ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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静波さん、エロゲマスター・シンさん、Mitsuさん、マッスーさん感想ありがとうございました!

祝、30話目!!
記念してらう゛展開どじょ。


第30話 夜の異世界の溢れる思い

 「どおりゃああああ!!」

 

 俺は叫びつつ、両手で握りしめた大剣を巨大な熊モンスターへと叩きこむ。

 ケットシー領と世界樹をつなぐ唯一の道である《蝶の谷》。世界樹へと通じる道――――すなわち、《アルヴヘイム・オンライン》のグランドクエストである世界樹の上にある空中都市への到達を達成する上で、距離的には最短ルートとなる道だ。

 だが当然、グランドクエストの最短ルートとあって、モンスターのレベルも並ではない。

 

 「レンタ、スイッチ!!」

 

 「おうよ!」

 

 俺が叫び、熊の体勢を崩しながら後退する。同時に、虎人間のようなアバターを操るレンタが大槌を振り上げながら突進。

 ここ数回の戦闘で、この熊は憎悪値(ヘイト)に関わらず、最も近いところにいるプレイヤーに襲いかかることが判明していた。レンタが熊のタゲを取っている間に、ポーションを飲んで削られたHPを回復する。

 

 「いやー、やっぱヴァイオ君は強いネ。どうやったらそんなに強くなれるのかナ?」

 

 「んー……。俺はただ、パワーとスピードに任せて殴りきることしか考えてないからなぁ……どうって言われたって、何とも言えないさ」

 

 俺はどうやら、魔法とやらを一切使わない脳筋野郎らしい。

 したがって、あの熊のようなパワーゴリ押しタイプのモンスターにはめっぽう強いが、魔法を連打してくるメイジタイプが一体混ざっていると、中々に戦い辛いものがある。

 

 「ヴァイオ、スイッチいいか!?」

 

 「まぁ……とりあえず、相手の体勢を崩してから言ってくれ」

 

 領主会談――――つまり、ケットシーとシルフのリーダー同士の会談。

 アリシャ達の目的はあくまで領主会談であって、今からボス級の奴らと戦いに行くわけではないので、よって彼女に同行するメンバーも限られる。

 構成は、俺とレンタが前衛、アリシャとシリカ、ニーナが後ろで支援魔法(バフ)やら拘束魔法(バインド)やらを掛けまくるメイジを務める5人構成だ。

 

 「どっっせええええい!!」

 

 「……レンタ、なんかもう必死なんだけど」

 

 「……助け舟出してやるか」

 

 ニーナが俺の隣でレンタに向けて回復魔法(ヒール)を放った後、呟いた。

 完全スキル制のALOにおいて、各種スキルは反復練習で向上するので、ぶっちゃけた話、実はモンスターとの戦闘を一回も経験せずに完全習得、なんてこともなくはないらしい。

 レンタ始め、ニーナやアリシャは、モンスターにしてもプレイヤーにしても、大勢で少数を囲み、安全に倒す方法で今まで狩りをしていたらしい。

 SAOの低層のあたりでは、生活費を稼ぐためにそういう手段で安全に狩りをしていたプレイヤーも少なくなかったが、まさかALOでも同じことをしている連中がいるとは思っていなかった。

 当然、レンタは単独でモンスターを相手取るのは初めてなわけで、基本的にユウナあるいはシリカとスイッチしつつ交互にモンスターを相手取っていた俺にはちょっと分からない状況だった。

 

 「ヴァイオ、スイッチ頼む!! もう限界!!」

 

 「ソロ狩りの方が楽しいと思うんだけどなぁ……」

 

 そう言いつつ、背中の大剣を引き抜く。

 あの宴会の翌日、アイテムストレージを埋め尽くす猫じゃらしを売却処分し、その分の収入も含めて装備を一式した。

 藍色を基調とした大剣とコートが――――割高ではあったものの――――気に入ったのでそれを購入し、簡単なアクセサリを揃え、それでもかなりの大金が余ったくらいだ。どんだけ金あったんだ、SAO時代の俺。

 俺の新たな相棒《レスティカル》を、思いっきり振り切る。斬るというよりも、叩くことをメインにしたこの剣は、大型のモンスターに当てると、斬撃ダメージだけでなく打撃ダメージも発生するという剣と呼んでいいのかどうか若干疑問の残る代物だ。

 ヘッドスピードMAXのレスティカルは、熊を思い切り吹き飛ばす。

 

 「はぁ……さて、熊公にいつまでも時間割けないしな。そろそろ終わらせよう」

 

 構えは、基本的な斜め切りソードスキル《スラント》。

 このALOでは、かつてSAOで数多のプレイヤーの力となったソードスキルは存在しないが、せいぜい3連撃程度までなら、再現することも不可能ではなかった。最も、システムにアシストされた動きをアシスト無しで行うのだから、本物に比べれば見劣りするが。

