ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

52 / 80
(´作`)(空牙刹那さん、山茶花さん、静波さん、エロゲマスター・シンさん、ポンポコたぬきさん、不能力者さん感想ありがとうございました!


第52話 ある秋の日

 「ちくしょう……アイツら絶対俺の事嫌いだろ……」

 

 夕刻。

 俺は一人で、ダイシーカフェを目指して歩いていた。

 本当は今日は俺、優奈、珪子の3人で行く予定だったのだが、俺が担当する委員会が急に仕事が入ってしまい、おまけにどっかのロリコンビが「じゃあ先に行ってるから」と冷たく俺を見捨てて行ったのでこうなっている。

 うん、アイツら締めよう。やられっぱなしで終わってる藍人さんじゃないぞ。

 

 「第一、朝寝坊したくらいでいつまでも怒ってるなよな……」

 

 そりゃ、寝坊して二人を待たせたことは100%俺が悪い。

 けど、そのまま全力ダッシュで学校行ってりゃ十分間に合ってたし、そもそも遅刻するレベルまで遅くなったのは珪子の拷問のせいだし、俺まだ体の節々が痛いし。

 俺にも反省するべき点があるとはいえ、俺ばかりが責められるのは筋違いな気がしてくるのだ。というか、ただ単に腹立つ。

 

 「まあ、俺は寛容だから気にしてないけどさ」

 

 そうつぶやくと、制服のズボンのポケットにしまってある携帯端末が震えだす。

 取り出して確認すると、珪子からのメールを受信していた。

 

 

 From  :綾野珪子

 Message:何してるの、早く来てよ!

 

 

 前言撤回、めちゃくちゃムカつく。

 何だよ俺を置いて行った癖に酷いよこの扱い!

 

 「上等だ、今すぐ行ってやらぁ! 大通りとか通んねえぞ近道して行ってやる!」

 

 そう叫び、人の目も気にせず俺は少し暗い裏道へと突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「酷いよなぁ五条。私たち避けて学校休むとかさぁ」

 

 「そ、そんなつもりじゃ……」

 

 「じゃあどういうつもりだったんだよ」

 

 ガン!!と置かれていたポリバケツを、遠山が蹴飛ばす。

 基本的に気の弱い方である美海とっては、目の前の存在だけでも十分恐怖なのに、それらの不良っぽい行動は余計に恐怖を刻み込む。

 

 「……まあ私たちは優しいからさぁ、誠意さえ見せてくれれば許さないわけでもないのよ」

 

 そう言って、遠山は朝と同じように手をだした。

 貢げ、というサインである。

 

 「こ……今月は、これ以上、は……」

 

 「ああ!?」

 

 美海が言った途端、遠山は目つきを変えて声を上げる。

 美海はすぐに、例え多少の無理を通してでも抵抗するべきではなかったと後悔する。

 アニメや漫画でよくある、「ちゃんと抵抗すればいい」などと言う言葉がただの虚言であることは、ここ数カ月でちゃんと理解していたはずなのに。

 

 「お前のその身体の痕の事をバラされてもいいってのかよ!!」

 

 「だ、だめっ!!」

 

 遠山が言うと、今度は美海の態度が変化する。

 それまでは『怯え』だったのが、明確な『服従』へと変化する。

 

 「お、お金なら、ちゃんと渡すから……だから、そのことは秘密にしておいてください! でないと、アイドルをやめなくちゃならなくなる……!!」

 

 「………ま、全身に(・・・)火傷の痕(・・・・)がある(・・・)なんて知られたら、ただじゃ済まないでしょうね」

 

 そう言い、いやらしい笑みを浮かべると、遠山は鞄の中からあるものを取り出した。

 それは、かなり一般的で、探せば何処にでもあるようなもので、しかし美海にとっては恐怖の対象(・・・・・)となる(・・・)ものだった(・・・・・)

 

 「ひっ……」

 

 「お前、火がダメなんだったよなぁ?」

 

