ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
現在時刻は西暦2024年1月1日午前零時。つまり、元旦。
「ヴァイオさん」
「ユウナ」
宿屋でお互いに相手の方を向き、ベッドの上で綺麗な姿勢で佇む俺とユウナ。
日本人が今からやることと言えば、当然、一つしかない。
「「――――明けまして、おめでとうございます」」
この瞬間、アインクラッドは新年を迎えると同時に、あるイベントクエストの開始を迎えていた。
「んじゃ、行くか」
「はい、頑張りましょう!」
そう言いあい、部屋を出ていく。
これから向かう場所は、第40層のダンジョン、《漆黒と純白の回廊》。
これから行われるのは、誰が勝っても恨みっこなしの、お年玉イベント。
☆
時は、6日ほど前に遡る
「クリスマスイベント、キリトさんの一人勝ちだったらしいな」
いまだに多くのプレイヤーが残るはじまりの街のとある宿屋の一室で、俺は言った。ユウナにではない。確かに、隣にいるのはユウナなのだが、今の俺の話し相手はユウナじゃない。
「ああ。アイツ、背教者ニコラスを一人で倒しちまいやがったよ。ドロップアイテムは目当てのものじゃなかったらしいけど」
「え? 蘇生アイテムじゃなかったんですか?」
ユウナが横から口をはさんだ。
一昨日行われたクリスマスイベント――――茅場から俺たちへの、ささやかなクリスマスプレゼントは、キリトさんがフラグMob――――いわゆる、クエスト攻略のキーモンスターのことだ――――を一人で倒すという結果に終わった。
噂では、その報酬が死者を蘇生させることの出来るアイテムだったらしいのだ。だが、キリトさんの目当てのものじゃないってことは、蘇生アイテムではなかったのか?
「一応蘇生アイテムではあったんだけどね。有効期限が対象の死亡後10秒だってさ」
「10秒……」
つまり、目の前で死んだ人間にしか使えない、ということなのか。
じゃあ、キリトさんが生き返らせたかった人はそのアイテムでは生き返らない――――。
「というか、用がないなら帰っておくれよ。情報屋アルゴは忙しいんだ」
「ウソつくなよ。時々俺に『暇だ』ってメッセージ飛ばしてくる癖によ」
おっと紹介が遅れた。コイツは《情報屋アルゴ》。その名の通りの情報屋だ。
俺たちがその手のイベントの情報を求めるときは、大抵コイツが役立ってくれる。まあ、タダじゃないんだがな……
「…そういや、君たちは《お年玉イベント》については何か聞いてるかい?」
「いや、知らないけど……そっから先は金、だろ。いくらだよ?」
「3万コル」
「有り金ほぼ全部じゃねえか……」
この野郎、どこからこっちの経済情報仕入れてやがる
「でも払っちゃうんですよね、ヴァイオさんは」
「まあな。金は上で狩ってればすぐに貯まる。ついでにレベルも上がる」
「ポジティブ思考な金づるだよ」
「黙れよ鼠。さっさと情報よこせ」
思いっきり客を金づるよわばりしやがったなコイツ。それが商売人の態度か。
腹立たしいが、コイツの情報は的確だし、クリスマスイベントの情報を考えれば3万コルは安い。クリスマスイベントのフラグMob情報なんて、当初20万コル取られたって奴もいたからな。
そう考えると、実はコイツ、かなり金持ちなんじゃないか?
