騒を楽しそうに眺めがらがっぽがっぽと酒を飲むのだ。

 たまにエルザやマスター、マカオなどの年長者たちに叱られて渋々依頼を受けるのを見たことがあるが、その時はいつも『生死問わず』の危険な依頼を受けていた。

 

 その姿から実力者であることは明らかだったが、自分から積極的に依頼を受けている姿をルーシィは今まで一度も見たことがなかった。

 

「今日はお祝いね~」

 

 場にそぐわない呑気な声をミラが上げた。嬉しそうに何かの支度を始める。多分、カナが帰ってきたときに出す料理なのだろう。今から仕込むとすれば今日はかなり豪華な料理が出そうだ。自分もあやかりたいものだ。

 硬直した体を動かせず、思考だけがどんどん逸れていくことを自覚していたルーシィだったが、それでも立ち直るのにはもう少し時間が必要だと感じた。 

 

「もしかして、今年は本気なのか?」

 

 誰かが呟いて、これまた誰かがごくりと生唾を飲む音が聞こえた。

 そして静寂が訪れて、ミラが支度を進める音だけが酒場に響いた。

 皆一様に固まる中、カナが何にたいして本気なのか、私だけわからなかったが。

 

 

 

 

 

 

 

「S級魔導士昇格試験出場者を発表する!!!」

 

 ギルドの長であるマスター・マカロフの言葉に湧く妖精の尻尾(フェアリーテイル)のファミリー達。

 選ばれた面々とその試験内容(パートナーを選んでギルドの聖地の孤島にて試験を行うというものであった)を聞き、そこかしこで騒ぎが起きている。

 一喜一憂。"でぇきてぇる~"な雰囲気がそこら中から漂ってくる。

 

 ルーシィはその中で先程マスターから名前の上がった、様子がおかしい同僚を盗み見た。

 

 様子のおかしい同僚、カナ・アルベローナは俯いたまま酒場の外へと出て行った。樽を担いで。

 

「カナ、どうしたんだろう・・・・」

 

「カナがどうかしたのか?」

 

 自分の言葉に反応したのはロキ。先程パートナー決めで主である自分に話を通さずブッチして出場者のパートナーになった男(精霊)だ。

 

「なんだか最近様子がおかしくて・・・」

 

「カナはこの時期になるといつもあの調子になるんだよ。大方ギルドを辞めるって言ったんだろう?」

 

「えっ!?」

 

 ギルドを辞めるという言葉に心底驚くルーシィ。ギルドのメンバーは自分のもう一つの家族だ。ましてギルドに入った時からいろいろと問題を起こしている自分を支えてくれたカナの存在は、彼女にとって大きい。

 

「言ったろう? 毎年のことなんだよ、あれは。カナはいなくなったりしないよ」

 

 そのことは知らなかったのか。余計なことをいったと失態を悟り、自分の言葉に主が傷ついたと気が付いたロキは心中で舌打ちする。すぐにフォローの言葉と共に身体に手をまわして滲み出た涙を拭おうとした。主である彼女のこの優しさは好んでいるが、こういった形で見たくはないものだ。

 

 その忠誠的な姿は立派だが、手慣れた手つきで一連の動作を行おうとする精霊はどこからどうみても達の悪いマッチポンプを行うホストだった。

 

「そうよ。だから気にすることないのよ?」

 

 横合いからホスト紛いな男を殴りつけながら話しかけてきたミラを見て気が落ち着く。

 人を落ち着かせるような柔和な雰囲気を持つ彼女だが、『魔人』の異名を持つこのギルドトップクラスのS級魔導士の一人だ。現に殴られて地面にめり込んだ自分の精霊はピクリとも動かない。主ではあるが、一片も気にかけてやらないのは信頼の証だ。そういえば、彼女も今回は試験官として妨害に参加するんだなぁとルーシィは考えを走らせた。

 

「でも、今回はカナの奴本気なんだよな」

 

 半裸男が会話に入ってきた。今回の試験で地面に這いつくばる男のパートナーでS級候補者であるグレイ・フルバスターだ。

 

