ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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くまたさん感想ありがとうございました!


第20話 菫を包む想い

 48層の居住区《リンダース》。

 リズベット武具店は、今日も元気に仕事に精を出す!

 

 「あー……暇だわ」

 

 あれ、出してない……

 SAO内でのプレイヤーが経営する武具店は、作成依頼がなく、修復する武器もなく、来店客もいない状態を『暇』と呼ぶ。いや、そこまで行くと何処でも暇なのだが。

 高い鍛治スキルでランクの高い武器を取りそろえるリズベット武具店では、あり得ないくらいに何もない日だった。

 納期間近の依頼は全て昨日の内に片づけてしまったし、急いで作りたい武器もない。ついでに材料もない。こう言う日こそ、ゆっくり羽を伸ばして休むべきなのだが、普段忙しいと急にやってきた暇と言うものにどう対処していいのか分からない。

 結果、リズベットは何もせず、ただ虚空を見つめて時間を無為に過ごしていた。

 だが、アイツはこう言う日に限ってやってくることが多い。無茶苦茶な筋力要求値の騎士剣を、平然と持ってくるアイツは。

 そして予想通り、ソイツは現れた。

 

 「リズー、ちょっとこれ直してくれー」

 

 「……あたしにとって、そのちょっとがとんでもなく重労働なんだけど」

 

 背中に藍色の騎士剣を背負った少年は、ヴァイオレット。

 鍛治としてのプライドをあざ笑うかのように、モンスタードロップの魔剣の修復を依頼してくるバカ。

 

 「いや、でも専属の鍛治になりたいって言ったのはリズで……」

 

 「あの時は酔ってたのよ。いろんなものに」

 

 最初にこの少年の愛剣《ヴァイオレット・ナイト》を見せられた時に、そのフォルムの美しさに魅せられ、これは自分以外の誰にもいじらせたくない!!と突発的にヴァイオレットの専属鍛治を申し出てしまったのが事の始まりだった。

 これまでも度々、『藍色で性能の高い防具を作ってほしい』という無茶な依頼をされ、その度に無茶なアイテム収集を頼むと必ずその日の内に入手してくる凄いのかバカなのかいまだにはっきりしない少年との付き合いがあった。

 だが、専属鍛治を申し出たのは失敗だった。確かにヴァイオレット・ナイトは美しかったが、同時にとてつもなく重い。リズベットの筋力では、持ち上げることすら叶わず、結果、作業の度にヴァイオレットに動かしてもらわないといけなかったのである。

 

 「それにしてもその剣、ホントチート染みてるわよね。ソードスキルのモーションと技後硬直がなくなるんだっけ?」

 

 「敏捷力2倍のオマケつきでな。もっとも、HPが最大値の3%以下になったらの話だけど。実際にはそんなに強くはないさ。コイツを装備できるレベルまで行ってる奴は、大抵戦闘時回復(バトルヒーリング)持ちだからな。HPがそこまで減ることなんて滅多にないし、普通はそうなる前に回復するさ」

 

 「……それもそっか。で、修復だっけ? それよりもさ、あたし試して見たいことがあるんだけど」

 

 「試してみたいこと?」

 

 「そ、《武器合体》」

 

 武器合体とは、鍛治スキル完全習得で覚える、同じカテゴリーの武器を、片方をベースにしてそこにもう片方を合わせるという、名前の通りのスキルだ。

 筋力要求値の低下や、敏捷値補正がかかることが多く、魔剣クラスの武器を合わせれば、特殊能力がつくこともある。

 ヴァイオレットは、以前渡した《トゥルヌゥソル》と、今使っている《ヴァイオレット・ナイト》の2本の騎士剣を所有している。

 両方とも、既存の騎士剣の中ではトップクラスの武器で、その2本をかけ合わせれば、想像もできないような代物が生まれるだろう。

 

 「別にいいけど……今のコイツの見た目が気に入ってるから、あんまり変わるのはちょっと……」

 

