「‥‥‥‥」
起きて早々、善行はその無機質な目を一点に注いでいた。
善行が見つめる先、ベットの横には、
サッカーボールがあった。
もちろん、善行のものではない。
帰宅部の善行は運動などほとんど(妖精撃退などを除いて)しない。
「‥‥‥‥」
ただ茫然とサッカーボールを見つめる。
「‥‥‥‥」
しばらくして善行は、ひょいとボールを持って、ベットの上のまどを開け、
ぽい。
投げ捨てた。
不審物を処理した。
そんな気分だった。
「ぜんちゃーん、まだ起きてないのー?」
そこでがちゃりと、雪音が部屋のドアを開けて入ってきた。
「あーうん。今行く。」
「なにかあったの?」
「いや、なんでもない。」
「そう。じゃあ早く降りてきて、朝ごはん準備出来てるから」
「うん。」
そう言って、雪音に連れて一階のリビングに降りていった。
ご飯を食べ終わり、部屋に戻ってきた善行。
鞄に宿題や時間割にそって教科書を入れていく。
その最中、
「おはようだ、少年」
机の引き出しからひょっこりとダガッシーが出てきた。
「ド〇えもんかお前は。」
「ぐぅふぅふぅふぅふぅ」
「キモイよ。常にド〇えもんはそんな笑い方しねぇよ。謝れよド〇えもんに。」
「それよりも」
「無視すんなよ。」
「ここに置いてあった物はどうした?」
そう言ってベットの横を指差した。
そこは、今朝サッカーボールが置いてあった場所だ。
「ん、サッカーボールのことか?」
「そうそう!どこにあるのだ?寝る前に置いといたんだが」
「捨てた。」
「なんで!?」
「ごめん。」
「ごめんじゃない!!なにをしてくれたんだ!!」
「いや、嫌がらせかと。」
「なんで!?」
「なんとなく。」
「‥‥‥えぇー‥‥‥」
理解不能と言った感じでうなだれるダガッシー。
「‥‥‥あれで泥っちとサッカーしようかと思ったのに‥‥‥」
「じゃあこんなとこ置いておくなよ。捨てちゃうだろ。」
「そんなにポイポイ捨てないだろ普通‥‥‥」
「そんじゃ。」
いつの間にか準備が終わって、鞄を肩に掛け、部屋を出ていこうとする。
「ちょっ、待って!!」
「なんだよ。」
「まだゴミ箱とかにあるだろう?取ってきてくれよ」
「無理。」
「なんで!?」
「窓から放り投げたから。」
「なんで!?」
「なんとなく。」
「なんで!?」
「なんでなんでうるさいよ。」
「なんで!?」
べし。
善行の投げたティッシュ箱がダガッシーにクリーンヒット。
「まあ、悪かったって。」
「謝る気ないだろう‥‥‥それにツッコまれた‥‥」
窓からゴミを捨ててはいけません。
「そいじゃ。」
ドアノブに手を掛ける。
「む、待ってくれ!私も行く!」
「ん?泥っちと遊ぶんじゃないのか?」
「少年がサッカーボール捨てたから遊べなくなったのだ!!」
「他のことすればいいだろ。」
「だから他のことをするのだ」
「いや泥っち置いていくなよ。」
「連絡するからいいのだよ。」
「最悪だなお前。」
「君に言われたくないぞ」
「そんじゃ。」
「待って!本当に暇なのだ!」
スライディング土下座をして足元までやってくるダガッシー。
「なんだよお前‥‥‥」
「良いではないかぁ」
「もういいよ。早くしろ。」
観念してパカッと鞄を開く善行。
「お、良いのか!?」
「行かないのか?ならさよなら。」
ガシッ
出ていこうとした善行の脚にしがみつく。
「待って! 行く! 行くから!」
ダガッシーが必死に懇願しているその時。
