ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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ゆってぃさん感想ありがとうございました!


第47話 オレンジの絆 ④

 シエルがいなくなってから二日が経った。

 パーティ脱退だけでなく、フレンドリストからもシエルの名前が削除されていたせいで、俺達はシエルを追跡することもできないでいた。

 もしかしたら、シエルという存在は、俺とユウナが見た夢でしかなかったのかもしれないとも思ったが、俺の背中にぶら下げた《デュアルペンデュラムβ》がそれを否定していた。

 ともかく、二日である。

 この二日の内に、特にラフィン・コフィンによるプレイヤー殺害――――その多くがオレンジギルドだった――――の被害件数が極端に増えた。

 殺されたプレイヤーの人数は二日間で推定30人前後。このままではまずいということで、今日、攻略組によるラフコフ討伐隊が編成される。

 

 「連れてってください」

 

 「ダメだ」

 

 何度目か分からないユウナの要望を即座に切り捨てる。

 そろそろ行かなければまずいのだが、俺はこのやり取りのためにかれこれ20分近く拘束されていた。

 

 「何でですか! 私だってもうヴァイオさんと同じくらい強いんですよ!? 連れてってくれたっていいじゃないですか!! 連れてけ連れてけこの野郎!」

 

 「何度も言ってるだろ。連れていくことは出来ない」

 

 駄々をこねるユウナに、声のトーンを変えずに言う。

 本音を言えば、俺だってユウナを残していくのは気が進まない。けれどそれ以上に、まだユウナに本当の(・・・)殺し合い(・・・・)をさせるわけにはいかないのだ。

 

 「いいかユウナ。ラフコフ討伐戦は、今までのボス戦とは違うんだ。自分たちが殺させる可能性だけじゃない、自分たち(・・・・)が殺す(・・・)可能性(・・・)もあるんだ」

 

 「で、でも、話じゃあくまで殺さずに無力化して牢屋(ジェイル)に入れるだけだって……」

 

 「それだって、抵抗されれば乱戦になる可能性もあるだろう?」

 

 俺がそう言うと、ユウナはそれ以上反論してこなかった。

 ユウナも、俺がどうしても彼女の動向を認めない理由は分かっているのだ。

 今まではAIが動かすモンスターとの戦闘ばかりで、対人戦と言っても初撃決着モードでのデュエルか安全な《圏内》での戦闘練習のみだった。

 つまり、まだユウナは本当の意味で人を殺す戦いをした経験がない。そしてこれから先、そんな経験などさせるつもりもない。

 

 「け、けど、そしたらヴァイオさんが行かなくたって……!」

 

 「それは……出来ないんだ。ユウナを参加させないって条件だったからな」

 

 例え子供であっても、この世界での強さはイコール数値の大小だ。

 パラメータや装備だけで見れば十分にトッププレイヤーであるユウナを参加させないというのは、多くの攻略組プレイヤーから反感を買った。

 姉さんやキリトさん、クラインなどは賛同してくれたが、むしろそっちは少数派だったくらいだ。それで俺まで不参加を決め込めば、今後の攻略に影響しかねない。

 

 「どうしても、ダメなんですか……? 一緒に行くことも、一緒に行かないことも……?」

 

 「ああ……済まない。こればっかりは、放っておける問題じゃないんだ。ラフィン・コフィンは、止められる奴が止めなくちゃならない」

 

 けれど、ユウナがここまで食い下がる理由は俺も分かってる。

 普通にその辺に買い出しに行くノリで俺を送り出して、もしも俺がラフコフ戦で死んでしまったら。

 それが嫌で、ユウナは討伐隊編成のこの段階から俺を行かせたくないのだ。

 

 「大丈夫だって。今までだって、なんやかんやで死なずに生き残ってきただろ?」

 

 俺がそう言うと、ユウナは無言のまま頷いた。瞳には、うっすらとだが涙の雫が光っている。

 アルゴリズムに従って攻撃してくるモンスターではないとか、殺す気でやらなければ殺されるとか、そんな口から出ただけの言葉よりも、ユウナの涙の方がよっぽど俺の『決して死ぬもんか』という思いを強くさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第55層主街区、《グランザム》。

 血盟騎士団主導の《ラフィン・コフィン討伐隊》の編成会議として、血盟騎士団のホームがあるグランザムに多くの攻略組プレイヤーが集まった。

 

 「血盟騎士団副団長、攻略担当のアスナです。よろしく」

 

 アスナ姉さんと、かなり大きな髭の男――――ゴドフリーが名乗ると、それぞれのギルドリーダーが名乗っていく。

 血盟騎士団だけじゃなく、聖竜連合筆頭、多くのハイレベルギルドが集まっていた。軍の連中もいるくらいだから、相当せっぱつまってるな。ちなみにクラインの《風林火山》もいたぞ。

 

 「キリト、ソロだ」

 

 「ヴァイオレット……無所属だ」

 

 集まっていたプレイヤーの中で、一人だったのは俺とキリトさんの二人だけだった。

 最近はソロの攻略組は減少傾向にあったけど、もう少し人数いたような気もするが……。

 周囲を見回すが、当然シエルの姿はない。

 

 「今回集まってもらった理由は分かっていると思います。ここ最近、ラフィン・コフィンの動きが目立ち、多くのプレイヤーが殺害されています。これを踏まえて、ラフィン・コフィンのメンバーを牢屋に入れるための討伐隊を編成したいと思います」

