ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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yubittiさん、春風さん、ななちょんさん感想ありがとうございました!


第10話 こころの証 ①

 どれくらい走ったのかは分からない。

 既に俺の中で、時間という概念は消え失せているかのようだった。

 メニューからマップを選び、現在位置を確認する。いつの間にか迷宮区の東端まで来ていたようだ。居住区があるのは層の西端なので、どうやらこのまま、ここで野宿ということになりそうだ。幸いにも、アクティブのモンスターから気配を消せるテントはまだ数に余裕があった。

 

 「テントを……オブジェクト化」

 

 アイテムストレージからテントを選ぶ。

 テントはアイテムストレージからオブジェクト化された時、既に完成した状態でその場に現れるので、いちいち設置する必要がない。

 

 「広い……」

 

 普段使うテントとまったく同じのはずなのに、何故かそう呟いていた。もしかしたら、広く感じたのはユウナがいないからかもしれない。

 

 「なんで、こんなことになっちまうんだよ……」

 

 冷静に、理詰めで考えれば、俺が悪いのは一目瞭然。俺がもっと発言に気を使って、あそこで何も知らない無知なニュービーの振りをしていればよかった。

 そうすれば、シンカーやクラディールに攻撃されることも、誰もいないテントの中で独りで寝ることも、ユウナにあんなことを言われることもなかった。

 全ては自業自得。俺の不注意の……いや、SAOの隠しファイルにクラッキングを仕掛けた、その瞬間からの。

 

 「結局……一人なのか。何処まで行っても」

 

 姉さんはちゃんとユウナを連れて逃げ切れただろうか。

 視界の端に浮かぶ二人のHPバーは今のところは何の異常もなさそうだが、HPを削られてないだけで捕えられている可能性だって否定はできない。

 迷宮区にいるせいでこちらからメッセージを飛ばすこともできないし、手の打ちようがない。

 

 「……死んじゃえばいいのに、か……」

 

 あの時、ユウナが俺に向けて放った言葉。

 本心ではないと、ちょっとした動揺とその場の空気にのまれただけの、不意に口から出てしまっただけの言葉と信じたい。

 けれど、あれが本心であってくれれば、俺はきっと割り切れてしまうとも思う。ユウナが俺のことを心から憎んで、敵意に満ちた眼差しで睨めば、俺は全てを割り切ってずっと独りでこのゲームを戦い抜ける。

 こういう自分が嫌になる。こういうときは、あれは本心じゃなかったと信じて、ユウナを信頼するべきなのに、こうしてユウナが俺を憎んでいた時のことを考えてしまう。きっと、俺がこんな奴だからこういうことになったんだろう。

 メニューを開き、パーティの欄から『解散』を選ぶ。

 ここでパーティを解散して、ユウナをフレンドリストから削除すれば、こちらから連絡を取る方法はなくなり、今までのように、ソロプレイにスタイルを切り替えることが出来る。

 目の前に現れる、無機質な『パーティを解散しますか?』の文字。

 ここでYESを選択すれば、俺は孤独で冷酷な戦士になりきってこの世界で戦っていくことになる。それは今までと何も変わらなくて、今までそれについて疑問を持ったことなど一度もなかった。

 けれど、知ってしまった。味わってしまった。いつもユウナが居てくれて、背中を預けるにはちょっとだけ頼りないけど、いつも屈託のない笑顔を向けてくれる、無邪気で大切な相棒(パートナー)の存在を。

 

 「………くそ」

 

 『パーティを解散しますか?』という問いに対し、NOを選択しメニューを閉じる。

 一度でもパーティ解散を考えた自分がもっと嫌になる。

 誓ったじゃないか。かならずユウナをSAOから現実世界に帰すと。生きて一緒に帰ると。

 約束した。そして、その約束はまだ果たされてはいない。もう一度、ユウナにあって、本当のことを全て話す。俺が今までしてきたことも、これからどうしたいかも、全て。

 そう決めて、テント内にある灯りを消して寝ようとしたところで、周囲にプレイヤーの気配を感じた。

 片手直剣スキルや短剣スキルのような武器スキルは、その武器を振りまわし続けることで少しずつ上達していくのに対して、今発動した索敵スキルや隠密行動スキルはレベルアップ時のスキルポイントを割り振ることで上達する。