がらっ
「んお、おはようございますー」
机の引き出しが開いて、泥っちが出てきた。
手を軽く上げ、挨拶してくる。
「‥‥‥なにしてるんですか?」
善行から視線を下げ、ダガッシーを見つけて言った。
「こいつ、お前を置いて遊びに行くんだってよ。」
「‥‥‥‥え?」
善行が言ったことに凍りつく泥っち。
「待って!待ってくれ違うんだ!」
「‥‥‥そ‥‥‥そんな‥‥‥」
ダダーンっという効果音とともに白くなっていく泥っち。
かなりショックを受けている。
「ダ、ダガッシー‥‥‥僕達、友達ですよね‥‥‥?」
「違う!本当に違うんだ!」
「なんか昼ドラみたいになったな。」
「君のせいだろう!!」
どこまでものんきな善行。
「そ、そうだ!泥っちもどうだ!?一緒に少年の学校に行こう!!」
「‥‥‥‥ダガッシー‥‥気を使わなくていいんですよ‥‥‥?」
「ち、違うんだ!ちゃんと泥っちも誘おうとしていたんだぞ!?」
「連絡するのだとか言ってなかったっけ。」
「余計なことは言わなくていいぞ少年!!」
この後、泥っちが持ち直すのに五分かかり、結局二匹とも付いて来ることになった。
「なぁ、今日はえらく鞄が膨らんでるな」
教室にやって来て早々、虎鉄がそう言った。
「ん、そうか?」
何気なくそれに答える善行。
段々この反応にも慣れてきたのだ。
「試験勉強にはまだ早いぞ?」
「まあいろいろ入ってんだよ。気にすんな。」
「ふーん」
たまにあることだから特に興味もなく、虎鉄は温い返事で終わらせる。
それを聞いて自分の席にどかんと座る善行。
座った善行と向かい合うように立った虎鉄は新しい話題をふる。
「お前、神代のことどう思ってんの?」
「ッ!!」
軽く聞いた虎鉄に反し、善行は珍しくも怯えるように肩を驚かせた。
「え、どどうって‥‥?」
「いや、最近お前にめちゃくちゃアタックしてるからさ、どう思ってんのかなって」
「ア、アタック‥‥‥?」
脂汗を浮かべ、青くなった顔でうつむく。
「‥‥‥‥怖い‥‥」
「怖いって‥‥‥そこまでだろ」
「い、いや‥‥‥なんか常に焦点のあってない目をしてるし、気配しなかった方から急に声をかけられたり‥‥‥‥不気味なんだよ‥‥‥」
「‥‥‥‥」
その不気味に感じる原因が自分にあるとは夢にも思わない善行。
虎鉄は、少しは想いが報われるといいなっと、心のなかで神代にエールをおくった。
「おはよう」
そこに、鞄を持った寛人がやって来た。
「なんの話してたんだ?」
隣の自分の席に鞄を置きながらそう訪ねる。
「んー?神代の話」
「お、なんか進展あったのか?」
「いーや、なんにも。不気味だとかなんとか」
「あー、まあそういうところあるかもしれないけど、たまにだしいいんじゃないか?別に」
「でもこいつ青くなってるぞ」
善行は寛人にも気づかず、ただ青ざめた顔でうつむいている。
「善行?」
肩に手を置いてみると、
「んひぃっ!!」
バッと飛び上がって、瞬時に距離を取った。
「‥‥‥‥なんだ寛人か‥‥‥」
怯えた目も、寛人を認めると安堵して、ゆっくり席に戻る。
「これは重症だな‥‥‥」
「そこまでやべぇのか‥‥?」
「な、なんだよ二人とも。そんな哀れんだ目を向けるんじゃねぇ。」
がらがら
その時、扉が開いた音がした。
生徒が登校してくる時間なので特に気にすることでもないが、何気なしにそちらに視線を向けてみた。
そこには、
亜美がいた。
ダーン!
