ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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八九寺さん、ささみの天ぷらさん、000Xiさん、エロゲマスター・シンさん感想ありがとうございました!


第50話 それぞれの決着

 3月9日。

 普通の中学3年生ならば、まあ合格不合格は別として、卒業式を執り行うシーズンだ。桜は出会いと別れ、両方の花だ。

 しかし俺は、現在進行形でその卒業式をサボっている。

 サボタージュ。SABOTAGE。

 いや、ふざけているわけではなくて、今日、3月9日は本当に俺が通う中学校――――と言っても、ここ2年と数ヶ月は顔すら出していないが――――の卒業式だ。

 最初はやはり参加するべきかと思ったが、どうせ俺は中学3年生の学業の3割も修めていないので、参加したところで正直場違いも甚だしいと思う。

 少なくとも、顔も忘れた名前も忘れた存在も忘れていたようなクラスメイトと一緒に、堅苦しい制服に身を包むよりも、こっちの用事の方が、俺には100倍ほど大切に思えた。

 俺が卒業式をサボって向かっているのは、刑務所だ。

 シエルの父親、俺が1月に戦った、村瀬啓助に会うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「笑いに来たのか」

 

 第一声がそれかテメェ、と俺は返す。

 そんなことを言うのなら、最初から面会など断ってしまえと思ったが、これは口には出さない。

 俺と村瀬は、本来ならそれくらい険悪な仲で、こうしてわざわざ面会などする必要性も意味もないはずなのだ。

 村瀬がなぜ刑務所にいるかと言えば、まあいわずもがなだ。

 医者と言う立場を利用して少女を(精神のみだが)拉致監禁したのだから、当然実刑がないわけではなく、裁判では有罪の判決が下ったそうだ。

 それ以上深くは知らない。興味もないし、知る気もない。

 

 「見ろ。今の僕はこんなに惨めだ。息子を失って、仕事を失った。今じゃただの学生である君よりも社会的な立場が低くなったよ」

 

 「犯罪者だからな。……別に、笑わねえよ。下を見て愉しむ趣味はない」

 

 それに、今日の用事はそんなくだらないものでもないしな、とも言う。

 今日俺がここに来た理由、村瀬に会いに来た理由は、そんな吹けば散るような軽いものではない。

 今日、俺がここにいる理由は――――

 

 「――――シエルの、アンタの息子の言葉を伝えに来た」

 

 「――――!!」

 

 村瀬が目に見えて驚いたのが分かる。

 俺とシエルを、そもそも繋げていなかったのだろう。

 それは俺も同じで、あの夜、村瀬の口からシエルの名が出なければ、もう一度この男と会おうだなんて思わなかっただろう。

 村瀬は優奈を一年もの間苦しめた男だけれど、シエルは俺の大切な友達で、仲間だ。だから、アイツの最後で最期の願いは、叶えてやりたいと思う。

 

 「俺の知ってるシエルの全てを、アンタに話すよ。それがシエルとの約束だ」

 

 俺達の馴れ初めを。

 共に挑んだクエストの事を。

 ラフコフ討伐戦の、あの夜の事を。

 あの世界――――《ソードアート・オンライン》と、《浮遊城アインクラッド》を確かに生きていたシエルの事を。

 ありのままのアイツを伝えることを。

 俺達は、約束した。

 

 「内容は、曲がりなりにも医者だったアンタにとっては、残酷なものかもしれないけど……聞くか?」

 

 俺の言葉に、村瀬は無言で頷き。

 俺は、短くも大切なあの時間の事を、少しずつ思い出しながら話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たとえばの話で。

