ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
第50層の街、アルゲート。シリカが
ここには、ユウナと一緒に隠れ迷物《アルゲートそば》や《アルゲート焼き》を食べに来た。あの時のユウナの何とも言えない表情は、後々まで俺を思い出し笑いさせるほどに面白かった。
この街だけではない。どこかの居住区に入れば、それだけでユウナの思い出が蘇る。どこのNPCレストランで食べた物が美味かったとか、実は宿屋ごとに微妙にベッドの質が違ったとか、そんな小さいことですらも鮮明に思い出す。
「ヴァイオレットさん……?」
それだけに、辛い。
街を歩くだけでもこれだけの思い出が蘇ってくるのに、何故か俺の事を慕ってパーティ申請をしてきた少女――――シリカの、無邪気な顔がユウナと重なる。
シリカの顔を見る度に、ユウナに言われている気がする。『どうして、貴方だけが生き残ったの?』と。
あの時、22層の森で、ユウナが殺された時、あの男が剣を抜いていれば、俺は間違いなく力及ばず殺されていた。
それでよかった。死ぬのなら、ユウナと一緒が良かった。ユウナだけが死ぬのも、ユウナを残して死ぬのも、どちらも嫌だった。
なのに、現実には、俺だけが生き残り、ユウナはこのSAOからも、現実世界からも消えてしまった。殺されることは望んでも、自分で死ぬことは出来ない、臆病で卑怯な俺を残して。
「ヴァイオレットさん」
「あ、ああ……何?」
それまで何度か呼ばれていたのだろうが、ボーっとしていたせいで反応が遅れた。
シリカが俺の顔を覗き込むように見、俺はそれから逃げるようにマントの中に顔を埋める。
一時的とはいえ、パーティを組んだからには、俺たちはお互いの命を預かる関係なのだ。思考をネガティブにしているだけで、シリカの死の危険性は上がる。この世界は、生きることを諦めた人間から死んでいく。ここは、そういう世界だ。
「おおっ、シリカちゃーん!!」
俺とシリカの間に流れる気まずい空気をまるで無視して、3人組のプレイヤーが話しかけてきた。
一人は痩せていて長身、一人は背がやや低めで小太り、もう一人はかなり厳つい顔をして、背中に
痩せている男と太っている男が、積極的にシリカをパーティに誘っているようだ。
「シリカちゃん、今フリーなんでしょ? 俺たちレベルも上がったし、一緒にパーティ組もうよ!」
「シリカちゃんに似合いそうな装備を向こうで売ってたんだよ、一緒に見に行こう!」
まくしたてる二人へのシリカへの対応は、戸惑い混じりではあるが、それなりに慣れているようだった。コイツら、頻繁にシリカに声をかけているみたいだ。
「あの、あたし、今はこの人とパーティを組んでるので……」
シリカがそう答えた途端、それまで温和だった二人の表情が一気にどす黒くなる。
……そういうことか。噂には聞いていたけど、本当に他のプレイヤーをそう考えてる奴がいるとはな。自分の母親を見てるようで吐き気がする。
「……文句があるならかかってこいよ。死んでもいいなら、の話だけどな」
凄まれているのだから、凄み返すことに抵抗はない。
俺が背中に背負った《トゥルヌゥソル》に手をかけると、ビビったのか、二人は一歩後ずさる。
すると、それまで沈黙を貫いていた巨漢が二人を押しのけて俺の前に立った。
「ビビることはない。騎士剣など使っている奴は、剣に振り回される愚か者だからな」
確かにこの男の言うとおり、よほどSTR一極ビルドでないと、騎士剣をまともに扱うのは不可能だ。
STR-AGI型の俺が、こうして何の苦もなく騎士剣を振りまわせるのは、装備によるSTR底上げと、体術スキルのステータスアップの
「なぁアンタ。俺たちはずっとシリカちゃんに声かけてるんだよ。後から来た癖にそういうの、やめてもらえるか」
「……シリカが誰とパーティを組もうがシリカの勝手だろ。シリカはアンタ達専用のアイドルじゃないんだよ」
ここが《アンチクリミナルコード有効圏内》――――つまり、相手のHPにダメージを与えられない場所でなければ、この手のプレイヤーはHP全損までとは行かずとも、ある程度までボコしたくなる。
パーティを組むことを、何かのエンターテイメントと勘違いしているようなプレイヤーには、そもそも誰かとパーティを組む資格すらない。
「……アンタ、さっき俺が剣に振り回される愚か者って言ってたな。なんなら試してみるか。俺は基本的にソロプレイだから、オレンジになったところでどうとも思わないぞ」