 

 「……せい!!」

 

 「アッグォォォォォオオオ!!」

 

 《スラント》の動きで熊の体を斜めに斬る。HPバーが左端まで到達し、熊の体はポリゴンとなって四散した。

 

 「ふぅ……お、アイテムドロップ」

 

 ドロップした《高級毛皮》を見て、思わず顔を緩ませる。

 基本的には、売却および防寒装備の作成以外には使い道のないアイテムだが、鍛治のスキルが高いと軽量かつ高性能の革防具が作れるらしい。

 今のコートも決して嫌いなわけではないが、これよりも軽くて高性能と聞いては、手に入れないわけにはいかない。

 

 「はー、やっぱヴァイオは凄いな。俺はあんなにてこずったのに、一撃で仕留めちまった」

 

 「別に、VRMMOは感覚さえ掴めばどのゲームでもかなり動けるもんだよ。単純な動きなら、俺より上のプレイヤーはごまんといるさ」

 

 たとえば、キリトさんや姉さん、そして茅場晶彦。

 当初、茅場の強さはシステムのオーバーアシストによるものだと思っていたが、彼はオーバーアシストなしでも、十分最強のプレイヤーとして君臨していただろう。それほどまでに、彼は強く、速かった。

 

 「で、何かいいものでもドロップした?」

 

 そう聞いてくるのは、SAOで一度は折れた俺の心を救い、リアルでも面識があるシリカ。

 俺はアイテムストレージをシリカに見せ、4つ目の高級毛皮の存在を教えた。

 

 「……それって使い道あるの?」

 

 「な!? あるだろ! 軽量で高性能の革防具なんて、カラーリング次第じゃいくらでも払うぞ、俺は!」

 

 「確かにそのコート、高かったもんネ~」

 

 ほのぼのと、しかし的確なツッコミを入れるアリシャに皆で笑う。

 笑い声がおさまると、ニーナが唐突に俺とシリカに向けてあることを聞いてきた。

 

 「シリカとヴァイオは、リアルで知り合いって言ってたけど、前に何かMMOやってたの?」

 

 それは、何気ないと言えば何気ない質問だった。しかし、俺とシリカは答えることが出来ずに黙ってしまう。

 

 「あ……あれ、なんか、聞いちゃいけなかった?」

 

 「い、いや、別にそうじゃないんだけどさ」

 

 「うん、気にしないで」

 

 俺たちがかつてプレイしていた――――いや、囚われていたゲーム、《ソードアート・オンライン》。

 プレイヤーの自発的ログアウトが出来ず、100層にも及ぶ鉄の城の頂を極めるまで、現実への帰還は許されなかった。もしもナーヴギアを無理やり外そうとしたり、ゲーム内でHPが0になれば、ナーヴギアが俺たちの脳を電子レンジでチンして破壊――――つまり、死んでしまう。そういう世界に、俺たちはいた。

 《ソードアート・オンライン》は約四千人もの人間を殺し、クリア後も約三百人のプレイヤーがいまだに目を覚ましていない。

 俺たちは、自分であの頃の事を考えることはあっても、誰かとあの頃の話をしたことは今まで一度もなかった。

 

 「それよりもさ、早く行こうぜ。ダンジョンの終わりの方でとんでもない奴にでも出てこられて時間取られるのも嫌だしな」

 

 「それもそうだネ。じゃあヴァイオ君盾にしてイコー」

 

 「「おおー!」」

 

 「俺使い捨て装甲板!?」

 

 重い空気を破ろうとしてくれた、アリシャなりの気遣いのはずなのに、目からしょっぱい何かが出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。ALOにも夜は来る。

 当初の予定よりも、やや移動のペースが遅かったせいで、蝶の谷を越えることが出来なかったヴァイオレット達に野宿以外に選択肢はなかった。

 ところが、そこで問題が起きた。

 ALOを含む、多くのMMOでは、ダンジョンなどではその場ですぐにログアウトが出来ないことが多い。逃走中や、都合が悪くなった時に、ログアウトを利用した“逃げ”を封じるためだ。

 そのため、ログアウトした後も、アバターは数分間、空っぽの状態でその場に残る。しかも、これがよくモンスターに狙われ、気が付いたら死んでいた、などと言うことも少なくない。。

 翌日、気が付いたらセーブポイントにいたなんてことにならないように、誰かが残ってアバターを守る必要があったのだ。

 そこで、白羽の矢が立ったのがヴァイオレットだった。

 はじめは、自分よりもアリシャやニーナのような、ケットシーとして信頼のある人の方が適任なのではと反論したが、そこはケットシーのほのぼのスキルでスルーされ、『シリカの友達に悪い奴はいない』という性善説で論破された。

 

 「けど、それでシリカまで残ることはなかったのに……」

 

 「いいのっ」

 

