ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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浅倉空さん、静波さん、ケンシロウさん、アルフィさん、エロゲマスター・シンさん、000xiさん、ゆっけさん、彩果菜園さん、くまたさん、カンフー同好会さん感想ありがとうございました!




フェアリィ・ダンス
第25話 帰らずの人


 SAOはクリアされ、残ったプレイヤー全員のログアウトを確認したと、茅場晶彦は確かにそう言った。

 それはおそらく本当だったのだろう。茅場があそこで俺にウソをつく理由などない。

 しかし、二〇二五年一月十日現在、ユウナと姉さんを含めた約300人のプレイヤーが、目覚めることなくナーヴギアに囚われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一月一八日。普通の中学三年生なら、受験に備えて追い込みをかけるために、塾やらに入り浸っている時期だろう。

 だが、俺はそんな普通の事を考えることなく、自転車を走らせていた。

 俺がナーヴギア、それと《ソードアートオンライン》に囚われたのは、中学一年生の時だった。それから二年の時が経ち、俺は受験生として過ごす時間の半分以上を失った。

 十一月にこの世界に帰って来てから、学校には一度も行っていない。行ったところで授業が分かるわけがないし、二年間殺し殺されの世界で生きてきた俺に、この飛んでもなく平和な国の学校に、居場所はないだろう。

 今向かっているのは、家から自転車で十分程度の総合病院だ。そこで、俺の愛する人が今もまだ眠り続けている。

 病院にたどりつき、自転車を駐輪場に止めると、さっさと入口へ向かう。ほぼ毎日のように来ているので、警備員のおじさんには顔を覚えられていた。

 何故か日ごとに変わるはずの受付の女性全員にまで顔と名前を覚えられており、俺を見つけるとこちらが何か言う前に、「行っていいわよ」と言われるのだから、周囲の人間は俺の事を不思議そうに見つめてくる。

 B棟の三階の、一番奥の部屋――――西日が差し込み易いその部屋で、彼女はまだ眠り続けている。

 ユウナ――――星川優奈は、俺がSAOの中でパーティを組み、結婚した女の子だ。

 ゲームクリアの半年ほど前に、茅場晶彦が操るもう一つのアバターによってHPを0にされ、死んだ――――と思われていた。

 ゲームクリアの時に、茅場に教えられるまでは、俺も彼女の死をこれっぽっちも疑わなかった。なぜならそれは、《ソードアート・オンライン》の、絶対的なルールなのだから。あの世界で死ねば、頭にかぶったナーヴギアという家庭用ゲーム機が電子レンジの要領で俺たちの脳を破壊するはずなのだ。

 だが実際には、ユウナの脳は破壊されず、心臓は動いている。

 近い例としては、俺も似たようなものだ。

 茅場との最後の戦いの時、俺のHPは確かに0になり、俺の体は消滅したはずだったのだ。

 だが、俺はこうして生きている。茅場が何をしたのかまでは分からないが、確かに死なずに生きている。

 最初は、ユウナも茅場の計らいで生き延びたのかと思ったが、茅場はあの時、理由は分からないと言っていた。ということは、茅場の意図した結果ではないということだ。

 けれど、そんな理由を考えなくても、優奈は生きている。それが分かった時は、どんなに嬉しかったか……。

 生きていてくれるのなら、いつか会える。政府にでも何にでも聞いて、ユウナの居場所を必ず突きとめる。そして、現実として、俺は菊岡と名乗る男からユウナとシリカの居場所を聞き出し、リハビリが終わるやすぐに駆けつけた。

 結論として、シリカは無事にこの現実に帰ってきていた。二年間筋肉を動かしていなかったので、SAOとは比べ物にならないくらいにやせ細ってはいたが、元気だった。ついでにその時、お互いが同い年であることを知り、二人で驚愕の声をあげて怒られたというのは秘密だ。絶対年下だと思ってたからな……

 しかし、優奈はこの世界には帰ってきていなかった。

 彼女のナーヴギアは起動したまま、いつ脳を破壊するか分からない状態だった。

 彼女の精神が今どこにあるのか、誰にも分らなかった。

 病院の院長――――確か、村瀬とかいう若い男性だった――――は、目覚めるまで面倒を見続けると言ってくれたが。それにしたって限界はある。病院側からすれば、いつまでも彼女一人に個室を使わせるわけにはいかないし、SAOがクリアされた今、《総務省SAO事件対策本部》なる組織が、いつまでも税金で未帰還プレイヤーの面倒を見れるかどうかも怪しい。

 優奈は、ユウナとしてSAOを生きていたころとは、比べたくなくなるくらいに痩せ細っていた。

 脂肪と筋肉はほとんど落ち、皮膚と骨しかないような状態だった。

 生きてくれていればいいと思っていた。生きていれば、いつか必ず会えると。

 けど、こんなの……

 

 「こんなの……無理だよ……。ユウナ、目を、開けてくれよ……」

 

 彼女は俺に笑いかけてくれない。

 彼女は俺に喋りかけてはくれない。

 彼女は俺に触ってはくれない。

 彼女はの精神は、俺とは違う世界にあるのだから。

 その現実がとても辛くて、俺はこうやって優奈の手を握り、涙を流すことしかできていなかった。

 どうすることも出来ない。ユウナを守り、助けると誓ったヴァイオレットは死んだ。今の俺は、結城藍人と言う、一五歳の無力な少年でしかない。

 ガラガラと、病室のドアが開く音がした。誰かが入ってきたことに気づいて、俺は涙を無理やり止めた。

 やって来たのは、シリカと言う名でSAOを生きた、綾野珪子だった。

 

 「あ……藍人も、来てたの」

 

 「うん……いつかその内、何の前触れもなく優奈が目覚めるような気がしてて、それで毎日な……」

 

 SAO時代は敬語だったシリカだが、現実に帰還し、同い年と知った後、珪子は俺に敬語を使うのをやめていた。

 優奈の事を話した後、珪子も度々お見舞いに来てくれている。それには凄く感謝しているし、優奈が知ったらきっと喜ぶはずだ。

 

 「優奈ちゃん……なんで起きないのかな。アスナさんもって聞いたけど……」

 

 「分からない……。ナーヴギアがまだ起動してるから、大人たちも手を出せないでいるしな」

 

 もしもSAOからログアウトしているのなら、起動しているナーヴギアを無理やり外しても問題はないはず。あれは、SAOという特殊なゲームをしている時限定の話なのだから。

 だが、それを試す勇気のある者はいなかった。そうやって、もしも脳が破壊されたら――――皆、考えることは同じで、待つことしかできなかった。

 

 「ねぇ……優奈ちゃん、早く起きるといいね」

 

 「そうだな……」

 

 珪子はそう言ってくれた。

 けれど俺は、その時の珪子の悲しげな瞳に気が付くことはなかった。




流石にユウナ生存は賛否両論来ましたね。どれも参考になる感想でした。
結論。ご都合主義も過ぎれば毒となる。
心に深く刻んで、これからも投稿させていただきます!
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