ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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ポンポコたぬきさん、エロゲマスター・シンさん、ゆってぃさん感想ありがとうございました!


第53話 《スペルストリーム・オンライン》

 結局、さっき私を助けてくれた人の名前を聞くことすら出来ず、私は自宅へと戻ってきた。

 あの人は、私の事を聞かず、私が五条美海であるかどうかも聞かず、立ち去ってしまったのだ。分かっててそれをやっていた可能性もなくはないけれど……私はそういうふうに考えたくなかった。

 私の事を、《アイドル・五条美海》ではなく、《個人・五条美海》と認識してくれる人は少ない。出かける度に、そのあたりに気を配らなくてはいけないのだからたまったものではない。

 現実では、どうやってもアイドルである私と私自身である私を完全に切り離すことは出来なかった。

 けれど、《あの世界》でなら、私はアイドルである自分自身から逃げられた。

 鞄を放り投げ、制服を脱ぎ捨てる。対して汗もかいていないので、今日はシャワーはスルーした。

 空調で気温と湿度を程よく調節すると、フルダイブ前の水分補給も忘れない。以前、水分補給をせずに連続ダイブしていたら、脱水症状を起こしかけて強制ログアウトさせられたことがある。

 フルダイブ、つまり、VRゲーム。それが、私が自分を隠さずにいられる場所だ。

 アイドルである《五条美海》でも醜い傷跡を持った《五条美海》でもない、いうなれば第三の私。

 私はアミュスフィアにちゃんとディスクが差し込まれていることを確認すると、電源につないで頭にかぶる。

 VRゲームの第2世代、《アミュスフィア》。第1世代である《ナーヴギア》は、命をかけた本物のデスゲームである《ソードアート・オンライン》の正式サービス開始と同時に販売・使用が禁止されてしまったので、現在あるフルダイブマシンはこの《アミュスフィア》のみ――――というのは、私のマネージャーで、元SAOのプレイヤーだった人から聞いた話だ。

 このアミュスフィアは、ナーヴギアのような危険はなく、逆にありとあらゆる安全装置でダイブ中のプレイヤーの体調管理を行なってくれる。

 私は、発売とほぼ同時期から使い込んだアミュスフィアをそっと撫でた後、私の世界への扉を開く言葉を叫んだ。

 

 「リンク・スタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《スペルストリーム・オンライン》。それが、私がずっとやっているMMOの名前だ。運営が同じゲームで、確か《ガンゲイル・オンライン》と言うのがあった気がするが、あっちは滅亡後の地球やらなんにやらと言う、男くさい設定が気に入らなかったし、何より銃は私の好みじゃない。

 ログインを手早く済ませると、私はマイホームになっている小さな小屋で目覚めた。

 位置的には、この世界――――《イシュタール》で最大の都市、《ホリダール》からそう遠くない。ここのプレイヤーホームは、値段の割には美味い狩り場や隠しショップがないので、どちらかと言えば不人気物件だった。まあ、それは私が勝ったから関係ないけど。

 そういうわけで、周囲に人気などあるわけがない。私は装備の確認を素早く済ませると、家を飛び出した。

 この世界での主だった移動手段は、屋内とある程度の規模を誇る都市と、一部のダンジョンでは使えないのだ。

 

 「ライド・オン!!」

 

 私がそう叫ぶと、目の前に赤と金を基調にしたエンジン付きのボードが現れる。

 《エア・スライダー》という、一~二人用の移動マシンだ。

 この世界の、特に対人戦の場合は、これに乗って魔法を撃ちあいまくるのが主流なのだ。

 似たようなところでは、《アルヴヘイム・オンライン》がそうだが、SSOのユーザーはALOの戦闘システムや飛行が合わないという人が多くを占めているので、そう言う意味ではまた違うものなのかもしれない。数ヶ月前の大型アップデートで、《ザ・シード》規格が取り入れられてから、最近はコンバート――――他のMMOで育てたアバターを、別のゲームで同じ強さの割合で使うこと――――してくる人も増えている。つまり、SSO自体のプレイヤー人口が増えているわけで、最近は未発見だったクエストやらダンジョンやらが増えている。

 もっとも、そんなところに飛び込んで人と出くわそうものなら即座に襲いかかってしまうので普段私が行くのは人気のない場所のみだ。

 

 「うお」

 

 短く呟く。

 森林エリアに入った直後に、正面から青色の魔法弾――――氷属性の低級魔法、《ブリザー》が飛んできたからだ。

 このあたりで氷系の魔法を使うのは……

 

 「やっぱミドルガルーダか……」

 

 中型の飛行系モンスター、《ミドルガルーダ》。

 飛行というカテゴリは、《エア・スライダー》を持つ者にとっては対した影響はないので、この場合特筆すべきはミドルガルーダの魔力値の高さだ。

 比較的難易度の低い場所にいながら、中々に高い魔力値を誇るので、魔法に対する属性耐性がないと割と追い込まれやすい。

 だがそれも、初心者や中級者限定の話だ。

 

 「ハァッ……!!」

 

