お菓子な剣は好きですか?   作:九呂巣

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しりとり?ふっ、簡単‥‥‥

 

「しりとり?ふっ、簡単‥‥‥」

「なんだよ急に。」

夜。

自室にて、宿題を終えた善行が伸びをしている途中、机の端っこに腰かけたお菓子の妖精ダガッシーが唐突に言い放った。

それに対して何気なく返す善行。

「サブタイトルがな」

「知らねぇよ。」

「こんなセリフ、多分使いどころないぞ?」

「どうでもいい。」

サブタイトルにダメ出しなんてキャラクターのすることではない。

そういえば。

「そういえばお前、食事はどうしてんの。」

ふと思ったことを聞いてみる。

「む?どういうことだ?」

「いや、お前が何か食ってるの見たことないから、ちょっと気になってな。」

「にしても唐突だな」

考えてみれば、ダガッシーがなにかを食べている姿をほとんど見たことがない。

「私は完璧に地産地消できるから大丈夫だ」

「は?地産地消?」

「魔法で胃に直接お菓子を送り込むのだ」

「‥‥‥‥」

まるで霞を食べて生きている人のようだ。ひどく味気ない。

というか、食事が全部お菓子は不健康すぎる。

「地産地消はそういう使い方じゃねえよ。」

ツッコミの軸がぶれている!

