ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
「おーい、キリトさーん!!」
告げられた時刻よりもほんの僅かに早い3時56分。
キリトさんは、リーファともう一人、別のシルフを連れてやってきた。
というか、アイツ誰?
「紹介するわ。私の『友達』のレコンよ」
リーファが『友達』という部分を強めていった。
レコンがかなり残念そうな顔をしているのは気のせいではない。
「ヴァイオレットだ。よろしく」
「シリカです。こっちはピナって言います」
俺たちが順に自己紹介するが、レコンの意識はもっぱらピナに向いていた。「わーテイムモンスターだ初めて見たー」と目を輝かせている。
キリトさんの胸ポケットに収まっているユイの反応を見るに、彼女の時はもっとひどかったに違いない。
「でも、レコンはどうしてここに?」
「手伝わせるためよ。世界樹攻略」
俺が聞くと、リーファが即答した。
レコンが向こうで「何それ聞いてないよリーファちゃん!?」と叫んでいるが、リーファが無視しているので俺も無視することにした。
……この光景、すげぇ既視感あるな。
哀れなレコンに心の中で合掌していると、キリトさんが口を開く。
「ヴァイオレット。あのガーディアン達は、単体じゃたいしたことないけど、湧出パターンが異常なせいで、攻略不可能なボスに匹敵するレベルになってるんだけど……」
「異常なのは俺たちのスキル熟練度やパラメータだって一緒でしょう。あいつらの存在そのものがチート染みてるように、俺らだってチートみたいなもんなんですから」
俺がリーファとレコンに聞こえないように言うと、キリトさんとシリカがさっと目を伏せた。
……やめろよ。別にやましいことしてるわけじゃ……十分やましいか。
そんなローテンションなやりとりもあったが、すぐに話を戻す。
キリトさんは、さっきとは全く別の、真面目な顔で言った。
「……すまない、皆。もう一度だけ、俺の我儘に付き合って貰えるか」
……よし、この人もっぱつブン殴ろう。
すたすたと歩いて行くと、逆立った黒い髪に一発入れる。
「いっつ……」
「だーから、言ってるじゃないですか、キリトさん。キリトさん一人の問題じゃないんですよ、これは」
「そうですよ、キリトさん。どうせヴァイオだって特攻するんですから!」
「俺玉砕が前提!?」
シリカの若干フォローになってないフォローにツッコミを入れる。
確かに、このままこのメンバーで突撃したところで、勝ち目は薄いかもしれない。
けれど、俺にもキリトさんにも、時間がない。
アリシャやサクヤの増援を待って、ただ何もせずにここにいることなんて、出来ないのだから。
「キリト君。行こう、あの上へ」
「リーファ……」
二人の様子を見る限り、どうやら決着をついているようだった。
レコンは若干置いて行かれているが、何の問題もなさそうだ。
「よし……じゃあ皆、いこうぜ!」
「「おう!」」
キリトさんの掛け声に、全員が応える。
2回目だ。失敗はない。必ず、ガーディアンの大群を突破して見せる――――!!
☆
巨大な扉をくぐった先にあったのは、さっきと同じ広いドーム状の空間。
だが、レコンも含めて声を出す者はいなかった。
さっきよりもかなり速いペースで、既に数体のガーディアンが湧出しているからだ。
「行くぞ、ヴァイオレット」
「はい。……遅れないで下さいよ、キリトさん」
「お前こそな」
短く言葉を交わすと、各々の武器に手をかける。
それとほぼ同時に、迫りくるガーディアンの大群に飛びこんで行く。
俺たちとガーディアンの大群が交差した瞬間、爆音がドーム内に響いた。
「「うおおおおおおおお!!」」
今度は、さっきのミスは繰り返さない。
俺とキリトさんが、一定以上離れないように距離を意識しつつ、それでもお互いの動きをじゃなしない程度に離れた、絶妙の位置関係。
「はああ!!」
4体目のガーディアンを切り落とすと、シリカたちの方に視線を向ける。
3人とも何体かのガーディアンにタゲられてはいるが、HPは一割も減っていない。
「5体目!!」
5体目、キリトさんと合わせれば11体目となるガーディアンを切って捨て、6体目のHPも7割ほど削ったところで、後方から、紫色の閃光が轟いた。
「「……!?」」
ガーディアンの特殊攻撃かと、俺もキリトさんも一瞬息をのむが、何か雰囲気が違う。
振り返って確認すると、さっきまで圧倒的にHPに余裕のあったレコンが消え去り、リメインライトがまたたいていた。
「レコン……あのバカ……!!」
ALOの魔法に関する知識がなくても簡単に分かる。自爆魔法だ。
紫の閃光と、それと同時に死んだレコン。語る物は自爆しかない。
リーファは、レコンに自爆にショックを受けて、翅が止まっていた。
シリカはまだ応戦しているが、一気に二人分の戦力が抜けたせいで、かなり追いつめらている。
「(くそ……見捨てるしかないのか……!? たかがゲームじゃない、結果と過程すべてに意味があるはずのこの戦いなのに……見捨てていいのか!?)」
一瞬悩み、剣が鈍る。
ガーディアンはその隙を見のがさず、たたみかけてきた。
ああ……くそ、やっぱダメだな、俺。
シリカが……珪子が伝えようとしてくれたのは、こういうことだったのに。
迷っていれば、殺られる。だから、心を削って俺にそのことを教えてくれたのに。
けど……なら、なおさら迷ってはいられない。
決めたんだ。なら、その答えに素直に従って戦えばいい。
鈍った剣は、もう一度その鋭さを取り戻した。
隙を突こうとしてきたガーディアンに首に突き刺さり、刎ね飛ばす。
「次、来い――――!」
向かってくる次のガーディアンと、剣をぶつける。
だがそこで、想定していなかった事態が起きた。
レスティカルが、根元から折られたのだ。
「――――!?」
耐久値――――持たなかったのか!?
