ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
今回ちょっとどころかかなり(精神的に)残酷な描写があるので、苦手な方はブラウザのバックボタンをクリック。
優奈が酷い目に会うのをみるのが嫌な人もブラウザのバックボタンをクリック。
それでも言い方のみ閲覧ください。
【余白で閲覧防止】
暗い暗い、鉄の部屋。
あの人――――ヴァイオレットと過ごした日々の温かさはどこにもなく、冷気と冷酷さだけが空気の中に混じっている。
あの日、22層の湖のほとりで赤ずくめの騎士剣使いに襲われ、ヴァイオレットの腕の中で私は自分のHPバーが空になり、自分の体が消滅していくのを感じた。
もう、この人と一緒には居られない。その現実が、酷く心を打ちのめした。
死んだらどうなるかなど、私にはわからなかったし、どうなっても良かった。だから、最初に目覚め、妖精のような格好をした男が私の前に立っていた時も、何も感じなかった。
『ようやくここに来たね、星川優奈ちゃん』
その男は、私の現実でのフルネームを呼んだ。
次いで、私のいる場所が、かつてアインクラッドのどの層でも見たことのない、拷問部屋のような装飾であることに気が付いた。
体を動かそうとしたが、動かなかった。両手両足を、鎖でつながれていた。
私の目の前に立った男は、私の顔をいやらしい手つきで触りながらこう言った。
『それじゃあ、君には
☆
その扉が開かれると、いつものように見慣れた顔が入ってきた。
妖精王――――は自称だが――――パークック。またの名を、村瀬啓助。
彼の口から時折漏れる《オベイロン》や《ティターニア》は、シェイクスピアの物語の登場人物だ。おそらく、同じ登場人物である《パック》から取った名前なのだと思う。
現実での時間がどれくらい経過しているのかは分からないけれど、感覚的には1年くらいのはずだ。
それだけの間、私はパークック――――村瀬によってこの空間に閉じ込められている。
「つれないなあ、優奈ちゃん。まだ僕に従順になってくれないのかい?」
「何度も言ってるはずです。私はあなたのしもべになんかならない」
私がそう答えると、村瀬は
つまり、ここはアインクラッド、あるいは別のフルダイブ型ゲームであることが分かる。そして、それはつまり、現実での私の体はまだナーヴギアによる脳破壊を受けていないことでもあった。
「酷いなぁ、キミは。キミの体が衰弱死しないようにしてあげたのは、他でもないこの僕なのに、キミはその恩も返してくれないわけだ」
「貴方のような人に従うくらいなら、死んだ方がマシ」
そう吐き捨て、ベーッと舌を出してやる。
一瞬、村瀬のこめかみがぴくぴくと動いたかと思うと、ウィンドウを素早く操作した後、村瀬は懐から小さな
「っ……」
「お母さんから、キミは頭のいい子だと聞いていたんだけどね。ここまでされればバカ犬だって覚えるよ」
そう言い、にやりと笑うと、村瀬は右手に持ったダガーを私の左腕に突き刺した。
襲ってくる、現実ではありえないほどの激痛。
「あああああああああ!!」
「ははっ……流石に《ペイン・アブソーバ:レベル4》まで行くと、走る激痛も凄まじいようだ。どうだい、いままでレベル5だったのが、一歩先に踏み入れた感覚は?」
「うぐぁ……がっ、はぁ、はぁ……」
激痛のあまり、言葉を発することもできず、ただ村瀬を睨みつける。
村瀬は肩をすかしていった。
「はぁ……ここまでされて、どうして素直に言うことを聞くと言えないのかね。出来れば伸之の技術は使いたくないから、こうしているというのに」
「……っ、あの、思考や感情を制御するって言う……?」
「へぇ、覚えてるってことは、そっちの方がお好み?」
そんな訳がない。
溢れる涙を必死にこらえ、耐えがたい激痛に耐え、今日まで村瀬に屈せずにきたというのに、あんな訳の分からないものに心を制されたくなどない。
村瀬はダガーをしまうと、いやらしい笑みを浮かべながら言った。
「まったく、伸之の考えは理解できないね。確かに感情を制御できれば思いのままの生きる人形を作れるが……そんなもので人を屈服させて何が面白いんだか」
「あなたの、やってる、ことだって……ただ暴力で、人を、脅してる、だけじゃない……」
いまだに激痛が引かず、声が途切れ途切れになる。
村瀬は何かあり得ないものでも見るかのように私を見て、大笑いした。
「はははっ!! 何を言うかと思えば、キミも伸之と同じことを言うんだねぇ!!」
「……っ」
