ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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雷影創牙さん、エロゲマスター・シンさん感想ありがとうございました!


第49話 オレンジの絆 ⑥

 「何で……何でお前が《ラフィン・コフィン》にいるんだよ、シエル!!」

 

 俺がそう叫ぶと、シエルはいつものおふざけの笑顔になった。

 

 「そんなに怒るなよヴァイオレット。僕は……」

 

 「答えろ!」

 

 強く言う俺に、シエルは黙る。

 今はラフコフ討伐戦――――すなわち、この後のシエル次第では俺達は戦わなくてはならなくなるのだ。

 腰に差していた《デュアルペンデュラムα》を抜きつつ、シエルが言う。

 

 「どうしてラフコフにいるのかって……そりゃ、僕は最初からラフィン・コフィンのメンバーだもん」

 

 言い終わると、右手の袖をめくり、腕に書かれた《笑う棺桶》のマークを俺に見せつける。ラフコフメンバーである証だ。

 

 「君たちにあったあの日、アレは僕が襲われてたんじゃない。オレンジギルドを、僕一人で(・・・・)潰して(・・・)たんだ(・・・)

 

 「な……け、けど、あの時お前のカーソルには、ラフコフのギルドタグはなかった……!」

 

 「あれ? 知らないの? 《潜入》スキルの熟練度が700を超えると、自分のギルドタグを非表示にできるんだよ」

 

 《潜入》スキルをあげてる奴はほとんどいないから、知らなくてもしょうがないけどね。と、シエルは続けた。

 絶句する俺に、シエルは語り続ける。

 

 「まぁ、結構追い込まれてたのは事実だったよ。だから、君とユウナの援軍はとても助かったよ。その後は知っての通り、君たちと一緒に双剣獲得クエストをやった。人を殺すことに特化しすぎて、ラフコフの連中はクエストクリアには向いてないんだよ」

 

 「……だから、俺達を利用したのか」

 

 「酷い言い方だなぁ。ちゃんと双剣のうちの一本をあげたんだから、共闘と言ってほしかったよ」

 

 深紅に光る魔剣――――デュアルペンデュラムαを構えるシエル。

 俺の剣と対になっているそれは、《デュアルペンデュラムβ》とは別種の美しさを持っていた。

 俺もデュアルペンデュラムβを構え直し、シエルに向ける。

 

 「シエル……今まで、何人殺したんだ」

 

 「13人」

 

 短く、それでいて素早くシエルが答えた。

 

 「と言っても、全員オレンジギルドの連中だけどね。僕は好きじゃないなぁ、ああいう大勢で弱者を嬲るやり方は」

 

 「……それでも人間だ。たとえ屑でも、現実に戻れば家族や友人がいたんだぞ」

 

 「知らないよ。興味ないね」

 

 俺の言葉を切り捨てるように、シエルは素早く返した。

 本当に、今まで殺してきた奴らの事など、どうでもいいとでも言うかのように。

 

 「ねぇ、ヴァイオレット。誰もが聖人君子になれるわけじゃないんだよ。嫌いなものは嫌いだし、壊したいものは壊したいし、殺したい奴は殺したい」

 

 「そんなの、ただ欲望をぶちまけてるだけじゃないか……!」

 

 「そうだね。だから大抵の人は理性で我慢する。けど、ああいう醜い連中だけは、理性すらも許そうとはしないもんなんだよ。ああいう……殺される覚悟もないくせに、遊び感覚で人を殺す連中が、僕は大嫌いだ」

 

 言い終わると同時に、シエルは剣先を突き出して突進してきた。

 それを跳ね返すと、俺は3歩飛びのく。

 

 「逃げないでよ、ヴァイオレット。僕は殺されるなら、君が良いと思ってるのに」

 

 「やめるんだシエル! お前と戦いたくないし、殺したくもない!」

 

 「分かってないなぁ。言ったろ……殺される覚悟もないくせに、人を殺す奴は大嫌いだって!!」

 

 繰り出されるシエルのソードスキルを回避する。

 対人戦でソードスキルの使用は、隙を突かれた時のデメリットが多すぎて中々多様出来るものじゃない。それが熟練したプレイヤーが相手ならなおさらだ。だが、シエルのソードスキルは、今まで見た誰よりも早く、隙がなかった。

 繰り出される連続技を、剣の腹を使ってひたすら防御する。

 

 「やめろシエル! 殺し合いなんかに、何の意味がある!!」

 

 「……ねぇ、ヴァイオレット。いい加減言葉で説得しようなんて思わないでよ。僕らは剣士だ。分かりやすく、こっちで決着をつけようよ」

 

