ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
《ハードタートル》を蹴散らし、奥の神殿から目的のアイテムを入手してきた俺は、アイテムストレージがドロップした素材アイテムでいっぱいになっていたことに気が付き、クエストの報酬をもらう前に余裕を作る為に居住区まで下りてきた。居住区に入るのは、1週間ぶりだった。
手早く売却を済ませ、ついでに回復アイテムを補充する。店を出ると、パーティを組んでいると思われる男女二人組のプレイヤーを見かけた。
「………何が、パーティだ」
この世界で必要なのは、仲間ざない。絶対的な強さだ。それを、俺は半年前に思い知った。
どんな敵を相手にしても100%の勝率を誇ることが出来れば、この世界で何も失うことはない。この世界で必要なのは、そういう絶対的な強さだけだ。
「おう、ヴァイオレットじゃねえか!!」
用事を済ませたので、さっさと迷宮区に戻ろうとした時、後ろから声をかけられた。
「……クライン」
「お前、今まで何処にいたんだよ。メッセージも飛ばせねえしよ」
俺に声をかけてきたのは、クラインと言うプレイヤー。
確か、SAO開始日にキリトさんに戦い方をレクチャーしてもらったとかで、キリトさんを通じてそれなりに親交のあったプレイヤーだ。今は、《風林火山》というギルドのリーダーをやってたはずだ。
「ああ……ずっと迷宮区にいたからな。そのせいだろ」
「ずっとって……戻ってきてなかったのかよ!?」
「……1週間くらい潜りっぱなしだったな」
「1週間……!?」
クラインが驚きの表情を見せる。
1週間も迷宮区にいれば、普通は消耗しきってモンスターに殺されて終わる。大抵は、最長でも2日程度で攻略を切り上げて安全な居住区に戻ってくるものだ。
「お前、その間の飯とか、睡眠とか……」
「そんなことしてねえよ。その分のアイテムストレージが勿体ないし、この世界なら餓死もしない」
「そりゃそうだが……って、そうじゃねえ!! そんなことしてて、死んだらどうするつもりだ!!」
クラインが俺の両肩をゆすりながら叫ぶ。
確かにクラインの言うとおり、普通ならまず間違いなく死ぬ。別に俺が特別だなんて思わないし、誰だって死ぬ時は死ぬ。最強と言われているヒースクリフでも、俺でも、キリトさんでも。
けれど――――――
「それがなんだよ」
「な……なんだよって、この世界で死んだら、現実でも死ぬんだぞ!?」
「構うものか」
クラインの手を撥ね退け、身をひるがえす。
「ユウナはもういないんだ。――――レべリングの途中で死んで、ユウナのところへ行けるならそれでいい」
「ヴァイオレット……けどよ、ユウナだって、お前に死んでほしいなんて思ってないはずだろ……?」
それは、クラインなりの優しさだったのだろう。
せめて、俺には生き残ってほしいという、クラインなりの優しさ。
けれど、俺が欲しいのはそんなものじゃないんだよ。
「……お前には関係ないだろ」
そう切り捨てて、俺は再び転移門広場から 迷宮区へと向かった。
☆
途中で出くわしたレベル85のモンスター《カオスヘッド》を縦真っ二つにし、クエストの報酬を受け取る為に72層の郊外にある民家へと向かう。
この家に住むおじいさんに、神殿で入手した《命の輝き》を渡せば、代わりに《マグナリウム》という非常にレアな金属を入手できる。
売れば10万コルになるし、装備品の素材として使うとしても最高級の一品で、俺が武具の調達をするときは大抵これを素材としたオーダーメイドだ。
ようやくその民家に辿り着き、中に入る。すると、そこには先客がいた。
「あ……」
「………」
13歳かそのくらいの、女の子だった。肩におそらくテイムされたのであろう《フェザーリドラ》を乗せている。
モンスターをテイムしたプレイヤー――――《ビーストテイマー》だ。噂には聞いていたが、実際に成功した人物の話には覚えがなかった。
その少女は、手に鍵を持っていた。ハードタートルが守護する神殿の鍵――――
「《森の神殿》クエスト、やるつもりなのか?」
「え……? は、はい。そうですけど」
少女はいきなり言われて驚いたのか、戸惑いつつも答えた。
「……だったら止めておいた方がいい。そのクエストは、多分俺以外には誰にもクリアできない」
その所以は、あの神殿を守護するハードタートルと、俺の持つユニークスキル、秘剣《黄泉返し》だ。
あの日――――ユウナを失った日、そのまま俺は61層のボス部屋へと一人で向かい、そしてボスを倒した。HPバーは殆ど削られ、数値にしても残ったのは200程度。最大HPが13300あったことを考えても、相当追い詰められ戦いだった。