 

 「牢屋に入れるよりも、殺した方が早いんじゃないか? 相手はオレンジだ。こっちまでオレンジになる心配はないだろ」

 

 意見したのは、聖竜連合の中でも堅さに定評のあるシュミットと言うプレイヤーだ。

 確かに彼の言うとおり、最初から殺すことを前提にした方が早いし、こっちの安全度も上がるだろう。けれど――――

 

 「それではラフィン・コフィンの連中と何も変わりません。あくまで殺さず、生け捕りにします」

 

 「……まあ、それもそうだな」

 

 姉さんが毅然とした態度で返すと、シュミットはそれ以上何もいわなかった。

 シュミットの意見は理論的には大いに正しいが、それではやってることがラフコフと同じ。それは俺達がやろうとしていることとは大きく異なる。

 

 「牢屋に入れるというが、具体的にはどうするつもりなのか、聞かせてもらえませんか」

 

 発言したのは、《アインクラッド解放軍》、通称《軍》のトップを務めるシンカー。トップと言っても、最近はキバオウというプレイヤーと派閥争いみたいなことが起きてるらしいが。

 

 「まず、討伐隊でラフコフのホームに奇襲をかけます。ある程度HPを減らしたら武装解除させて、監獄エリアを出口に設定した回廊結晶で全員を牢獄に入れるつもりです」

 

 「抵抗される可能性は?」

 

 「極めて高いと思います。ですが、彼らも人間ですし、死ぬ間際まで追い込めば大人しくなるでしょう」

 

 つまり、絶対に死者は出さないが出る寸前まで攻防は行うということか。

 まあ、降伏してくださいと言って降伏しますと答えるようなら最初から殺人(レッド)プレイヤーなんて名乗らないよな。

 

 「質問がないようなら、ラフィン・コフィンの幹部プレイヤーの説明に入ります」

 

 一瞬沈黙が空気を支配すると、姉さんがそう言った。

 昔から思ってたけど、姉さんこういう仕切り屋が似合うよな。

 映像結晶(スクリーン・クリスタル)という、映像版の役割を果たすアイテムを使い、姉さんが説明を始める。

 

 「まず、リーダーの《PoH》。おそらく現時点では最強レベルの《友切包丁(メイト・チョッパー)》を使います」

 

 スクリーンに表示された画像は、フードをかぶっている状態で顔は良く分からなかったが、実物でもないのにその禍々しさは痛いほど伝わってきた。

 《友切包丁(メイト・チョッパー)》は、モンスタードロップでありながら現在最強クラスの攻撃力を誇るダガーで、同じダガーを使うユウナ曰く、『見た目的には絶対に使いたくないレベルの悪趣味さ』らしい。

 これだけ攻略組に注意を呼び掛けるだけあって、武器もそうだがPoH自身のスキルも相当なものらしい。彼自身が戦闘に参加したことはほとんどないらしく、詳しい情報はなかったが。

 

 「次に、《ザザ》。刺剣(エストック)を扱うプレイヤーで、赤をイメージカラーとしていることから《赤眼のザザ》と呼ばれています」

 

 次に表示されたザザは、PoHとは違いちゃんとした顔写真だった。

 眼の色をアイテムで変えているのか、赤色にしていて、PoHとは別種の、悪寒のする禍々しさがあった。

 コイツは殺した相手の刺剣(エストック)を奪いコレクションするという趣味があり、コイツに多くの刺剣(エストック)使いが殺された。

 

 「最後に、《ジョニー・ブラック》。毒ナイフを好んで使うプレイヤーで、名前の通り、黒を基調とした装備が……」

 

 姉さんがそこまで言うと、その場にいたほぼ全員の視線がキリトさんに集まった。

 

 「……? え、俺?」

 

 「キリトさん、黒だから」

 

 「え? あ、ああ」

 

 どうやら注目される理由が分かったようだ。まあ、《黒の剣士》なんて言われるくらいだし、一瞬視線が集まるのはしょうがない。

 

 「おいキリト、お前ぇはコイツと戦うなよ。どっちを援護していいか解らなくなっからな」

 

 姉さんの説明が再び始まり、皆の視線がキリトさんから外れると、クラインが小声でそんなことを言っていた。

 なんか、ガキみたいなことを……

 

 「おいクライン、いくらなんでもそれは……」

 

 「そうだぞ。ふざけていい時と悪い時くらい考えろ」

 

 「そうじゃねえ。お前らはジョニー・ブラックを見たことがないからンなことが言えンだよ。とにかくキリト、間違ってもお前は奴には近づくなよ」

 

 クラインが普段のおとぼけすっとこフェイスではなく、本気の真顔で言うので、俺もキリトさんも黙ってしまった。

 俺はスクリーンに表示された《ジョニー・ブラック》の顔写真に目を移す。

 コイツも前の二人動揺、禍々しい雰囲気があるが、PoHともザザとも違う……。

 ザザが、怨念だとか復讐のような、どす黒さのある禍々しさをまとっているとしたら、ジョニー・ブラックは子供のような、悪意のない悪意というか、そんな感じがした。

 PoHが殺しを芸術だと思うように、この男にとって殺しは遊びなのではないかと、そう思わざるを得ない種類の禍々しさだった。

 

 「ジョニー……ブラック……」

 

 画面に映る男の名を呟く。

 俺の頭の片隅に、不敵に笑うこの男の事が、何故か残って仕方がなかった。

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