船上ではフリードに先を越されはしたが、一番でゴールにたどり着いたレビィとガジル。マスターに迎えられて休息をとる二人は対照的な表情を浮かべていた。
「運よく”静”のルートを取れてよかったぁ」
「けっ。誰とも戦れねぇとはツイてねーなぁ」
「もぉ・・・。ガジルくんと違って私は戦闘向きじゃないんだから」
「俺がいれば問題ねぇ」
「・・・・・若いっていいのぉ」
対照的な二人の会話にどこか居心地悪くするマスターマカロフ。そこに二人の人影が洞窟から現れる。
「随分とギルドには馴染んだみたいじゃないか、鉄竜の」
「俺たちが言えた立場じゃねぇがな」
姿を現したフリードとビックスロー。大した傷もなく通り抜けた姿に称賛の言葉をかけるマスター。
「うむ。二組目はお前たちか。相手は誰じゃった?」
「メストとウェンディだ。奴らも相手が悪かったな」
「俺たちは先に着いて術式書きまくってたからな。全く運のない奴らだぜ」
なる程と頷くマカロフ。メストの事情を知るマカロフからしてみればわざと負けたのかと疑いそうにもなったが、誰が相手でも不覚をとることもなさそうなフリードの様子に喜色を浮かばせる。この時代の若者は本当に出来が良い。
感慨に耽るマカロフをよそに、時間を持て余した候補者達は残った者たちの予想に花を咲かせる。
「やっぱり本命はナツかな? グレイも相当強くなってるみたいだけど」
「ギヒッ。まあムラはあるが実際侮れねーぜ、ジュビアはよ」
「一歩劣るが、エルフマンも良い線いくんじゃねえの? なんせエバーグリーンもついてるしよ、チームで考えるならトップじゃねえか」
残る候補者も一筋縄ではいかない者ばかり。結局まともな予想はつかずに意見が飛び交う。
「っつーことは下馬評最下位はあのコスプレ嬢ちゃんたちか? S級に当たらないといいけどなあ」
「お? やさしーじゃん。ビックスロー」
「借りがあるからなあ。あのコスプレ嬢ちゃんたちには」
「まあ実際一番きついんじゃねーか? 二人とも戦闘向きじゃねえだろ」
「・・・・・・」
バトルオブフェアリーテイルでの件を気にするビックスロー。雷神衆はギルドでも浮いた枠組みであったが、存外フェアリーテイルのメンバーの中でも仲間意識が強い方であることが最近の付き合いで分かってきたレビィは苦笑した。照れくさそうにフードをいじるビックスローの隣を見ると、今まで話に入ってきたはずのフリード様子がおかしいことに気付く。
「どうしたの? フリード」
「いや、なんでも・・・・」
「そういや、お前らあの二人とバトルオブフェアリーテイルのときやり合ったんだったな」
「・・・・ああ」
思い出したように言うガジルに、顔を向けず言葉を返すフリード。苦い記憶を振り返るようにビックスローがロキとの闘いを語りだした。
「全く、ロキの奴があんなに強くなってたなんてなぁ。昔は俺に一度も勝てなかったんだぜ?」
「なんかその言い方、おじさん臭いよビックスロー」
「うるせぇ」
「まあそのロキもいないんじゃ、アイツらの脱落は確定だな」
「もぉ・・・。ガジルは知らないかもしれないけど、カナは昔”鬼人”って呼ばれてたんだよ。ミラと二人で知る人ぞ知るフェアリーテイル武闘派2枚看板だったんだからね!」
「へぇ、あの酔っぱらいと酒場の姉ちゃんがねぇ」
「・・・・・・鬼人、か。」
フリードは久しぶりに耳にしたその言葉に反応する。ギルドには寄り付かなかったが、自分も古参の一人である。その二つ名は知っていた。だが昔から疑問に思っていたのだ。あの飲んだくれにそのような名がついていたことを。
フリードはカナと戦った時のことを思い出す。あの時、己の内から湧きがった恐怖によってようやく理解できた。ミラが人知を凌駕する”魔人”だというのなら、あれは人に理解できるだけの恐怖を与える、人の形をとった”鬼”だということを。
震える手を隠すフリードは、目を閉じて次の候補者が洞窟から出てくるのを待ち続けた。
「あら、ジュビアとリサーナなのね。悪いけど、妹だからって手加減は出来ないわよ?」
「あっちゃー、ミラ姉かぁ」
「S級・・・・」
通路を通れば”激闘”の文字。相手を見ると顔を顰めるリサーナと身を引き締めるジュビア。双方ともに闘気に満ちた顔を見てミラは顔を緩ませる。
「随分とやる気になっちゃって。お姉ちゃんは嬉しいわぁ」
ミラの体を包んでいく魔力の衣。最強のテイクオーバー”サタンソウル”が姿を現し、周囲の空間を闇の魔力で満たしていく。瞬きする程の間に酒場で笑顔を振りまく店員ミラは姿を消し、悪魔の魂を宿す”魔人”ミラジェーンが眼前に現れる。
「私だって2年間遊んでた訳じゃないんだから。お姉ちゃんに見せたくて仕方なかったんだ、エドラス流の戦いを」
久々に見るその姿に、怯むどころか意気軒高といった姿を見せるリサーナに微笑えむミラ。
「そう。それじゃ楽しませてもらうわね」
死んだと思っていた妹との会話。これから戦闘だと分かっていても顔が綻んでしまうのが防げない。
「でもダメよ、リサーナ」
しかし加減は出来ない。これからやるのは姉妹喧嘩などという軽いものではない。現役復帰した自分にも重くのしかかる重圧。そう、なにせこれは・・・・
「戦いはもう始まってるんだから」
S級魔導士の資格を試す試験なのだから。
(は、はやい!?)