「お前さ、味わいとか、旨いとか思いたくならないの。」

「むー‥‥‥考えたことがないな。物を口にすることがほとんどないし、そもそもおいしいものを食べたことがない」

「‥‥‥」

味気ない。

とても味気ない。

それでは虚しいではないか。

ならば。

情けをあげよう。

「じゃあ、味噌汁飲んでみるか。」

「む、聞いたことがあるぞ。腐った豆を水に溶かして刻んだ野菜を突っ込んだ黄色い液体だな」

「変な言い方すんな。食べ物じゃないみたいに聞こえる。」

「おいしいとも聞いたぞ」

「まあ、日本人なら大体は好きだろ。俺も好物だ。」

「ふむ。少年が好んで飲んでいるものか‥‥」

少し考え込む素振りを見せた後、善行を見上げて言う。

「私も飲んでみたいな」

「オーケー。んじゃ待ってろ。」

そう言って、部屋を出ていった善行。

おとなしく待っていると、三分くらいしたところで善行が戻ってきた。

手にあるのは、『あっという間にすぐに沸く』のポットと茶碗、インスタント味噌汁の袋。

「これが味噌汁か?」

「今から作るんだよ。」

コトンとそれらを机に置き、自らも椅子に座った善行は、袋からインスタント味噌汁の素を茶碗の中に開け、ポットの中のお湯を注ぐ。

ジョボジョボジョボーっと注ぐ音とともに味噌汁の香りが広がっていく。

「おおー!見事に黄色くなったな!」

じゅー。

沸騰したてのお湯のいい音がした。

「あぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃぢゃ!!!!」

ダガッシーは頭から熱湯をかけられてしまった。

壮絶な熱さにのたうち回り。

そして。

「どひぅぅ!!?」

机から真っ逆さまに落ちた。

痛みでどうにかなってしまいそうだ。

「その言い方止めねえとお湯かけるぞ。」

「やった後に言うな!! どうもすまなかったな、変なこと言って!!」

やや怒り気味に謝罪を述べたダガッシー。

しばらくのたうち回り痛みが引いた後、のっそりと机の上に戻ってくる。

「大人しく飲めよ。」

「うむ。ではいただく」

軽く合掌したダガッシーは、全身で茶碗を掴んで茶碗を傾け、味噌汁を少し飲み込んだ。

「これは!?」

驚いたように茶碗をゴトンと置いたダガッシーに、少し得意気になった善行。

「上手いだろ?」

自分の好きなものがわかって貰えるのが嬉しいのか、思わず感想を求めてしまう。

「熱いな」

じゅー

熱湯滝行再び。

「ぎぃやぁぁぁ!!!」

最悪な感想だ。

「お前のせいで机が水浸しじゃないか。」

「私!?私が悪いのか!?」

ゴロゴロ転がり回りながらツッコむダガッシー。

待つことしばし。

「‥‥‥‥ふぅ。」

痛みが引いたダガッシーがむくっと立ち上がる。

「にしても、今日は妙に優しいのだな」

ダガッシーはふと思ったことを言う。

「お湯かけられて優しいって。お前Mか。」

「違う違う。なんでわざわざインスタント味噌汁を取って来てくれたのだ?」

ツッコミこそ過激だが、確かにいつもに比べてダガッシーに気を配っているような様子である。

「いやまあ、味噌汁がどうとか言ってグツグツの熱湯をお前にかけたかっただけだけど。」

「最悪だ!!」

悪魔の所業である。

「止めてくれよ!体が溶けていってしまうだろう!!」

「火傷もしてないじゃん。」

「それは何か特殊なの!!」

「なにがだ。」

思い出せば、最初の頃、レンジに突っ込んで熱したことがあった。

といっても、昔のことではないが。

「まあでも、こいつで出汁をとっても悪くないかもな。」

「悪いわ!!ものすごく悪いわ!!大体味噌汁に砂糖の味は合わないであろう!!」

「何事も挑戦が大事だ。」

「かっこよく決めやがった!!」

グッと立てた善行の親指の先がキラリんと光る。

そして何故か、水浸しになった机をダガッシーが拭かされることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーっす」

次の日の朝。

鞄を机にかけて、椅子に座ると横から虎鉄が歩いてきた。

どこか気の抜けた挨拶。

少しお寝むの様子だ。

「おはよう。」

「んー。‥‥‥くぁっ」

善行の返事にうなずいて、あくびを噛み殺しながら自分の席に戻っていく。

「昨日ゲームやり過ぎたんだって」

虎鉄の様子をジッと見ていると、横から寛人が話しかけてきた。

「寛人か。おはよう。」

「おはよう」

挨拶の習慣は大事だ。しっかり挨拶はする。

「ゲームやり過ぎたって、いつものことじゃないのか。」

「なんか、古いゲームを見つけて、久しぶりにつけたら面白かったらしくって。それで徹夜したんだと」

「バカだな。」

「だよな」

罵倒の集中砲火を受ける虎鉄は、机に突っ伏してすでに夢の世界へ行っていた。

「おーい、席に着けー」

そこでがらりと戸を引いて、クラスの担任が入ってくる。

そして、善行の今日の学校が始まる。

 

 

 

 

一時間目。

数学。

『Q4 AくんとCくんがしりとりをするとき、Aくんが勝つ確率は――――』

「‥‥‥‥」

 

二時間目。

現代文。

『二人はしりとりをしながら、この辛さを――――』

「‥‥‥‥」

 

三時間目。

古典。

「えー、今日はこの『☆古文単語でしりとり☆』という教材を持ってきたので――――」

「‥‥‥‥」

 

四時間目。

体育。

「今から、しりとりをしながらラリー勝負をしようと思います。負けたペアは罰ゲームとして――――」

「‥‥‥‥」

 

五時間目。

パソコンルームにて

「えー、じゃあこのiP〇dにあるS〇riと臨機応変に‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

六時間目。

英語。

「それでは、リピートアフタミー。hip capture」

「「「hip capture」」」

「hip capture」

「「「hip capture」」」

「‥‥‥‥」

 

 

 

 

 

