ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
この浮遊城《アインクラッド》は全100層からなる縦型のダンジョンで、中には街やら迷宮やらのRPG中毒者にはたまらない施設が満載である。
俺が今いるのは第72層―――――現在の最前線だ。今日まさにこの層のボスに挑まんと、様々なギルドやパーティーが集っていることだろう。無論、俺は参加しない。
俺が装備している両手騎士剣《トゥルヌゥソル》は、ぶっちゃけこの層のボスモンスターと相性が悪すぎる。事前に仕入れた情報では、ちょこまかと動き回るらしいソイツはパワーでごり押しの俺が役に立てるような相手ではない。
そもそも、この《ソードアート・オンライン》の中に俺以外で両手騎士剣を装備しているプレイヤーは一体どのくらいいるのだろうか。
ソードスキルこそ優秀なものが揃っているが、それにしたって熟練度が800を超えて初めて基本技《ディレイアタック》が使えるようになるレベルだ。需要低いにもほどがある。
それでも俺が騎士剣装備を愛用するのには、理由がある。
『キシャアアアアアアアアアアア!!』
対峙するモンスター、ハードタートルは、俺が現在ソロで挑戦しているクエストのボスだ。目算で98層とかそのくらいのランクじゃなかろうか。
その巨体にふさわしい破壊力と、5本の尻尾が繰り出す連続攻撃、名前の通りの防御力と、真面目に戦うのがアホらしくなってくるスペックを誇っている。
しかも、コイツはそれだけで終わらない。
コイツが98層レベルと判断した一番の理由。それが、頻繁に使ってくる必殺技《エンドライフパルサー》だ。
効果範囲が無茶苦茶広い上にST防御装備無視の即死属性持ち。おまけにモーション超速と、攻略しようがないような必殺技だ。
先人達がコイツを倒すのは不可能と判断した理由は、ハイスペックモンスターだからではない。このチート以外の何物でもない必殺技ゆえだ。
ただし、
「即死攻撃は、俺にとっちゃ最高のカモなんだけどな」
背中に抱える騎士剣《トゥルヌゥソル》を引き抜く。そして、ただ刃の広い面を前に出して待つ。それだけだ。それだけで、俺の勝利は約束される。
《エンドライフパルサー》が放たれる。その一撃は、普通のプレイヤーなら100%即死のまさに一撃必殺技だ。そう。
「……秘剣」
トゥルヌゥソルの刀身が鈍く輝く。俺の持つ《ユニークスキル》が発動する時のエフェクトだった。
《エンドライフパルサー》がどんどん迫ってきて、トゥルヌゥソルの刀身に触れた、その瞬間。
「……《黄泉返し》!!」
トゥルヌゥソルの刀身は《エンドライフパルサー》を吸収し、そのままハードタートルを――――10メートル近い間合いがあるにも拘らず――――一刀両断した。
これが俺が持つ俺だけのスキル、秘剣《黄泉返し》。即死攻撃限定の、必中カウンター。
カウンターを食らった相手は即死耐性無視で真っ二つにされてしまう。別名《斬鉄剣》(俺命名)。
「さーて、レア素材はどこかなっと」
ここに来た目的でもあるレア素材《クロム・ダイアグラム》を探し出す。クロムなんだかダイアなんだかハッキリしろと言ってやりたいが、そこは我慢だ。
ついでにハードタートルを倒したことによってドロップしたアイテムも拾っていくが、まあ凄い凄い。レア武器から食材まで、色々落ちてる落ちてる。中にはて転移結晶なんて極レアもあった。
最初にハードタートルがいた位置に、《クロム・ダイアグラム》を発見した後はもう何も用はない。
せっかくなので入手した転移結晶を使って自宅がある37層の街《ラーブル》へと飛ぶ。
「まったく、いつからこんな殺伐とするようになったのかね、この世界は」
転移結晶に光に包まれながら、ポロリと口を衝いて出た。
それについて考えるならば。、遡るときは今からほぼ2年前。
最悪のデスゲームが始まった、あの日まで遡らなければいけない。