やさぐれかな   作:螺鈿

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S級試験2

 

 

 

「多分他のところはもう終わってんぞ? 途中から誰も来ないんじゃないかと思ってさすがに寂しかったんだけど」

 

 子供の様な不平を目の前で漏らしているのは最強の男、ギルダーツ・クライヴ。全てを砕くという魔法を持ち、前人未到の100年クエストに挑み、そして本人は知らないがカナの実の父親だ。

 そのマイペースそうで緩い口調とは裏腹に、この空間は彼が生み出す圧力で満ちている。その好戦的な重圧を挑戦者へと向けることで、こちらを計っているつもりなのか。隙だらけに見えてとんだ怪物、食わせ物。そんな姿はどこかカナに似ていた。

 

「そりゃ運試しだし、なんでもいいやってゆっくり歩いてきたからね」

 

「はぁ、変わってねぇなあ。お前はそういう奴だよ」

 

「変わってなくはないさ。それをこれから試すんだろう?」

 

「・・・・あぁ、その通りだ。悪いが厳しくいくぜ? 特にお前にはな」

 

「望むところだ。そうでなくちゃ意味がない」

 

 父と娘の会話にしては物騒な会話。しかし望みに望んだ会話。決して表情を崩さずにカナは応えた。

 

「新人のおっぱ・・・・ルーシィちゃんには悪いが俺は手を抜くのが苦手でね。まぁ運がなかったと思ってくれ」

 

 自分に振られたのだと分かり、目を向けるルーシィ。言葉の内容に聞き捨てならないものがあったが、彼の発する圧力が答えることを阻む。

 

「上等! 私たち最強チームに敗北はないよ!!」

 

 カナがルーシィの肩に手を置く。カナと目を合わせると、気分が落ち着いた。ギルダーツという男の醸し出す雰囲気に飲まれかかっていたのか、それとも父と娘の会話ということに思わず気を取られてしまっていたのか。

 どちらにせよ気を使わせてしまった。自分の戦いはカナを引き留めること。カナの戦いに力を貸すことだ。彼女のこの戦いにかける思いは知っている。幸か不幸か、その思いは今最大限の形で叶えられようとしている。

 すべての結果はこれからの戦い次第。ルーシィは気を取り直し、戦いへと意識を切り替えて、体に気迫を満たしていく。

 

「うん! カナ、準備はいい!?」

 

「もちろん! それじゃあ作戦通りいくよ!!」

 

「おっけー!! 開け、人馬宮の扉”サジタリウス”!!!」

 

「はい! もしもし」

 

「やって! サジタリウス!!」

 

「了解であるからして! もしもし」

 

 

 ルーシィの言葉に答える様に無数の矢をギルダーツへと放つ。殆ど同時に複数の矢を散らし、かつその全てを確実に当たる箇所に射る腕前は流石は黄道十二宮の一角といったところだ。

 

「お、いきなりかい」

 

 自分に飛来した攻撃を避けようともせず手をかざす。ギルダーツはこの攻撃に正直すぎないかと内心で漏らすが、次の瞬間目を見開く。

 

「見せてやる! ギルダーツ!!!」

 

 手品のごとく多数のカードを取り出したカナがカードを投擲する。こちらも実に単純な攻撃であったが問題はそのスピードだ。カナの腕が一瞬ぶれた次の瞬間に恐ろしいスピードでカードがこちらに迫ってくるのが見えた。その速度は後から投げたにも関わらず、サジタリウスが打った矢を追い越す程である。

 

(相変わらず非常識なやつだ)

 

 以前戦ったときはカードなど使っていなかった。初めて見る攻撃にギルダーツは観察に徹した。察するにカードは魔法の媒体だが、この豪速はカードに付与された魔法が生み出しているわけではない。単純にカナの膂力によるものだろうと判断出来る。魔導士としてはあまりに規格外ではあるが、カナという魔導士ならばこのぐらい軽くやってのけることをギルダーツは知っていた。

 

 彼女の攻撃にギルダーツは警戒の段階を一つ上げる。このS級試験の参加者でも戦闘に特化した者達でなければ反応すらできないであろうスピードであり、ギルダーツからしてもかなりのものだが所詮は正面からの愚直な攻撃。対処はいくらでも出来ると片腕以外に動かす気すらなかった。

 

 その様子にカナは眉を上げる。

 