 そう言い、シエルは再び《デュアルペンデュラムα》を振りかぶってくる。

 それを回避すると、シエルの剣の根元めがけて重単発ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を放つ。が、上手く剣を逸らされ、剣の先同士が激突し、火花が散る。

 

 「まったく、言ってるじゃないか。殺す気で来いよ。剣士同士の戦いに、情けはいらないよ?」

 

 「……違う。お前は剣士なんかじゃない。ただの、殺人鬼だ」

 

 だから、お前と本当の命をかけた戦いなんて、するつもりはないし、したくない。

 

 「なぁ、シエル。ユウナがいつもの宿屋で待ってる。一緒に帰って、3人でまた冒険しようぜ」

 

 「ダメだよヴァイオレット。君か僕、どっちかがここで死ぬんだ。僕たち3人が一緒になる日は、もう二度と来ない」

 

 そっか、と。

 短く言った後、俺は蒼い剣を構え直した。

 ……お前が、あくまで自分の考えを貫きとおすなら、俺だってそうしてやるよ。

 

 「殺す気で来いよ、シエル。俺はお前を生かす気で行ってやる」

 

 「……分かってくれないんだね」

 

 「分からないさ。分かってやるつもりもない」

 

 今までは攻められるだけだったが、ここからはこっちからも攻めてやる。

 これは、この世界は現実だ。けれど同時にゲームでもある。

 こんなところで、こんな形で誰かが死ぬなんて、絶対に間違ってる。

 

 「……ハァッ!!」

 

 ギン!!と、双剣同士がぶつかり合う音が響く。

 俺は体をひねらせて、シエルの持つ剣や、大ダメージの判定が出にくい腕や足だけを狙い続ける。

 

 「……ッ、やぁっ!!」

 

 「遅い!」

 

 繰り出されるシエルの斬撃を、ギリギリで回避し続ける。

 僅かに掠ってダメージを判定をとられたが、逆にいえばその程度だ。気にすることもない。

 俺は再びシエルの深紅の剣を狙って、《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

 

 「そうやって、いつまでも剣だけを狙えるなんて思わないことだよ!」

 

 そう言うと、シエルも同様に、《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

 だが、そこでそれを撃ったら……両方に両方の斬撃が届く!

 システムにアシストされた動きは、俺には止めることは出来ない。両者の《ヴォーパル・ストライク》が、俺の腹に、シエルの肩に直撃する。

 

 「「……ッ!!」」

 

 腹に不快感が走り、咄嗟に飛び退く。シエルも同様に、俺から距離をとった。

 今の一撃のダメージ量はシエルの方が多かったが、それまでの攻防のダメージと足して、俺とシエルのHP残量は同じ3割程度になった。

 回復結晶を取り出して回復することもせず、俺もシエルも同時の突撃を繰り返す。

 

 「いいよ……やっぱりいい! 僕は殺されるなら君がいい、ヴァイオレット!」

 

 「言ってんだろ分からずや! お前は生かして連れて帰る! 引きずってでも連れて帰ってやる!」

 

 俺がシエルの斬撃を防御し、シエルが俺の斬撃を防御する。

 もうここから先は、ただの一度も気を抜くことは出来ない。

 俺もシエルも、残りのHPはもうすぐ2割――――危険域を示すレッドゾーンに入るところまで来ている。ソードスキルでなくとも、まともな一撃が入ればHPが0になり、死んでしまうのだ。

 

 「ハアアアッ!!」

 

 「ヤアアアッ!!」

 

 ガン!!と轟音が響き、一瞬、全てが止まった。

 数秒後、シエルの持っていた紅い剣《デュアルペンデュラムα》が、宙から振ってきて地面に突き刺さる。

 

 「な、何が……?」

 

 「……自分で言っただろ。こいつらは《双剣》――――つまり、二本で一本なんだ。だから、ぶつけあったところでどちらかが折れるなんてことは絶対にない。鍔迫り合いをしているうちは、決着なんてつかなかったよ」

 

 俺がしたことは簡単だった。

 シエルが本気の《ヴォーパル・ストライク》を放ち、俺を殺そうとしてきたように、俺はただの斬撃モーションでシエルの手の甲を攻撃した。

 剣を持つ手を攻撃されれば、ソードスキルは停止するしダメージ時のフラッシュと衝撃で剣は吹き飛ばされる。剣を折らずに敵を無効化する技術。強いて名づけるなら、《剣士生殺》と言ったところか。

 