「自分から仕事するカナなんて、何年振りだっけ?」

 

 猫(?)を連れた滅竜魔導士ナツ・ドラニグル、彼も候補者の一人だ。

 

「それじゃああなたたちも気合入れなくちゃね。本気のあの子は怖いわよ?」

 

 一瞬歪んだ顔を見せたのは気のせいか。ミラは二人を焚き付けるように言った。

 

「うへぇ、俺絶対相手にしたくねぇ」

 

「負ける気はねーけど、カナだけは戦り合いたくねーな」

 

 そうだ。やる気のあるカナ。だからこそ調子がおかしいんだ。彼女程本気という言葉が似合わない団員もいない。そこに触れないミラに疑問を抱きつつも、ルーシィはあえて彼女ではなく、調子の落ちる二人に言葉をかけた。

 候補者に選ばれてテンションの上がっている彼等らしからぬ言葉にも、疑問を抱いたからだ。

 

「へぇ、随分弱気なんだ?」

 

 ルーシィの口調に食って掛かる二人組。

 そこから勝手に煽りあい、喧嘩し始める。

 それに煽られてそこら中で魔法が飛び交う。

 ようやくギルドに漂い始めた慣れ親しんだ空気に、彼女の心にくすぶる違和感はひとまず払われていった。

 

 

 

「でも不思議ね、あの二人があんなこと言うなんて。そんなに強いの? カナって」

 

 喧騒の中、いつの間にか自身の隣に座り、カウンター越しに話しているのは銃士という魔法を使う魔導士、ビスカだ。

 

「・・・うん、まぁね」

 

 どこか苦い顔を返すミラ。ビスカは割合新参であるが故に、古参であり付き合いの長いミラに聞いたのだろう。私としても、あの二人があんな反応を示すのはエルザ以来な気がする。カナとの付き合いもそれなりになっていると思っていたのに、私も知らなかったのはなんだか気に入らず、二人の会話に顔を向けた。

 

「ルーシィは知ってた? ほら、あの子誰かと一緒に依頼に行ったとか聞かないから」

 

「ううん。あたしも驚いたかも。カナとは何度か一緒に仕事したけど、占いとかモデルとか付き合ってくれただけだし」

 

「そっか、ルーシィでも知らないんだ」

 

「うん」

 

 カナの力。カードを使って占いや様々な現象を起こす魔法を使うことは知っている。しかし、彼女が実際に戦っているところを見た事はないし、見た人も多分少ない。彼女は基本的に一人で動くのだ。

 

「ビスカはどうなの? ファントムロードとの闘いの時に一緒に戦ってたんでしょう?」

 

 私が原因で起こってしまった戦い。私はみんなと一緒に前線で戦えなかった。このことを口にするのはちょっと苦いけれど、それを遠慮するのは間違っているのだということも今では分かっている。

 

「う~ん。あの時はカナは負傷者の回収と護衛に回っていたからなあ」

 

 ビスカが唸る。私の心の内など考えてもないように言う彼女に、少しだけ嬉しくなる。

 

「あ、でも」

 

「うん?」

 

「今思えば、ラクサスに連絡をとってるときのミラとの会話って”そういう意味”だったのかなぁ」

 

 っていうと?

 

 疑問を浮かべる私に向かって言った。

 

「いや・・・ ”弱肉強食・弱い奴はいらねー・自分のケツは自分で拭け”だの言ってたんだけど」

 

「ラクサスらしいね」

 

 笑う私とビスカ、苦笑するミラ。

 

 

 

 そして本題の援軍を頼んだ際のミラとラクサスの会話を、ビスカが思い出すような動作をしながら語ってくれた。

 

 

「・・・・・・お願いラクサス。戻ってきて」

 

 懇願するミラ。僅かに言葉を溜めた後、ラクサスは言い切った。

 

「・・・お前も分かってんだろうが。いつまで茶番を続ける。テメェにいってんだ。お前がその気になりゃ済む話だろうが」

 

 その会話を最後にラクサスは通信を切ったという。

 