 「見た目はベースにした武器に近くなるわよ。それに、今まで作ってきた合体武器はどれもこれも合体前より性能上がってたわよ?」

 

 「う……じ、じゃあ、お願いします……」

 

 同意したというより、最早リズのプレッシャーに気圧されて頷いてしまうヴァイオレット。

 リズの笑顔は、今までで一番と言っていいほどに輝きだす。

 

 「それじゃこっち来て! さっさと始めちゃった方がいいでしょ!」

 

 「お、おう」

 

 ヴァイオレットを作業場へと招き入れ、衣装を作業着へと変える。

 ヴァイオレットが扱う騎士剣は、とにかく要求される筋力値がとてつもなく高い為、こうしてヴァイオレットに運んでもらわないと作業場まで動かせないのだ。

 ヴァイオレット・ナイトとトゥルヌゥソルを台に十字状に重ね、ハンマーを取りだすと、リズはひと思いに剣の交差部分を叩きだした。

 

 「り、リズベットさん……? それは、ただ耐久値が削られるだけなのでは……?」

 

 「うっさい黙ってて!!」

 

 「はい!!」

 

 リズの物凄い剣幕に、震え上がるヴァイオレット。

 職人としては尊敬に値する心意気だが、大切な武器を2本とも預けているヴァイオレットとしては、ただ愛剣を叩かれているだけのようにしか見えず、不安だけがどんどん大きくなっていく。

 ……こんなんで本当に武器が強くなるのかよ? と、心の中で突っ込まざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………出来た!!」

 

 日が暮れ、空が茜色に染まる頃。リズが唐突に叫んだ。

 ただ金属音が鳴り響くだけの作業場で退屈だったのか、ヴァイオレットは眠ってしまっていた。

 

 「ちょっと!! ほら、出来たわよ!!」

 

 「ふぁ……? ここは誰? 私は何処……?」

 

 「逆よバカ」

 

 リズの渾身のチョップが脳天に落ち――――実際には、アンチクリミナルコードによって塞がれたが――――ヴァイオレットはようやく意識を完全に取り戻す。

 

 「ようやく終わったか……ってもう夕方じゃねえか!? ぎゃああシリカからメッセージが大量にうわ何これ怖え!!」

 

 ヴァイオレット宛てに送られてきたメッセージに、何が書いてあったのかは想像するしかないが、攻略組のトップ剣士を震え上がらせる何かがそこにはあった。

 「死んだ……」と膝をつくヴァイオレットを、無理やり完成した騎士剣の元へと引きずっていく。

 

 「ほら、出来たわよ。多分、今までのあたしの作品の中じゃ1,2を争う傑作ね」

 

 「うわ……すげえ……」

 

 その剣の刀身は、ヴァイオレット・ナイトと同じ藍色だった。

 しかし、その色合いは、以前よりも遥かに深く、美しかった。何の飾り気もなかった刀身に、金色のラインが入り、鍔に近い部分には翠色に輝く宝石が埋め込まれている。

 

 「名前は《夜菫(ヤズミレ)》。ヴァイオレットは藍色のほかに、スミレの花を意味することもあるから、そこから名前が来てるんだと思う」

 

 「《夜菫(ヤズミレ)》……」

 

 ヴァイオレットが柄を握ると、生まれ変わったヴァイオレット・ナイト――――いや、夜菫(ヤズミレ)は、主人との再会を喜ぶかのようにその刀身を光らせた。

 

 「軽い……少し、振ってみてもいいか?」

 

 「ええ、いいわよ」

 

 そう言うと、リズが邪魔にならないように後ろに2歩下がる。

 ヴァイオレットは、リズが離れたのを確認すると、その場で騎士剣ソードスキルの基本技《ディレイアタック》を放つ。

 ブン!!という空気を斬る音がし、《ディレイアタック》が終わる。

 技の重みは今までと大して変わらないのに、速さは段違いだった。

 