「最後の二つは無理あるだろ。」

「どうしたのだ、藪からstickに」

げしっ

善行の回し蹴りがダガッシーに炸裂。

壁まで吹き飛ばされて行き、めきょっと壁に大激突した。

善行は決め顔で一言。

「材〇座アタック。」

「違うよ!!?それは回し蹴りだよ!!?」

「静かにしないと、お前も中二病にしちゃうぞ。」

「もう意味が分からない!!そもそも喋りだしたのはそちらではないか!!」

「まあそうだけど。」

その夜。

善行の部屋のこと。

「それで、どうしたのだ?」

「今日はしりとりがテーマなんだなって。」

テーマとか言わないでほしい。

「そういや、前回のパンダはどうなったんだ。」

だから前回とかそういうこと言わないでほしい。

「ああ、パンタゴンならあの後、きっちり処理しておいたぞ」

「‥‥‥‥」

パンタゴンとは、先日やって来た妖精だ。

超熱血サッカーを繰り広げたが、善行によってあっさり幕を下ろされる。

その際、善行の左足に思いっきり蹴り上げられ、そのまま路上に転がる石のごとく動かなくなったのだが。

あの後、きっちりダガッシーが処理したようだ。

「処理って。」

「いつもやってるだろう?」

勿論、爆破のことだ。

「それ、めぐ〇んのエクスプ〇ージョンとどちらが強いんだろうな。」

「さすがにあちら側だろう」

「チョコとあらば無差別に大爆発するだろうが。」

「む。まるでわたしを爆破魔のように言うのだな」

「事実だろ。」

むしろダガッシーの方がテロリストに見えて仕方がない。

「‥‥‥‥ふぅ」

その時。

ガチャリと扉を器用に開けた泥っちが部屋に入ってきた。

「おい待て。」

「? どうしたんですか?」

「なに堂々と家の中を歩き回ってんだよ。」

「仕方ないんですよ。僕のスタマックがピンチだったんですから」

「そのしゃべり方やめろ。」

ルー某を思い起こされる。

「見つからなかったので大丈夫ですよ」

「勝手に部屋を出るなって言ったろ。」

「まぁまぁ、良いではないか」

「黙れモジャクソ。」

「モジャクソっ!!?」

ダガッシーだけひどい言われようだった。

「と言われても、この家にはお姉さん以外に居ないではありませんか」

「その油断が命取りだっての。よく言うだろ。」

前に善行が謎の島に行っていた間に母親の雪穂は帰ってきていたのだが、帰ってきたその二日後にはまた父親の所へ帰っていってしまったのだ。

そしていつもの雪音と二人暮らし。

「一応気を付けてますよ」

適当に返した泥っちは、折り畳み式の携帯型ゲームを開いてゲームを始めた。

「‥‥‥お前、なにしてんの?」

「? これのことですか?」

「そうだけど。」

「ディーエズです」

「濁音つければ良いと思うなよ。」

ディーエズとは、妖精界で大流行の携帯型ゲーム。

「なんですか、いちゃもんですか」

「もういいよ。」

これ以上は不毛だと感じた善行は速攻会話を打ち切った。

「聞かないんですか?」

「なにを。」

「なんのソフトをプレイしているのか」

「聞かない。」

「実はですね――」

「言わなくていい。」

善行を無視して泥っちが楽しげに言い放つ。

それほど言いたかったこととは。

 

「新作のしりとりんごです!」

 

