ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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エロゲマスター・シンさん感想ありがとうございました!


第41話 再会

 転移した先は、何もない白い空間だった。

 感覚は転移結晶を使った時のそれとよく似ていたが、周囲には転移先のプレイヤーやNPCの会話も足音もない。

 膝をついた状態から立ち上がろうとして、俺は目の前の、見覚えのない十歳くらいの黒髪の少女の存在に気が付いた。

 

 「……誰?」

 

 「ユイです」

 

 短く答える自称ユイ。

 ……………ああ、きっとSAO時代の姿なのね。

 

 「……ユイ、ここは……?」

 

 近くにいたキリトさんが立ち上がり、言った。

 周囲は白い道のようなものだけが続き、アルンやマリアールのような緻密な装飾オブジェクトの類は一切ない。

 

 「判りません……ナビゲート用の地図データがないので……」

 

 「そうか……アスナのいるところはわかるか?」

 

 「はい、かなり――――かなり近いです。こっち――――上の方……!」

 

 そう言うと、ユイはキリトさんの手を引き歩いて行く。

 残念ながら、俺には優奈の居場所は分からないので、キリトさん達について行く。

 数十秒ほど歩くと、二つの扉のようなものが見えてきた。

 

 「ここです。ここから上下に移動できるようです」

 

 「……上下、ねぇ」

 

 俺は思わず呟いていた。

 二つの扉の間にある、上下を向いた二つの三角形のボタン。この世界では見たことがないが、現実にいれば嫌でも見るであろう、つまるところ、エレベータのボタン。

 つまりこれは、デパートでよく見るあの上下する箱と言うことだ。

 

 「……GMのセンスを疑うな」

 

 「そすね」

 

 突っ込むのも面倒になり、無表情で返す。

 その時、唐突に、俺を呼ぶ優奈の声が聞こえた気がした。

 下……ここよりも、ずっと下の方……そこに優奈がいる……!!

 

 「……キリトさんは、上なんですよね」

 

 「ああ……お前は、下なんだな?」

 

 俺の言いたいことを察したらしく、キリトさんが聞き返してくる。

 幸いなことに、エレベータは二つだ。俺は下行きのボタンを押した。

 左側の扉が開き、素早く乗りこむ。

 

 「んじゃ、俺は行きます……キリトさん、姉さんを、頼みます」

 

 「ああ……優奈、必ず助けろよ」

 

 それだけ言い、他に言葉は交わさない。

 ここからは、別々の――――それぞれの戦いだ。自分の大切なものを取り戻すための、自分だけの――――自分の力での戦い。

 けれど、ここに至るまでに、俺は一体どれだけの人たちに助けられてきただろう。

 ニーナ、レンタ、エギル、サクヤ、レコン、リーファ、アリシャ、ユイ、キリトさん、ピナ、そしてシリカ。

 たくさんの人たちに助けられて、俺はここまでやってこれた。

 後は――――俺自身がやるだけだ。

 

 「もう少しだ……優奈、今行くよ」

 

 そう言い、俺は右手(・・)を振りながら叫ぶ。

 あの男に……村瀬に対抗するために、俺が用意した武器。

 

 「コピープログラム・起動(アウェイクン)。ゲームマスターID《オベイロン》をコピー。マテリアライズコード、《ヴァイオレット・ナイト》!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優奈の目の前に立つ少年の出で立ちは、かつてSAOでその名を馳せた《ヴァイオレット》に限りなく近かった。

 けれど、よく見るとコートや剣が優奈の知る物と僅かに異なっている。

 それでも、優奈は目の前の少年の顔だけは、忘れずに覚えている。

 脱出不可能のデスゲームとなったSAOで、自分の手を引いてくれた、少年の――――

 

 「優奈」

 

 名を呼ばれ、はっとなる優奈。

 その声も、しぐさも、全てが懐かしい。

 

 「すぐに終わらせる。もう少しだけ、待っててくれ」

 

 少年――――結城藍人は、それだけ言うと、自身と優奈との間に立ち塞がる男、村瀬啓助に視線を向けた。

 

 「終わらせる……? 結城君、やっぱり分かってないようだね……君と僕とじゃ、強さの度合いが全然違うんだよ!!」

 

 村瀬は腰にぶら下げた剣を抜き、藍人に向かって振りかぶる。

 対して、藍人は右手でぶら下げるように持った愛剣、《夜菫(ヤズミレ)》を動かさない。

 代わりに、ただ一言、呟いた。

 

 「そうだな――――俺の方がずっと強かったみたいだな」

 

 その数秒の間に起きたことを、優奈も、村瀬さえも一瞬理解できなかった。

 藍人は右手だけで持っていたはずの夜菫を両手持ちに換えており、夜菫は振り切られた後だった。

 ドシャッ、という、なにか肉質な物が落ちるサウンドエフェクト。

 

 「がっ…あああああああああああああああ!?」

 

 村瀬の左腕が、肩の所からばっさりと切断された。

 猛烈な勢いでダメージエフェクトが流れ出し、それはもう、血液と見間違えてしまうほどだった。

 

 「う、腕っ、腕がぁっ! なんで、僕がっ、お前っ、何を……!!」

 

 「何も。確かにGMのログインIDをコピって使っちゃいるが、俺は別にパラメータの底上げなんかしちゃいないぜ」

 

