ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
背中に硬いものが当たる感触があった。
重力に空が引きつけられている感触があった。
リメインライトとなり、セーブポイントに転送されるのを待つだけの俺の体は、確かにそこにあった。
「……生きてる」
呟き、起き上がると、隣には空になった小瓶を持ったシリカがいた。
アレは確か、《世界樹の雫》という蘇生アイテムだ。ということは、俺を蘇生してくれたのは、シリカと言うことになる。
「あ……ありがとな、蘇生してくれて」
「う……バ、バカ!!」
お礼を言ったつもりだったのだが、何故か突然そう怒鳴り、シリカは泣きだしてしまった。
訳が分からず困惑してしまう。傍から見れば、俺が泣かしたように見えているだろう。いや…実際、その通りか。
「ヴァイオが……藍人が、死んじゃうかと思って……!! バカ、無茶、しないでよぉ……!!」
「あ……」
嗚咽の混じったシリカの言葉で、ようやく俺は自分の行いがどれだけ彼女を心配させたのか理解した。
ついさっきの俺のように、SAOと他のVRゲームは全くの別物なのだと割り切っている奴もいれば、シリカのようにまだあの世界の呪縛から完全に解放されていない奴だっている。目の前で俺の体消滅するのを見たシリカは、現実での俺――――結城藍人の脳が破壊されてしまうと思ったのだろう。
「……ごめん、心配かけて」
「いいの……あたしも、力になれなくて……ごめんなさい……」
そう言い、うつむくシリカの頭をそっと撫でる。
あのガーディアンの大群の突破は絶対にしなければならない。けれど同時に、俺が俺自身の身を案じ、シリカに苦しい思いをさせないようにしなければならない。そのためには、装備やパラメータと言う数字上の強さではなく、俺自身の、心の強さが必要となる。
一瞬、アミュスフィアでスタンバイ状態にしてある
そこまで考えを巡らせて、よくやく俺はキリトさんとリーファの事を思い出し、周囲を見回す。
「キリト君! 待って! 一人じゃ、無理だよ……」
「そうかもしれない……でも、行かなきゃ……!」
俺たちよりも、少しだけ世界樹に近いその場所に二人はいた。
何やら言い合っている様子……てか、キリトさんてばまた一人で行くつもりなのかよ……
しょうがねぇなぁと呟きつつキリトさんの方へ向かい、また殴ってやろうと思った。しかし、今度はさっきと同じ展開になることはなかった。
「もう一度、アスナに――――」
キリトさんが、求める人の――――姉さんの名を言った。
その瞬間、リーファの表情は驚きへと染まり、二、三呟いたと思った時には、彼女はログアウトしていた。
☆
リーファがログアウトし、キリトさんがそれを追ったために、今日はお開きの流れになった。
ずっとダイブしていて体がなまるのも困るので、話し合いは俺と珪子の二人で、リアルで直接ということになった。
場所は当然、エギルの経営する《ダイシーカフェ》。
「……来てくれんのはいいけどよ、毎回アイスコーヒーしか頼まねえのはやめてくれないか?」
「ん? まぁ、それもそうだな……」
ちょうど昼時だったので、メニューからミートソースのパスタを選ぶ。
某ダイシーカフェのマスターから樋口さん一人という破格の値段でアミュスフィアを買い取ったために、一時は一文無しになった俺だが、持っていた某海賊漫画全巻を売り払ったおかげで、今の俺の財布の中では諭吉さん3人が眠っている。
出されたミートソースにした唸らせていると、カランコロンと言う音ともに店のドアが開け放たれ、一月の冷たい空気が店内に流れ込んでくる。入ってきたのは珪子だった。
「ふぉう、ふぇいふぉ」
「行儀悪いよ、藍人」
「よう、珪子」と言おうとするも、口いっぱいに頬張ったパスタのせいでうまく発音出来ずに珪子に注意されてしまう。