「ねえ、なんなのさっきから。」

「どうしたのだ、少年」

思わずそう呟いた善行にダガッシーは聞く。

「なんでさっきからしりとりを意識させようとしてくるんだよ、いろいろ。」

「さっき自分で『今日はしりとりがテーマだ』とか言っていたではないか」

「『しりとり』をチマチマチマチマ織り混ぜてきてすごくうざいんだよ。」

過剰なアピールは、あざといを通り越してとてもうざい。

しかしまあ、我慢するしかない。

「それでですね、このソフトは――」

「続けんでいい。」

「しりとりから始めて!リンゴと言った人が勝ちです!」

「ただのじゃんけんじゃねえか。」

後攻が必ず勝つ寸法になってしまう。

「何なんだよ、そのつまらないゲーム。」

そもそも、ゲームソフトにするほどのものではない。

「つまらないとはなんですか。世界で二十億人がネット対戦でプレイしているというのに。」

「‥‥実は妖精ってバカしかいないだろ。」

表してみれば、何億匹もの妖精がゲーム機を持って世界規模でじゃんけんをしているという図だ。

ものすごくシュールな光景である。

「‥‥‥‥はぁ。」

げんなりして、思わずため息。

「やってみたくなりました?」

「ならねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

善行は登校するなり、ガバッと自分の席に突っ伏した。

昨日、泥っちから散々ゲームの催促を受け、夜中まで続いた。

最終的に説得(?)して大人しくさせたのだが、ツッコミをやりすぎたせいで疲れてしまったのだ。

段々微睡んでいく意識の中。

その心地よさを邪魔するものは必ずやってくる。

「よっす」

自分の肩を叩く共にそう発したのは虎鉄だった。

今日は元気いっぱい。

しかし今はそのことがとてつもなく迷惑で仕方がなかった善行は。

「‥‥‥‥」

「ん? 無視か?」

寝入ったふりをしてやり過ごすことにした。

早くどっか行けと念じながら虎鉄が立ち去るのを待つ。

「おーい」

しかしなかなか立ち去ろうとしない。

というか、さっきから肩を叩いてきてすごく煩わしい。

「寝てんのかー?」

バンバン。

叩く強さが強くなってきた。

「おーーい」

ドンドン。

というより、殴るの域にまで達してきた。

ので、

ブスッと。

「ギャーーー!!!」

目を抑えて床を転がり回る虎鉄。

肩だけ動いて、だいたい人の目がある高さぐらいのところにピースを前につき出した状態の善行。

お得意の目潰しだ。

「お前、なんてことを。」

「なんてこと!!?それはこっちのセリフだ!!」

「俺に手を汚させるなんて。」

「なんたその言い方!!俺はまだ生きている!!それ以前に目潰しに対して何か言うことはねぇのか!!?」

「スマソ。」

「誠意の欠片もねぇ!!」

よく見たら『ソ』であった。

穏やか(?)な会話をしていると、横から声をかけられる。

「何してるの? 二人とも」

そちらを向くと、隆がちょうど善行の横に歩いてきていた。

「おはよー。」

「おはよう猪飼くん」

挨拶をすると、穏やかな笑顔で返してくれる隆。

相変わらず爽やかだ。

その笑顔は、見ているととても癒されてくる。

「それで、虎鉄くんはなにをしてるの?」

「床の掃除。」

「へぇー! 偉いね☆!!」

「偉いねじゃねぇ!!目が!!目がぁーーー!!!」

よほど強力だったのだろう。未だに回復しない。

と思われがちだが、目潰しは非常に危険な行為であることをご理解いただきたい。

未だ転がり回る虎鉄に、隆は優しい眼差しを向ける。

「大丈夫だよ。今さら虎鉄くんの奇行に、とやかく言ったりしないから」

声色も優しい。

「やめろー!!俺は別に好きでこんなことしてるわけじゃねぇ!!!」

虎鉄は誰が相手でもいじられるようだ。

「それにしても。」

「ん?」

善行は、隆が現れてから思っていたことを聞いてみる。

「なんか、久しぶりじゃないか。」

「え、何が?」

「いや、なんか久しぶりに会った気がする。相変わらずとかではないはず。」

すると、隆はより一層爽やかな笑顔を作った。

「そんなことないよ。作者に存在を忘れられていたなんてことなんか、全然ないカラ」

笑顔なのに妙に力強さを感じる物言いだ。

なにかを強く訴えているのはよく伝わった。

「お前、存在感薄いもんな」

ある程度の痛みから復活した虎鉄が、ずいっと横から入ってくる。

しかしその一言はかなり致命的だ。

「虎鉄くん、今度は耳がいい?」

「うわっ!わかった!!わかったごめん!!!!わかったからその二本のシャーペンを仕舞えぇ!!!!」

どこからともなく取り出したシャーペンの先がキランと光り、動揺した虎鉄はその手を必死に押さえ込む。

が、謎の力を発揮した隆の腕はびくともしない。

段々と、虎鉄の耳の穴に近づいていく。

「やめろぉぉぉぉ!!!!」

そうやっていることしばらく。

虎鉄はギリギリのところで耳を守り抜き、隆は落ち着きを取り戻していた。

「‥‥‥キャラも忘れられてるだろ‥‥」

「なにか言った?」

「いえなにも」

その優しい微笑みには、あの頃の気弱な少年の面影が全くなかった。

 

その時、唐突に起こった。

 