 ほとんどのスキルポイントを索敵スキルにつぎ込んでいる俺は、一応平均的なハイディングならば見破ることが出来るレベルにはなっている。

 テントから出て、ディフェンダーを構える。相手がクラディールたちの仲間で、最初から俺を捕える、あるいはPK(プレイヤーキル)するつもりで近づいてきているのなら戦闘は避けられない。

 

 「そこでハイディングで身を隠しながらこっちを窺ってる奴、出てこい」

 

 低い声でそう言うと、ソイツはハイディングをやめて茂みから出てきた。一応俺の索敵スキルで見破れる範囲には、隠れている奴はコイツ一人のようだ。

 出てきた奴は男で、年は多分俺と同じくらい。違っても一つか二つ。片手直剣を背負って、黒いコートに身を包んでいた。

 一見人畜無害そうな顔をしているが、シンカーの仲間じゃないとは限らないし、奴らが俺を賞金首でもしようものならよく事情を知らないプレイヤーすらも俺を追ってくるだろう。警戒は怠らない。

 

 「何の用だ」

 

 「……えっと、出来れば食べるものとテントを分けてほしいんだけど……」

 

 一瞬、言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……迷宮区でソロプレイなのにテントも食料も無しって、アンタバカか? 普通だったら相当ヤバかったぞ」

 

 「ははは……」

 

 「笑い事じゃないだろ……」

 

 結論を言うと、このプレイヤーはシンカーたちとは関わりのない、純粋に攻略中に道に迷った上に食料もテントもないというアホみたいな理由で俺に助けを求めてきた遭難者だった。

 なのに俺よりもレベルが7も上……つまり、21もあるのだから凄いんだか凄くないんだかよくわからない。

 

 「アンタのおかげで助かったよ。俺はキリト、よろしくな」

 

 「……ヴァイオレットだ。長いから好きなように略してくれ」

 

 「じゃあウド」

 

 「それは色々とアウトだろう!?」

 

 ヴァイオレットのヴとトをとってしかも濁点を付け替えただと!?

 い、一体どれだけ高度なボケをかますんだこいつは……!?

 

 「別に略さなくてもいいだろ。格好いいぜ、その名前」

 

 「……どーも」

 

 素っ気ない返事を返す。キリトからは『何だよ、冷めた奴だな』と言われたが……

 

 「……予備の食糧まで全部食われたら誰だって冷めるわボケ!!」

 

 「あー美味かった。助かった、マジで腹減ってたんだよ」

 

 「聞けよ!!」

 

 今からでも遅くはない。コイツ放り出そうか。レベル21もあるんならこの辺のモンスターには負けないだろうし、見捨てても問題ないよな。

 結局幸せそうな顔で腹をさすっているキリトを放り出すわけにもいかず、どうせスペースが余ってたんだからとキリトをテントの中に招き入れた。

 

 「こんなところで野宿ってことは、そっちもレべリングか金稼ぎの途中?」

 

 「違うよ。……逃げてたんだよ、他のプレイヤーから」

 

 「逃げてた……?」

 

 怪訝な表情を浮かべて聞き返してくるキリト。

 なんで俺は初対面の何も知らないプレイヤーにこんなこと話してんだか…

 

 「……今日、第6層のボス攻略があったのは知ってるか?」

 

 「ああ、俺はたまたまクエストの途中で参加しなかったけどな」

 

 「そんな高レベルなら参加しろよ……。で、その時のボスがエクストラモンスターって珍しい奴でさ、状況に合わせて変化するんだ」

 

 「そんな奴、聞いたことないぞ……」

 

 キリトは驚いたようだったが、それも仕方ないだろう。

 これはベータテスターすらも知らない、SAOの隠しファイルをクラッキングした、俺だけが知る事実なのだから。

 

 「まあ、当然さ。俺がそのことを知っていたのは、ゲームを始める前にSAOの公式HPに隠してあったファイルを盗み見たからなんだ。つまり、クラッキング、犯罪行為さ」

 

 軽く笑いながら言う。

 全ては興味本位でクラッキングなんかした俺が悪いのだから、笑われても蔑まれても文句は言えない。

 