 

 通信を聞いていた周りの者達はラクサスに怒り狂った。

 その言葉の意味は皆元S級であるミラに言っているものだと思っていた。そのとき戦うには酷だった彼女に。しかし今思えば、ラクサスは壁際に控えていたカナに言っていたのではないかとビスカは言う。

 

 

 

「ねぇ、実際のところどうなのさ?」

 

 その時の会話を再現しながらビスカはミラに言葉を振った。

 

「あの子は・・・・強いわ。でも”あの時の戦い”では、戦わないことは分かってたから」

 

 要領を得ない言葉だ。あれはギルドの存続がかかった戦いだったはずだ。そのとき以外に戦わない時があるのか。それとも何か事情があったのか。

 ミラの言葉にムッとした表情を浮かべたのはビスカだ。それも当然だろう。彼女は最前線で戦っていたのだから。

 

 

「カナか。そういやお前らは知らないんだったな」

 

 

 後ろから声をかけてきたのはウォーレンだ。彼も古参の一人、カナを昔から知る人だ。その彼に続くようにリーダスやマカオほかに何人かが続く。気が付いたら騒ぎが一段落していて、ギルド内の会話はこちらが中心になったようだ。

 

「俺が知ってるのは5年ぐらい前までかな。ガキの時はエルザと同格だったよ。」

 

「おっさんの俺らからしたら今でもガキだけどな。まぁ最近はしらねぇがな。いつの間にかカード魔法とかやってるし」

 

「おっさん言わないでくれよ。まぁぶっちゃけた話、戦闘力だけならカナはエルザやラクサスと同格って話だよ」

 

「カナが?」

 

「あぁ。でもえげつねぇからなぁ、あいつの戦い方は。あんま見せたくないんだろ」

 

 強いというのはギルドからの信頼のされ方で知っていたが、これは予想以上だ。あのラクサスやエルザと同格とは。

 

「昔ナツとグレイがカナを怒らせた上で本気で挑んだことあってな。揃って貼り付けにされてたっけ?」

 

「あれはビビった。まぁあれ以来誰もカナを怒らせられなくなったんだけどな」

 

 カナの昔を知る者たちが笑いあい、知らない者達は意外な情報に目を丸くした。そうなのだ、カナについてこんな話を聞くのは始めてだ。秘密主義者というわけでもないのだが、カナのこういった話は意外なほど上がらない。あの大酒喰らいはフェアリーテイルの名物でもあるのに。

 

「あとはまぁ、一度エルザと二人で闇ギルドの検挙に向かったっけ?」

 

「あー・・・・なんかエルザがその後三日ぐらいまともにメシ食えなくなったあれか」

 

 げっそりした顔で話すリーダス。一体なにがあったのか、気になるが多分聞かないほうがいいのだろう。彼らからも聞くなという雰囲気が漏れている。

 

 

「まあそんな訳で、一昔前まではフェアリーテイルで一番血生臭い魔導士って呼ばれる位武闘派だったんだぜ」

 

「昔から変わらず鍛錬には熱心だしな。夕方にここへくるのも朝からずっと鍛錬してるからのはずだ。実力が落ちたってことは無い筈だぞ」

 

 ベテラン達からのお墨付き。どうやら本当にカナは強いらしい。しかしそうなれば疑問が残る。

 なぜ、それほど強い彼女はS級ではないのだろう? それにファントムロードとの抗争、バトルオブフェアリーテイル、その力を使う機会でなぜ使わなかったのか。これは彼女に聞いても許されることなのだろうか?

