ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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カンフー同好会さん、静波さん、エロゲマスター・シンさん、000xiさん、くまたさん感想ありがとうございました!

今夜は早めの投稿。


第26話 《ALfheim Online》

 エギル――――本名は確か、アンドリュー・ギルバート・ミルズとか言うらしい――――に呼び出され、俺と珪子がエギルの経営する《DICEY CAFE》に呼び出されたのは、4日後の事だった。

 店の扉を開けると、禿頭の巨漢と黒髪の少年の二人しかいなかった。片方は店主で片方は俺たちと同じ要件のはずだから、つまり客は一人もいない。

 

 「……相も変わらず酷く小ざっぱりしてるな。2年間潰さずにいたお前の奥さん、マジですげえや」

 

 「うるせえ。これでも夜はなかなか繁盛するんだよ」

 

 「エギルさん、それでいいんですか……?」

 

 珪子が突っ込むと、エギルは適当に誤魔化して俺たちに座るように促した。夜儲かるカフェってなんだよ……。

 俺はアイスコーヒー、シリカはコーラを注文すると、先に来ていた黒髪の少年――――キリトさんこと桐ケ谷和人さんが、俺たちが来る前にしていた話の続きを始めた。

 

 「それで、アルヴヘイム・オンラインってのは――――」

 

 「まあ待て。二人にも分かるようにしてやれ。で、お前たちはどう思う」

 

 俺と珪子の前にグラスを置き、エギルは言った。

 どう思う、とは、俺たちに送られてきた呼び出しのメールに添付されていた、一枚の画像の事だ。

 

 「粗くて分かりづらかったけど――――姉さんだと思う」

 

 「私も、アスナさんに凄く似てると思いました」

 

 耳が妖精っぽかったり、髪の色に僅かな違いはあったが、そこに写っていたのは間違いなく姉さん――――まだ現実に帰還していない、和人さんの恋人で俺の従姉にあたる結城明日菜だった。

 彼女も優奈と同じくナーヴギアに捕らわれたままの状態で、埼玉県所沢にある病院で眠り続けている。

 

 「ゲーム内のスクリーンショットだから、解像度はイマイチだったがな」

 

 「そのゲームってのが、さっきキリトさんが言ってた《アルヴヘイム・オンライン》ってことか?」

 

 「そうだ」

 

 「ハードは? まさかナーヴギアじゃないだろ?」

 

 「見てみろよ」

 

 そう言って渡されたのは、《ALfheim Online》―――ALOのパッケージ。ソードアート・オンラインと同じく、パッケージ購入型のMMOか……

 ハードは……《アミュスフィア》……聞いたことないな。

 

 「このアミュスフィアってのか?」

 

 「ああ。俺たちが向こう側にいる間に発売された奴だ。ナーヴギアの出力をよわっちくした、後継機って奴だ」

 

 ナーヴギアの後継機……出力を弱くってことは、多分マイクロウェーブなんかの要素を取り除いて安全性を高めてるってことだよな。

 エギルによると、あれだけの大事件があった後も、フルダイブ型ゲームマシンを求める市場ニーズは誰にも止められなかったらしい。SAO事件からたった半年の内に、このアミュスフィアが発売され、今までのテレビにつなぐタイプの据え置き型ゲーム機とシェアを逆転するほどになったらしい。

 今ではSAOと同じ大規模オンライン(MMO)RPGのタイトルも数多く発売されており、世界的な大人気を博しているとか。そのうちの一つが、アルヴヘイム・オンラインというわけだ。

 

 「でも、SAO事件のあとでよくそんな人気が出ましたね」

 

 「“絶対安全”っていう銘打ちが効いたらしいぜ。それに、異世界――――バーチャルワールドは、人間なら一度はあこがれるだろう?」

 

 口を開いた珪子に、エギルがそう答えた。

 そんなもんか、と勝手に納得し、パッケージを再度見る。

 アルヴヘイム――――さしづめ、妖精の国とでも言ったところか。

 

 「ここまではキリトにも話したんだがな。早く続きを聞きたくてうずうずしてるぞ」

 

 「それでさっきから揺れるわけだ……」

 

 なんかわさわさしてると思ったら、和人さん全力で貧乏ゆすりしてる……。

 まあ、姉さんが話題に上がってるのだからしょうがないかもしれないけど……

 珪子が話を進めようと、エギルに話しかける。

 