善行は勢いよく机に突っ伏せる。
強く額を机にぶつけ、ものすごい音がした。
「ど、どうしたいきなり!?」
「と、とうとう頭がおかしくなったのか!?」
突然の奇行に当惑する虎鉄と寛人。
だがその原因もすぐに理解できた。
「おはよう」
控えめな声が横から聞こえた。
二人してそちらを向くと、微笑を浮かべた亜美が立っていた。
「ん、おはよう」
「よーっす」
軽い二人の返事を聞いて、亜美は突っ伏せている善行に目を向けた。
「おはよう猪飼くん」
挨拶をするも、返事がない。
「おはよう猪飼くん」
再度挨拶。
またもや返事がない。
「おはよう猪飼くん」
三回目の試み。
善行は突っ伏したままなにも言わない。
「お、おい善行。挨拶くらいしろよ」
「流石にそれは失礼じゃないか?」
二人は善行にそう耳打ちするが、なんの反応もない。
すると、
亜美は少し笑みを強くして、口を開いた。
「おはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くんおはよう猪飼くん」
淡々として、なおかつ優しさを感じさせる狂気的な挨拶。
怖い。
この一言に尽きる。
「おおおおはよう!いい天気だなっ!」
震える声で挨拶を絞り出す。
出来るだけ関わりたくないのだか、とてつもなく怖いのだ。
「うん。いい天気だよね」
ほんわかと微笑んで、ひらりと翻し自分の席に戻っていった。
「う‥‥‥うわぁぁ‥‥‥」
「思ってた以上にヤバいな‥‥‥」
横で見ていた二人もドン引きだった。
明らかに正気とは思えない亜美の行動に、驚きと恐怖が隠せない。
善行は挨拶時に必死に取り繕った笑顔のまま固まっている。
二人はそんな親友の肩に手を置いて、優しく励ました。
「まあ‥‥‥なんだ。人生山あり谷ありだ」
「そうそう。気にしちゃいけないんだ‥‥‥だから‥‥」
「「強く生きろよ」」
そう言った瞬間、朝のショートホームルームを告げるチャイムがなった。
「‥‥‥‥ふぅ」
ゴソゴソ服を脱いで、体操服に手を通す。
男子更衣室には、クラスの男達がひしめいて、今からある体育についてワイワイ騒ぎながら着替えている。
端のロッカーを陣取って、微妙に開いた窓から入ってくるそよ風を浴びるのが善行の習慣だ。
「どうした?ため息なんて珍しい」
隣で着替えている虎鉄が話しかけてくる。
「まあ、どうせ神代だろ?」
同じく隣で着替えている寛人が呆れをにじませた顔で言った。
「‥‥‥‥ああ。」
微妙にうなずいた善行は、ちょっと暗めの顔のまま、いそいそと体操ズボンをはく。
着替え終わり、とぼとぼと出口へ歩いていく。
「お、おい。ちょっと待てよ」
「虎鉄、その服は部活のだぞ」
「おっと、あぶねぁ!」
「先行くぞ」
「ちょっ、待って!」
後から慌てて寛人と虎鉄が追い付いてくる。
「‥‥‥そんなに効いたのか、さっきの」
「だろうね」
ひとつ前の二限の英語の時間。
ペアを組んで解答を共有とのことだったのだが、本来は隣の席の寛人とペアを組むところ、亜美がやって来て寛人を説得。
結果、善行はビクビクしながらその時間を過ごすことになり、疲れてしまったのだ。
「‥‥‥‥今日の体育なんだっけ。」
暗い顔で尋ねた善行。
ジャンルによっては見学にしようかと考えているのだ。
「んー。今日はサッカーだな」
「‥‥なら大丈夫だ。キーパーやってよ。」
チーム分けで力が均衡するように考えられているため、ボールがゴール前まで来ることがほとんどないのだ。
だから善行はキーパーを引き受けて、ゴール前でボーッとしようという魂胆なのだ。
「‥‥‥はぁ」
本日何度目かになるため息をついて、階段を降りていくのだった。
ピーーー
キックオフの笛がなって、途端にグラウンド中央が騒がしくなる。
コートの中央付近で一進一退の攻防を繰り広げているのを、キーパーである善行はぼんやりと見ていた。
サッカー部は今回ドリブル禁止なので、キーパーにはボールが来る気配が全くない。
ちなみに虎鉄は流れ弾ならぬ流れ足を脛にくらって悶えていた。
寛人はその他大勢に紛れている。
「‥‥‥」
ただひたすらぽけーっとして時間を潰し、試合終了の笛が鳴った。
結局ゼロ対ゼロのまま試合は終わり、後片付けに入った。
「おい善行、何もしてなかったんだから片付けくらいやれよ」
全員分のゼッケンを持った虎鉄がそばを通るときにそう言って来た。
