ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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柴三月さん、くまたさん、静波さん、エロゲマスター・シンさん感想ありがとうございました!


第36話 天翔へと到る道

 世界樹へと続くだけあって、その扉の威圧感は凄まじいものがあった。

 俺たちの前にそびえたつのは、もはや壁と行っても過言でないほどの巨大な扉。

 

 「……行くぞ」

 

 短く、キリトさんが言った。

 俺とシリカが無言でうなずくと、キリトさんがその場から一歩前に出る。

 

 『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ到らんと欲するか』

 

 扉の右側に位置する石像が、両岸に青白い光を灯しながら言った。驚いたのか、シリカが隣で「ひっ」とびくついた。

 石像がしゃべりだすのと同時に、俺たちのパーティリーダーであるキリトさんの目の雨に、最終クエストへの挑戦意思を確かめるYES/NOのボタンが表示された。

 キリトさんが迷わずYESを選ぶと、今度は扉の左側の石像が口を開いた。

 

 『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』

 

 轟音を立てながら、扉が真ん中で二つに割れ、開いていく。

 その様はまるで、アインクラッドのボス部屋の扉だった。しかし、この向こうで待ち受ける敵は、最悪としか言いようのなかったあの骸骨百足以上の強敵かもしれないのだから、感傷に浸っている余裕はない。

 中へ入ると、そこは真っ暗だった。こんなところまでアインクラッドとそっくりだ。

 幸い、空間はすぐに照らされた。

 そこは、とてつもない広さを有する、円形のドームだった。ヒースクリフ/茅場晶彦と戦った、あのボス部屋よりもはるかに広い。

 

 「行くぞ。準備は……覚悟はいいな」

 

 キリトさんが低い声で言う。

 準備も覚悟も、この世界に来た時からとうに出来ていた。

 

 「シリカ……回復魔法(ヒール)、頼むな」

 

 「大丈夫……あたしも、戦うから」

 

 シリカに言うと、彼女はそう答えた。

 ステータス上の数値では、シリカの筋力値(STR)は俺やキリトさんのそれを大きく下回っていて、ダメージディーラーとしては期待は出来ない。

 しかし代わりに、シリカは多少ではあるものの、回復や支援系の魔法を使うことが出来る。キリトさんは初歩的な幻惑系の魔法のみ、俺に至ってはまったく魔法が使えないこの状況下では、それは大きな戦力と名る。

 

 「……ッ、来る!」

 

 コンマ数秒、二人よりも速く俺が叫ぶ。

 それとほぼ同時に、白銀の鎧をまとった騎士型ガーディアンが二体、今まさに飛び立とうとしていた俺たちの前に立ちふさがった。

 シリカは一歩飛びのき、ガーディアンにタゲられないように距離を取る。

 対して、俺とキリトさんは己の剣を抜き、目の前の敵に向けた。

 

 「「そこを……どけえええええええ!!」」

 

 咆哮と同時に、ガーディアンに斬りかかる。ガーディアンはそれを右手に携えた長剣で受けた。

 俺の剣――――《レスティカル》は、今までの愛剣、《トゥルヌゥソル》や《ヴァイオレット・ナイト》、《夜菫(ヤズミレ)》と同じく、重さを攻撃力として扱う剣だ。したがって、鍔迫り合い――――特に細かい技術を要求される近接戦闘においては、不利になることが多い。

 ならば、仮にそうなったら、どうするのか。

 

 「ラアア!!」

 

 剣での攻撃にこだわらず、鍛え上げた己の肉体と体術スキルで戦う。この方が、剣にこだわるよりも良い結果に転ぶことが多いのだ。

 構えは下段攻撃スキル《ダウンスケイル》のものだ。当然、実際には発動しない。

 ガーディアンの下腹部に鋭い一撃を入れると、立ての役割を果たしていた長剣が僅かに傾いた。

 その隙を逃がさず、レスティカルでガーディアンの首を刎ねる。

 ……行ける! 決して弱いわけではないが、この程度なら、苦もなく突破できる!