いや、戦闘前に確認した時は、まだ余裕があった。つまり、この戦闘中に、耐久力を削りきられて――――
「!!」
思い浮かんだのは、一つの仮説。
システム外スキル……とまでは言わずとも、耐久値の減りやすいように攻撃する。
そう言うアルゴリズムを与えられたモンスターを、見たことがないわけではなかった。
けど……けど、ここで、そんな……!!
武器を失った俺は、体勢が悪いせいで体術に切り替えることも出来なかった。
斬られる――――!!
「ヴァイオ君!!」
だがそこで、俺を呼ぶ声がした。
同時に、まるで俺の手に飛び込んでくるかのように飛んできた片手剣。
白と黒の二色が並んだ、重みのある片手剣。
「お……おおおおおおおおお!!」
何も考えず、ただ目の前に敵を蹴散らす。
片手剣はめったに使わないが、それでも使えないわけではなかった。
周囲のガーディアンを一気に屠ると、剣の飛んできた方へ向く。
そこにいたのは、可愛らしい尻尾を耳を生やした、美しきケットシー領主。
「アリシャ……!?」
「増援に来たヨ、ヴァイオ君!!」
アリシャは、ピナの何倍もある大きな飛竜にまたがっていた。
シリカが前に言っていた、
龍たちが猛烈なブレスを吐き、ガーディアンを焼き尽くしていく。
「アリシャ、これは……?」
「キミとスプリガンの彼からもらったお金で、いい装備を大量にそろえれたヨ! お陰ですっからかんだけどネ!」
思わず苦笑いしてしまう。
俺と同じように追い込まれていたキリトさんの方には、シルフの増援がいた。
……なるほど、これで負ければケットシーもシルフも破産だな。なら、なおさら負けられない!
「どりゃあああ!!」
片手剣――――《クライム&ペナルティ》と言う名の、新たな俺の相棒が、ガーディアンをなぎ払って行く。
コイツ、見た目に反してかなり重い! とんだじゃじゃ馬娘じゃねえか!!
数多のガーディアンをなぎ払って行くと、途中で孤立していたシリカを見つけた。ガーディアンの軍勢に、囲まれている!!
アイツらが妨害しているせいで、シルフともケットシーとも合流できていないようだった。
合理的に見れば、ここでシリカを見捨ててあの扉を目指す方が断然いいはずだ。
だが、俺に迷いはなかった。
「シリカぁぁぁあああ!!」
叫びながら、急降下する。
途中で2体、邪魔をしてきたガーディアンがいたが、押しのけて突っ込んでいく。
タックルと蹴りでシリカを囲むガーディアンを数体押しのけ、彼女をかばうように間に入る。
「ヴァイオ!? なんで……!?」
「助けに来ちゃ悪いのかよ」
俺がそう言うと、シリカは少し怒った風に返す。
「なんで……なんで、あの扉を目指さないの!? これはSAOじゃないんだから、私は死んでも大丈夫だから……!」
「それでいいわけないだろ」
シリカの言葉を遮って言う。
確かに、合理的なのはシリカの言うとおりにすることだ。
けれど、それでは駄目だ。それではシリカが傷ついてしまう。
「確かに、お前の言うとおりにした方が利口だよ。けどな、それじゃお前は笑えないだろ。そんなの、お前が認めても俺は認めねえぞ。誰かが悲しんで終わるハッピーエンドなんて、俺は絶対に認めない」
「ヴァイオ……ホント、ばか……!」
「それにな、シリカ。お前はまだ一つ勘違いしてるぜ」
涙を零しながら俯いていたシリカが、顔を上げる。
俺は間を入れず、続けた。
「優奈を助けるのは俺じゃない。
向かってくる2体のガーディアンを叩き落とす。まったく、人がカッコよく決めてるときくらい黙っていればいいのに。
さらに追加で一帯を墜落させると、俺はその続きを言った。
「お前だけを置いてはいかない。一緒に行こう」
「……ふん、飛ぶのだったら私の方が上だもん。ヴァイオなんて、置いていっちゃうから」
「あっ、開き直った」
シリカの反応に少し笑う。
そして、俺はクライム&ペナルティを、シリカはダガーを、お互いの背後に迫っていたガーディアンに突き刺す。
「まだ飛べるよな、珪子」
「藍人こそ、途中で弱音はかないでね」
言い合った後、急旋回し、扉を目指す。
ガーディアンが3体立ちはだかるが、それぞれが一体を撃破し、残った一体は龍のブレス攻撃に焼かれる。
「「おおおおおおお!!」」
早く、速く、優奈のもとへ。
待ってろ、優奈。俺、こんなにたくさん仲間が出来たんだぜ。お前にも、すぐに紹介してやるからな。
だから、速く、優奈のもとへ!
どこまでも、限りなく加速しろ――――!