「ん、わかった。」
とりあえず軽そうな、コートの隅に残っていたポールを一個担いで体育倉庫へ向かう。
体育館裏にある倉庫に入ると、すでにこのポール以外はすべて仕舞われていた。
奥に積んであるポールの上に重ねて、とっととここを出ようと倉庫の中程まで歩いた。
その時。
「‥‥‥‥あ?」
景色が一変した。
そこは、無人のスタジアムだった。
人工芝の上に白線でサッカーコートを真ん中に大きく描き、その両端にはゴールを置いてある。コートの周りを囲うように観客席が段々になって備え付けられていた。
善行はそのスタジアムの中央にポツンと立っている。
「‥‥‥‥ああ、そうか。」
善行はすぐに理解した。
妖精の仕業だ。
「‥‥ん?」
そう確信した時、急にズボンの両ポのケットがモゾモゾと動き出した。
そして中からポンっと、
「「よっこいしょ」」
ダガッシーと泥っちが出てきた。
三回転して見事に着地した。
「いやおかしいだろ。」
「どうしたのだ、藪から棒に」
「俺はお前をポケットに入れた記憶がない。」
「勝手に忍び込んだだけだ」
「なんとなく気になったので」
「お前らサイズのものをポケットに入れてたら誰でも気づくと思うけど。」
「でも現に気づかなかったではないか」
「‥‥‥‥」
「不満か?」
「もういい。」
いろいろツッコむのもめんどくさくなってきた。
「それで。これは妖精の仕業だろ?」
「そうなのね?」
ベシ
善行チョップ。
ダガッシーは五のダメージ。
「疑問に疑問で返すな。」
「そういう意図で言った訳ではないのだが‥‥‥」
頭を擦っているダガッシーを無視して泥っちが言う。
「そうですね。これはこの前の結界と同じようなものです」
「ようなってなんだよ。」
「そういうものです」
「説明にもなってない。」
「とにかく、ここのどこかに妖精はいるはずです」
そう言って、泥っちがスタジアムの天井を見上げると、
どん
そばにサッカーボールが落ちてきた。
「なにこれ。」
「サッカーボールだぞ?何を言っているのだ?」
「んなこた分かってるよ。だからどうして上から落ちてきたのか聞いてんだよ。」
「┐('~`;)┌」
げし。
善行が繰り出したタイキックでダガッシーは宙を舞った。
「‥‥‥‥待って‥‥‥‥なんで‥‥私は今蹴られた‥‥‥?」
「ごめん。字面に腹が立った。」
「会話してるのにそれはないでしょ‥‥‥」
腰を抑えて呻くダガッシー。
地面でワナワナしているダガッシーを見ていると、急に、
「おい、お前達!」
横から爽やかな声をかけられた。
そちらを向くと、身長十センチばかりのやせ形の子パンダが立っていた。
赤い一番のゼッケンを着けている。
そのパンダはとても爽やかな声で今度はこう言った。
「一緒にサッカーをしないか?」
そして、とても爽やかな笑顔と共にグッとサムズアップをしてくる。
「「「‥‥‥‥」」」
固まる二匹と一人。
「おや?どうした?返事がないぞ」
一瞬キョトンとした顔を作った子パンダは、もう一度サムズアップをして、
「さあ、一緒にサッカーをしよう!」
若干セリフを変えてそう言ってきた。
「‥‥‥‥いやお前だれ。」
やっと口を開いた善行。
一言目がツッコミだ。
聞かれた子パンダは親指で自分を指し、言った。
「俺は、サッカーの妖精、パンタゴンだ」
「あれ、普通だ。」
案外普通の名前に少し拍子抜けしてしまう善行。
「待て少年。騙されるでないぞ。こんな安易な名前というのはどこか知らないところで使われている可能性があるのだ」
「です。だからここは一応ツッコむべきです」
「あ、そう。んじゃ、パンタゴンってなんだよ。」
しかし、二匹に言われて一応ツッコミを入れる。
「パンタゴンはパンタゴンだ。名前なんてなんでもいいさ」
本人は名前の方はさらりと流してしまった。
「それよりも、お前達。俺とサッカーをしよう!」
「お断りです。」
爽やかに決めた誘いを丁重にお断りする。
「なぜだ?理由を聞こうじゃないか」
するとパンタゴンは、ない前髪を払うようなポーズで理由を聞いた。
なんとなくナルシスト気質なパンダである。
「疲れたから。」
とりあえず適当に理由をつけてみる。案外間違ってもないのである。
「疲れたからっだと?なんたることか。華の十代がなんと嘆かわしいことを」
「こいつ殴りたくなってきた」
軽く握りこぶしを作った善行をダガッシーと泥っちがなだめる。