 

 「……!! ヴァイオレット!!」

 

 すでに敵を撃破していたキリトさんが、俺の名を呼び上を指差した。

 すぐに顔を上げると、さっきと同じガーディアンでドームの天辺――――天蓋が見えなくなってしまうほどに埋め尽くされていた。

 

 「なん……多い……!!」

 

  思わず声を漏らしてしまう。

 どう見ても数十――――いや、数百はいる。

 単体ではそんなに強くないが、そんな奴らが一斉に襲いかかってきたら、ひとたまりもない。

 

 「……行けッ」

 

 己を律するように言う。俺とキリトさんが飛び立つのは同時だった。

 俺に向って突進してくるガーディアンに野っぺらな顔面にレスティカルを突き立てると、そのまま真っ二つに切る。声にならない、数か断末魔さえ置き去りにして、俺はさらに翅を羽ばたかせた。

 

 「おああああ!!」

 

 斬って、殴って、貫いて、また斬っての繰り返し。

 立ちふさがる白銀の守護者たちを片っ端から殺しまくる。

 ただただ無感動な、破壊と殺りくと言う反復作業の中で、俺は自分自身の中にあって当たり前の感情がないことに気が付いた。

 恐れ、怒り、あるいは歓び。

 『戦っている』という実感が、まるでない。

 実戦の実感のなさに気が付いてからほんの数秒した時、少し離れたところからドッドッという鈍い音が聞こえてきた。

 意識をガーディアンから外さず、横目で音源の方を見る。

 

 「な……」

 

 キリトさんの体をガーディアンの長剣が、何本も貫いていた。

 キリトさんのHPバーが左端に達していた。

 キリトさんの体が、終焉の炎――――エンドフレイムに包まれていた。

 

 「キリトさ――――がぁっ…!!」

 

 叫ぼうとするが、敵の攻撃に遮られる。

 そんな中で、キリトさんの、この世界における“死”を目の当たりにして、俺はようやく自分の無感動さの原因に気が付いた。

 俺は、舐めていたんだ。たかがゲームだと。もう死の危険が付きまとう、デスゲームではないと。

 ユウナを取り戻すための――――今まで経験した、どの戦いよりも重いはずのこの戦いを、舐めていた。

 テレビゲームのRPGで、何度も攻略したダンジョンで戦闘するような感覚。より強い敵との戦闘ではなく、“作業”となってしまうような戦闘。

 

 「う…おおおおおおお!!」

 

 咆哮し、背後から斬りかかろうとしていたガーディアンの顔面を鷲掴みにし、砕く。

 感覚を研ぎ澄まし、的確なダメージポイントに的確な攻撃をし続ける。

 キリトさんがやられた以上、この数を単独で突破するのはおそらくほぼ不可能。雀の涙にも等しいが、一応蘇生アイテムは持っているため、キリトさんのリメインライトを回収しつつ一度ここから出て、体勢を立て直す。

 

 「シリカ、援護を――――」

 

 振り返り、シリカに援護を頼もうとするも、言葉が途中で途切れる。

 理由は単純。援護に徹し、敵にタゲられないようにしていたはずのシリカが、複数のガーディアンの攻撃を受けているからだ。

 ピナのヒールや自身の回復魔法のお陰なのか、HPバーはまだ7割近い余裕があるが、4体のガーディアンにタゲられていては、押し切られるのは時間の問題だった。

 途中から、極端に回復魔法(ヒール)支援魔法(バフ)のペースが遅くなったことには気付いていたが、気にしているほど余裕があったわけでもなく、スルーしたままだった。追い詰められているなら言えよ、あのバカ……!!