 さらに、シリカが『アリシャやニーナに変なことしないように見張ってる』などと言いだし、結局ヴァイオレットとシリカの二人が残ることになった。

 

 「……あの、ごめんね、藍人」

 

 シリカが、唐突に口を開いた。

 リアルネームを出されたことに一瞬驚いたヴァイオレットだったが、同行している三人はすでに落ち(ログアウトし)ているし、索敵スキルで調べても周囲にプレイヤーの気配はないので問題はなかった。

 

 「な、何がだよ」

 

 「本当なら、蝶の谷を超えるのに、こんなに時間はかからないはずなの。遅くたって、一時間前には到着してておかしくないのに……私が、足を引っ張ってたから」

 

 「べ、別に、シリカが……珪子が足を引っ張ってたわけじゃないだろ。レンタやニーナに少人数での戦闘のノウハウを教えたいって言いだしたのは俺だし、それを言うなら原因は俺に……」

 

 「違うの」

 

 藍人の言葉を遮り、珪子は言った。瞳には、うっすらとだが、涙がにじんでいる。

 

 「わざと……わざと、遅れるようにしてたの。藍人が、世界樹に行くのが遅くなるように」

 

 「な……なんで……」

 

 そう言いながら、藍人もなんとなくではあるが理解していた。

 

 「だって……だって、世界樹に優奈ちゃんがいて、現実でも優奈ちゃんが目覚めたら、藍人はきっと優奈ちゃんだけを見るようになって……そんなの、嫌なの……」

 

 「珪子……」

 

 もしも、優奈が現実で目を覚まし、藍人と優奈が再び逢った時。

 そこに、自分の居場所はない。

 自分はあくまで二番手で、最初から藍人の心にいたのは、星川優奈であって、綾野圭子ではないと分かっているから。

 卑怯な行いだとは思っても、そうせずには居られなかった。

 少しでも、藍人の世界樹到達を遅らせ、藍人を独占できる時間を長くしたい。そんな、わがままで、卑怯で、自分勝手な理由で、藍人の求めるものを奪おうとしていた。

 

 「卑怯だって……分かってたけど、でも、藍人が優奈ちゃんと二人で、あたしの行けないところに行っちゃうのが怖かった……藍人に、あたしの傍にいてほしかった……!」

 

 「珪子……」

 

 気が付けば、珪子は大粒の涙を流していた。

 抑え込んでいた気持ちが逆流し、一気にあふれ出している。

 今こうして藍人と二人っきりになっているのだって、『見張っている』などと適当なことを言って、本当は藍人に、自分だけを見てほしかっただけだった。

 けれど、藍人は何か言うわけでもするわけでもなく、遠くにそびえる世界樹を、強い意志を秘めた眼差しで見つめるばかり。

 どこでも優奈の事ばかりで、ちっとも自分を見てくれない藍人に、気持ちをぶつけてしまう。

 

 「あたしを見てよ……もっと、あたしのことも見てよ!」

 

 結婚までした藍人に、言う言葉ではないことくらいは、珪子にも分かっていた。

 それでも、言わざるを得なかったのだ。これ以上、胸の奥で渦巻くこの想いを押しとどめておくことなど、珪子には不可能だったのだから。

 大粒の涙を流し、うつむく珪子の体が、不意に抱き寄せられた。

 突然の出来事に、一瞬目を見開いてしまう。

 

 「ごめん、珪子……俺、優奈のことばっかで、何も珪子の事見てなかった。ユウナを失ってから、俺の傍にいてくれたの、珪子だったのに……」

 

 「藍人……いいの、藍人が優奈ちゃんの事気にするのは、当たり前、だから……」

 

 「俺は、確かに優奈の事凄く大切だけど……同じくらい、珪子の事も大切なんだ。だから、そんな自分の方が下みたいな言い方しないでくれ。俺は、何があっても、珪子を置いて居なくなることだけはしないって、約束するから」

 

 その言葉と、体から伝わってくる藍人の温かさが、珪子の心の、穴のあいた部分に流れ込む。藍人はもう、自分を見てはくれない。そんな思いを打ち消し、流そうとするかのように、珪子の瞳から大粒の涙があふれる。

 

 「うん……ごめんね、藍人……」

 

 「いいんだ。気付いてあげられなかった、俺が悪かったんだ」

 

 珪子は藍人の胸に顔を埋め、藍人は珪子の存在を強く抱きしめる。

 いつのまにか眠りから目を覚ましていたピナも、珪子の肩に乗り、寄り添うように頬ずりをしている。

 二人は、珪子が眠りにつき、この世界からいなくなるまで寄り添い続けた。

 

 

 

 

 

 「うんうん、若い子たちの恋愛っていいナ~」

 

 そう呟くアリシャ・ルーが、最初から最後までをすべて見ていることを、二人は知らない。




最近アリシャが好きになった。
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