「そういや、寛人はまだ来てないのんびり?」

「いや、まだ来て‥‥‥‥ん?」

「そうかっこう」

「今日は遅いネコ」

「‥‥‥‥なに。これ。」

虎鉄と隆の語尾が急におかしくなった。

「そのふざけた語尾はなんだ、二人とも。」

「ふざけた語ビンゴ?」

「なんのこトイレ?」

「虎鉄だけは殴って良いか。」

「なぜダース!!」

本人達には自覚がないのか。

よくよく耳を澄ましてみると、他のクラスメート達の会話も十分におかしくなっていた。

「‥‥‥それでネパール‥‥」

「‥‥‥なにそレート!!!‥‥‥」

普通の語尾にもう一つくっつけてしゃべっているその物言いは。

「‥‥‥うぜぇ‥‥‥」

かなりうざったい。

何回も何回もこのしゃべり方をされると、なにかイライラしてしまう。

しかしとりあえず、このイライラは押さえて事態の究明をしなければ。

心当たりは一つしかない。

鞄を持って、教室を出ていこうとする。

「どうしたの猪飼くンジャメナ」

「サボる気カッター!?」

「‥‥‥‥なんか調子悪いから帰るわ。」

主に語尾のせいで。

「え、うん、わかったヨーデル」

「お大事にナッツ!」

「‥‥‥‥」

何故かこう、虎鉄のだけは特に腹が立ってしまう。

これが徳の差とか、そこらへんのやつかと事故解釈。とっとと教室から出ていく。

とりあえず、階段を降り、一階廊下の突き当たりの人気のないトイレの個室に駆け込む。

ドアを閉めるなり、鞄を開く。

今日は連れて行くなんて言ってないのに。

だというのに何故か、ちゃっかり入っちゃってるのだ。

「‥‥‥お前ら絶対トラブルメーカーだろ。」

「何故にそんなことをいきなり言われるのだ!」

「同感です!」

鞄の中からダガッシーと泥っちが飛び出して、肩に乗ってきた。

「お前ら、語尾はおかしくなってないんだな。」

「ふっ、当たり前よ!」

「元からおかしいからか、頭とか。」

「お菓子だけに!!」

ブスッ

「ギャアアアアアア!!!!」

「容赦ないですね‥‥」

やっぱり目潰しは妖精に限る。

手に馴染んだこの感覚に満足する善行。

そういや、これって妖精相手だから大丈夫だけど、人間相手にはまずいかなぁ。

後で虎鉄に謝っておこう。

そう考えるついでに、中に入れていたオード・スチースの袋をほどいておく。

「んで、本題だけど。」

「うむ」

「これは多分妖精の仕業だろ。」

「妖精ウォッチ!!!!」

ブスッ

「ぎゃぁぁぁ!!!」

「妖精の仕業だろ。」

「さしずめ僕はジ〇ニャン辺りでしょうか‥‥‥よくわかりませんが‥‥」

あなたはネコじゃない、イヌだ。

「おい。」

静かな脅迫。

「んひ!!?は、はい!!そうですね!!近くに反応があります!!」

誤魔化すため、慌てて話を進める泥っち。

慟哭を上げているダガッシーはもちろん無視の方向。

「どこだ。」

「ああ、ええっと‥‥多分屋上です」

取り出したタブレットのようなものを確認しながら泥っちは言う。

「じゃあそこ着くまで鞄の中に入っとけ。」

「了解です」

大人しく鞄の中へ戻っていく泥っち。

「おい。」

「ンギャァ‥‥ゥァァ‥‥なんだ‥‥少年‥‥」

タガッシーをつまみ上げた善行。

「さっさと戻れ。」

「ふぁぶっ!」

タガッシーをそのままポンと鞄の中に投げ入れて、鞄を閉じてトイレを飛び出した。

階段を駆け上がり、屋上の扉を開ける。

するとそこには、

 

「めぇぇ」

 

と鳴くキリンがいた。

勿論ダガッシーサイズの。

 

「‥‥‥ツッコまねぇぞ俺は。」

「アイツはなにか勘違いをしているな」

「キリンってあんな鳴き方でしたっけ?」

ひそひそ話していると。

「おい」

キリンが話しかけてきた。

妙に威厳たっぷりの声だった。

「なんだ貴様らは」

穏やかなキリン顔を向けながらそう言ってくる。

「人に名前を聞くときは、まずは自分から名乗――」

ブスッ

「なんでぇぇ!!?」

「この流れは絶対あれだから止めろ。」

「ふっ、我に名を名乗れと申すか」

「もう手遅れみたいですよ」

「‥‥‥」

そう言ったキリンは、体を正面から横向きに変え、その穏やかな顔だけこちらに向けて、言った。

 

「私はしりとりの妖精、ヤギリンだ」

 