 「すげえ……すげえよ、これ!!」

 

 「筋力要求は低くなって、重さは少し減ったけど、代わりに装備時のSTRが上がるから、攻撃力自体は変わってないと思うわ。それに、スキル欄を見てみなさい」

 

 「あ、ああ」

 

 そう言われ、メニューからスキル欄を開く。

 《タイフーン・ブレイバー》や《トリック&トリック》などの見慣れた名前の下に、《菫》という名の新たなソードスキルが表示されていた。

 

 「おい、これって……」

 

 「固定ソードスキルね。似たような装備を集めると使えるようになるのがあるのは知ってたけど、剣一本でなんてあたしも初めて見たわ」

 

 例としては、かつてヴァイオレットとユウナが手に入れた猫装備3つで使用可能になる《ネコパンチ》や、純金装備4つで使用可能になる《ゴールドラッシュ》などがあるが、ヴァイオレット自身も、剣一本で使用可能になる固定ソードスキルは初めてだった。

 スキルの詳細を見てみると、《菫 斬撃属性 19連撃》と表示された。

 

 「19連撃……!?」

 

 「ホント余計にチート染みた性能よね。あ、HP3%以下でなんちゃらって奴も残ってるわよ」

 

 「凄い……凄いよリズ!! ありがとう!!」

 

 「ひゃわあわふわわわ!?」

 

 純粋な、ありったけの気持ちの籠ったお礼を言いながらリズの両手を握るヴァイオレット。

 すると、途端にリズの顔が赤くなり、言語機能に障害のあるAIのようになる。

 

 「ど、どうした!?」

 

 「べ、別に、あたしの剣がモンスタードロップに負けたのが悔しかっただけで、アンタにあたしの剣を使ってほしかったとかそういうわけじゃ……!!」

 

 しまった、これじゃむしろ逆効果じゃん!! と咄嗟に口から出た言葉に後悔する。

 が、ヴァイオレットの反応は、リズの想像の90°上を行った。

 

 「そ、そうなのか……俺はてっきり、俺のために一日中頑張ってくれてたんだと……」

 

 「え!? い、いや、ええと……」

 

 悪ふざけなどではなく、どう考えても完全に本気で落ち込んでいる。

 自分で言うのもなんだけど、気付けよ!! とセルフツッコミをかましそうになる。

 ヴァイオレットはとうとう人差指で床に円を書き始めてしまう。

 

 「(あ、なんかちょっと可愛いかも)」

 

 そんなヴァイオレットに、よこしまな思いを抱くリズ。

 が、弄ぶとヴァイオレットは割とすぐに本気でぐずるので、苛めたい気持ちを抑えてリズは喋りかける。

 

 「まったく、アンタのために作ったに決まってんでしょ。アンタにしか扱えないんだから、それでバンバンボス蹴散らしてきなさいよ!」

 

 「そ、そうなのか? いや、確かにめちゃくちゃ手に馴染むけど……」

 

 「いいから! あ、言っとくけど、それ折ったら殺すからね」

 

 「はい!! 全身全霊、この剣とともに戦い抜くであります!!」

 

 いきなり敬礼をし、体を固くするヴァイオレット。いや、そこまでしなくてもいいけど……とリズは心の中で苦笑いした。

 

 「それじゃ、はい」

 

 「?」

 

 ひとしきりしたところで、手のひらを受けに向けてヴァイオレットの前に出すリズ。ヴァイオレットはそれが何を意味するのかを理解できず、首をかしげた。

 

 「マグナリウム、まだあるんでしょ。あるだけ出しなさい」

 

 ヴァイオレットの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、リズはマグナリウムだけでなく、ヴァイオレットの持っていたレア素材を全て絞り出し、満面の笑みで彼を送った(店から追い出した)。

 既に空は暗く、もうじき閉店の時間になる。

 

 「はぁー……疲れた。アイツが来ると殆ど戦争よね」

 

