ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
「おおおおお!!」
また一体、ガーディアンが落ちていく。
十体の
「ドラグーン隊、ブレス攻撃用――――意!!」
アリシャが鋭い声で叫ぶ。それは、普段ののほほんとした彼女からは想像もできないものだった。
翼を大きく広げ、首をS字型にたわめる飛竜。そこへ、大量のガーディアンが押し寄せる。だが、あの間合いなら、アリシャ達の方が早い。
「ファイアブレス、撃て――――!!」
再びアリシャが叫ぶ。僅かなタイムラグさえも起こさず、飛竜たちが業火を放った。
前にいたガーディアンの大半は消し炭になったが、後方にいた奴らが前のガーディアンを盾にしてダメージを抑えていた。
HP全損を免れたガーディアン達が、再びアリシャ達に襲いかかる。
「フェンリルストーム、撃て――――!!」
だが、ガーディアンの剣は、ケットシー達には届かない。
シルフの領主、サクヤの掛け声により、シルフのエクストラアタック隊がこぼれ玉を上手く処理している。
異種族なのに、中々どうしていいチームワークだ。
「ヴァイオ、前!!」
シリカの叫び声で、意識を目の前のガーディアンに戻す。
振り下ろされてくる長剣を片手剣《クライム&ペナルティ》で受け止めると、右手に持っていた柄を左手に持ち替え、体を捻ってガーディアンの顔面に蹴りを入れる。
ガーディアンは、仲間を二体ほど巻き込んで壁に激突した。
「ヴァイオレット、シリカ、一気に行くぞ!」
キリトさんが叫び、飛んでいく。俺たちは後に続いた。
僅かに遅れて、リーファが後ろから追い付いてくる。
「スグ、後ろを頼む――――!!」
「任せて!!」
キリトさんがリーファを《スグ》と呼んだことには何も言わない。
俺たちも、時々リアルネームでお互いを呼ぶと気がある。ただ、それだけのことだ。
形としては、キリトさんが前、俺が右、左がシリカで後ろがリーファになった。
ドラグーン隊や、シルフの援護も受け、突き進んでいく。
ようやく天蓋が見えかけた時、白銀の鎧をまとったガーディアン達が、一斉に湧出した。その数は、100近い。
一瞬ひるみかけるが、クライム&ペナルティを握り直し、ひるみを追い払う。ここで止まっているわけにはいかない。
「キリト君!!」
リーファが叫び、自分の長剣をキリトさんに向かって投げた。
それはまるで、磁石のようにキリトさんの空いている左手にきれいに収まった。
右手に自身の大剣を、左手にリーファの黄緑色の長剣《若草の長刀》。身を包む黒衣。それらは俺に、75層のボス部屋でヒースクリフ/茅場晶彦と対峙した、《黒の剣士》を思い出させた。
「う……おおおおお!!」
ドーム全体を震わせるような咆哮とともに、日本の剣が、交互に、正確に、凄まじいスピードで撃ち出された。
ガーディアン達を、脅威的な速度で蹴散らしていく。
凄い……敏捷値で勝っていたとしても、あのスピードを再現できるかどうか、分からない。それほどまでに、キリトさんは速く、強かった。
キリトさんが、並んだ2体を、俺とシリカが、それぞれ左右から迫っていた一体ずつを撃破したところで、ガーディアンの大群を抜けた。
目の前には、四分割された石が作り出す扉。
俺たちの後ろに、リーファはいなかった。けれど、キリトさんは振り向かない。なら……俺たちも、そうするべきなのだろう。
後ろからガーディアンの軍勢が押し寄せてくるが、俺たちの方が早い。
キリトさんがゲートに手を伸ばし、そして、やっと届いた。
なのに、なのに……
「……開かない……!?」
「な……なんでだ……!?」
扉は、何の反応も示さなかった。
何だ、何が足りない……!? タダ届くだけじゃダメなのか!? 何か、アイテムやフラグを見落としたのか……!?
「何で……なんで開かないの……?」
シリカがそう零した。
ユイがキリトさんの胸ポケットから出て扉に触れると、シリカの疑問に答える。
「この扉……皆さん、この扉は、クエストフラグによってロックされてるのではありません! ただのシステム管理者権限によるものです!」
「何!?……で、分かりやすく言うと、どういうことだ!?」
「つまり、この扉はプレイヤーには絶対に開けれらないということです!」
「な……」
俺たちは絶句した。
やっと、やっとここまで来たのに……
プレイヤーの挑戦心を煽るだけ煽って、絶対にクリアできないだなんて……そんなのが、許されるはずがないだろ……!!