「はいどーん。」

とりあえず鞄に合った国語辞典を全力投球した。

「おわっ!!」

足元に飛んでいったそれを、地面に着けていた四足の内、前の二足を上げて回避した。

というより完璧にイナバウ〇ーだ。

「あっ危なかろう!!」

「二足で歩けるんじゃねえか。」

「妖精に四足歩行するやつはおらん!」

「避け方とか、もろもろツッコミどころが満載ですね」

「もういいよ。」

善行はツッコミを放棄した。

とりあえず話を進める。

「なにしてんのお前。」

「なにって、ひなたぼっこだが」

「じゃあ消えろ。」

「うぉわっぷ!!」

今度は英和辞典をピッチング。

ヤギリンは再びきれいにイナバウ〇ーを決める。

「さっきからなんなんだ!!」

「こっちのセリフだ。語尾をとっとと戻せ。」

「‥‥ふふん?語尾?なんの話だ」

本題に持っていくと、急にニマニマし始めた。

その顔がウザイことウザイこと。

「じゃあいい。」

アゲイン、英和辞典。

「うぉわぁ!!」

アゲイン、イナバウ〇ー。

「なぜ英和辞典だけ二冊ある!!」

「答える気になったか。」

「無視か!!我はヤギだ!!」

「妖精だろ。というより虫けらだ。」

敵とはいえ、出会ったばかりの相手に虫けらはひどい。

まあ、辞典を投げつけるのもかなりだが。

「とっとと言わねえと辞典のシミにするぞ。」

「まだあるのか!?」

「少年‥‥重くないのか?」

「その鞄から三冊も辞典が出てきたのが甚だ疑問なのですが‥‥‥というか辞典なんて最初は入ってませんでしたよ?」

「いいんだ。辞典限定の四次元ポケットだから。」

「「「限定!?」」」

妖精三匹の驚愕の声が被る。

「早く言え。」

「‥‥‥‥‥いいだろう」

辞典が空中に乱れる様を思い浮かべ、悪寒を感じたヤギリンは喋りだした。

「我はこの世界を破壊しにきた」

「なんで。」

「命令だからだ」

「‥‥それで。」

「それで、言葉による支配をここから始めたのだ」

「なんで。」

「命令だからだ」

「‥‥んで、その言葉の支配ってなんだ。」

「人の脳を語彙能力の部分から支配していくものだ。」

「なんでそこから支配するんだよ。」

「そういう決まりだからだ」

「お前実は説明する気ないだろ。」

「な!? ちゃんと言ったではないか!!」

「もういいよ。それじゃあ、お前は、俺らの敵なんだな。」

「むぐっ‥‥‥そうだ。無駄な抵抗は止めて、大人しく―――」

「ならいきなり終末だ。」

バシュン!

オード・スチースを瞬時に取り出して、常備のメソトスで衝撃波を打ち出した。

だが。

「‥‥‥またか」

まあいつものごとく、防がれる。

展開は言っている。

ヤギリンはまだ負けれないと。

「ハッハッハ! 防御結界だ!! それを無駄な抵抗と言うんだ!!」

攻撃を防いでいい気になったヤギリンは高笑い。

「‥‥‥うわぁ、まじラッキーだわ‥‥」

「おい今ボソッとなんて言った。」

「え!?いや、運良くミラクルなタイミングで防御なんて言ってないぞ!!」

慌てすぎのヤギリン。

「‥‥‥‥」

展開ってずるい。

そう思った。

だが、それにしたって、得意気に笑うこのヤギの顔はウザすぎる。

「‥‥‥殴りてぇ‥‥」

「まあまあ、落ち着くのだ」

ダガッシーにあやされるが、この怒りはなかなか抑えられない。

だから。

鞄から。

 

「くらえ。」

 

靴を出して投げつけた。

 

スパコーーン!

「あぎぁっ!!?」

 

見事にクリーンヒット。

 

「‥‥‥貴様の鞄は一体どうなっているんだ‥‥」

「教科書しか入らないちゃちな鞄だよ。」

「なぜそこから辞書三冊と靴が出てくるんだ!?」

「そういう仕様なんだよ。」

「どんな仕様だ!!」

そもそもそれは鞄ではないと思う。

「というか、さっきの四次元云々の話はどこへいったのだ」

「さあね。」

「適当すぎる‥‥‥」

「心配すんな。今回きりだ、この設定。」

設定言うな。

「そもそも防げよ、ヤギやろう。なんで靴は通るんだよ。」

「確かに謎だな。胡散臭さマックス」

「その胡散臭いものの代表格だろ、お前。」

妖精界には適当が溢れているのだろうか。

まともだったことがほとんどないまである。

「‥‥‥もういい。早速勝負だ」

ヤギリンはこの不毛な会話を打ち切った。

「んで、なにをすればいいんだ、俺たちは。」

「貴様等には、今から我としりとりをしてもらう」

そう言って、首に下げてある鈴を揺すって鳴らした。

すると。

「ん。」

「むむ」

「な、なんですか」

屋上の橋に、巨大な砲台が上から降ってきた。

どん!っと音を立てて落ちたそれは、砂ぼこりの中からも立派な銃身を見せている。

「三秒以内に答えられなかったり、『ん』か付いたりしたら、そこの砲台でドカンだ」

「オーバーキルだろ。」

「もし我が負けたらこの結界を解くことができるぞ。」

「お前はドカンされないのか。」

「うむ」

「せこすぎるだろ。」

「まあ、どのみちこれが終われば防御結界は解除されるんだがな」

「殴っていいか。」

明らかにハイリスクローリターンだ。

しかし、それはそこまで変わらないだろうが。

「ていうか、知ってるか?しりとりって相当不毛なゲームだぞ。」

「では早速スタートだ!!」

「無視か。」

そうして、善行達のしりとり対決が始まった。

「我から始めよう。しりとり」

先攻、ヤギリンが『しりとり』と始めた。

次は善行達だ。

「そちらは三人で一チームだ。誰が言ってもよいぞ」

「そうか。」

「じゃあ少年からで良いぞ」

「フッ‥‥楽しみにしていてくださいね。しりとりんごで鍛えたしりとり力、見せてあげますよ!!」

「多分その機会はないと思うぞ。」

三秒が立ってしまう前に、善行が決める。

 