 「……でも、アルヴヘイム――――妖精の国なんて、なんだかほのぼのしてて楽しそうですね」

 

 「それが、そうでもないんだぜ。ある意味、かなりハードだ」

 

 「ハードって、どんな風に?」

 

 「どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」

 

 俺たち3人全員が口を開けた。

 “ど”ってなんだよ、“ど”って。

 

 「いわゆる、レベルって奴はないらしいな。各種スキルを反復練習で上昇させるらしい。戦闘もプレイヤーの現実の運動能力依存らしい。ソードスキル無し、魔法ありのSAOだな」

 

 「それもうまったく別のゲームだろ」

 

 思わず突っ込んでしまう。

 SAOは、数多のソードスキルとRPGとしては異色の『魔法無し』が売りのゲームだったのだ。その二つをぶんどったらもうSAOの面影もないだろ。

 

 「あ、あの、PK推奨って言うのは…」

 

 珪子がおずおずと聞いた。

 俺や和人さんのような廃プレイヤーと違って、珪子はMMOは後にも先にもSAO一つのみだ。さらにSAOは、ゲームオーバーが現実の死と同義だったこともあり、PK――――プレイヤーキルは実質的には人殺しと何も変わらなかった。

 現在、死亡した四千人のプレイヤーは、茅場晶彦一人によって殺害された――――つまり、全ての罪が茅場にかかっているわけだが、実際には、俺や和人さんのような自衛のために仕方なく手を汚したものだけではなく、進んでPKを行った連中もいた。誰が誰を殺した、なんて記録は残っているわけがないので、元SAOプレイヤーは、リアル割れを避けることになる。もしも偶然出会った人間が、かつてのパーティメンバーやギルドメンバーを殺した人間であれば。そこから現実の殺人事件に発展する可能性があるからだ。

 つまり、俺たちのようなプレイヤーは例外なわけで――――嫌な言い方だが、PK慣れしていない元SAOプレイヤーの珪子にとって、PK推奨というルールは信じがたい部分があるのだ。

 

 「最初のキャラメイクで色々な種族の妖精を選べるんだが、違う種族同士ならキルありなんだとさ」

 

 「うへぇ、確かにハードだな、そりゃ」

 

 思わず顔をしかめてしまう。

 そんな超マニア向けゲーム、人気出るわきゃねー。

 和人さんも同じことを思ったようで、エギルに聞いていた。

 

 「それがな……今、この手のMMOじゃダントツで大人気なんだよ」

 

 「「「うそぉ……」」」

 

 珪子も含めて全員がまた口を開けてしまう。

 珪子にも分かるくらい極端なマニア向け設定なのに大人気?

 いつの間にMMOはマニア趣向がメジャーな時代になったんだ?

 

 「スペックがSAOに迫るくらいあって、グラフィックも相当なものだそうだが……人気の一番の理由は、《飛べる》からだ」

 

 「……《飛べる》? プレイヤーが?」

 

 「ああ。妖精だからな、羽がある。フライト・エンジンってのを搭載してて。普通ははコントローラを使うんだが、慣れたプレイヤーはコントローラ無しでも飛べるらしい」

 

 「へぇ……それは凄いな」

 

 「あたしも、ちょっと興味あります」

 

 和人さんと珪子が感心していた。

 確かに、人間が機械の力を借りずに飛べるのなら、そりゃ人気も出るだろう。

 ナーヴギア発売直後から、そういうゲームは沢山出ていたが、全て空飛ぶ機械の力を借りるタイプだった。理由は単純で、そもそも人間に無い器官を再現する時に、感覚や間接、骨やら神経やらをどうするかという問題を処理できなかったからだ。その問題を処理しているのなら、確かにハイスペックだな。

 

 「でも……なんで姉さんがそのALOの中にいるんだ?」

 

 「そこが本題だ。さっきも言った通り、そこは世界樹ってとこなんだけどな。プレイヤーの当面の目的が、そこに到達することなんだ」

 

 「到達って……飛んでけばすむ話だろ」

 

 「滞空時間ってのがあって、いつまでも飛んでいられるわけじゃないらしい。普通にやったんじゃ、その木の根元までもたどりつけないらしいぜ。それでもやっぱりバカはいるもんで、体格順に5人が肩車して、多段ロケット式で樹の枝を目指したわけだ」

 

 「へぇー、凄いんですね」

 

 「いや、バカなだけだろ」

 

 「発想は面白いけどな」

 