 ライター。

 当然、火をつけっぱなしにして放置すれば火事になることもあれど、普通に使っている分には便利な文明の利器だ。

 けれど、美海にとってはその程度で収まらない。

 

 「火は、火はダメ……!!」

 

 「分かってるわよ。分かっててやってるし」

 

 かつて、火に襲われた美海にとっては、それは存在そのものを体が受けつないのだ。

 アパートのコンロは全て火を使わないIHになっているので、美海にとっては日常生活ではそもそも火自体が見ることのないものになっている。

 こういう、特殊な例を除いては。

 

 「お金なら、渡すから……!! だからそれを近づけないで……!!」

 

 「こんなのでもダメなのかよ。便利でいいなー」

 

 自分の周囲に火があるだけで、体が硬直してしまう。

 いや、火があると認識する(・・・・)だけで、というべきか。

 だからこそ、遠山たちはそれを利用して美海を追い詰めて、楽しんでいるのだ。

 

 「いやー、お「ガン!」をこうやっ「ガン!」られるのはら「ガン!」いいなーってうるせぇな!!」

 

 鳴り響く騒音に耐えかねたのか、遠山が振り返って叫ぶ。

 だが、美海と遠山本人、そして取り巻きたちも、そのような音が出ることは何もしていない。

 誰も何もしていないのに、音が鳴ったのだ。

 再び、ガン!という音が、その場に響き渡る。

 

 「上か!?」

 

 音源が上だと遠山が認識し、天を仰ぐ。同時に、口を開いて驚いた。他の3人も同様のリアクションだ。

 だが、それも仕方ないだろう。そこには、かなり不安定な足場を移動する男子学生がいたのだから。

 

 「よっ、ほっ、はっ」

 

 かなり不安になる光景だが、その少年は全く気にせず軽快な足取りで屋根やら塀やらを伝って行く。

 だが、すこし劣化していそうなパイプに足を乗せた瞬間、事は起きた。

 

 「……おっ?」

 

 ミシッ……という嫌な音を立てて、少年が足場にしていたパイプが軋む。

 直後、少年が別のものに飛び移る間さえ与えず、パイプが崩れた。

 

 「お……おおおおおおおお!?」

 

 当然、少年の体は重力に逆らうことなく落下してくる。

 ちょうどその真下にいるのが、遠山だった。

 

 「受け身!!」

 

 「ぐああ!!」

 

 少年は、受け身と言うか、遠山を下敷きにして着地した。

 傍から見れば、悪魔の所業である。

 

 「いやー下の人、お陰で助かったよ」

 

 「う……ぐぁ……」

 

 突然空から飛来してきた数十キロのたんぱく質の塊が直撃し、呻き声を上げることしかできなくなる遠山。

 美海も取り巻きも、何が何やらで呆然である。

 少年は立ち上がって、自身の制服についた汚れを払うと、周囲を見回した。というよりは、周囲の状況を見回して確認した。

 

 「……上から見てた限りだと、3人で一人を追い詰めてたように見えたけど?」

 

 それまでのひょうひょうとした態度とは打って変わって、低い声でそう言う少年。

 その剣幕に、取り巻きも、何とか立ち上がった遠山も一歩後ずさる。

 

 「う……うっせぇ! テメェには関係ないだろ!」

 

 「まあ関係ないけどさ。苛められて泣かされてる女の子見捨ててきましたなんて言ったら、それこそ優奈と珪子にぶち殺されるしな。知っちまった以上は、無視なんかできないだろ」

 

 少年の言う“優奈と珪子”が誰を指す言葉なのか、理解できる人間はその場には居なかった。

 ただ、この少年は、きっとどんな手段を用いてでもこの場を解決に持っていこうとする。そう、遠山は本能で悟った。

 それは事実で、たとえば今、暴力任せの遠山たちに対して暴力しか手段がないとすれば、少年は迷いなくそうするだろう。

 

 「……はっ、そう言う理屈が通るのは、漫画と小説の中だけって相場は決まってんだよ!」

 