油断していたわけではなかった。いつでも魔法を放てる準備はしていたのだ。それでもタイミングを外されたのは戦いへの練度の違いか、それともエレメントフォーであった自分とは同格である等と考えていたことに隙があったか。なんにせよ先手を取られた自分を叱りつけたくなる。
ジュビアは言葉と共に突貫してきたミラに反撃しようと構えるが遅すぎた。ジュビアの懐に入ったたミラは構えた拳に魔力を纏い始める。
純粋な物理攻撃ならば液体化する自分には通用しない。しかしその拳を見た瞬間ジュビアの本能が危険信号を発する。
(悪魔の魔力!? マズい!)
扱うのも危険な悪魔の魔力を手足を動かすように扱うミラ。テイクオーバーという魔法の体質とはいえ、反則染みた性能を誇るミラのサタンソウルに改めて驚かされる。
この距離ではもう対処は不可能。本当ならこの攻撃は躱したいところだが、近接戦闘をそこまで得意としていない自分では無理だと判断し、ジュビアは最低限の急所を守って身を襲う痛みに耐えようとした。
「うらあッ!!!」
気合の入った声が横から割り込む。声と共に片足を天に振り上げ、ジュビアへと向かう拳を弾き飛ばす。
予想外の形で攻撃を防がれたミラは驚愕の表情を浮かべ、翼で宙を舞うと一旦距離を置いた。攻撃を防いだ人物は油断なく注意を払いつつも、パートナーへ言葉をかける。
「大丈夫、ジュビア?」
「ええ。助かりました」
「いいっていいって。それより前衛私がやるからね。援護よろしく」
「了解しました。無理はせずに・・・・」
その様子を伺うミラは仕切り直した距離でどう仕掛けるか考えながら観察する。
(リサーナがこの状態の私に追いついた? それもテイクオーバーせずに、一体どうやって?)
完全に”入った”タイミングだった。ミラは自身の力とスピードに対抗されたことに警戒する。拳を蹴り飛ばすという大胆なことをやってのけた、目の前に見据える妹の姿に変わった様子は見られない。妹や自身の使うテイクオーバーという魔法を使えば、使用した箇所は対応する魔物の姿に変わっているはず。しかしその兆候は見られない。なんらかの方法で自身の攻撃を防いだはずだがそれが分からない。
ミラは疑問を浮かべつつも、攻撃を防いだ妹の成長に喜びを覚える自分を感じた。
「キレ良好、調子よし。まさしく絶好調!」
先程行った一撃の調子を確かめる様に体を動かすリサーナ。犬歯を見せて唸るパートナーに、ジュビアは頼もしく思うよりもやはり血の気の多い姉弟なのだなと思ってしまった。血気盛んなパートナーはごきりと首を鳴らして次なる攻撃の構えをとる。使っている魔法故なのか、まるで犬猫などの動物が新たに覚えた芸を見てほしいといった風に見えてしまう。
そんな彼女を見ていれば、困難な試験なはずなのに楽しささえ覚えそうになる。しかしまた奇襲されてはたまらないと魔力を蓄えるジュビア。それに気づいているのかいないのか、大声を上げて宣戦するリサーナ。
「見せてあげる、ミラ姉。アニマルソウル”百獣擬態”!!!」
魔法の発動と共に体の一部がテイクオーバーされ、変化していく。ミラが悪魔の魂をその身に宿すように、エルフマンが獣王の魂を体に顕現させるように、リサーナもまたその魂と肉体をその身に換えて力にしていく。
(これは・・・・・!?)
リサーナが獣の様な構えをとった瞬間、大きな衝撃がミラを襲う。洞窟に獣の咆哮が広がり、激闘の始まりを告げた。
合格者と不合格者。一先ずの結果が分かれ、残る椅子を掴もうと各所で激闘が繰り広げられる中、一つの通路は静謐に包まれていた。
「嘘だ・・・・・こんなはずが・・・・・・・」
ハッピーは目の前の光景に信じられないといった表情でつぶやく。
なぜ? どうしてこうなった? 贔屓目抜きにしても、ナツは最もS級に近い存在の筈だ。誰が相手でも・・・・そうだ、例えS級が相手でもこんなにまで圧倒されることはない筈なのに・・・・・
「どうした? 立て、ナツ。お前の力はこんなものでは無い筈だ」
「な、なんで・・・・俺は強くなった筈じゃ・・・・・」
地に伏せるナツ。身に備えた自信を崩された表情は、常のものからは考えられないものになっていた。
「こんな・・・こんなにも違うのか。ナツとエルザの力、S級の力は!?」
どんな疑問も目の前の現実には及ばない。エルザは一度も地に膝をつけることもなく、ナツは力無く倒れている。
「お前には教えなくてはならない。お前に足りない物。S級としての力を」
愕然とするナツは、自身を見下すエルザを見上げた。堂と立つその姿は、今まで慣れ親しんだ筈の鎧姿であるにもかかわらず、見た事のない別人のように感じられた。