ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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静波さん、エロゲマスター・シンさん、月の書さん、くまたさん、000Xiさん、osusi215さん感想ありがとうございました!


第31話 《キャッチャー》

 翌朝、8時過ぎには全員が再ログインし、挨拶を手短に済ませ、出発した。

 聞くと、領主会談のためにタスクを空けておいたらしい。なんてゲーマー根性。

 俺やシリカをはじめとした元SAOプレイヤーは、勉学に関してはブランクがありすぎるので、今年の春から新設される学校にまとめて入学させるらしい。希望で普通の高校や中学に入学することもできるらしいが、受験勉強の手間を考えたら断然前者の方がいい。

 

 「そういや、なんでケットシーとシルフが同盟組むなんて話になったんだ?」

 

 俺が、ふと思いついた疑問を口にする。

 すかさずアリシャが答えた。

 

 「それはネー、世界樹攻略のためだヨ」

 

 「世界樹攻略?」

 

 「ソ。あそこは強力なガーディアンの軍勢が守ってるからネ。ケットシーとシルフで協力して攻略しようってわけなノ」

 

 「ふーん……」

 

 マップでは、《蝶の谷》もかなり終盤まで来ており、あと2,3フロアで抜けられそうだった。

 

 「けどさ、アルフに転生できるのって1種族だけなんだろ? 協力とかしちゃっていいの?」

 

 「《妖精オベイロン》のクエの他にも、転生のクエストやイベントはあると思ってるからネ」

 

 ALOのグランドクエストは、正確な言い方をすれば、世界樹を攻略し、その上に住む《妖精オベイロン》に、自種族のプレイヤーをアルフへと転生させてもらうことだ。

 アルフとなったプレイヤーは、《滞空時間》という制限を失い、永遠に飛行し続けることが可能となるのだ。

 だが、俺は前からそこに疑問を思っていた。

 なぜなら、ALOに限らず、オンラインゲームとは、多少のハンデこそあれど、基本的に全てのプレイヤーに対してフェアでなければならないからだ。

 1種族だけが、滞空制限という最大の制限を解除されれば、ゲームバランスは崩れるに違いない。

 他にその手のクエやイベントがあったとしても、一時的にでもゲームバランスが崩壊してしまうのでは意味がない。

 GMはいったい何を考えてるんだ?などと疑問を抱きつつも、現れる敵を蹴散らしていく。

 

 「……今考えて答えが出るわけじゃないか」

 

 考え事に気を取られてクリティカルをもらうわけにもいかないので、意識を戦闘に集中させる。

 コウモリの大群を撃退すると、最終フロアへとたどりついた。

 

 「……でか」

 

 「でかいネ~」

 

 巨大な扉を見上げ、アリシャがほのぼのと言った。

 マップでは、最終フロアは大きな部屋が一つだけのようだった。形状は円。SAO時代ならばまず間違いなくボス級のモンスターがいると予想するところで、それはALOでも変わらない。

 

 「グランドクエスト達成の最短ルートだから、出るとは思ってたけど……」

 

 「それじゃいっちょ行ってみヨ~」

 

 「っておい!?」

 

 おいおい待てよたった5人パーティでボスに挑む気かよ!?

 既に半分以上扉を開いてしまっているアリシャに突っ込むが、何のお構いもなしに扉を開き続ける。…………はめられた?

 

 「……ごめんなさいね」

 

 「……タゲ取りよろしく」

 

 ニーナとレンタが声をかけつつ、俺の両肩を優しく叩く。

 俺……アリシャ苦手だ……ぐすん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「のあああああああああああ!?」

 

 5メートルはありそうな巨人が斧を思いっきり振り下ろしてくる。

 回避しつつ、腹の辺りまで飛びあがると、連続で斬りつける。

 4撃目を入れたところで、今度は別の手に持つ剣が振り払われる。直撃は回避するが、風圧でバランスを崩されて落ちてしまう。

 

 「っつぅ……おあ!?」

 

 休む暇もなく斧が振り下ろされる。《レスティカル》で受け流し、そのまま今度は斧を握る手の部分を連続で斬りつけた。

 

 「くっそ、一撃一撃が重すぎるぞ……」

 

 アリシャ達の(範囲外からの)魔法攻撃や、俺の連続攻撃を延々繰り返しているにもかかわらず、ボスのHPバーは3本ある内の2本目がようやく消滅したところだった。

 というか、これは明らかに俺オンリーで過剰労働だっ!!

 

 「おいコラふざけんなよお前ら!!」

 

 ボスの攻撃の及ばないところで冷静に呪文を唱え続ける外道猫族どもに向って叫ぶ。いくら蘇生の猶予があるからって、これは酷すぎる。

 

 「大丈夫だヨー、ちゃんと蘇生してあげるから!」

 

 「そういうもんだいじゃねえってぎゃああああああああ!!」

 

 斧と剣が同時に振り下ろされ、回避できずに押しつぶされてしまう。

 HPバーは3割程度残っているが、明らかに俺一人で対処しきれるレベルじゃない。

 避けつつも、シリカに助けを求める。すると、彼女は最高の笑顔で答えた。

 

 「………にこっ(親指を立てて最高の笑顔で)」

 

 「ちくしょおおおお!! やってやらこんちくしょおおおおおおおおおお!!」

 

 何!? 何なのこの扱い!?

 前回の超いい感じの奴オールシカトして俺一人でおとり役なんて、やってられるかああああ!!

