ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
GGOだと思った……?
残念、アインクラッド辺に逆戻りだよ!
……あ、痛、石投げないで……
第44話 オレンジの絆 ①
最初に言わせてもらうと、この物語はバッドエンドだ。決して、皆が笑って終われるハッピーエンドではない。
あるいはデッドエンドと言い換えてもいい。この物語は、そう言う物語だ。
俺と優奈が一人のプレイヤーと出会った。
俺が、一人のプレイヤーを殺した。
繰り返そう。この物語は、デッドエンドだ。
☆
「ヴァイオさぁん……本当にこんな森の中にあるんですか……?」
俺の隣を歩くユウナが、いい加減うんざりと言った様子で漏らした。
「NPCが49層の森っつったんだからそうだろ。ここ以外に森があるなら話は別だがな」
アインクラッド第49層の迷宮区。
比較的温和な気候が多いこの層では、迷宮区のモンスターの攻撃パターンが読み易く、また特筆するようなモンスターがいないことから、中層プレイヤーの狩り場となっている。
現在の最前線よりも下層であるこの場所に、俺達はいた。
目的はレベル上げではない。あるクエストだ。
『鷹の涙』のクエスト。情報屋のクエストリストにも無い、おそらくまだ俺達だけしか知らないクエスト。何故かというと、ついさっき受けたばかりだからだ。
当然、終了後に情報屋にリークして金にしてくるけどな。
「だって、ここ鳥獣系のモンスターは出ないじゃないですか……かれこれ2時間歩いてるのに、それらしい姿さえ見られないなんて……」
「うーん……何か、見落としたアイテムとかフラグとかあったのかな……」
クエスト内容は、49層の森にすむ鷹の形状のモンスター――――ディアルホークの巣にある、卵を回収してくること。
ディアルホークを倒してしまうと、卵が孵ってしまうらしく、モンスターを殺さずにアイテムを集めるタイプの難易度の高いクエストだ。
だが、その肝心の巣どころか、ディアルホークすら見つけられずにいるのが現状だったりする。
「そういえばヴァイオさん、このクエの報酬、私知らないんですけど、何なんですか?」
「ん? フリルのドレ……待て落ち着け息を荒立ててダガーを俺に向けるんじゃない。嘘だから」
「………」
視線が痛い。
「報酬は、まあ攻略に必要なものってわけじゃないんだけどな。レア食材…てか、上手い料理、だと思う」
「思う、ですか?」
「先にそっちを突っ込んでくるのな……明確にクエストログに記述があるわけじゃないから何とも言えないけど、NPCのおばさん、卵を調理がなんたらとか言ってたからな。食いモン関連なのは間違いないと思う」
「はぁー、流石ゲーム脳」
「五月蠅い黙れ」
言いながら、索敵スキルを使用し、もう一度周囲を確認するが、それらしいモンスターも場所もない。
そんなに広い森じゃないし、クリア難易度も高くはなかったからすぐに見つかると思ってたんだけどな……
「……ん?」
「ヴァイオさん、どうしました?」
俺の索敵スキルの熟練度はもうすぐ完全習得なので、それなりに遠くの距離まで調べられるのだが、その範囲でもギリギリくらいの距離に、複数のプレイヤーカーソルが見えた。
複数が一人を囲んでいて、囲んでいる側の何人かがオレンジカーソル――――おそらく、
「……ユウナ、300メートルくらい先、オレンジギルドに襲われてる奴がいる」
「助けるんですか?」
「巻き込まれるのは御免……てのが本音だけど、HPの減り方から見て、間違いなく殺す気での襲撃だな。……助けるか」
「素直に最初からそう言いましょうよ……」
「うっせ」
会話しながら、俺達はすでに走り出していた。
この程度の距離を詰めるのなら、俺達の敏捷値なら数秒あれば十分だ。ユウナの方が敏捷値にパラメータが偏っているため、俺よりも速いというのは悔しいが。
オレンジギルドとソロの奴が交戦している、少し開けた場所までたどり着くのには、10秒とかかっていない。戦局は大きくは動いていないが、さすがに一人で5人を相手にするのはきつかったようで、一人の方がじわじわと追い詰められていた。
5人のうち、片手直剣と斧を持つ2人が、ソロの方――――俺と同じくらいの、少年だった――――に向けて、ソードスキルを繰り出す。ランクから見ても、明らかに殺そうとしている。
「ユウナ、そっちの片手剣の奴頼む!」
「分かりました!」
素早くユウナに指示を出すと、背中の両手大剣――――《オーガブランド》を引き抜く。
メインの武器がダガーのユウナには、比較的軽い武器である片手直剣の方をまかせた。俺が相手にするのは、斧を操る方のプレイヤーだ。
「ハアア!!」
「な、……なんだぁ……!?」
男の驚愕も、仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。
俺は、男と少年の間に飛び込むと、斧に向けて重単発ソードスキル《ベリムスライド》を放った。
ソードスキルは、発動中に一定以上のダメージや衝撃を受けると停止してしまう。それを狙った一撃だ。
「ぐ……何だお前ら、いきなり!」
「うるせーな。よってたかって大勢で一人を狙ってる奴に言われたかねーよ」
オーガブランドを構え直すと、斧使いの男は一歩後ずさる。
ユウナの方も、簡単に片手剣使いをいなしてきたようだ。
「おい……あっちの、小っこい方……ユウナじゃないか……? あの、攻略組の……!」
「じゃ、じゃあ、こいつら、攻略組の中でも最年少って言われてる……ヴァイオレットとユウナか……!?」
「どうせ小っこいですよ……」
ユウナが何やら落ち込んでいた。小さいのは事実だからしょうがない。
攻略組――――アインクラッドの最前線で迷宮区に潜り続け、次々とボスモンスターを屠り続けるトッププレイヤー。
一般にボリュームゾーン又は中層プレイヤーと呼ばれる連中とは、レベルも経験もけた違いのトップ剣士。俺もユウナも、攻略組と呼ばれる者たちの一角なのだ。
おそらく俺やユウナのレベルは、この少年やオレンジギルドの奴らとは20以上の差があるだろう。
「攻略組……くそ、そんな奴らに勝てるわけあるかよ……」
「中々冷静だな。で、どうする? お望みなら、全員
「くそ……おい、逃げるぞ!」
一人がそう叫ぶ。すると、苦々しげに毒づきながら、連中は森の中に姿を消した。
《
気配を消して襲ってくるつもりかと思ったが、どうやら全員ちゃんと逃げたようだ。あ、一人速い奴がいるな。アイツ《逃げ足》スキル持ってんじゃないか?
「……追いかけて捕まえなくてよかったんですか?」
「いいさ。オレンジ連中とは関わらない方がいい。ロクな奴がいないからな」
《ラフィン・コフィン》のような、犯罪や殺人を一種の美学あるいはエンターテインメントと捕える
俺はどっちも同じだと思うが、どうやらラフコフ筆頭レッド連中はそれが気に入らないらしく、最近はレッドギルドによるオレンジギルド狩りが稀に起こるらしい。姉さんも前に、攻略会議で嘆いてたな……
俺は振り返り、呆然としている少年の方を向く。
「で、アンタは大丈夫か? 回復アイテムないならこっちのを使ってもいいけど」
「あ、うん……助けてくれて、ありがと……」
これが、俺達とプレイヤー――――シエルの出会いだった。