「リボン」

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

最初からクライマックスだった。

「「「なぜ!?」」」

妖精三匹が異口同音で叫ぶ。

「なぜ最初にそれが出てくる!?」

「普通は『ゴリラ』とかではないのか少年!!」

「頭おかしいんですか!?」

「うるせーな。」

「うるさくもなりますよ!!いきなり負けるやつがどこにいるんですか!!」

「そうだそうだ!!チンパンジーでももうちょっと続けられるまであるぞ!!」

「ここにいるけど。」

「あーもう!! その受け答えされたらもう!! あーもう!!」

「これだから少年は少年しているのだ!!」

「お前ら、あんまりカリカリすんなよ。」

「「それは出来ない相談だ!!」」

「‥‥‥」

憤慨しすぎて二匹とも顔が真っ赤になっていた。

「ふ、‥‥‥ふんっ。まあいいだろう。貴様らの負けだ」

ヤギリンは突然のゲームセットに動揺しながらも、勝者の威厳を張る。

ヤギリンの言葉で、ガタンと砲台の銃口がこちらを向く。

「さあ、くたばれ!!」

チュドーーン!!

グレネードランチャーとかだったのだろうか。

超高速で打ち出された球は善行の足下に着弾。

そのまま大爆発した。

もんもんと砂ぼこりを上げ、地面には大穴が開き、下の無人の教室が瓦礫と砂でぐちゃぐちゃになってしまった。

「ハーッハッハッハ!!」

実に気持ちよさそうに高笑いをするヤギリンだが。

まあ待て。

そんな簡単に終わって良いはずがないだろう。

ヒュルルル。

床の大穴からなにかが飛び出した。

空高く上がったそれは、そのまま綺麗な弧を描き、落下を始める。

ヤギリンは全くその存在に気づいていない。

それはそのまま自由落下を続け、そして。

 

ごちん。

 

「あべし!!」

 

ヤギリンの頭にクリーンヒット!

 

「だから、そんなあっさり終わるはずがないだろ。」

ひょこっと。

大穴から顔が一つ。

もちろん、善行だ。

どう登ってきたのか、崖捕まりした手でそのまま体を上に上げる。

「「四冊目があったのか‥‥‥」」

肩に乗るダガッシーと泥っちが呟く。

さっき宙を舞ったそれは、漢字辞典だった。

本当に辞典ならいくらでも出てきそうである。

「ほら、タイマン勝負だ。」

「ふっ、忘れたか!!我には防御結界がある――」

「ないだろ、もう。」

「は?」

「いや、だってもう勝負はついたんだからもう攻撃できるんだろ。自分で言ってたじゃん。」

さて、ヤギリンはなんと言っただろうか。

『まあ、どのみちこれが終われば防御結界は解除されるんだがな』

ヤギリンが言うこれとはしりとりだ。

しりとりはもう肩がついてる。

つまり。

ナウ、やりたい放題。

「そんなとんちが効くか!!」

「だったら試してみるか。」

「むぎゅぅ‥‥‥‥」

「言葉には気を付けるんだな。」

そうして、取り出したオード・スチースを降り下ろそうとして。

 

「くそぅ!!」

 

ヤギリンが懐からなにかを投げ上げた。

 

そして、それは重力で加速度が落ち、空中に静止した瞬間。

 

 

『ナスナザース!!ナスナザース!!』

 

 

ノリノリな声で謎の言葉が大声で響きだした。

 

「‥‥‥え、なにこれ。」

「「さぁ」」

ダガッシーと泥っちはそろって『┐('~`;)┌』のポーズ。

大体答えてくれる二匹も本当に検討もつかないようだ。

「だが‥‥どうやら魔法のようだぞ」

そうしている今も、ヤギリンの投げたそれは空中に静止した状態で声を響かせている。

「どんな。」

「そこまではわかりませんけど、なにか大変なことになりそうな予感が‥‥」

「おい、止めろってそういうの。フラグになるから。」

「‥‥‥残念ながら、もうなってるらしいぞ」

そう言って、ダガッシーは先ほど自分達が出てきた扉を指差した。

そこから、ドドドドと、音が聞こえてくる。

「‥‥‥‥」

「‥‥‥僕はなにも悪くない」

ゴスッ

「プキャァ!!」

辞典チョップが泥っちの頭に食い込む。

「本当になにも悪くないのに!!」

泥っちが叫んだ瞬間。

 

ドンドンドンドン!!