 私、星川優奈が、人付き合いが非常に上手く、仲の良い友達がたくさんいたとしても。

 多分、今の私の心境は、変わらなかっただろうと思う。

 3月9日。

 私は今日、中学生になって、初めて学校に登校した。

 中学1年生とは言え、既に1年近くを過ごした間柄であるクラスメイト達の輪に入れるだなんて思ってないし、入ろうとも思わない。

 藍人さんや珪子さんよりも、2ヶ月ほど遅い帰還を果たした私は、それからの時間のほとんどを地獄のようなリハビリに費やすことになった。

 死ぬほど辛くて死ぬほど痛くて、けれど、村瀬に銃で撃たれて私と同じようにリハビリに励んでいた藍人さんを見ていたら、そんなものはいつの間にかすっ飛んでいて。

 今日、やっと私は生まれて初めて中学校にやってきた。

 藍人さんのように、行かないという選択肢もなくはなかったけれど、ただ籍を置いていただけと言っても、やっぱり私は学校そのものは嫌いじゃなかったと今になって思う。

 だって、そう言う選択肢もあったのに、私はお母さんに、学校に行きたいと言ったのだから。

 自分の教室――――1年C組に入ると、教室内にいた全員の視線が集まる。

 まあ、それもしょうがない。だって、私の顔を知っている人は、きっとこのクラスには居ないだろうから。

 《星川優奈》と書かれたネームシールを張られた机を見つけると、その表面をそっと撫でる。

 まだ使われていないであろうそれは、私が譲り受けるまでの落書きもなく、綺麗なままだった。

 

 「あの……星川優奈、さん?」

 

 唐突に声を掛けられて、私は声のした方に振り向く。

 中学校はもちろん、小学校にいた頃でさえ、私の名を呼んでくれる人などいなかったからだ。

 私に声をかけてきたのは、眼鏡をかけた三つ編みの、大人しそうな女の子だった。

 

 「そうだけど……何か?」

 

 「あ、わたし、宮田(みやた)咲月(さつき)って言うの。その、色々あって大変だったとは思うけど、分からないことがあれば、聞いてほしいなって」

 

 色々あって、というのが、SAO事件のこと、ALOを利用した須郷伸之の陰謀の事を指していることくらいは、私にも分かった。

 私が2年間、《ソードアート・オンライン》の中で、剣を取って戦っていたことは、きっと皆が知っているのだろう。

 構わない。どうせもうすぐ、こことはおさらばするのだから。

 ただ、ちょっとだけ、普通の中学校を見てみたくなっただけで。

 だから、宮田さんの好意に甘える機会は、私にはない。

 

 「それなら大丈夫。私、元SAOプレイヤーが集まる学校に入ることになってるから。今日はただ、なんとなく顔を出しただけ」

 

 「そ、そう、なんだ……」

 

 私が、出来るだけ棘のないように言うと、宮田さんは一気に表情を曇らせてしまった。

 ……もしかして、この子……

 

 「あら、どんくサツキじゃない。何してるの、邪魔よ」

 

 「きゃっ」

 

 そんな宮田さんを、後ろから突きとばす奴がいた。

 女子で、性質の悪い可愛さを持ってるタイプの、そう、お嬢様系だ。見事と言うべきか、丁寧に二人の取り巻きまでいる。

 突き飛ばされて前のめりになる宮田さんをとっさに受け止める。

 SAOでは、特に《軍》の連中がこういう感じで――――見つけては圏内であることを利用して精神的にボッコボコにしていたことを思い出す。

 

 「ちょっと、何も突き飛ばすことないじゃない」

 

 「誰よ、アンタ……ああ、ゲームなんかに命かけてたおバカさん」

 

 これには私も完全にキレた。

 別に望んで命をかけて戦ってたわけじゃないし、本当に死の危険があったとしても、あのゲームは、あの世界は私に沢山の大切なものを与えてくれた思い出の場所だ。

 それをなんか(・・・)呼ばわりされて黙ってられるほど、私は人間が出来てない。

 

 「……宮田さん。30センチくらいの定規とかある?」

 

 出来れば細い方がいいな、と。出来る限りの笑顔で言った。

 宮田さんはかなり引きつつ、片手で握れる程度の細さの、30センチの定規を貸してくれた。

 うん……これは、感覚を思い出せる。

 

 「ねえ、そこの人。さっき宮田さんを突き飛ばしたこと、謝ってくれないかな」

 

 「はぁ? どんくサツキがどんくさいのが悪いのよ」

 

 「その呼び方もやめて」

 