「まあまあ、我慢ですよ」
「そうそう。一応聞かないことにははじまらないのだぞ?」
「なにが。」
「ストーリーが」
「なに言ってるかわからないな。」
軽く三人ワールドに入りかけたところで、再びパンタゴンのナルシスト。
「ああ、人の話を聞くこともできないのかい?華の十代が、全くもって嘆かわしい!」
「さっきとキャラ違いすぎだろ。」
ごもっともである。
「そもそもお前歳いくつだよ。さっきから華の十代とか言って。」
善行が尋ねると、パンタゴンは[┐('~`;)┌]のポーズを取った。
「人の歳も平気で聞けてしまうのかい?ああ‥‥‥」
「なあ少年よ。ここは素直にやりたいと言えば良いのではないか?」
「ええー。だってもう疲れたし。」
「これはあれですよ。ド〇クエにある『はい』と『いいえ』の二つの選択肢があっても、実質『はい』しか選べないのと一緒ですよ」
「めんどくさ‥‥‥」
そう。
これはサッカーをやると言わなければ始まらない。
なにがとは言えない。
「‥‥‥わかった。やればいいんだろ。」
「おお、ようやくやる気になったか」
肯定の意を告げると、パンタゴンは嫌みな態勢から、再び爽やかな寒気アップを決める態勢に戻した。
「では、早速だが試合をしよう」
パンタゴンはそう言うと、首にかけてあった笛をピーーっと吹いた。
すると、
「‥‥‥なんだこいつら。」
地面からネコのマスコットの頭の部分だけの姿をした全長五センチくらいの細々としたものが十匹湧いて出てきた。
「あ、こいつらは」
「知ってるのか。」
「はい。こいつらはニャニャモン。素早さ以外は蚊にも劣る妖精界のペットです」
「弱すぎだろ。」
「その代わりに素早さはチーター並みだぞ」
「バカじゃねえの。」
それでは自分の出した速度に耐えられない気もするのだが、まあそれは置いておく。
「俺はこの、一ヶ月間もう特訓したニャニャモン軍団で君たちに勝負を挑む」
「人数が合わねえだろ。」
パンタゴンに善行が指摘した通り、十一対三で数が違いすぎる。
「そこは勿論ハンデをやるとも。君たちのゴールはこのボールが一個ギリギリ入る大きさのものにする」
そう言うと、一匹のニャニャモンが頭に本当にサッカーボール一個分ほどの幅しかないゴールを乗せて、片方の大きなゴールの中に置いた。
「これなら私達は得点しにくくなった。キーパーも不要だろう?」
「これどうせあれだろ。コイツらめちゃくちゃシュートのコントロールが良いとかそこらへんだろ。」
「いや、残念ながらニャニャモン軍団はシュートを打てない」
「は?」
「代わりに私がシュートを担当するのだ」
「じゃあお前がシュート上手いのか。」
「いや、この幅だと十本中一本入るか入らないかだ」
「なにがしたいのお前。」
「そもそもお前達にボールが渡らなければ、俺はいくらでもシュートが打てるのだ」
「絶対上手くいかないと思うけど。」
「そんなことはやってみなければわからない!」
とりあえず、配置(?)につく一人と二匹。
敵側も、全員配置についたようだ。
「言い忘れてたが、この試合でもしお前らが負けたら―――」
「世界を滅ぼす魔法の生け贄になってもらうとかだろどうせ。」
「っ!?‥‥‥物わかりがいいな」
もう定番です。
「お前達が勝ったら‥‥‥‥まあ、そんな可能性は万に一つもないから安心しろ」
「なにをだよ。」
「先にゴールをいれた方が勝ちだ!ではいくぞ!」
するとパンタゴンは息をいっぱい吸い込み、叫んだ。
「プレイボール!!」
「それ野球。」
善行のツッコミを無視して、笛をふくパンタゴン。
ボールは、最初はどうやらパンタゴン側に行くようだ。
なんとなくせこい。
「では行くぞ!」
同じセリフを言って、パンタゴンはドリブルを始めた。
「む、確かに速いぞ!」
ダガッシーが驚いた通り、体の大きさ程もあるボールを蹴りながら、それこそ人並みに俊敏性がある動きをしていた。
「ぬぐ、しまったぁ!」
最初にパンタゴンに向かっていったダガッシーは、一瞬で抜かれてしまった。
「ふっ、遅いな!」
妙にかっこよく言ったパンタゴン、続いて行った泥っちもあっさり抜かれてしまった。
そして最後に立ちはだかる善行。
「はっはっは!俺からボールを取れるかなぁ!?」
どんどんと迫ってくるパンタゴン。
ジグザグと不規則な動きをしながら近づいてきて、そして。
「はっはー!!」
抜けた!