(ギルダーツ・・・・)

 

 カナの放ったカードは複数ある。何枚かは威力を高める効果の魔法が付与された攻撃用のカード。そして何枚かは黄色の文様が描かれたカードだ。攻撃用のカードはサジタリウスが放った矢を追い越し、黄色のカードは矢を的確に”射抜いた”。その瞬間、閃光が走る。

 

「何ぃ!?」

 

 閃光に飲み込まれるギルダーツの声。いつの間にかサジタリウスはサングラスをかけ、ルーシィとカナは目を閉じている。

 

「そこぉ!!」

「いけぇ! サジタリウス!!!」

 

 それは試験の準備期間で彼女たちが考えて練習していた作戦。初撃で閃光弾による奇襲。”激闘”の通路を選んだときに最初に行うと決めていた連携。試験官ならば受け身に回ると踏んだ上での作戦だ。

 

 ルーシィは目を瞑ったまま指示を出し、カナは目を瞑りながらも正確にギルダーツのいるべき場所にカードを投げた。二人の攻撃は共に距離のある場所からの攻撃にも関わらず、強力な破壊音をまき散らして噴煙を上げる。

 

 

 

「や、やったの?」

 

 閃光が収まりかけて恐る恐る目を開けるルーシィが呟く。目を開けた先には立ち上がる土煙、その中の影がゆらめく。

 

 

 

「まぁそんなわけないわな」

 

「む、無傷!?」

 

「くそ・・・」

 

 実際は閃光に驚いたわけではなかった。恐ろしいほどに精密なカードの投擲。昔の彼女の戦い方を知っているだけにやろうと思えばやれるのだろうと理解はできるが、何も知らない者が見たら絶句ものである。実際彼自身一瞬驚いてしまった。

 

 片腕を突き出したその先には幾つかのカードと矢。掴み取っているそれにわずかに魔力を纏わせ、”その魔法”を発動させるとものの見事に砕かれる。

 それを見て息を呑むルーシィ。

 

「あ、あれが”クラッシュ”」

 

「そうだ。よくしってるな、新人ちゃん」

 

 全てを粉砕する超上級魔法”クラッシュ”。それを初めて目の当たりにしたルーシィは戦慄する。

 

「そんで、こんな使い方もできる」

 

「ッ!? 避けろ、ルーシィ!!」

 

 わずかに腕が振るわれる。そうすると腕の先から線状の旋風のようなものが巻き起こり、ルーシィに襲い掛かった。

 

 「いけませんっ!」

 

 サジタリウスがルーシィを突き飛ばす。

 

「あっ・・・・」

 

 突き飛ばされて転んだ先で、庇われたと理解したルーシィは自身を守ってくれた精霊を見上げる。

 

「む、無念であるからして・・・・」

 

 体に線が無数に走っている。それが次の瞬間にどのような現象を引き起こすか、ルーシィは察してしまった。

 

「い、いやあぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 

 ずるりと線に沿って体がずれ、床へと落ちていく。たった一瞬で自身の精霊の命が奪われたという事実に叫び声をあげるルーシィ。

 

「落ち着けルーシィ! 今のは”そういう魔法”じゃないんだ」

 

「・・・・・・へ?」

 

 相棒の声で我を取り戻す。何分割にもされたサジタリウスを見上げるてみると・・・・

 

「・・・・無、事で、ありますからして・・・・・・・」

 

 

「もしもし」

「もしもし」

「もしもし」

「もしもし」

「もしもし」

 

 分割され、縮んだ姿になったサジタリウス”達”がいた。

 

「な、なんなのこれ~!?」

 

「わっはっは。面白いだろう?」

 

「・・・・あれがギルダーツの魔法の特性の一つ、”分解”だよ。魔法も物質も関係なし、分けられた分だけ力も減らされる。分解なら命には別条がないから放っとけばそのうち元にもどるけど・・・」

 

「い、一斉発射よ!」

 

『はい! もしもし』

 

 カナの言葉に安堵するが、からかわれたことに対してと醜態をさらされたことへの怒りで震える。いっそこうなれば分けられた精霊全員で一斉攻撃だと半分やけになって命令するが、命じられた精霊の弓からはぴよーんと可愛らしい矢が放たれて地に落ちる。

 

「だめだこれ~」

 

 諦めて門を閉じるルーシィ。それを腹を抱えて笑うギルダーツ。

 

「いやーいい反応してくれるなあ。はっはっは」

 

(”仕込み”はまだ終わってない。私がかく乱するから、後はおねがい)

 

(・・・・まかせて!)