 右手に握った定規をくるくると回す。

 ダガー(・・・)を使うのは1年以上のブランクがあるけれど、それでも案外感覚は失ってないようだ。

 

 「アンタバカでしょ? 私がどんくサツキをどう呼ぼうが、私の勝手でしょう?」

 

 そう言われて、宮田さんは今にも泣きだしそうだった。

 なるほど。多分この人は、1年間宮田さんにずっとこんなことをしてきたんだろう。

 ……これは、多分やっちゃってよさそう。

 

 「ふぅん……ところでさ、私って、これでも彼氏がいるんだけど」

 

 「いきなり何? 惚気話とか聞きたくないわよ」

 

 「まぁ聞いてよ。で、その人の事ね……よく泣かしちゃうんだ」

 

 こんな風に、と。

 そう言って、同時にビュン!!と空を裂く音。

 一瞬のうちに、私が握っていた定規(ダガー)は、厭味ったらしい女の首に当てられていた。

 ダガー用のソードスキル《ラピッドバイト》の物真似だ。

 

 「これが向こう側の《ユウナ》で寸止めじゃなかったら、今頃死んでたね」

 

 良かったね、生きてて、と。

 全力の笑顔でそう言った。

 

 「ひ……ご、ごめんなさぁぁい!!」

 

 「ああ、千鶴!!」

 

 「逃げないで! おいてかないで!」

 

 リーダーが逃げ出すと、取り巻きもそれを追いかけるように逃げ出した。

 というか、朝のホームルームもうすぐ始まるけど……?

 定規を、さながらダガーのように――――というかもろダガーとして使っちゃったけど――――振り払い、そのまま癖で腰に持って行ってしまう。

 腰にダガーを収める鞘がないことに気づき、ちょっと苦笑い。

 

 「あー……えっと、定規、ありが……」

 

 「す、すごい! すごいよ、星川さん」

 

 「ふぉぉっ!?」

 

 宮田さんに突然手を握られ、思わず藍人さんのようなリアクションを取ってしまう。コミュ症の性か……!

 

 「い、今のって、あのゲームの!?」

 

 「う、うん。《ラピッドバイト》ってダガー用の技なんだけど……」

 

 「すごい!! かっこいい!!」

 

 私の手を握ったまま上下に振り回す宮田さん。

 見ると、周囲の生徒からも拍手を浴びていた。あの人たち、そんなに嫌われてたんだ……。

 

 「えっと……それほどでも、あるかなぁ」

 

 なんて言って、ちょっと笑ってみると、さらに盛大に拍手された。

 ちなみにその後、入ってきた担任の先生がとんでもなく驚いていたことは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『そして、皆さんは……』

 

 3月9日。今日は私の学校の卒業式だ。

 来ては見たけれど、やっぱり2年もいなくなってればいろいろ変わっていて、藍人みたいにさぼっちゃえばよかったかなぁと後悔していた。

 一応貰った卒業証書も、書いてあることが嘘っぱちだと重みもありがたみもない。

 だって、『中学校3年間の学業を修めたことをここに証します』って、私全然修めてないし。

 半分も追い付いてない。嘘っぱちもいいところだ。

 

 「(……誰も気づかないかな)」

 

 全員の注目が校長先生に向いているのをいいことに、私はさっとワイヤレスのイヤホンを取り出して装着。ポケットの中で素早くプレーヤーを操作して、五条美海の曲をかける。

 こういうところ、藍人に似ちゃったなーとか思わなくもない。

 

 「(~~♪)」

 

 流れてくるフレーズを、あくまで心の中で繰り返す。

 今、日本中が熱狂する歌手と言えば五条美海だ。

 私と優奈ちゃんは、SAOに囚われる前からファンだったので、現実に帰って来てから真っ先に気にしたことベスト3に入ったくらいだ。

 ライブとか行きたいなーでもきっとダメだろうし……いざとなったら藍人を保護者代わりにしちゃうか。

 そんなことを考えつつ、曲に意識をよせていると、プレーヤーとは反対のポケットにしまった携帯が震えだす。マナーモードにしていたので、バイブレータ機能がはたらいたのだ。