シュッ
違った。
阻むように出した善行の足によって、ボールはあっさり取られてしまった。
単純に身長差の問題である。
「へぶぅ!!?」
スピードをつけていたパンタゴンは急に止まったボールに思いっきりぶつかり、情けない声を上げる。
「よし、行くぞぉ。」
無気力とも取れる声とともに、善行は上がって行った。
しかし、全力で上がるのではない。
あくまで、ゆーっくりゆーっくり。
というよりほぼ歩いている。
「少年、なにをしているのだ!?走らないか!!」
「えー、疲れたし。」
「駄々をこねないでくださいよ!あくまでも真面目にやってください!」
「いいよ、俺真面目殺しだから。」
「‥‥‥なんだそれは」
「真面目殺しと書いてシリアスブレイカーと読む。」
「「上条〇麻か(ですか)!!!」」
「とにかく、真面目にやらなくてもいいんだよ。」
どこまでもマイペースな善行だった。
「く、くそう‥‥‥バカにしやがって‥‥‥!」
鼻の天辺を赤くして、呻くように言ったパンタゴン。
もはや爽やかさの欠片もない。
フラフラしながらも立ち上がったパンタゴンは、ビシッと善行を指さして叫んだ。
「行けニャニャモン軍団!!アイツからボールを奪い取れ!!」
すると、
ニャニャニャニャニャニャー!!!
善行の方へニャニャモンが殺到していった。
「あ、危ないぞ少年!」
「うまく振り切ってください!」
妖精二匹が善行に注意を促すが、その時にはすでにニャニャモンに囲まれていた。
ニャニャー!
ボールの方へ殺到してくる。
すると、善行はなにかに注意するように言った。
「いや、ちっこいのがいっぱい来るとさ―――」
言いかけたその時。
プチ。
「ぷきゃあ!!?」
悲鳴とともに時が止まる。
「‥‥‥‥」
ニャニャモンを一匹踏み潰してしまった。
「‥‥‥‥」
歩みを止めて、ゆっくり靴を上げて裏を見ると、真っ赤な液体がびっしょり。
「「「ふ、踏み殺したーー!!!」」」
ダガッシー、泥っち、パンタゴンの声が見事にハモった。
「お、お前!か弱い俺たちの仲間になんてことを!!」
ワナワナと震えているパンタゴンに、一応弁明を言っておく。
「すまん。」
「弁明ですらない!?」
「集まってきたら、そりゃ踏むだろ。」
そう言って、仲間が一匹潰されて固まってるニャニャモン軍団に目を向ける。
その視線にビクッと反応するニャニャモン軍団。
一歩。
足を踏み出すと。
ニャニャニャニャーー!!!!
逃げていった。
「うおおおい!!俺一人でどうしろというんだ!!」
ニャニャモン軍団がどこかへと失せ、
グラウンドのパンタゴンチームは、パンタゴン一匹になってしまった。
どう考えても勝ち目などない。
「なあ、これもう俺達の勝ちでいいか?」
善行が勝ち確定の意を込めてそう言った。
すると、
「‥‥‥‥フッフッフ‥‥‥もう、こうなりゃなんでもありだ!!」
うつむいてブツブツ言ったと思ったら、急に顔を作った上げて叫んだ。
そして善行へ近づいていき、
「バーニングスライド!!」
火をふきながらスライディングして、あっという間にボールを取られてしまった。
「む、魔法とはセコいぞ!!ルール違反だ!!」
「ルールとかあったのかこれ。」
「‥‥‥‥ふっ、もうなんでもいい!魔法でもなんでも使って、俺は勝つ!」
うおおお!!っと雄叫びを上げながらゴールへと突っ込んでいき、
「くらえ!!スネークトルネード!!」
渦巻きの動きにさらにうねうねの動きを加えた超蛇行シュートを打った。
そのシュートは惜しくも狭いゴールのポストに阻まれ、大きく跳ね返っていってしまう。
「お前、シュート下手な訳じゃないの?」
「俺はシュートコントロールはないが、必殺技を何個も持っているぞ!」
とりあえず疑問に思って聞いてみると、そういうことだった。
「つか、さっきのそのままゆっくり入れに行った方がよかったくね?」
そしてもうひとつ思ったことを口にする。
すると、
「その手があったーーー!!!」