 

 油断というよりも、まともに相手すらされていない状況。それを好都合といわんばりに目線で意思疎通を計ったカナとルーシィは動き出す。

 

「はあっ!」

 

 気合と共に両腕からカードを投げるカナ。その中には先程と同じく黄色のカードも混じっている。

 

「流石に二回目は飽きるぞ?」

 

 空中でカードがぶつかって光をまき散らす。それを退屈そうに眺めたギルダーツは魔法を発動させ、光を切り裂いた。サジタリウスを分解したように線状のクラッシュを発動させただけだが、光を切り裂くという非常識な現象にルーシィは唖然とする。

 光を切り裂いた線はそのまま敵を引き裂かんと直進するが、線の向かう先に既に彼女はいなかった。

 

 

 

 

「なぁああめぇええええるぅううううううなぁああああああ!!!!」

 

 カナは凄まじい動きを見せていた。放たれるカードの群れ。その速度と威力は機関銃の如きである。身体を動かして避けられればその先にある岩や地面は轟音を上げて崩れていく。カードには威力を底上げするような魔法がかけられているのだろうが、それがもたらす破壊力はとてもじゃないが、弾の元がカードとは思えない。

 

 試験が始まるまでの一週間。連携をとるための修行で彼女のこの戦い方を知ってはいたが、本気で機動戦をしかける彼女の姿をルーシィ初めて見た。

 

「す、すごい・・・・」

 

 自分には自分なりの役割があるのだが、しばしそれを忘れて唖然とする。ナツやグレイ、エルザなどの鍛え上げた肉体と技を使った戦いはこの目で間近に見てきたが、それに迫るような戦いに目を奪われていた。これほどの戦いを身近な者が行え、またそれをこれまで知らなかったのにも衝撃を隠せないが、それ以上に驚くのがその相手だ。

 

 四方に動きながら攻撃を続けるカナ。それを目線で追い、片腕と体捌きだけで凌ぎきり、不動の構えを見せて笑っているギルダーツ。

 

「はあぁあああああ!」

 

 烈火の如き攻撃を一方的に仕掛ける。一見すればカナが圧倒的な手数と火力で優位に立ち、ギルダーツは手も足も出せないのだと思わされるが、両者の表情がそうではないことを物語っている。

 

「それ、お返しするぜ」

 

 掴み取ったカードを無造作に投げるギルダーツ。それを防ぐためにカードを幾枚か前方に構え、幾何学的な魔方陣を形成して防ぐカナ。

 

 重たい鉄で殴られたような衝撃と共にカナが後退する。防御に使った手を2、3度振り、相手を睨み付けている様子を見るにダメージはなさそうだが、この場において強者の立ち位置を思い知らされたような気分になる。絶対強者。それがこの空間におけるS級魔導士の存在感であった。

 

 ギルダーツは言葉を発さず右手を折り曲げ、挑発してくる。それにカナが乗ろうと再びカードを構え、動き出そうとした時であった。

 

「そう。ありがと、じゃあ次ね」

 

 自身の精霊が”仕事”を終えたことを知らせてくる。これで作戦を次の段階へと移行させられる。

 

「開け、金牛宮の扉”タウロス”!」

 

「MO-----!!!」

 

 タウロスを出現させることで合図を出すとカナがカードを構え、地面に手をかざす。

 

「ありがとうルーシィ。いくよ! ”迷い子の蟻道”!!」

 

「お、おおっ!?」

 

 カードが魔方陣の体系をとって地面に振れた瞬間、各所で地面が光り、大きく揺れ動きだす。地面から岩が円柱状に無秩序に生え出し、うねりながらギルダーツへと襲い掛かる。ギルダーツは足元の揺れに驚くも、襲い掛かる石柱の一つを腕の一振りで砕き落とした。

 

「これを仕込んでいたのか? 残念だったな」

 

 カナがかく乱に徹する間にルーシィは処女宮のバルゴを呼び出し、地中を走らせていた。そして事前にカナから預かっていたカードを土中に埋めてもらい、下準備をしていたのだ。”迷い子の蟻道”、術式を付与したカードを規定の陣形で配置し、発動することで敵を一定時間自律的に攻撃する大型魔法だ。雷神衆の一人であるフリードが用いる術式魔法と同種だが、手慣れたものなら一瞬で発動させるフリードとは違い、カナたちが行えばこれほどの手間がかかった。

