書き直しました。
雲に阻まれ月は見えない。
月明かりもない夜の樹海のなかはとても鬱蒼として一度入ったら戻れないと思えるほど人の侵入を拒んでいた。
暗闇で視界もおぼつない樹海の夜道を二つの影が歩いていた。
前を歩いている影は人間の女のものだ。後ろの影はまだ小さく子供のものだと思われる。おそらく親子かなにかだろう。
子供の手を半ば引きずるようにしながら母親は後ろの子供を振り向かずに前だけをみて歩いていた。
「……おかぁさ…?…」
ズカズカとこちらを振り向かずに歩いている母親を不安に思ったのか、まだ舌足らずな子供が母親を呼ぶ。
「…っ!うるさいっ!!」
パシンッと乾いた音が静かな樹海の中に響いた。
母親がまだ幼い子供を叩いたのだ。
「お前が、お前がいなければ…生まれてこなきゃ…私は…わたしは…っ!……っ!」
ブツブツと聞こえづらくはあるが忌のこもった事を子供に言い続ける。その表情はまさに鬼のようであった。子供はなにがなんだかわからなそうにただ母親だけを見つめていた。
するとあとが残るほど強く掴まれていた手を前になげだされる
「…う、…ぁっ」
体が未発達の子供にろくな受け身もとれるはずもなく顔面から苔と木の根が生えている地面にダイブした。
起き上がり、後ろに立っている母親の姿を見る。
「……お、かあ…さん、おか、あ………」
子供のせつなげな呼び声にも反応せず母親は自分が投げ飛ばした子供を振り向くことなくそのまま背中を向けて駆け足でその場を去っていってしまった。
「………」
孤独と静寂。
母に捨てられた何も知らない子供は、帰ることもこれから生きていくこともままならない。たとえ帰ろうとしても子供の体力と足では帰る半ばで行き倒れるのがオチだ。
既にここまで歩かされたことで子供の体力は限界にきていた。
残されたのはただ死のみであることを子供は理解せずに死に絶えるのだろう。
疲れた身体には必ずしも眠気がやってくる。それが自らの意志に反してもだ。
子供も睡魔に抗えずその場に倒れ込む。寝てはいけないとわかっていても瞼が降りくる。
しかし、その眠気が一瞬にして吹き飛ぶような出来事がおこった。
「…??」
それまで静寂を保っていた木々たちが突然ざわめきだした。
「………」
その中心に巨大なナニカが存在した。子供が上を見上げると暗闇のなかでポツリと浮かぶ金色が子供をじっとみていた。
「…親に捨てられたか、人の子よ」
「……?」
「…わしと共に、来るか?」
金色が子供に問く。子供はわけがわからないとでもいうかのようにポカンと目の前の金色を見つめかえしている。
真っ直ぐに子供が金色を見つめている。
こんな得体の知れないものを目の前に不思議と子供は恐怖を感じなかった。逆に、とても優しかった。とても暖かかった。
「…うん」
自然と、子供の口から声が出た。戸惑う様子はない。
その様子をみた金色はよかろう、と頷いた。
「わしはラダドゥール」
「らだ、どぅーる…」
「お前の名は?」
「…なまぇ、…?」
途端に顔をキョトンとさせた子供に金色、ラダドゥールも釣られて目を丸くした。
「…ないのか?」
「…ない……?」
「……そうか」
「…そう…」
なんとも会話のキャッチボールが出来ているようでまるで出来ていない様子にラダドゥールは困ったように目を細め、しばらくなにか考えるように目をふせたがまたすぐに子供のほうを向いた。
「ならば、わしがお前に名をやろう」
それまで、厚い雲に覆われていた月が顔を出す。暗闇に包まれていた空間が、月明かりによってぼんやりと姿を表した。
ラダドゥールと名乗った金色はその巨体に見合った所々苔や葉が生えた大きな翼を広げ、高らかに声を発した。
「お前の名はヒノ。今からこの緑竜ラダドゥールの息子だ」
月明かりとともにラダドゥールの宣言を聞き周りの木々達が子供を迎え入れるようにざぁざぁと騒がしくなびく音が森中に響き渡った。
そして、人の子は死に竜の子になった。
初投稿です。