 言い、綺麗な右ストレートを打ち込んでくる遠山。

 それは喧嘩慣れしているなどと言うレベルではなく、姿勢と言い速度と言い、さながら(・・・・)プロのよ(・・・・)うだった(・・・・)

 まるで、ずっと収斂してきたかのような綺麗さ。しかし、その拳を、少年は何の苦もなく。

 

 「……遅いな。これなら、ヒースクリフの方がよっぽど速かった」

 

 そう呟き、避けた。

 避けられた、と遠山が認識した時には、彼女はすでに地面に座り込んでいた。

 一瞬。あまりに一瞬すぎて、認識が追い付かないほどだった。

 起きたことは単純で、空ぶった右腕が少年に引かれ、そのまま突き飛ばされ、バランスを崩して倒れただけ。

 ただ、それが、やはり喧嘩慣れしている程度のものではなかったのだ。

 

 「うーん、やっぱ現実じゃ脳から筋肉までの伝達速度の問題があるから、VRワールドほど速く動けないな……」

 

 と、少々呪文気味な言葉を呟く少年。

 だが、遠山にはそんな言葉は耳に入らず、それなりに腕に自信のあった自分の攻撃をいともたやすく避けて見せたこの少年に対する恐怖が、彼女の心の片隅に現れた。

 あとは、まるで小悪党のように悲鳴を上げて逃げて行き、取り巻き立った二人もそれに続いて逃げて行った。

 

 「なんだ? あれくらいで」

 

 そう言い、少年は振り返って美海のもとへと歩いてきた。

 しゃがみ、まだ腰が引けて立ち上がることができない美海に手を差し出す。それは、さっきまでの遠山の悪意に満ちた掌ではなく、純粋に美海の事を心配する掌だった。

 

 「あ……ありが、とう……」

 

 「別にいいって。通りがかったのは本当だし。ま、あんなところを通りがかるのは俺くらいだろうけどな」

 

 冗談なのか本気なのかちょっと分からなかった。

 だが、そんなことよりも美海が気になるのは、この少年(・・・・)がどちらか(・・・・・)という(・・・)ことだ(・・・)

 普通に何も(・・)知らずに(・・・・)助けてくれたのならよし。だが、美海を《五条美海》と知って助けたのなら、どうにかして黙らせなければならない。

 助けてくれた人に対する礼儀でないことくらいは美海も重々承知していたが、ちょっとしたスキャンダルでさえも致命的となる美海にとっては避けられる物はすべて避けておきたいのだ。

 相当レベルで変装し、髪型も普段のアイドル時のイメージとかなり変わっているので、繋がりに気付かれるとすれば声だが、声色すらも変えているので相当コアなファンでなければ気付かれる心配はないと思っていた。

 

 「あ、あの……私の事……」

 

 「ん? ああ、口外しないでくれ、とか?」

 

 無言でうなずく美海。

 勘付かれずに釘をさすというのも、中々難しいのだ。

 

 「まあ、お前がそう言うならいいけどさ。相談できる人間には相談しとけよ。黙ってていいことなんて、一つもないぜ」

 

 「………」

 

 相談出来たら相談してるわよ、と心の中で呟く。

 少年は携帯で時刻を確認すると、血相を変えて焦りだした。

 

 「おわっ、道草食ってたらとんでもないことに!? すまん、まだ死にたくないから俺行くわ!」

 

 何をどうつなげたら死ぬことになるのかさっぱりわからなかったが、少年は美海の返答を待たずに駆け出した。

 

 「あ……あの!」

 

 「んあ!?」

 

 「あ、ありがとう!!」

 

 振り返った少年に、美海はそう叫んでいた。

 気付かれる可能性を低くするために、接触する回数を増やすべきではないと分かってはいても、お礼を言わずには居られなかった。

 

 「おう、気にすんなぐふぶぉあ!?」

 

 「………カッコ悪」

 

 だが、その少年が言いきる前に、転んでバケツに突っ込んでしまっては雰囲気台無しぶち壊しもいいところである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。