 

 「どおおおりゃあああああああ!!」

 

 群がるガーディアンをなぎ払うと、まっすぐにシリカのもとへ向かう。キリトさんのリメインライトは、まだ45秒ほど余裕がある。

 けれど、ここでシリカに死なれたら? 一切の援護なしで二人のリメインライトを回収しつつ、脱出するのは100%不可能だ。

 少し離れた方では、ピナが緑と青が混ざったようなブレス攻撃――――おそらくさっき言っていた、新しいブレス技だろう――――でガーディアンを次々と屠っていた。

 

 「シリカ、こっちへ――――!!」

 

 追い詰められているシリカを助け出そうと、手を伸ばす。

 シリカのアバターはケットシー――――かなり軽量級の種族なので、俺の筋力値なら抱えながら飛びあがることも不可能じゃない。

 俺に気づき、手を伸ばそうとしたシリカは、俺の少し上を見て、叫んだ。

 

 「ヴァイオ、後ろ!!」

 

 言われて振り返る。

 背後から目前に迫っていたのは、長剣を振りかぶった3体のガーディアン。

 

 「………!!」

 

 右手に持ったレスティカルで応戦しようとする。

 けれど、俺がレスティカルを振り切る前に、長剣の刃が、俺の右腕に食い込んだ。

 ストン……、という小さな音と、瞬時に消える右腕の感覚。

 見上げると、俺の右腕とレスティカルが、上方に浮いていた。

 

 「あ……ああああああ!!」

 

 右腕を失い、体の重心がずれているのを理解していながらの右足の蹴り。

 しかし、右肩に走る不快感と、力がこもらないせいで、いとも簡単に止められてしまった。

 そこへ、さらに別のガーディアンが長剣を振り下ろす。

 

 「………!!」

 

 膝よりも少し上の部分から、俺の右足がバッサリ斬り落とされた。

 もはや、まともに宙に浮いていることすら出来ず、体重のコントロールが出来なくなっているを感じた。

 重力に任せて落下するしかない俺に、3体のガーディアンはさらに追撃を仕掛けてきた。

 体をくねらせて避けることも、羽ばたいて逃げることもできない俺には、その攻撃を受ける以外に選択肢はなかった。

 

 「ば……ヴァイオ――――!!」

 

 シリカの叫び声を聞いて、俺は自分に何が起きたのかを理解した。

 貫いている。3本の長剣が。俺の体を。

 自分のHPバーが左端に達し、空になっているのを見る。

 青い燐光をまとった黒い炎――――エンドフレイムが俺の体を包み込み小さな紫色の文字で【You are dead】と表示される。

 もう、この体で出来ることは何もなかった。

 剣をふるうことも、敵を殴りつけることも、声を発することもできない。

 そういや、キリトさんのリメインライトも何とかしないといけないんだっけ……でも、無理だな、もう。

 そんなことを考え、ふとキリトさんのリメインライトが残されている場所へ視線を向けると、そこには俺でもキリトさんでもシリカでもない、4人目の戦士の姿があった。

 

 「(あれは……リーファ!?)」

 

 そう。キリトさんとともに領主会談の場に現れた、シルフの少女が、長刀を振りまわしてガーディアンと戦っている。

 リーファの姿を見、驚いていると、不意に視界が動いた。俺自身では動くことが出来ないので、誰かが――――シリカが俺のリメインライトを回収したのだ。

 

 「リーファ、早く!!」

 

 シリカはそう叫ぶと、ドームの外へと続く扉を目指して羽ばたいた。低空飛行で、俺たちが初めてこの世界であった時の、あの木々の間を縫うような動きで、ピナも回収しつつ扉を目指す。

 だが、リーファは別だった。

 キリトさんのリメインライトは回収できていたが、逃げきれずにガーディアンの斬撃を背中に受けていた。そのまま床に激突し、滑って行く。

 ガーディアンの猛追を振り切ろうと、翅をはばたかせると、飛ぶことはせずにそのまま外へと続く扉へと転がってくる。

 

 「とりゃああ!!」

 

 まず、シリカが叫び、ドアの向こう側へと飛び出した。

 次いでリーファが転がり出る。

 太陽が照らしつける光がまぶしかった。そこはもう、ガーディアンが現れることのない、ドームの外だった。




やっぱり登場リーファちゃん!出番あったぜ!
ALOに来てから2回目の死亡となったヴァイオです。一回目は囮にされたときにフィニッシュで巻き込まれてたあれ。
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