 メールボックスを開いて、受信したメールを確認する。……こんな堂々とやってるあたり、本当に藍人に似たなぁ。

 メールの差出人は、結城藍人となっていた。

 メールの内容を見て、私は思わず口元を緩ませる。

 現在時刻は11時30分。

 藍人の指定してきた時間までは、まだ少し余裕がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村瀬との面会を終えて、俺は刑務所を後にした。

 俺の知ってるシエルの全てを話した後、村瀬は何も言わずに面会を終了させた。

 おそらくは、それでいいのだろう。

 俺は村瀬の息子であるシエルを殺して。

 村瀬は優奈を傷つけ、苦しめて。

 俺達はそう言う、憎み憎まれの関係程度がちょうどいい。

 だから俺も何も言わなかったし、村瀬も何も言わなかった。

 

 「おーい、藍人さーん!」

 

 遠くで、俺の名を呼びながら手を振る二つの影が見える。

 優奈と珪子。二人とも、かつてアインクラッドで知り合い、共に戦った仲間だった。ちなみに両方ダガー使い。

 どうせ俺の用事は午後までかからない程度だったし、二人とも今日は午前中で学校が終わるということだったので、この後パーっと遊びにでも行こうと俺が誘ったのだ。

 具体的には、エギルの店に直行だが。

 つまりは、俺達にはその程度がお似合いなのだ。

 いくらあの鉄の城で、トップ剣士をやっていた過去があったとしても。

 今の俺達はただの学生なのだから、今はただの学生らしくしていようという。

 ただそれだけを思って、俺は二人の方へ走りだした。




どうも、黒炉です。

めでたい!50話ぴったでSAO、ALO、閑話の全部が終わった!これは何かいいことがありそう!といいつつリアルではかなりグロッキーですが……。
村瀬再び登場回でした。まあ、前回ほど嫌な奴でもないです。根が須郷ほど腐ってるわけでもないので。
SAOで根っからの小悪党って言うと、須郷とクラディール以外に思いつかないんだよなぁ……。ラフコフは小悪党って言うよりももう悪の美学とかそっちの方向走り出してたし。

さてめでたく(?)次回からGGO編ですが、伏線にもならなかったような伏線がここに来て大活躍。藍人ハーレム計画が再び動き出してしまうのか……!?
伏線探しってミニゲームとしてやってみるのも一興かと(笑)
ではでは、次回もよろしくお願いします!









………とか言いつつ、これで終わらない後書きってのがあるらしい。

前に活動報告でもちょろっとこぼしたのですが、このペースで行くと多分かなり近いうちに原作追いつく。
マザーズ・ロザリオははっきり言ってやる気ないので(あれはもう素晴らしすぎると思ってるので手を付けずに永久保存。あと藍人の介入する余地もないと思う)、GGOが終わればそのままアリシゼーションに直行なのですが……原作今プログレッシブぢゃん。

間違いなく止まります。
ええそうでしょう。だって俺はWEB版も連載版も読んでない、単行本オンリー派なんですから。なんだよ『星降る夜のアリア』ってしらねーよ。AW12巻の最後の宣伝で初めて知ったわ。
そんな僕なので、まあアリシゼーション入れずにオリ展開も出来ずに休載とかざけんなこのヤローになると思います。

というのを言い訳にして、非常にDOG DAYSが書きたい。
茅場さん風に言うなら、「私がDOG DAYSのSSに取りつかれたのはいつの頃だったかな……」まあごく最近ですが。
二期も終わったし、逆に始めるにはいいタイミングかと。
まあ、最優先はこっちですがね。

結局何が言いたいかって言うと、新しいのやるよーっていう宣伝だけ。うん、超自分勝手です。
とか言いつつ既に千字近い量になってたり。
これで(いないけど)イラストレーターとか担当さんに謝辞入れたらノリはまんまラノベの後書きだなぁ……

まあそうなることも絶対ないですけどね!
あ、今の嘘、ボクデビューしたい!後書き書きたい!
では今度こそ本当に、次回もよろしくお願いします!
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