しかし、あの時俺は勝ってしまった。死ぬつもりだったのに、勝ってしまった。その時に、スキル欄の一番下に現れたのが《黄泉返し》だった。
一撃の死を寄せ付けない、ある意味においては最強の能力。即死属性攻撃に対する必中カウンター。
「なんで、そんなことが分かるんですか? クエスト達成難易度はDだし――――」
「それは、神殿を守護するモンスターがフラグMobじゃなくて常駐モンスターだからだ。アイツに勝てる奴なんて、俺以外にはいない」
ハードタートルは、確かに神殿の守護者ではある。しかし、それはクエストとは一切関係なく、いつでも神殿の守護者なのだ。
確かにあの神殿の内部には様々なレアアイテムが落ちていることが多い。それにしたって、あのチート性能は異常だが。
「そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃないですか!!」
そう言い、その少女は出て行ってしまった。
一旦は、その少女の事を頭から締め出し、《マグナニウム》を受け取り、民家の外に出る。
ビーストテイマーの少女の姿は何処にも無く、流石に夜だし帰ったのかと思った。それでも、なんとなく追跡スキルを使ってしまった。
足跡は2種類。片方は俺のものだから、もう片方はあの少女のものだろう。
足跡はまっすぐに神殿のある森の方へと向かっている。
つまり、あの少女はソロでハードタートルに挑みに行ったということだ。フェザーリドラと言う使い魔はいるが、戦力としては攻略組プレイヤー一人にも満たないだろう。おそらく、いや、確実にハードタートルに殺される。
ただでさえ基本スペックが異常なうえに、回避不可能の即死攻撃なのだ。むしろ、生き残れている俺の方が異常とさえ言える。
「……クソッ」
小さく毒づき、足跡を追う。
あの少女が死のうが、それは自分で選んだ行動の結果であり、全て自分の責任だ。俺自身がいつ死んでもおかしくない、いつ死んでもいいプレイングをしているのと同様に。
それでも、俺は走っていた。
人懐っこそうなあの顔が。
ちょっとしたことですぐに膨れるあの性格が。
ただ、少しだけ、ユウナと重なった気がした。
それだけのこと。
☆
あの時、忠告してくれたあの人の言葉を素直に受け入れていれば――――そんな考えが頭をよぎる。
《森の神殿》のクエストの達成難度はD――――今までに、もっと難しいクエストもいくつもこなしてきたから大丈夫だと思った。
けれど、それは間違いで、あの亀のようなモンスター、《ハードタートル》は、常駐モンスターと、そう言っていた。だから、クエスト達成難度にはカウントされてないって――――
「はぁ…はぁ……、回復アイテムが……もう、ない……」
アイテムストレージにももう回復アイテムは残っていない。
HPバーは既に赤くなっているし、使い魔――――ピナが回復してくれる量も少し……ここで、死んじゃう?
「きゅぅ……」
「……大丈夫だよ、ピナ」
辛そうに鳴くピナを励ます。
さっきから、あの亀は元の位置から動いていない。ということは、隠れている今のうちなら逃げられるかもしれない……。
立ち上がり、来た道を戻ろうとする。相手がこっちに気が付いていない、今なら――――!!
そう思って、一気に走りだそうとした、その時。
「!?」
目の前の地面からあの亀の尻尾が勢いよく飛び出し、こっちを攻撃してきた――――!
「きゃあ!!」
何とか回避は出来たけど、今のでこっちの居場所が完全に知られてしまった。亀の目は、間違いなく私を捕えている。
亀が体をこちらに向けて、力を蓄えるようなモーションに入った。何だろう、凄く嫌な予感がする。
それをピナも感じ取ったのか、あたしとハードタートルの間に縦になるように飛び込む。
「ダメ…ピナ……! また、あのときみたいに……!!」
思い出すのは、35層の迷いの森。
あの時、意地になってパーティを飛びだしたあたしは、そこで3匹のモンスターに襲われた。
その時に助けてくれたプレイヤーがいて、HP全損はしなかったけれど、代わりに大切なピナを死なせてしまった。
あの時、あの人が――――キリトさんが助けてくれなければ、今のあたしはきっとここにはいなかった。
また、ピナが死んでしまう。そんなの、いやだ――――!
「ダメ、ピナ、逃げてぇ!!」
主人のあたしの命令を、ピナは聞いてくれなかった。
一定のアルゴリズムに従うだけのAIのはずのピナは、自分の意思で、あたしの盾になろうとした。
ギュオオオン!!というサウンドエフェクトとともに、ハードタートルの攻撃は放たれた。
「ピナぁぁぁあああああああ!!」
また、ピナが死んじゃう。そんなの嫌だ。
誰か、ピナを助けて……!! あたしはどうなってもいいから……!!