 

「ンMOOOOOOOOO--!!!!」

 

 未だギルダーツに襲い掛かる土の塊を縫うように、タウロスが雄たけびを上げながら手に持つ大斧を全力で投げる。その威力たるや降りかかる土塊をものともせずに砂塵の竜巻を巻き起こすほどである。

 

 迷い子の蟻道による攻撃に対応しながらも、笑って拳を作り、迎撃しようとするギルダーツ。拳を振りかぶって斧を打ち砕こうとした瞬間、目の前の大斧が消える。

 

 

「ナイスパス」

 

 

 蟻道を走り抜けてカナが空中で斧を受け取っていた。受け取った斧を新たに生え出した蟻道の先端に突き刺し、ギルダーツへと向かう勢いのまま振りかぶる。

 

「金牛の斧に蟻道の土塊・・・・・」

 

「こりゃまずい」

 

 カードの投合で岩を砕く筋力。その力で全身を使って大斧を振り下ろす。

 

「よく見ろギルダーツ!! ”大蟻の爆砕斧”!!!!」

 

「おぉ!?」

 

 初めて焦りの表情を見せるギルダーツ。今までとは違い腰を落とし、右腕に魔力を蓄え完全に受けの体制を整える。次の瞬間、全身が痺れて思考が止まるほどの衝撃が襲い掛かる。

 

(この馬鹿力め!)

 

 上空からの打ち降ろしを右腕で受け止め、拮抗する。流石にこのままでは折られると判断したギルダーツは魔法を発動させた。足元の地面を均等に砕き、衝撃を拡散させる。

 

「足元を砕いてクッションに!?」

 

 あの力が込められた攻撃を砕くのは容易ではないと判断してのこの選択。対象を砕くだけではない、柔軟な使い方に驚きの声を上げるルーシィ。

 その瞬間、斧を押し込もうとしていたカナがこちらに視線を向ける。

 

(ッ!? そうか! ここなのね!!)

 

 意図を伝えたカナは斧から片手を離し、2枚のカードをギルダーツの足元へと投げる。

 

”迷い子の手”

 

 投げられたカードは周囲の土を取り込んで土の手を形成する。土の手はギルダーツの足首を掴もうと動き出す。本来ならこのような魔法など文字通り一蹴するところだが今は状況が悪い。ギルダーツは衝撃を逃してもなお拮抗する馬鹿力を押し返そうと力籠めた瞬間、斧が持ち上げられて圧力が消える。踏ん張りが効かず、体制を崩したギルダーツにその一手は軽々と決まった。

 

 魔法の手により転んだギルダーツの顔に冷や汗が流れる。すぐに顔を上げるがそこには幾つもの巨大な石の蟻道。

 

 

「・・・・・・マジか」

 

 

 蟻の通り道を模しているにはあまりにも巨大な土塊に飲まれていく姿。それを振り返らずにカナはルーシィの傍へと降り立った。

 

「これが・・・・」

 

「最後の一手」

 

 カナはカードに込められた魔力を発動させる。魔力は”祈り子の聖水”という魔法になり、周囲に水を生み出した。それに手を触れ、ルーシィは閉じたタウロスの扉の代わりにとっておきの鍵を差し込む。

 

「開け! 宝瓶宮の扉”アクエリアス”!!」

 

「またこんなところか。いい加減彼氏はできたかい?」

 

「いいからやって!」

 

「ったく小娘が。いいかい? これが終わったらデートなんだ、2週間は呼ぶんじゃないよ」

 

 悪態をつく精霊に懇願するようにすがる主。申し訳ないが、こちらも余裕がないのだと必死にアピールする。

 

 

 

「まだまだぁっ!」

 

 土塊が溜まって最早ちょっとした山となっていた場所が爆裂する。予想はしていたが、中から無傷のギルダーツが現れる。

 

「っらあ!!!!!」

 

 間一髪、こちらの攻撃が間に合う。アクエリアスの水の瀑布による攻撃。間違いなくルーシィの最大火力。全方位にまき散らされるはずの水は、今回に限りギルダーツの方向へと迷うことなく向かっていく。