 

 思い悩むルーシィを尻目に、誰かが声を上げる。

 

 

「それなら、なんでファントムロードの時に戦ってくれなかったんだ?」

 

 

 当然の疑問だ。それを聞けなかったのは、ルーシィが彼女と親しいからか、それともその場で戦えず、彼らはその身を削って実際に戦っていたからか。

 ルーシィは目を伏せた。

 

 そして当然のように後ろで論議が始まった。責めているつもりはないのだろうが、この場にいない彼女に責を問うような形になってしまっている。こんな形にしたくなくて、ルーシィは言葉にしなかったのだ。

 

「どうなんだい、ミラ?」

 

 ビスカが単刀直入に聞いた。この場にいないカナへの気遣いか、それともこの雰囲気を嫌ったのか。多分両方だろう、彼女らしい。彼女は見た目も中身もさっぱりしたいい女なのだ。

 

「……そうね。多分、あのまま私たちのギルドが負けたとしてもあの子は本気で戦わなかったわ。私たちの身は守ってくれるけど、それ以上のことはしなかったでしょうね」

 

 戦わない。戦えないのではなく、戦わない。そう明言した。

 

 その言葉に驚いた。言葉の意味だけじゃない、優しい彼女が、その言動全てに仲間の身を思いやる気持が見える彼女が、こんな言葉を放ったのだ。

 隣のビスカも彼女に、それともその言葉の内容にか、驚きを隠せずにいる。多分私も同じ顔だ。

 周囲を見渡すと同じように驚いた顔の者と渋い顔の者に別れている。

 ……本当だというのか?

 

「なんだよそれ!!」

「あの時は本気でやってなかったっていうのかよ!!!」

 

 

 それは当然の怒りだろう。ギルドの誇り、仲間たちの尊厳をかけた戦いだった。私自身、自分の身をギルドに捧げた戦いでもあり、先程の言葉には衝撃をうけた。

 カナは、そのときの私の事情も知っていたというのに・・・・

 

 

「そうじゃない。あいつはきっとどんな手段を使ってでも、お前のことは助けただろうさ、ルーシィ」

 

 いつの間にか隣で震える私の肩を抱いてくれたのは、ギルドの妖精女王エルザだ。

 

「そうね。彼女にとって大切なのは家族の身の安否。勝ち負けじゃないのよ」

 

 エルザとミラが私と周囲の者に向かって言った。気が付けば、エルザが来たことで周囲のどよめきが収まっている。こういう存在感は、エルザの持ち味だ。

 

 エルザとミラの言っていることは多分真実だろう。でも、だからといって納得のいくものではない。負ければギルドは、家族はなくなっていたのだから。

 反発を招くと分かっていて二人が言ったのはきっとそれがギルドのみんなにたいしての誠意だったのだ。エルザの厳粛な雰囲気からもそれは分かる。

 

「だからって・・・・」

「納得いかねぇよ、俺は」

 

 そうだ。正直、私も分からない。あの時は戦う時だったはずだ、負けられない戦いだったはずだ。私がどれだけフェアリーテイルが好きなのか、知らないはずもないのに・・・・・

 

 

 苛立ちからか、誰かがテーブルをたたく音が聞こえた。納得のいっている者は少ないようだ。彼女の昔を知っている者ですら難しい顔をしている。

 エルザは目を閉じ、じっと何かを考えこんでいて、ミラはこの空気に悲しそうな感情を目に浮かべていた。

 

 

「てめぇら、その位にしておけ。誰にだって事情がある。家族を疑うようなことはするんじゃねぇ」

 

「あいつが家族思いなのは本当さ。それより、今回誰がS級になるのか賭けようぜ」

 

 良くない空気を読み取ったのかギルドでは最古参であるマカオとワカバが話題を打ち切った。

 皆も本当はカナを責めるようなことはしたくなかったのだろう。これ幸いと話題を誰が試験を通るかに変えていった。

 

 

 

 一所に集まっていた状況はエルザの散れという動作で終わり、また各所で騒がしい猥雑な空気が作られていく。

 ルーシィはカウンターに頬をつけたまま、一口飲み物を煽った。

 

「でも、そんな力があるならどうしてカナはS級じゃないのかな?」

 

 独り言のような言葉にミラが答えてくれる。

 

「あの子はやる気がちょっとね・・・」

 

 そうではないだろう。やる気がないならなぜ今になってS級になろうとしているのかということだ。答えてくれるなら話を逸らすなという目線を向けてしまう。

 

「試験は難しいから」

 

 どうやらダメなようだ。隣でクツクツと笑うエルザを見ると、自分で解き明かせという意味なのだろうか。

 

 

 

 私は大きく溜め息をついた。なんだか今日一日で、大分自分の知らないカナを知った気がする。幼いころのカナ、本当は強いカナ、でも戦わないカナ。自分を大切におもってくれていた? ・・・・・・本当に?