 

扉を強く叩く音が響き出す。

 

「「んひぃ!!」」

「軽くホラーだな。」

 

そして、

 

ガタァァァン!!

 

一際大きな衝撃と共に扉が大きく弾け飛ぶ。

 

そして中からやって来たのは。

 

「ひょこっとノリノリ急にボケポーズぅぅぅぅぅぅ!!」

「もちろんニュースページ校舎へ飛ぶ大きな影響食い込む食い込む食い込むぅぅぅぅぅ!!」

「りんごりんごりんゴリランチャーブランチドカン延長ぅぅぅぅぅぅ!!」

 

訳の分からないことを叫ぶ学生服の生徒達だった。

目を見ても明らかに正気ではないのが分かる。

 

「「うわぁ‥‥」」

ドン引きするダガッシーと泥っち。

「ハーッハッハ!! あれはな、聞いたものを操る魔法が埋め込まれた道具!! 『あらまほし』だ!!」

「もはや意味が分からねぇよ。」

「‥‥‥これ本当に高かったんだぞ。一個三十万だぞ‥‥使いたくなかった‥‥‥」

「おい、またボソッとなんて言った。」

そう言った瞬間、震えた声が聞こえてくる。

「あ‥‥‥あれは‥‥‥‥発音戦士シリトリスルンジャーの生産限定版の特別品‥‥‥‥ッ!!」

「なんやかんやで五個限定でしか作れなかった、実戦にも使えるおもちゃがまさか‥‥‥‥ッ!!」

「あれおもちゃなのかよ。」

ダガッシーと泥っちがワナワナしていた。

というか、実戦に使えるおもちゃは最早武器ではないか。

武器を子供に売ってどうしようというのだろうか。

「しかもなんだよシリトリスルンジャーって。レンジャーと子供なめてんだろ。」

「なッ!? シリトリスルンジャーはとてつもなく強いんですよ!?」

「そうだぞ!!四八時間相手を罵倒し倒して自爆に追い込む最強の戦士なのだ!!」

「普通に戦わねえのかよ。陰湿すぎるヒーローだな。」

子供の夢もぶち壊しだ。

四八時間も罵倒するなど、嫌みを通り越して悪魔的ですらある。

そしてシリトリスルンジャーのしりとりはどこへ行った。

「やっぱりこっち来てるぞ。」

なんて話している間に忘れていた、ヤギリンに操れている、というより狂気に陥っている生徒達がドンドンこちらへなだれ込んでくる。

「おふろおふろおふろおふろおふろおふろおふろおふろぉぉウウウウウウ!!!」

「フォォォォォォォォォォォォォユゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」

「この叫びもあの妖精が指示か?」

「いや。どうやら負担の大きい信号を送り込んで無理やり使役しているらしい。あれは多分そのせいだろう」

『ナスナザース!!ナスナザース!!』

「フォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

『ナスナザース!!ナスナザース!!』

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

『ナスナザース!!ナスナザース!!』

「ィェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアア!!!」

「すまん、煩くて聞こえなかった。」

声が大きすぎて、こちらの会話がかき消されてしまう。

「逃げるぞとりあえず!!」

とりあえず大声で言う。

「どこにですか!!」

その瞬間、三人の視線が集まるのは、先ほど落ちた大穴。

 

数瞬の沈黙。

 

「「「降りるぞーー!!!!」」」

 

穴へ飛び込んだ。

「んおっと。」

ズザっと砂だらけの床に着地する。

そして扉を開けて、無人の廊下へ走り出した。

「「うひゃぁぁぁ!!!」」

「いつからゾンビものになったよ。」

「「それは若干違うと思うぞ!!」」

 

ドドドドドドドドドドドドドド!!

 

「む!?」

響く大きな足音。

「来たか。」

振り替えれば。

恐怖のゾンビ(キチガイ)達がやって来ていた。

「ふひぃぃぃぃやぁぁぁアアアアアアアアアア!!!」

「アアアアアアアアアアアアババババババババババババババババ!!!」

「‥‥本当にゾンビ映画みたいだな」

「洒落になんねぇよ。」

走り過ぎていく教室の中には人が全くいない。

つまり後ろにいる集団で全校生徒揃ってるわけだ。

「階段で降りるぞ。」

善行は階段を降り始め、ダガッシーと泥っちは手すりをスルスル滑り降りた。

 

その途中、そいつは落ちてきた。

 

「思わせぶりな締め方だな。」

次回に続く。

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