どうしようもない怒りと悔しさで、一瞬我を忘れかけたが、そこで一つ思い出す。確か、キリトさんは持っていたはずだ。
コンソールさえあれば、システムにアクセスできるアイテムを。
「キリトさん、あの……!!」
「ヴァイオ!!」
だが、それをキリトさんに伝える前に、ガーディアンの軍勢に追いつかれる。
仕方なく、クライム&ペナルティを手に応戦する。
「くっそ……」
シリカもピナも、必死に応戦するが、俺たちにどうこうできそうな数じゃなかった。
早く、キリトさんに伝えなければ――――!!
だが、その肝心のキリトさんは、膝をつき、二本の剣も手放していた。
確かに、届かない絶望の方が強いかもしれない。けれど、まだ終わってない――――!!
「立て、キリト!!」
ガーディアンの攻撃で、一気にHPが四割削られるが、俺はもう気にすることなく叫び続けていた。
「まだ終わってねえ!! 可能性は残ってんだ!! 誰も諦めてねえのに、テメェ一人が勝手に諦めるなんて、俺は許さねえぞ!!」
俺の言葉の中のどれがきっかけとなったかは分からない。
それでも確かに、キリトさんは気が付いた。気が付いてくれた。
キリトさんは左の腰ポケットを探り、一枚のカードを取りだした。
それは、あの鳥籠から姉さんが落としてくれた、あの扉の向こうへと続く、通行証。
コンソールさえあれば、システム管理者と同じようにシステムにアクセスできる、俺たちの最後の武器――――!!
「ユイ、これを使え!」
キリトさんがユイにカードを渡し、ユイは頷いてそれを受け取る。
ユイの指が、流れるようにカードの表面を撫で、その度に青白い光が迸る。
「転送されます――――つかまって!」
ユイがそう言った。
俺はガーディアン達を、殴る蹴る&斬るの暴行で押し返すと、シリカに向って叫んだ。
「シリカ、行くぞ! 早く!」
シリカもガーディアンの攻撃を受けていたが、一瞬のすきを突いて逃げだす。
ガーディアンの斬撃を避けつつ、俺の方へ飛んでくるシリカ。このまま一緒に行けると思った。
けれど、シリカがとった行動は、悪い意味で俺の想像を裏切るものだった。
「え………」
シリカはダガーを手放し、両手で俺の体を押した。
つまり、俺だけが転移するキリトさん達の方へ動き、シリカはその場から動かなかった、ということだ。
「あたしは大丈夫だから、藍人は行って」
「な、なんで……シリカも、珪子も……」
「あたしは、藍人みたいに強くないから。きっと、藍人の足手まといになっちゃうから……だから、行って。藍人」
それだけ言うと、シリカは――――珪子は素早くダガーを装備し直し、迫りくるガーディアンの大群へと向かって行った。
なんで……そんなの、ねえだろ、おい……!!
すぐに、体が何かに支えられる感覚。
珪子に押されたことで、僅かにバランスを崩した俺を、キリトさんが抱えたのだ。
「珪子!!」
叫ぶが、それはもう声にはならなかった。
体を引っ張られるような感覚の中で俺が見たのは、白銀の騎士の数多の剣によって体を貫かれ、HPバーを透明に――――空にし、必死に涙を隠そうとする珪子だった。
なんでだよ――――泣くくらいなら、こんなことすんなよ……!!
足手まといなんかじゃないのに……俺がもう一度立ち上がれたのは、珪子が傍にいてくれたからなのに……!!
だが、どれだけ想っても、もう転送が止まることはない。そして、止まっていることもできない。
珪子にあそこまでさせたからには、絶対に優奈を取り戻して帰る。そうでなければ、今まで珪子が俺に為にしてくれた全てをぶち壊すことになる。
そう心に刻み、俺は移動するデータの流れに身をゆだねた。
「優奈、待ってろ……今行くぞ!!」
次回、第34話の最後の部分にやっと繋がります(長かったぜ……)