 「で、色々知ってることが他のプレイヤーにばれて、そしたら何故か俺が茅場晶彦の仲間ってことになってた。色々言われたぜ。チートツール使ってるとか悪魔とか。それで、パーティ組んでた奴にも死ねばいいとか言われる始末だ。情けないったらありゃしないよな」

 

 「ヴァイオレット……」

 

 「……本心じゃないって信じたいんだ。でも、もしそれが本心だったら、どんなに楽だろうって思うんだ。全部諦めて、他の奴みたいに飛び降りて死ぬことだってできるし、ソロプレイヤーとしてやってくことだってできる。もしそうなれたら、こんな風に悩まなくたっていいのになって……」

 

 「楽なわけ、ないだろ」

 

 「え……?」

 

 キリトは、今までのような気の抜けた表情ではなく、真剣そのもの。それこそ、まるで相手を切り裂く力を持っていると錯覚するような、それほど厳しい表情で言った。

 

 「その人とヴァイオレットがどれくれいパーティを組んでるのかは分からないけど、ヴァイオレットがその人をすごく大切に想ってるのは分かった。だったら、そんな風に割り切ることなんてできないはずだ」

 

 「キリト……」

 

 「俺も上手くは言えないんだけどさ……ヴァイオレットは、その人と離れちゃいけない気がするんだよ。第六感って奴?」

 

 「………ぷっ」

 

 思わず噴き出してしまった。

 

 「な、なんだよ!」

 

 「いや、ゴメンゴメン。なんか面白かったから」

 

 「面白いこと言ってないぞ!?」

 

 そう。その通りだった。キリトの言うとおりだったんだ。

 もし俺が、ユウナのことを本当に大切に思っているなら、あの言葉が本心だったとしても、俺は諦めちゃいけなかったんだ。ちゃんと話しあって、俺の真実をユウナに伝えて、答えを得るのはそれからなんだ。

 

 「ありがとう、キリト。キリトのおかげで、どうしたらいいのか分かった気がする」

 

 「え? お、おう。よかったじゃないか」

 

 「まあ、だからと言って食料食いつくしたことに関しては許さないけどな」

 

 「ええ――――――!?」

 

 ガックリと項垂れるキリトを見て、また噴き出してしまう。

 ユウナも、こんな感じだったな。俺が今までこのSAOの中で笑っていられたのは、ユウナのおかげだったんだと、キリトのおかげで気がつけた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんか、色々ありがとな」

 

 「うん食った分払えよなそれから礼言えよ大食い野郎」

 

 もともといつまでもこんなところで隠れているつもりもないので、周囲が明るくなるとともにテントを片づけて移動することにしていた俺は、爆睡するキリトを叩き起した。

 いくらゲームでも『あと3日~……』はねえだろ普通。

 

 「まあ、コルには多少余裕があったからいいけど」

 

 「俺、今金ないから」

 

 ここがデパートなら迷子センターに駆け込んでるところだよこの野郎。

 散々他プレイヤーに追いかけられてた俺が言うのもなんだけど、本物の命をかけたデスゲームとなってしまったこのSAOでは、困った時はプレイヤー同士で助け合うのが当たり前だと俺は思ってる。多少やられすぎた感はあるけど、すぐに死ぬわけでもないしずっと気にするところでもないだろう。

 

 「ヴァイオレットはこれからどうするんだ?」

 

 「レべリング……と行きたいところだけど、一度街に戻って皆の誤解を解いてくる。パーティメンバーとも、合流しないといけないしな」

 

 「そうか……気をつけろよ。この辺り、時々強いモンスターが出てくるから」

 

 「忠告ありがとう」

 

 そう言ってキリトは第7層への階段がある南へ、俺はこの層の居住区がある東へ向かって動き始める。

 キリトには、いろんなことを聞いてもらって、励ましてもらった。

 ユウナのこと、皆の誤解のこと、SAOでこれから生き残る為に必要こと。さすがレベル20台だけあって、色々役立つ情報も教えてもらえた。

 そういえば……と思い、ふと歩みを止め、キリトの方を向く。

 

 「キリト! キリトって、歳、いくつ?」

 

 「え? ……15、だけど」

 