伸之――――須郷伸之と言う、下種としか言いようがない男と同列視されたことに嫌悪感を覚えたが、その程度で取り乱していたら村瀬と会話なんか出来るわけがない。
罵倒の一つでも吐いてやりたいところを我慢して、話を続けさせる。
今は、すこしでもこの男に情報を吐いてもらわなくちゃならない。
「同じって……?」
「あの男も、『そんな非効率的なやり方、シンプルじゃない』と言っていたよ。まったく、何も分かってないね。あのバカは」
第3者から見れば、どっちも同レベルの屑であることに村瀬は気付いていない。
こんな男が現実では人の命を救う医者をやっているのだから、世も末だなと思ってしまう。
「こうやって、暴力で服従させるのが楽しいのに……さ!!」
間を置き、叫ぶと同時に、村瀬は私の腹の部分を右足で蹴りつけた。
肺から一気に空気が抜ける感覚と、訪れる激痛に身をよじる。
「がああああ!!」
「ふぅ……思っていたよりも強情だね、キミは。まあ、その方が崩しがいがあるから構わないけど」
村瀬はウィンドウを操作し、ペイン・アブソーバ――――この世界での、痛覚のレベルを調整するシステム――――を元のレベルに戻すと、私の顔に手を伸ばし、いやらしい手つきで撫でまわしてきた。
気持ち悪さと屈辱感で、泣きだしたくなってくる。
「そう言えば……結城藍人くんだったかい? キミの彼氏さんに会ったよ」
「えっ……!?」
ヴァイオレット――――藍人さんの名前を出され、本気で驚いた。そして、同時に嬉しさで胸が満ち溢れた。
ヴァイオさんは――――藍人さんは生きている。あの世界からちゃんと現実へと帰ることができた。それが分かっただけで、私は言い表すことのできない喜びに震えていた。
けれど、次の瞬間に村瀬が発した言葉で、私は茫然となった。
「藍人くんにはねェ……新しい彼女さんがいたよ。とても仲良しで、恋仲と言うより夫婦だったね、あれは」
「え……?」
言っている意味が、理解できなかった。
私が呆然としているのを見て、村瀬はさらに嬉しそうに語り続ける。
「もうキミの事はどうでもいいらしくてね、僕に全部任せてくれちゃったよ。彼は実に頭のいい子だね! 目覚める見込みのない彼女より、生きてる方を選ぶんだからねぇ!!」
「そんな……そんなわけ、ない……!」
信じたくなかった。否定したかった。
私はこんなに苦しい思いをして、それでもいつか藍人さんともう一度会えると信じて耐え続けてきたのに、そんなの、酷すぎる……。
どうしてもこらえられず、両目から頬を伝って涙がこぼれた。
「どうせ、『いつか助けに来てくれる』なんて思ってたんだろう? ざーんねーんで―――したぁぁ!! 結城藍人くんはもうキミなんか眼中にないんだってさぁ!!」
「やめて……それ以上、いわないで……」
信じたくない。
藍人さんは言ってくれたんだ。必ず、一緒に帰ろうって。
来てくれるって、信じてた。だから、きっと、村瀬の言葉は全部、嘘。そうでなきゃ、私は……
「どうだい……キミを諦めて乗り換えるような奴、こっちから捨ててやりなよ。僕は、一度愛すると決めたらとことん愛するタイプだよ」
「あ……あぁ……」
今まで必死に守ってきたものが、音を立てて崩れていくのを感じた。
もう、抗えない。私は……ユウナは、この人の甘言に耐えられない。
何も言えず、私はただうつむくしかなかった。
どうしても、藍人さんが私を捨てたなんて信じたくなかった。
「さあ……僕のしもべになるというんだ。そうすれば、キミは現実に帰れる。キミを捨てた結城藍人に復讐することだってできるんだよ」
「わ……わたし、は……」
あなたのしもべになる、と言いそうになった。
その寸前、本来なら何の音もしないはずのその空間に、明らかに私でも村瀬でもない人の足音が響いた。
カツン、カツンと、その音は徐々に近づいてくる。
「………誰だ」
村瀬が低い声で言った。
拷問部屋のドアが
その人もまた、これまで聞いたことのないような低い声で言った。
「……やっとお前と同じ土俵に立てたな、村瀬」
その人は、藍色に輝る両手騎士剣を携えていた。
その人は、藍色のマントに身を包んでいた。
その人は、この地獄から私を助けるためだけに、ここまでやってきてくれた。
久しぶりな今回の言い訳
気付いた方もいるかもしれませんが、時系列がちょっと飛んでます。
え……? 何これ、どうなってんの……? となった方、逆の立場なら僕もそうなるので安心してください。
話がここまで追い付くのはきっとまだ先の話……。