「そうせかすなよ。……来年の1月1日、第40層の《漆黒と純白の回廊》ってダンジョンでまたフラグMobが表れる。今度のは《大聖天使ユリウス》って言うんだ。ソイツを倒すと、大天使装備ってのが手に入るんだと」
「3万コルでそこまで教えてくれるのか? ずいぶん気前がいいな」
「君たちはお得意様だからね。で、どうするんだい?」
「勿論、やるに決まってますよ!! ね、ヴァイオさん!!」
「ああ。大天使装備って言うくらいだから、無茶苦茶ハイスペックに決まってる。やらない手はないな」
俺もユウナも、おそらく相当生き生きした目をしていることだろう。
レベル的に見て、俺は67、ユウナは65と、十分最前線の攻略組の仲間入りを果たした俺たちは、むしろこの手のイベントやクエストに目を輝かせるようになってきていた。
当然、普通のドロップ装備とは比べ物にならないくらい強い武器や防具が手に入ることはざらだし、消費する回復アイテム分を差し引いても儲けが出ることが多いからだ。
「まあ君たちはいつもそうだったよねぇ……」
「なんだよ。何か言いたいことでもあるのか?」
「いや……だけど、気をつけた方がいい」
それまで、少し浮ついた感じのしゃべり方だったアルゴが、急に真剣になり始めた。
つまり、このクエストは
「噂じゃ、ユリウスは背教者ニコラス以上の強敵だと聞いている。あの黒の剣士を追い込むような奴以上の強さだ、生半可な覚悟で挑まない方がいい」
アルゴがこういう風に忠告してくるということは、つまりそのランクの敵なのだ。
おそらく、70層前後のボスモンスターレベルかそれ以上……。
「分かった。忠告ありがとな、アルゴ」
「ありがとうございます、アルゴさん」
こういう時、俺たちはいつものような根拠のない「大丈夫」は言わない。
聞けばアルゴは「金づるがいなくなるのは困る」とか言うのだろうが、本当はアイツが、俺たちの事を同じSAOプレイヤーとして、共に闘う仲間として心配してくれてるのが分かるからだ。
アルゴの泊まっている宿屋を後にした俺たちは、現在の本拠地である最前線――――第60層の居住区へと戻った。
☆
そういうわけで、俺たちはこうして《漆黒と純白の回廊》へとやってきた。
このダンジョン自体は以前何度かレべリングに利用させてもらっていたが、今回は全くと言っていいほどモンスターが現れなかった。
「ヴァイオさん……なんだか、不気味じゃないですか……?」
「……大聖天使ユリウス、か。確かに不気味ではあるな」
いや、不気味どころではない。
そもそも、俺とユウナの二人パーティでソイツを倒せる確証もない。もっとも、途中で他の攻略プレイヤーと出くわす可能性はあるが……。
警戒しながら、ダンジョンの最深部へとたどりついた。ここまでは気持ち悪いくらいに何も起きていない。
そこはかなり開けた場所だった。直径100メートルはありそうな巨大なドーム状の空間で、入り口とは反対側に3つのトレジャーボックスが置かれている。
「ヴァイオさん……あれ」
「アイテムドロップじゃなくて、トレジャーボックスだったか……。そうすると……」
俺は2,3歩前に出る。ただそれだけでは、何も起きないはずだった。
しかし、部屋の中央で神々しい光――――ライトエフェクトが発生し、まるでそこに出現した
神々しいとともに、その強さが滲み出ていた。右手には片手直剣を持ち、左手は百合の花を持っている。身に付けた鎧には何かの記号が刻んであり、それがまるで鼓動のように点滅している。
体の大きさは3メートル弱、おそらくユウナの2倍程度。想定よりもかなり小さく、体格もどちらかと言うと女性に近かった。
「……強そうだな」
「強そうなんじゃなくて、強いんですよ。どうします? 今からでも逃げるって手もありますけど」
「いや、勿論倒す。でなきゃアルゴに3万払った意味がない」
レアモンスターのドロップアイテム、《マーク・ヴァ・ルイン》を抜く。
勿論カテゴリーは両手大剣だ。つい昨日、両手大剣スキルを完全習得してきたから、結構な武器になるとは思っている。
「行くぞ。バックアップ頼む。スイッチのタイミングは……」
「言われなくても分かります。ヴァイオさんが考えてることなら」
「……だよな」
アルゴから情報を仕入れた日から、さらにひたすらレベルアップだけを目指し、現在は俺もユウナもレベルは70台。だが、それでもおそらくギリギリだろう。
だが、それで問題はない。俺は一人ではないからだ。
常に俺の事を理解して、何も言わなくてもサポートしてくれる、最高の……ごにょごにょ……妻がいる!!
「あー言っちゃったー!!」
「ヴァイオさんモノローグに突っ込んでないでさっさあれに突っ込んでください!!」
「あっれー!? 僕の奥さんなんか冷たい!?」
しかもさりげなく理解されちゃってます。
ともかく、《マーク・ヴァ・ルイン》を構え、ユリウスに向って5連撃ソードスキル《ぺネトレーター》を放つ。
大聖天使ユリウスとの過酷な戦いの火ぶたが、切って落とされた。
次回、後編だよ!!