 誰に言うわけでもなく呟き、お気に入りの椅子に腰かける。疲れかたまっているのか、それだけで眠ってしまいそうになる。

 リズは今年の6月、初めて恋をし、初めて失恋した。

 いきなりやってきて、当時店にあった最高級の剣をへし折ったソイツに上手く乗せられ、レアな金属を取りに行き、龍の巣穴に落ち、一晩を明かした。

 それは、リズベットにとって全てが新鮮で、楽しいと感じるものだった。冒険が終わって、告白しようとした。けれど、彼には、もう相手がいて、自分に出る幕はなかった。

 それでも諦められなくて、専属の鍛治として雇って貰い、たまにではあるが、顔を見て、言葉を交わすことは出来た。それでも、芯から心が満たされることはなかったが。

 そんな日が続いて、3カ月ほどたった雨の日。一人の少年がリズを訪ねてきた。

 その少年の目に生気はなく、ただ一言、虚ろな声で『騎士剣を作ってほしい』と言った。

 儚げで、ちょっとつつけば消えてしまいそうだった。

 客の事情は深く考えない主義だったリズでも、どうすればあそこまでボロボロになってしまうのか、考えずにはいられなかった。

 渡された、見たこともないようなレア金属《マグナリウム》で作られた《トゥルヌゥソル》を渡すと、その少年は僅かに微笑んで、「ありがとう」と言った。

 その時の顔は、リズの初恋の人にそっくりで、気が付くとリズは、出ていこうとする少年の手を握っていた。

 

 『また来て。その剣が欠けたら、あたしが直してあげるから』

 

 『……それじゃあ、また、頼むよ』

 

 そう言って、少年は店から出て行った。

 それから、少年は剣だけでなく、防具もリズに一任するようになった。オーダーの内容がとにかく『藍色であること』が最低条件であり、色が合わないといつの間にか集めて来ていた素材でやり直しになることもしばしばあった。

 それでも、あの少年のためだけにハンマーをふるっている瞬間は、リズにとって至福の時間だった。自分の魂がこもった武具を、彼に使って貰える。それだけで、胸が高鳴った。

 けれど、リズのその想いは、また届かずに終わった。

 時々微笑むことはあっても、決して心から笑わなかった彼が、ある日を境に笑うようになった。

 誰かが、凍てついた彼の心を溶かしたのだと、そう直感した。まただった。今度はチャンスだって沢山あったのに、また想いを伝えられずに終わってしまった。

 その日も、前と同じように泣いた。あの笑顔を、自分だけのために、自分だけに向けて作ってほしかった。けれど、もう届かない。

 それでも、例え届かなくても、無理だと口にされたっていい。この想いを、伝えずに終わらせたくなかった。

 だから、剣のメンテに来た時に、言った。好きだ、と。自分の思いを精いっぱい伝えた。

 結果は予想通りで、けれど、それでよかったと今でも思えている。あの時何も言わなかったから、きっと初恋の時と同じ結末だっただろうから。何も言えずに、一人でため込みたくなかった。

 少年は、それからも頻繁に来てくれた。モンスタードロップの剣に自分の剣が負けた時は、口から火を噴きそうな勢いで激怒した。

 全てが楽しくて、幸せで、彼の反応の全てが、リズベットの心を満たしてくれた。

 

 「そりゃ、アンタにとっちゃあたしはただの鍛治屋かもしれないけどさ……。もしもアンタが、どうしようもないくらいに困ったら、頼ってほしいな。あたしはいつでも、アンタのお姉ちゃんでいてあげるからさ」

 

 そう呟くリズの手には、少年の――――ヴァイオレットの温かさが残っていた。




リズ回でした。こんな感じでフラグを立てるヴァイオレットは、一級フラグ建築士。
剣が完全にチートです。俺TUEEEEさんと闘うのならこんくらい派手じゃないとね。
さて、リズ派の皆様に怒られないかどうか不安だぜぃ……
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