 「お前の負けだ、シエル。大人しく牢屋に……」

 

 剣を振り切った状態から、振り返って言おうとして、俺は言葉を切った。いや、切らざるを得なかった。

 俺の斬撃はあくまで手の甲を狙ったものであり、したがって、今現在(・・・)シエル(・・・)の腹部か(・・・・)ら溢れる(・・・・)ダメージ(・・・・)エフェクト(・・・・・)の原因が、俺には分からなかったからだ。

 

 「ジョニー……ブラック……どう、して……?」

 

 「だめだよぉシエル坊ぉ。俺達ラフコフはそんな剣士の決闘みたいなことしないぜぇー? もっとクールかつビューティーにちゃんと殺さなきゃなぁー」

 

 シエルの後ろに立つそいつが、シエルの腹に刺さった毒ナイフ(・・・・)を引き抜き、シエルの体を蹴飛ばした。

 そのまま前に倒れこむシエルを俺が受け止める。

 

 「し……シエル!」

 

 「は、はは……ごめん、ヴァイオレット……勝ったのは君なのに、僕、死んじゃうや……」

 

 俺はすぐさま回復結晶を取り出し、「ヒール!」と叫んで使用する。

 けれど、『効果がありません』という無慈悲なウィンドウが表示されるのみで、回復結晶はその力を発揮してはくれなかった。

 

 「別に、いいよ……。最初から、ここで死ぬつもりだったんだ。最期に隣にいてくれるのが君ってだけで、僕は満足だよ……」

 

 「ふ……ふざけんな! なんで、なんでだよ! ユウナが待ってるっつったろ! また3人で、いろんな事するんだよ! 最初から死ぬつもりだったなんて、お前は……!」

 

 「言ったでしょ、君か僕、どっちかが死ぬって。それが僕だったってだけの話だよ」

 

 多分、今の俺は号泣している。

 ボス戦でだって、人が目の前で死ぬ光景は見慣れていたはずなのに、こんなに辛くて悲しい思いは初めてだった。

 シエルのHPバーは、もう空っぽになる寸前だというのに、まだ止まる気配を見せない。本当に、シエルのHPは0なのだ。

 

 「ねぇ、ヴァイオレット……現実の僕の父さんに会ったら、帰れなくてごめんって、伝えてほしいんだ」

 

 「……分かった。お前の事、ちゃんと憶えて、ちゃんと伝える」

 

 「……そっか、ありがと……ねえ、ヴァイオレット。その剣で、僕を殺してよ。僕の体が、まだあるうちに、さ……」

 

 俺は無言でうなずくと、蒼い輝きを放っている剣を手にとり、シエルの胸にそっと突き刺した。

 異物が身体を通る不快感はあるはずなのに、シエルはうめき声の一つも漏らさない。

 こんなことをしたところで、システム上の現象に変化などないことは分かっている。それでも、俺に出来ることは、それしかなかった。

 

 「ありがとう、ヴァイオレット……じゃあね」

 

 シエルは最後にそう言ってほほ笑むと、その体を四散させた。

 俺の目の前に、『ドロップアイテム:《デュアルペンデュラムα》』の文字が現れる。

 

 「くしょう……ちくしょう、畜生!!」

 

 俺はすぐさまメニューウィンドウの装備フィギュアを操作して、空いている左手に《デュアルペンデュラムα》を装備する。

 両手に片手剣を持っても、システムが異常装備状態と判定してソードスキルが発動しなくなるだけで、何のメリットもない。けれど、この二本は《双剣》――――二本で一本なのだ。

 

 「ジョニー・ブラック!!!」

 

 俺は大声で叫んだ。

 あらん限りの力で、その名を呼んだ。

 

 「出てこい!! 俺と戦えッ!! 逃げるなッ!!」

 

 「呼ばれなくてもここにいるぜ、藍色さんよぉ」

 

 俺の背後からゆらりと現れたジョニー・ブラックを一瞥する。

 俺はコイツをシエルの仇だなんて思わない。シエルを殺したのは、あくまで俺だ。

 けど……コイツはここで、叩き切る。

 

 「二刀流とか、カッコつけても弱くなるだけだろぉ? そんなんで勝てるほど、現実は甘くねェぜぇ?」

 

 「……うるせぇ」

 

 もう、問答することさえも鬱陶しい。

 俺は双剣を振りかぶり、まずジョニー・ブラックの毒ナイフをたたき折る。

 

 「ヒュー……!!」

 

 「ソードスキルなんか要らない。お前は、俺が、俺達の剣(・・・・)で殺してやる……!!」

 

 武器を失ったジョニー・ブラックは、ひたすら回避に徹した。

 けれど、俺の剣はその速度を超えてジョニー・ブラックを追い詰める。

 殺す。コイツは、何が何でも殺してやる!!