「上等だ。オレンジなんか気にしなくていいように、今ここで決着をつけてやる」
流石に完全決着でやると、街中で死者が出てしまう。
巨漢も死ぬのは嫌だったのか、初撃デュエルで申し込んできた。
「その騎士剣を持っていて、俺よりも早く動くことは出来ないだろう」
自信満々に言う男は、既に
あちらの得物もそれほど軽い武器ではないが、騎士剣に比べれば十分軽い。確かに、同じステータスの人間が装備すれば結果は目に見えている。
「ヴァイオレットさん……」
「腹減った……速攻で終わらせるから、何か食べに行こう」
シリカにそう言うと、背中からトゥルヌゥソルを抜く。
この剣は、48層のリンダースに店を構える女鍛治に頼んで作ってもらったオーダーメイド。今まで俺が握ってきたどの剣よりも良く手に馴染むこいつは、どれだけ荒い扱いをしても刃毀れ一つしないほどの、驚異的な耐久力を持っている。
「……シッ!」
《DUEL‼》の文字が表示され、男が一気に突っ込んでくる。
それなりにハイレベルプレイヤーのシリカをパーティに誘うだけあって、放ってきたソードスキルはそれなりに高ランクのものだった。
だが、分かる。コイツは対人戦に慣れていない。
ハイレベルプレイヤー同士の戦闘は、ソードスキルを繰り出した方が負けると言っていいほどに手の読みあいになることが多い。当然、システムにアシストされた動きをするソードスキルは、上手く回避できれば絶好のカウンターチャンスになる。
白く輝く巨漢のメイスは、まっすぐに俺を狙ってくる。
普通のプレイヤーなら、ここで回避あるいは防御を選ぶだろう。だが、俺なら――――
「――――ここ、だな」
「なぁ……!?」
トゥルヌゥソルを一振りし、相手のメイスのある部分に当てる。
それは、ソードスキルのライトエフェクトの中心。ただ武器を破壊するだけならば、騎士剣の重みのおかげで多少当てどころがずれても耐久力を一気に削り取れることは既に確認済みだ。
だが、そんな練習すれば誰でも、どの武器でも出来るようなシステム外スキルは要らない。
俺が行ったのは、俺が《スキルキャンセル》と呼ぶ、『ソードスキルを放つ時の武器の中心に、重い武器を当てて力の流れを崩し、ソードスキルそのものに武器を壊させる』技術。
厳密な理論は、おそらく俺が考えた物とは違うのだろうが、そんなことはどうでもいい。スキルキャンセルを行うには、騎士剣のような極めて重い武器でなければならない。今まで対人戦でなどか使用したことはあったが、真似できたという話は聞いたことがなかった。
「はぁ……!? 《
「違うな。《スキルキャンセル》だ」
短く答えると、丸腰になった巨漢の首にトゥルヌゥソルを押しつける。
「どうする。まだやるか」
「い…、いや、もう、いい。降参、降参だ!」
俺がデュエルに勝利したことを示すWINNER表示が現れると、男は一目散に逃げて行った。
……武器をへし折るまでしたのは、ちょっと可哀そうだったかな。
「……待たせたな。行こうか」
目を丸くして驚いているシリカに声をかける。
俺に話しかけられて、我に返ったシリカは開口一番、
「凄いじゃないですか!!」
と言った。
「凄いって……別に、必要パラメータが揃ってれば誰だって出来るさ」
「そんなことないですよ!! 凄くかっこよかったです!!」
そう言って、シリカは尊敬のまなざしで俺を見つめてきた。
ユウナもこうだった。俺がキリトさんの真似をして《
それが嬉しくて、戦闘スキルだけじゃない、様々なシステム外スキルを考えては、失敗失敗失敗……
失敗するたびに笑いのつぼにハマって転がりまわるユウナも面白くて、結果に関わらずそれが楽しかった。
「ヴァイオレットさん?」
「……なんでもない。さ、行こう」
シリカを促し、歩き始める。
こうやって、些細なことでユウナとの思い出を思い出し、その度に苦しい思いをするのなら――――何故俺はここで生きているのだろうか。
そう考えずにはいられなかった。
今回の言い訳
《スキルキャンセル》について
ALOでの魔法破壊《スペルブラスト》のソードスキル版だと思ってください。
ヴァイオレットには、キリトほどの正確な照準能力はありませんが、代わりにとんでもなく重い武器を使ってるので多少ずれても重さのダメージ補正がかかって大変なことになります。
作中で言ってる理論は僕の想像が原料なので気にせず「こういうもんかぁ」と軽く考えてください。ツッコミだしたら止まらないと思います。