パンタゴンは思いっきり後悔を込めて叫んだ。
「やっぱバカだろコイツ。」
ちょうどその時に、コロコロと跳ね返ってきたボールがダガッシーの元までやって来た。
「む?よしきた!!」
つかさずドリブルを始める。
そこに再び、
「させるかぁぁぁ!!」
パンタゴンが火をふきながらスライディングしてきた。
「取られるものか!!ポテチライド!」
そこでダガッシーが六十センチはあるポテトチップを召喚、その上にボールごと乗り、スライディングを回避。
「逃がすか!!イナズマジャンプ!!」
空に逃げたダガッシーに向かって、電気を帯びたパンタゴンが凄まじいジャンプタックルをする。
「させませんよ!!お掃除トルネード!!」
そのタックルを、泥っちが引き起こした竜巻でダガッシーごと巻き取る。
器用にボールだけを受け取り、泥っちはそのままドリブルしていく。
「行かせないぞ!!砂塵の壁!!」
竜巻の中でぐるぐるしながらもパンタゴンは、懸命に呪文を唱えて辺り一面に濃い砂ぼこりを発生させる。
その様子を少し離れたところで見ていた善行は一言呟く。
「サッカーマンガか。」
こちらは決してイナズマイ〇ブンのような熱血サッカーマンガではありません。
グラウンドの中央で起きた砂ぼこりで様子が全くわからない。
果たして今どうなっているのだろうか。
と思っていると、
「ふぅおおおおお!!!」
額から血を流しながらも、パンタゴンは必死にドリブルをして砂ぼこりを抜け出てきた。
そして次の瞬間、二匹の悲鳴が響き渡る。
「「目が、目がぁぁーーー!!!」」
否、ム〇カの悲鳴だった。
砂ぼこりにやられたようだった。
「フッフッフ!これで俺の勝ちだぁー!!」
最初のイメージを微塵も感じさせないほど猛々しく叫びながらゴールへと突っ込んでいく。
どうやらシュートせず、そのまま入れに行くようだ。
このままでは負けてしまうが、幸い善行の立っている場所はコーナー付近。
パンタゴンは勝ちを確信し、善行に気づいていない様子。
やることは一つだ。
「ハッハッハッハッ!!死ねー!!」
大きく叫び、ゴールにボールを叩き込む寸前まで近づいた時、
「必殺ー、ボールの友達、左足。」
どこまでものんきな声が聞こえて、
どごぉ!!
「ごっふぅぅ!!?」
パンタゴンごとボールを横から蹴飛ばされた。
コートの外へきりもみしながら飛ばされていくパンタゴン。
そのままごしゃぁぁ!っと芝生の上を顔面ヘッドスライディング。
そのまま動かなくなった。
「ていうかここからでもシュート入るじゃん。」
続行不能なパンタゴンに代わり、ボールを軽くスローインしてそれを拾いに行った善行は、ほとんど端から端に近い距離を、速度をあまりつけずに蹴り飛ばす。
コロコロ転がっていったボールはそのままあっけなくゴール。
勝負はついてしまった。
グラウンド中央で、晴れた砂ぼこりの中ようやく復活した二匹は、目に闘志をみなぎらせながら、叫んだ。
「「ボールはどこじゃぁぁ!!!」」
「あっこ。」
ピッと善行が指さす。
その方向に勢いよくブンッ!っと振り替えると、ゴールに入ったボールが目に入った。
「「‥‥‥‥‥」」
二匹の熱は一気に冷めていく。
そして戻ると、ガクッと膝をついて項垂れてしまった。
やはり熱血サッカーなど無理だった。
善行の真面目殺しは強力だった。
「おー善行。どこ行ってたんだ?」
更衣室に戻ると、ちょうど着替え終わった虎鉄にそう尋ねられた。
「友達とおしゃべりしてた。」
「は?」
「まあ気にしなくていいよ。」
端のロッカーを開いて、せかせか着替え始める善行。
体操服を脱いで鞄に入れ、ロッカーにかけてた制服を着用する。
そうして、着替え終わるまで待っていた虎鉄と教室に帰っていく。
「寛人は?」
「ああ、あいつは係だから次の授業の自習課題を取りに行ったよ」
「そうか。」
ゆらゆらと鞄を揺らしながら歩く善行。
中に入っている妖精二匹は、暗い気分のままそっと呟いた。
サッカーなんかやるんじゃなかったと。