 最初に会った時から、なんとなく年が近そうだとは思っていた。それで、何気なく聞いてみたのだが……

 

 15→中3or高1

 

 自分→中2の14

 

 「……先輩?」

 

 「……後輩?」

 

 流れる。気まずい空気。

 

 「……先輩にバカとか言ってすいませんでした――――――――――――!!」

 

 世の中には、知らない方が良かったこともあるってのは、本当だったようだ。

 ちなみにこの後キリトさん(・・)とフレンドになったことは、また別のお話である。  




言い訳タイム(若干あるいはかなりのネタバレを含むのでそんなの困るって方は読み飛ばしてください) 

 どうも、黒炉です。まず謝罪からさせてください。ぶっちゃけて言うと2つくらい詳しく説明しなければならないところがございまして。えーと、ある方からご指摘いただいたのですが、まあいいわけと言うか「あれ?」と思った方(特に原作未読、及び細かく読んでいらっしゃらない方)がいると思いますので言い訳タイム。

『クラディールは既に俺に向ってソードスキルを使っていたため、オレンジになっていた』

 まず原作と猛烈に異なる現象です。
 原作では、実際に攻撃を当てないと犯罪フラグは立たない(立った描写がないだけで実際にはどうかは分からないのですが)ということになっているのですが、猛烈に立ってますね、犯罪フラグ。
 これは、(これまた原作未読の方にはきつい言い訳になりますが)ユイというプレイヤーのメンタルサポートをするシステムがあると言うところから僕が勝手に解釈&想像&創造したもので、精神面をケアするシステムがあるなら、プレイヤーの悪意をくみ取れるんじゃない的な発想から、『悪意を持って攻撃を仕掛けた場合、命中していなくても犯罪フラグが立つ』というものです。原作未読の方、これ、あくまで僕の勝手な推測なので本気にしないでください。
 現実で言う、『未遂』と言う奴です。一応未遂だろうがなんだろうが犯罪は犯罪だろという超私的な見解ですのでむしろ間違ってる可能性の方が高いくらいです、はい。

言い訳その2

『もっとも、これくらいならペナルティにもならないだろうけど』

 大いなる説明不足です。人に読んでもらう文章としてはあまりに簡略化しすぎてました。この一文で理解できた人は間違いなくトップレベルのSAOマニアです。明日から誇ってください。
 再び原作未読の方に冷たい言い訳になりますが、SAOの犯罪フラグに関しては、キリトの言動から、

・原作2巻のシリカ回では「オレンジになるくらいどうってことない」発言からこの段階ではグリーンのキリト。

・けれど、キリトは過去にラフィン・コフィンのメンバーを二人殺害したことがある(一巻より)。

・「一日二日オレンジになるなんてどうってことない」から、時間経過で犯罪者カラーは解除される?

ということが読み取れます。
 二人殺している以上、間違いなくキリトは一度殺人者(レッド)カラーになっているはずなのです(あ、ここで既に間違ってたら誰か教えてください)。なのに、キリトはシリカ回ではグリーンでした。もっと言うと、ラフィン・コフィン討伐に参加していたメンバーは全員オレンジのはずなのですが、やはりそのあと全員がそのままというわけではないようです。
 つまり、犯罪フラグは継続的に行わなければ時間経過で解除されるのではないか、と言うわけです(これも僕の勝手な推測&見解なので本気にしないでください)。
 ちなみに、『大したペナルティにはならない』の意味としては、既に本文は修正してありますが、

・ヴァイオレットは二人パーティ。

・大型ギルドではないからオレンジとかギルド間の信頼とか関係ない。

・というか時間経過で回復するので問題なし。

ということなのです。
非常に分かりづらくて済みませんでした。

 長ったらしくて読むのだるかった人はまさにその通りです。僕も書いてて「読み手は面倒だろうな」と思いました。
 これからもこんな一々面倒な解説を入れなくていい文章を書けるようには致しますが、もともと下手の横好きなので至らないところもあると思います。その時はさりげなく感想あるいはメッセージなどで「ここ、おかしいんじゃない?」と指摘していただけるとありがたく思います。
 では、単行本より長いんじゃないかと思われるくらいの後書きはこのくらいにして、次回もよろしくお願いします。

黒炉
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