 左肩を抑え、激痛にもがく村瀬に向って、藍人はこう吐き捨てた。

 

 「俺はただ、2年間、積み上げてきたものを使っただけだ」

 

 藍人はそれ以上、村瀬を見なかった。

 見る必要もなかった。

 

 「ペイン・アブソーバの設定はレベル4か……気にしなくてよさそうだな」

 

 ひとり言のように呟くと、《夜菫》を片手に持ち替えて鎖につながれた優奈の方へ歩いて行く藍人。

 SAOなら異常装備状態となり、ソードスキルが使えなくなってしまう状態だが、破壊機能を持つオブジェクトとして扱う分には何の問題もない。

 夜菫で、優奈の両手両足から自由を奪っていた鎖を斬る。

 

 「藍人さん……!」

 

 「遅くなってごめん……待たせたな、優奈」

 

 お互いの体を、強く抱きしめる。

 たとえ仮想空間のデータであっても、相手の存在がそこにあって、温もりがあることを、二人は知っている。

 

 「……さて、と。優奈、これをかぶって、耳を塞いでるんだ」

 

 「え……? うわっ」

 

 羽織っていたコートを脱いで優奈にかぶせながら、藍人は言った。

 かなり大振りのコートから顔をのぞかせ、優奈が聞く。

 

 「藍人さん……何を……?」

 

 「絶対に、こっちを見るな。……今からちょっと、刺激の強すぎることをするからな」

 

 それだけ言うと、藍人は右手で出したシステムウィンドウを素早く操作し、夜菫とは別の剣をオブジェクト化させた。

 少しずつ、追い詰めるように村瀬に歩み寄っていく。

 

 「がっ、……ひぃ…! な、何を……!!」

 

 「こんなもんで終わるなんて思ってんじゃねえぞ」

 

 ただそう言うと、藍人は二本の剣を同時に村瀬の胸に突き刺した。

 

 「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 村瀬の絶叫が響き渡り、優奈は思わず体を震わせた。

 優奈を拷問する時の村瀬も十分に怖かったが、今の藍人は、それ以上に怖かった。

 

 「心配すんなよ。アンタにゃHPなんて概念はないし、破損した体はすぐに治る。……そのかわり、永遠にその痛みを繰り返してもらうけどな」

 

 そう言うと、復活した村瀬の左腕を再度切りとばし、今度は右腕も切りとばす。

 ただ突き刺し、斬りとばし、回復しては更に突き刺しの繰り返し。途中でペイン・アブソーバのレベルを2まで上げたせいで、村瀬はもはや悲鳴を上げることすらも出来なくなっていた。

 

 「んだよ……こんなんで終われると持ってんじゃねえぞ……テメェがしたことの落とし前はきっちりつけさせてもらう。テメェは、何千回でも殺さねえと気が済まねえ……!!」

 

 仰向けになり、もう何も出来なくなった村瀬の眼球に夜菫を突き立てる。

 あと数センチ下ろせば、村瀬は今まで以上の激痛に襲われることになる。そして当然、藍人が躊躇する理由などない。

 ――――もう、死ねよ。

 藍人の口は、確かにそう言った。

 

 「――――ダメ、藍人さん!」

 

 優奈は、ほとんど本能的にそう叫んでいた。

 これ以上、藍人にやらせてはいけない。

 彼の剣士としての矜持を、傷つけさせてはいけない。

 それだけを思って、叫んでいた。

 

 「藍人さん……私は、大丈夫だから……だから、そんな奴の事はいいから……帰ろう……?」

 

 これ以上、藍人が自分のために誰かを傷つけるところなんて見たくなかった。

 たとえそれが、散々自分を苦しめた男であっても。

 藍人は振り下ろそうとしていた夜菫を手放すと、おぼつかない足で優奈のもとへと歩いて行き、ボロボロになった小さな体を強く抱きしめた。

 

 「……ごめんな……俺が、もっと、強かったら……」

 

 嗚咽の混じった声で、大粒の涙を流しながら藍人はそう言った。

 優奈の瞳からも、自然と涙がこぼれていた。

 

 「そんなこと、ないよ……藍人さん、すっごく強いもん……! 藍人さん……助けに来てくれて、ありがとうございます……!」

 

 やはり嗚咽の混じる声だったが、伝えたいことをちゃんと言葉に出来た。

 例え村瀬が何と言おうとも、藍人は藍人だった。

 彼は、ちゃんと優奈を助けに来てくれた、騎士(ナイト)だった。

 

 「優奈……ちゃんと、向こうで会おう。現実はもう夜だけど、ログアウトしたら、すぐに君の所に行く」

 

 「うん……待ってる。待ってるよ、藍人さん……」

 

 優奈の言葉を聞くと、藍人は今度は左手を振り、GM用のシステム・コンソールを操作し、優奈のステータスロックを解除、ログアウトさせた。

 後は自身もそのままログアウトするだけなのだが、藍人は立ち上がり、村瀬のすぐ近くまで歩いて行く。

 

 「お前の悪事はすべて暴く。……自首することを勧めておいてやるよ」

 

 それだけ言うと、藍人は素早くログアウトした。

 その一言が、村瀬の執念に火をつけるとも知らずに。

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