そして、その願いは、確かに、あの人に届いた。
私の横を、凄い勢いで駆け抜けていく一つの影。それは、さっき民家で私に忠告してくれた、藍色のマントと大きな剣を背負ったプレイヤー。
「ラアアッ!!」
その人は、ピナとハードタートルの間に飛び込むと、背中から剣を引き抜き、名前にかまえた。
同時に、剣が淡く輝きだす。
「お前の相手を一日に何回もするのは、こっちだってうんざりなんだよ亀野郎!!」
そう叫ぶと、ハードタートルの放った攻撃が剣に吸い込まれた。そして、そのまま剣を振り下ろす。刀身は全然届いていなかったはずなのに、その一撃は、確かにハードタートルの体を真っ二つにした。
一体、どんなスキルを使ったのかは分からないけど……あの人が来てくれただけで、なんだかすごく安心する……。
剣を振り払い、鞘にしまった後、助けに来てくれたその人は、私の方に近づいてきた。
「……これ、使いなよ。すぐにHPが全快する」
「え……で、でも、助けてもらったのに、そんなレアアイテム……」
「助けてからすぐに死なれたらもっと気分が悪い。いいから使えって」
強引に押し付けられた。確かにHPはもう限界だし、今すぐにでも死んでしまいそうなくらいまで減っている。ここは、お言葉に甘えよう……
もらったそれを飲むと、いつもの緑茶とレモンジュースを混ぜたような味ではなく、甘い、ミックスジュースのような味がした。お、美味しい……
「あ……あの、助けてもらって、ありがとうございます。私、シリカって言います。この子は、ピナです」
「……ヴァイオレットだ。ここから先は、特にモンスターも出ないし、ハードタートルもしばらくはリポップしない。一人で大丈夫だ」
そう言うと、ヴァイオレットさんは、そのまま来た道を戻ろうとした。
あ……ま、まだちゃんとしたお礼もしてないのに!
「ま、待ってください!」
「……何かな」
「その、ちゃんとお礼もしてないし、このクエストの報酬とかでよければ……」
命を助けてもらったのだから、それくらいするのが当たり前だし、きっと受け取ってくれるだろうと思った。けれど、ヴァイオレットさんは、私の申し出を断った。
「いらない。それは君が使えばいい。48層のリンダースって街にいる、リズベットって女鍛治なら、マグナニウムも上手く加工できるから、そこに持ち込むといい」
「え、いや、あの、お礼……」
なんだか、こっちが色々レクチャーされてて肝心のお礼が何も出来てない気がする。
こ、こうなったら、あの神殿の中で拾ったものを全部上げるくらいの気持ちで行こう!!
「じゃ、じゃあ、神殿の中で拾ったアイテムとか――――!!」
「あそこは何度も来てるし、自力で入れるからいい」
どうすればいいの、どうやったってこの人お礼受け取ってくれそうにないよ……。
あたしが、しょぼーんと肩を落とすと、ヴァイオレットさんは何故か悲しそうな顔をした。
そう言えば、ヴァイオレットってキャラネームには聞きおぼえが……
「あ……そうだ、最初にSAOで結婚したプレイヤー……」
何気なく呟いただけだったけれど、その言葉を聞いた瞬間、ヴァイオレットさんは明らかに辛そうな顔をした。
そう言えば……相手の、――――確かユウナさんだったはず――――らしい人が見当たらない。普通は、近くにいると思うんだけど……
「……そんな大層なものじゃない。大切な人一人守れない、弱虫だよ。俺は」
「ヴァイオレット……さん……?」
「……用がないなら、もういいかな。レベル上げしたいんだ」
「あ……え、ええと……」
また話を切り上げられそうになる。
ど、どうしよう…。ちゃんとお礼をするというか、一緒にいてもらうためには……
そこで、私は一つの案を思いつく。すぐにメニューを開き、そこからあるコマンドを実行。
「……何の、つもりだ」
「私とパーティを組んでください」
「なんで」
「私がヴァイオレットさんとパーティを組みたいからです!!」
少し間が空き、ヴァイオさんは悲しそうな顔をした後、ハァ、とため息をついた。
「分かった分かった。……そんなに長くは無理だけど、一時的になら」
「あ、ありがとうございます!」
こうして、私とヴァイオレットさんは、一時的にではあるけれど、パーティとして行動を共にすることになった。
やっぱりヴァイオレットさんはソロで、私以外にパーティメンバーはいなかった。
私は、キリトさんが、そしてピナが教えてくれたことを、ヴァイオレットさんにも教えてあげたい。
辛い時やさびしい時こそ、誰かが傍にいてくれることほど、救われることはないんだって―――――
今回の言い訳
シリカのレベルが原作よりも高くなってます。だいたい70前後くらい。
だってそうしないヴァイオレットと絡みがないんだもん……
今回の言い訳 その2
ユウナ死亡の件については、出来れば容認していただきたい!!
だってここまでユウナ人気出るとか思ってなかったし、堂々と復讐とか書いたからこれくらいしないと話にならないし……。
ですが、あえて言わせてもらえば、僕はBAD ENDとDEAD ENDは嫌いです。
ただ、フラグ立たせて途中で折ってハッピーエンドにするのは好きです。
ようはそう言うことです(どういうこっちゃ)。
感覚的には一巻の最後でヒースクリフに斬られながらも生還を果たした姉さん。