 

 「は、速い……!!」

 

 「お前がバカにしたシエルの剣(・・・・・)だ」

 

 言うと同時に、俺は左手のα――――シエルの紅い剣をジョニー・ブラックの腹に叩きこんだ。

 ジョニー・ブラックのHPバーが、一気に黄色くなる。

 

 「は、ははぁ……シエル坊の剣、ねぇ」

 

 「そうだ。……少なくともアイツは、最後だけは剣士だった」

 

 「剣士、かよ。アイツが?」

 

 「そうだ。お前たちよりは、よっぽどな。…もう終わらせて…!?」

 

 止めを刺すべくジョニー・ブラックとの間合いを詰めようとすると、右方から刺剣(エストック)による妨害を受ける。

 幸い全てを塞ぎ切ったのでダメージはないが、俺のHP残量も既に1割ちょっとまで減っている。

 

 「ジョニー、ブラック。逃げるぞ、今の俺達に、勝ち目は、薄い」

 

 「よぉ、ザザ。援軍サンキュー」

 

 「《赤眼のザザ》……!!」

 

 編成会議で、ジョニー・ブラックと同様に要注意プレイヤーになっていた、《赤眼のザザ》。

 よくタッグを組んでいる二人が、揃っていた。

 

 「よく聞け、藍色。お前たちは、勝ったつもり、だろうが、俺達は、終わらない」

 

 ザザはそう言うと、ジョニー・ブラックとともにこう締めくくった。

 

 「「――――イッツ・ショウ・タイム」」

 

 途端に、ジョニー・ブラックとザザの姿が消え、俺の索敵スキルにも反応しなくなる。

 かなりレベルの高い《隠蔽(ハイディング)》だ。

 

 「………畜、生」

 

 俺はそう漏らし、その場に座り込んだ。

 精神的にも限界で、もう立ち上がることもできない。

 周囲の喧騒もいつの間にか収まり、戦闘はほとんど終結していた。

 

 「……ヴァイオレット」

 

 「クラインか……《風林火山》の奴らは、無事か……?」

 

 「ああ、誰も死んでねェ。酷い戦いだったぜ……双方から、たくさん死んだ」

 

 「そうか……」

 

 クラインはそれだけ言うと、仲間のもとへと去って行った。

 今は、その気遣いがありがたい。

 

 「くそう……クソッ、畜生、畜生ッッ!!」

 

 俺はただ、紅い剣だけを残していった大切な友達の事を思い出して、泣くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけの時間が経っただろうか。

 俺はまだ、誰もいなくなったラフィン・コフィンのアジトの、シエルが死んだ場所で佇んでいた。

 二本の剣を、交差するように突き立てて、簡易的なシエルの墓を造ったものの、それは俺の心をざわつかせるだけだった。

 

 「……ヴァイオさん」

 

 足音とともにやってきたのに気付きながら、俺は振り返らなかった。

 たった一ミリでも、動きたくなかった。

 これだけ心をざわつかせるのに、この場所から離れたくなかった。

 

 「ヴァイオさん、それ……シエルさんの……」

 

 「……ああ。俺が、殺したんだ。助けられなかった」

 

 「……帰ろう、ヴァイオさん。私、何か作るから……」

 

 そうは言うものの、何の返事もない俺に、ユウナは何も言わず、首に手をまわした。後ろから、抱きついてきた。

 

 「ヴァイオさん、ごめんね……私、何も出来なくて……」

 

 「いいんだ、もう……終わったことだ」

 

 俺は、か細い声でそう言った。

 それは、ユウナに言って聞かせるためのものではなく。

 いつまでこうしていても、決してシエルはそれを喜ばないだろうと、そう俺に言い聞かせるためのものだった。




どうも、黒炉です。
後書き書くの久しぶりな気もする…

とりあえずSAO時代の回想は今回が最後です。次回リアルの方を一本入れて、GGO編(でいいのかは不明)に入ります。
うーん、僕が知ってる限り、多分ハーメルンでGGO行くのはこの作品だけだよなぁ……なんか進め過ぎな気もしますが、やり過ぎてアリシゼーション突入して自爆してもしょうがないので色々考える。
特にGGO編は、ただ原作なぞるだけじゃなくて、もっと工夫したいので。

ではでは次回もよろしくお願いします!
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