 

「はああああ!!」

 

 その理由はカナにあった。迷い子の蟻道による攻撃は終わったが、その痕跡である石柱はまだ残っている。カナが集中すると、石柱が動き出してアーチを象り、磁石の様に水を呼び込んでギルダーツへの道を生み出していく。

 

「おいおいおいおい」

 

 土塊の中から飛び出した瞬間これである。一体どこから自分は嵌められていたのか。おそらくこの一手を決めるためだけの布石。柱に埋め込まれているカードを見てギルダーツは悟った。

 

 恐らくこのカードは蟻道の操作と水を誘引する効果があるのだろう。水は石のアーチを砕いて巻き込みながら次のアーチへと向かう。アーチをくぐる度に徐々に収束し、破壊力を増す。単なる瀑布は遂に巨大な岩石溢れる土石流となり、まっすぐに破壊の対象へ向かってていく。

 気が付けば濁流は目の前、ギルダーツは気が遠くなりそうになった。

 

(ああ・・・・こりゃ痛ぇだろうなぁ)

 

 

 

 

 この一週間で死にもの狂いで会得した合体魔法という二人の必殺技。これを決めるために何手もの布石を打った。実際に戦術を組み立てたのはカナだが、それに見事応えて見せたルーシィは称賛に値する。

 元よりルーシィは聡明な魔導士である。若干17歳にして黄道十二門の精霊と複数契約し、魔道への教養を深める利発さもある。それでも低い自己評価は、自身の戦闘への経験の薄さからであった。戦闘の際には自身はナツやエルザ、他の皆のように動けない。それがある種のコンプレックスになっていたのは否定できない。しかしカナはそのルーシィに最後の一手を託した。

 

 何重にも張り巡らせた策、その成否を決める一手。この一撃の成功に誰よりも喜んでいたのはルーシィだったのかもしれない。

 

『喰らえ! 合体魔法”タイダル・ディストラクション”』

 

 声をそろえてその名前を告げる。万感の思いを込めた一撃の名を。濁流は何もかもを飲み込んでいく。

 

 飲み込まれる寸前、わずかに見えた男はここにきて初めて両腕を突き出した。

 

 

 

「うおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 破壊の瀑布を受け止めるギルダーツ。クラッシュで今までのように砕いても、次から次へと襲い掛かる水という形のない相手に効果は薄い。濁流に混じる石達も砕いたところで更に小さな弾丸となって身を削っていく。結局真正面から受けざるを得ず、突き出した両腕から放つ魔法で攻撃が終わるまで出来る限り砕き続けるしかない。

 

 攻撃の物量と土石流の質量に押され、意図せずに体が後退しはじめる。一旦下がり始めれば勢いは止まらず、徐々に後ろへと加速していく。そして遂にその時が訪れた。

 

「がああああああああっ!!!!」

 

 地面から足が離れれば、水を砕いて弾くことなど出来ず、攻撃に飲まれて吹き飛ばされていく。そうして岸壁まで吹き飛ばされても、しばらくの間攻撃が止むことはなかった。主の全身全霊で籠める魔力と気迫に影響されるかのように大量の水が精霊の瓶の中から生み出された。

 

 

 

「あたしの水を操るとは・・・・ 気に入らない小娘め」

 

 精霊が悪態をついて帰還する頃、大きく残った水跡に映る二つの顔。水跡の先には、岸壁の奥深くへ押し込まれている男。

 

 最後まで攻撃を受け止めた証か、地面には両足で濁流に立ち向かった跡が綴られている。その時初めて、ルーシィはギルダーツが戦闘が始まって以来、一歩たりとも動いていなかったことに気付いた。

 

 身が震えてくる。相手にした存在の大きさにではない。やらねばならないことをやり遂げた感慨にだ。ルーシィは肩を震わせ、未だ信じられない、しかし喜色が滲み出る顔でカナを見る。

 

 やった。確かに自分はやった、やり遂げたのだ。そんな単純な言葉しか思い浮かばない。しかし言葉にしがたい喜びを感じるルーシィ。

 

 

 

 

 きっと候補者がカナ以外だったら、ここで終わっていたのだろう。カナでなければ「新人のくせによくやった」とでも頭を撫でられ、合格の言葉と共に終わった筈だった。

 そう、確かにルーシィはやり遂げた筈だったのだ。

 

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