 

 考えに耽るルーシィにマカオが声をかけた。

 

「ルーシィちゃん。あんま、悪く思わないでやってくれないかな」

 

 答えるように顔を上げた。

 

 「・・・・あ、ううん。そうじゃないの。私、カナのことは大好きだよ」

 

 そうだ、カナは大切な家族である。ただ・・・

 

「あたし、カナのこと全然知らないんだなって。沢山お世話になってるのに」

 

 自分はよく彼女に相談していたが、逆はあまりなかった。好きな物とか、苦手なものとか、そういうのでなく、彼女自身のこと。

 自分から突っ込んだことを聞かなかったのは、なんとなく踏み込んではならない気がしていたからでもあるが。

 

「私、信用されてないのかな」

 

「それはないよルーシィちゃん」

 

 彼女は自分に気を許してくれていると思う。しかし不安から出た冗談交じりの自嘲はあっさりと否定された。

 

「たしかに。ルーシィちゃんはカナに気に入られてるよ」

 

「そうそう。意外かもしれないけどカナの奴は、普段あまりしゃべらないからな」

 

「ほんと、最近になってからだよ。俺たちとこんな風に騒ぐようになったのは」

 

 真摯な目でこちらを見る彼らの言葉に嘘は感じられなかった。

 周囲に酒樽が転がってまるで島のように浮いている机。ギルドの酒場を一目で見渡せるカナの特等席。

 初めて見たときは、豪快に酒を飲んでいるカナに面を喰らってしまった。しかしその後によく関わるようになってからは、カナは意外に馬鹿騒ぎには入らずに、自身の特等席から皆を見つめていることが殆どだということに気付いた。

 温かく、楽しそうに、それでいてどこか遠くを見つめるような目で。

 

 

「カナは優しいから」

 

 

 本心だ。彼女に心の内に何があるにせよ、それは間違いない。少なくとも自分が彼女から与えられたものに対して下した判断はそうだ。誰に何を言われようとも。

 

 

 「うん。私、カナに聞いてみるよ。冗談でもギルドやめちゃうなんて嫌だもん」 

 

 

 言葉にして決めた。カナを知ろうと。きっと今しかない。根拠はないけど、今の彼女なら向き合ってくれるはずだ。彼女と付き合ってきた時間の中で培われた、自身の勘がそう言ってる。

 

 

「そうか、では頼もう。どうもここ最近のアイツはおかしいと私も思うから」

 

「きっとルーシィちゃんにならカナも話してくれるだろう」

 

 

 エルザとマカオの言葉に頷く。カナの様子がおかしいのは本当だし、疑問に思ったことは解消したくなるものだ。

 

 

「よーし! やるぞー!!」

 

 

 大声を上げて振り上げた私の杯にミラがおかわりを入れてくれた。よし!これを飲み干したら行動だ。

 

 

 

「それにしても、優しいねぇ。・・・・あのやさぐれ娘をそんな風に言うのはルーシィちゃんだけだよ」

 

 やさぐれ娘。マカオの言葉に思わず周りが噴き出して笑った。

 やさぐれ娘、やさぐれ娘・・・あぁ、そうだ。それがピッタリだ。

 

 女性の自分でも思わず見とれる様な容姿を持ち、達観した大人の女性の様であり、はたまた子供の様な癇癪と頑固さを内に秘め、口には出さず、けれど態度には出てしまう。

 

 受け身がちだけど素直じゃない。 

 突き放されているようで、みんなに見守られている。それが彼女。

 そう、端的いってしまえば、カナ・アルベローナはやさぐれているのだ。

 

 やさぐれ娘。言葉に出したら、私も笑ってしまった。

 

 

 

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