 

 「グゥゥゥォォォ!!」

 

 「五月蠅ぇなデカブツ!!」

 

 振り下ろされた剣を伝って巨人の顔の高さまで登ると、耳の穴に《レスティカル》を突っ込み、さらにそのまま顔面を蹴飛ばした。

 それまでの攻防とは打って変わって一方的だった。剣の重さから解放された俺は、いまやALOで最速じゃー!!

 俊敏な動きで巨人を追い詰める。狙いは、顔のパーツの中では最大の弱点と思われる眼球。

 鼻や頬などの僅かな凹凸を足がかりにし、眼球に蹴りやパンチを打ち込み続ける。

 

 「はっ、ざま見ろデカブツ……」

 

 「ヴァイオ、横!」

 

 巨人を鼻で笑うと、遠くでシリカが叫んだ。

 それとほぼ同時に、大剣だけ(・・・・)が俺めがけて飛んできた

 剣撃をもろに食らい、地面に叩きつけられる。つづけて、俺の攻撃から立ち直った巨人が両手をハンマーのように振り下ろしてくるのを、紙一重で転がりながら回避する。

 横目でHPを確認。シリカたちのヒールのお陰でマックスだったHPが、剣撃と地面に叩きつけられた時のダメージ判定だけで2割弱まで減少し、HPバーが赤く染まっていた。

 

 「斧と剣を手放した……?」

 

 「ヴァイオ!! 大丈夫!?」

 

 遠くからシリカの声が聞こえる。

 俺はHPの残量がヤバいことを伝えると、アイテムストレージへと戻っていたレスティカルを装備し直す。

 シリカたちの一斉ヒールが俺のHPを回復させるのと、巨人が方向を上げるのは同時だった。

 ふと気になってみると、巨人のHPバーの最後の一本が赤くなっていた。

 

 「……パターン変化、か。あの巨体なら、素手の方が強いかもな」

 

 SAOにも、HPが少なくなると攻撃が激しくなったり、武器を持ちかえたりするボスは多かった。どうやら巨人もその例に漏れず、戦闘スタイルを斧と剣のなんちゃって二刀流から体術系に変えてきたらしい。

 体術スキルは武器を装備していないために、通常よりも速いスピードで動きまわることが出来る。あの巨体で高速移動とかされたらたまったもんじゃない。

 

 「……これは、ちょっとヤバいかもな」

 

 俺が言うのと、巨人の拳が一瞬消え、俺の目の前に現れるのはほぼ同時だった。

 突然の出来事に、一瞬対応が遅れ、回避ではなく剣による防御をとる。だが、巨人の拳の前では、まともな防御にならず、踏ん張りが利かずに吹き飛ばされる。

 

 「のあっ……こりゃ、一対一(サシ)はキツいぜ……!!」

 

 すぐに体勢を立て直し、壁を土台にして巨人へと突っ込む。

 繰り出される攻撃を回避しつつ、レスティカルの斬撃を放ち続けるが、数回切り刻んでやっと一ドット減る程度のダメージ。HPが危険域に入ってから、急に物理耐性が上がっている。

 

 「ヴァイオー!! 準備できたー!」

 

 シリカの声が響く。切れていた敏捷値強化の再支援(リバフ)を確認すると、俺はレスティカルを巨人に向かって投げつけた。

 当然、一振りすれば何事もなかったかのように終わる攻撃だ。よって、狙いはダメージではない。

 目の前に迫る攻撃は、どんな小さな物でも防御しようとする、AI制御のモンスターの性。

 

 「落ち……ろおおおおおおおおおおお!!」

 

 レスティカルを目くらましにして巨人の気を引いている間に、強化された敏捷力で俺は巨人の頭より少し上のところまで飛び上がる。そのまま体を捻ると、右足を前に出し、重力に任せた一撃をお見舞いする。

 要するに、ただのかかと落としだ。

 ドーン!!という音を立てて、巨人が地面に倒れる。一応はダメージもあるだろうが、物理体勢の凄まじさは体感済みなので当てにしてはいない。

 俺の仕事は、最初から(・・・・)物理攻撃で(・・・・・)倒すのが(・・・・)不可能な(・・・・)敵を倒す(・・・・)ことじゃない(・・・・・・)

 俺の仕事は、ただ、ずっと巨人のタゲを取り続けること。

 タゲを取り続ける、タゲ取り名人(キャッチャー)であること。

 

 「アリシャ、後頼む!!」

 

 バックステップで巨人から距離を取りながら言う。

 俺と正反対の位置にあるのは、両手を掲げて巨大な黒い玉を作り上げた、ケットシーの美しき領主の姿。

 そう、物理攻撃で倒せないのなら、魔法攻撃で倒せばいい。

 ゴッ!!という轟音を響かせ、黒球が造り主のもとを離れる。

 さすが、闇魔法の最大スキル《滅殺物質(ダークマター)》だけあってスピードは申し分ない。その分、詠唱にとんでもなく時間がかかるらしいけど。

 

 「すげー……おう?」

 

 巨人は黒球に焼かれ、残り僅かなHPを0にして――――こっちに向かって突進してきた。

 

 「く……来るなバカアアああああああああ!!」

 

 AIにバカと言ったところでどうとなるわけでもなく、気が付けば俺は儚く燃える炎と化していた。

 やっぱ俺、アリシャ苦手だ……。

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