 何故か感心する珪子に、俺と和人さんが突っ込む。

 確かにその方法なら、理論上はたどりつけるが、まあまず無理だろう。

 『当面の目的』というのだから、おそらくグランドクエスト――――SAOで言う、100層突破――――なのだろう。つまりは、まともな方法でふざけたボスを倒す必要があり、そんな裏技が通用するとは思えない。

 思った通り、エギルが語る結果は失敗だった。

 

 「実際には、GMが慌てて設定かけ直したそうだけどな。とにかく枝まではかなり肉薄したらしい。到達は出来なかったが、高度の証明として何枚も写真を撮った。その中の一枚に、奇妙なもんが写りこんでた。枝からぶら下がる、巨大な鳥籠がな――――」

 

 「鳥籠……」

 

 和人さんが僅かに漏らした。

 鳥籠――――イメージとしては、囚われの身、という風に想像できる。

 和人さんの思いつめた表情から見て、リアルの問題で姉さんに何かあったのは間違いない。

 

 「でも……これは正規のゲームだろ? なんでアスナが……」

 

 そう言いながら、キリトさんは俺からパッケージを取りあげた。

 裏面の詳細を眺めていると、急に表情が険しくなった。

 

 「……和人、さん?」

 

 「藍人、見てみろ」

 

 パッケージを返され、和人さんが指差す場所――――メーカー欄を見る。

 《レクト・プログレス》――――あれ、うちの系列じゃないか。

 お袋が言うには、確か今は須郷伸之がSAOサーバーを管理してて、優秀とか何とかあの毒舌嫌味野郎を褒めちぎってた……あれ、確かALOって……

 

 「エギル、さっき、ALOはSAOに似てるって……」

 

 「ああ。グラフィックもそっくりらしいぞ」

 

 偶然――――にしては出来すぎてる。

 SAOサーバーは、管理しているとは言っても今はブラックボックス状態で誰にも手をつけられないでいる状態のはずだ。

 須郷は俺たちが幼いころから延々大人たちへの嫌味と自分のスキルの自慢ばかりをしていた男で、俺も姉さんも兄さん――――俺の従兄に当たる人で、姉さんの実の兄――――もうんざりしていた。

 アイツなら――――あの糞野郎なら、やりかねない。何が目的がまでは分からないけど、あの男が管理しているSAOサーバーと、その男が所属する会社のALOなんて、疑ってかからないわけがない。

 

 「……エギル、これ貰っていいか」

 

 和人さんは、巨漢のマスターに向かって言った。

 続いて、俺もエギルに同じことを尋ねる。

 

 「そう言うと思って、お前の分も用意してる。しかし……行くつもりなのか?」

 

 「当然。それに……アスナがそこにいるのなら」

 

 「――――優奈も」

 

 現在にいたるまでの過程には多少の違いがあるが、今の姉さんと優奈はまったく同じ状態にある。

 ならば、もし姉さんがALOにいるのなら、優奈もいる可能性は高い。いや、優奈だけでなく、のこり300人のプレイヤーも――――

 

 「シリカはどうする。お前の分も、一応用意はしてあるが」

 

 「あ、あたしは……」

 

 珪子は言葉を濁すだけだった。けれど、それは仕方のないことだろう。

 あの世界――――SAOだけでなく、VRワールドそのものが、珪子にとって恐怖の対象となっていてもおかしくないのだ。あんな血みどろの戦いを強要されて、さらに同じ世界に行こうと思うのは、俺たちのようなよほどの廃プレイヤーだけだろう。

 けれど、俺の予想を裏切って、珪子は答えた。

 

 「あ、あたしも行きます」

 

 「珪子……!?」

 

 いいのか、と尋ねようとしたところで、珪子に遮られる。

 

 「藍人が行くなら、何処だってついてく」

 

 「う……ま、実際に死ぬわけじゃないし、問題ないか……」

 

 俺が自分で勝手に納得していると、3バカの内の二人の視線がみょ―に温かいことに気が付いた。

 

 「なあキリト。今日は貸し切れでいいよなニヤニヤ」

 

 「そうだなエギル。俺は戻ってさっそくこいつをやることにするよニヤニヤ」

 

 「……あんたら、次に向こうで会ったら絶対殺す」

 

 これでもかというくらいに二人を睨みつけ、とりあえずはそこで解散となった。  

 




最近シリカ=ニコが頭から離れません。
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