珪子はマフラーとコートを脱ぎながら、俺の横のカウンターに腰を落ち着けると、ホットミルクティーとバケットサンドを注文する。
珪子に合わせるために、食べる速度を落とすと、珪子の方から話を切りだしてきた。
「ねぇ……キリトさんとリーファ、どうしちゃったのかな」
「さぁ、な。姉さんの名前が出てからああなったから、それに関係あるとは思うんだけどな」
「キリトさんと連絡は?」
「メールも電話も音沙汰なし。俗に言う音信不通状態だ」
キリトさんの自宅の住所までは知らないので、直接に家に押し掛けることもできない。
ALO内のフレンドメッセージも一応とばしておいたが、現実のメールの返信もないのだから、期待はしていない。
そこでバケットサンドが珪子の前に置かれ、小さい口で珪子がかじりつく。
俺も再びパスタを口に運び始める。
「どうした、キリトに何かあったのか?」
ホットミルクティーを出し、全ての注文を片づけたエギルが口を挟む。
俺たちにALOの情報を流してくれたのはエギルなので、特に隠す理由もない。
最初――――ログイン時のバクことから、細かにエギルに説明する。
「ううむ……けどそれは、その二人が解決することじゃないのか?」
「いや、まあそうなんだけどさ……」
これが、焦る必要のない時ならば気にかけることもなく二人でやっててくださいとなるのだが、生憎と今は急いで世界樹を攻略しなければならない。そのためには、キリトさんの力が必要不可欠なのである。
「むしゃむしゃ……」
隣から聞こえてくる咀嚼音に思考を妨害される。
俺はギギギ……と音が聞こえてきそうな速度で首を回す。
「緊張感ねえな……」
「え? だって、美味しいから……」
「いや、そうだけどさ……」
途中から話に参加せず、必死にバケットサンドにかぶりついていた珪子に突っ込む。
まあ、上手いのは否定しないってか事実なんだけどさ……
何代わりと八方ふさがりな気がするこの現状にため息をつくと、俺のジーンズの右ポケットに入った携帯端末から、メールの着信を知らせるメロディーが聞こえてくる。
2012年に放送されたアニメのオープニングテーマで、タイトルは確か……ソードなんちゃら・なんちゃらだって感じの奴だ。
「……その曲、色々とアウトじゃない?」
「いや、むしろセーフだろう」
そんな枠外の会話は置いておいて、携帯を取り出し、メールの内容を確認する。
「誰から?」
「………キリトさんから」
シリカの問いに短く答える。
『午後4時、世界樹の前に来てくれ』
メールにはそう書かれていた。
現在時刻は午後2時38分。その間の1時間ちょっとで、リーファと話すつもりなのだろう。
携帯を閉じてポケットにしまう。
「キリトさんはなんて?」
「4時に世界樹の前に来いだって。もう一度、挑戦する気なんだろ」
珪子にそう言い、アイスコーヒーのグラスを口に持っていく。
珪子から何のリアクションもないことを少し訝しみ、横目で見ると珪子はバケットサンドとホットミルクティーの代金を財布から取り出していた。
……え?
「え? ちょ? 珪子さん?」
「エギルさん、ごちそうさまでした。藍人、ちょっと付き合って」
そう言うと、俺の左腕をつかんで強制連行しようとする珪子。食い逃げするわけにもいかないので、財布から千円札を2枚取り出して置いて行く。
エギルが慌てて言った。
「お、おい。かなり多いぞ!?」
「釣りは今度来た時に返してぐほぁぇ!? 珪子さん締まってる締まってます!!」
その日、シャツの襟を首に食い込ませて女子に引きずられる少年が目撃されたとかされないとか。
投稿遅れてすみませんでしたぁぁ!!
ここ最近運動会の練習で疲れて帰宅から睡眠の何の違和感も感じない流れが……昨日の本番の後も結局寝ちゃったんだすよ。
これから更新ペースは戻していくので次回もよろしくお願いします!