 背中に携えた槍を構え、突撃してくるミドルガルーダに一撃を入れる。

 この槍、固有名《スタニング・ファタルラルド》は、武器攻撃がヒットすると高確率で行動不能(スタン)するという優れ物である。

 ゲーム内通貨を現実の電子マネーに換金できるSSOでは、そういうレアアイテムに大金をかける人も少なくない。現に、この《スタニング・ファタルラルド》は、他のプレイヤーから4500万D(デジベッド)――――レートは100分の1なので、現実の金額で45万円で売ってくれと言われたことさえあるのだ。

 最初は売ろうかと思ったが、数が数個しかないといわれているレアアイテムを手に入れたのはこの槍が初めてで、結局今もまだ使い続けている。勿論、手放す気はない。

 意識を戦闘に戻し、スタンから立ち直れずにいるミドルガルーダの背中を取る。

 

 「氷結魔法ってのは……こういうのなんだよ!」

 

 そう言い、右手を前に出す。

 システムが魔法の発動を感知し、青い光が右手に集まる。

 

 「《上級氷結魔法(ブリザード)》!!」

 

 そう叫ぶと、私の右手から直径1メートルほどもある巨大な氷塊が発射される。

 《ブリザー》の2ランク上の魔法、《ブリザード》だ。

 もっとも、放たれるのはただの氷塊で、吹雪(ブリザード)ではないのだが。

 

 「ギャオオオオ!」

 

 ブリザードが見事にヒットし、ミドルガルーダはその身体を爆散させた。

 魔力値が高いということは、イコール魔法への耐性も高いということなので、このくらいのランクの魔法でないと一撃で屠るのは難しい。それに私は、どちらかというと筋力値寄りの近接タイプなのだ。

 ミドルガルーダでも上級魔法でやっと一撃なのだから、ハイガルーダやスターガルーダまでいったら超級魔法や完全魔法、究極魔法まで持ち出さないと勝てないのではないだろうか。

 

 「って、完全魔法も究極魔法も習得してる人いないんだけどね」

 

 自嘲気味に呟いてから、メニューウィンドウを開き、討伐スキルポイントボーナスを割り振る。

 得られるポイントはごくわずかだが、こうしてモンスターを倒すとまれにスキルポイントが手に入るのだ。

 これで氷結属性魔法はレベル10中の6まで上がった。他には電撃魔法や回復系、支援系などがあるが、どれもせいぜいレベル8が最高だ。

 実際、レベル9の魔法スキルを習得しているプレイヤーを、私は知らない。完全魔法や究極魔法を習得できるのはレベル9からで、使える人がいないというのはそういう意味だ。

 今の戦闘で解けた支援魔法(バフ)をかけ直すと、私は《エア・スライダー》を再び加速させる。

 

 「あっ……PvP……?」

 

 少し先の、木々がない開けた場所で、かなりレベルの高い魔法が飛び交うエフェクトが見えた。

 見た感じでは、7か8といったところだ。

 片方はガチガチの魔法使い(メイジ)タイプ。割と近接戦闘でも魔法戦になりやすいSSOでは、メイジタイプのソロプレイヤーも少なくない。

 対して、相手は不気味な黒装束に身を包んだ片手ナイフ使い。あれは――――《フレンズ・キラー》……?

 要求STRも低く、また高い攻撃力と魔力・クリティカル率のボーナスが大きいが、《自分以外のパーティメンバーのバフが無効化される》という特徴がある。もっとも、自分ひとりなら問題はないので、私の《スタニング・ファタルラルド》と同じレアアイテムの壊れ武器だ。

 遠くから戦闘を観察していると、それまで魔法戦だったのが、黒装束によって大きく動いた。

 黒装束が、メイジに向けて突進したのだ。

 それを、レベル8の物理魔法《フィジカル・ブレイク》で迎え撃つメイジ。

 だが、その魔法は黒装束に届くことはなかった。

 

 「あれは……《攻撃反射魔法(ヴァー・リフレク)》……!?」

 

 支援系のレベル9魔法、《ヴァー・リフレク》。公式サイトの動画でしか見たことのない、完全魔法だ。

 私は初めて生で見るその魔法に目を奪われ、しかし直後に違和感に気が付いた。

 

 「(レベル9魔法が使えるプレイヤーがいるとして……噂になってない? 最近習得したばかりってこと?)」

 

 対人戦でレベル9魔法を使えば、間違いなく噂になる。

 そうなってない以上、あの黒装束はつい最近レベル9魔法を習得したことに……

 そこまで考えていると、黒装束が攻めに動いた。

 両手をかざすと、真っ赤な光が集まり始める。

 

 「(………!?)」

 

 同時に、全身を駆け抜ける悪寒。

 何で……こっちなら、火を見てもなんともなかったのに……!

 だが、私の異変など知るわけもなく、黒装束は集まった業火を放った。

 《ヴァー・リフレク》と同じレベル9魔法《バーニングフレア》。

 その圧倒的な火力を目にして、私はついさっきと同じ、火を見ることで起こる発作に襲われた。

 

 「(何で……こっちでなら、火炎系の魔法を見てもなんともなかったのに……)」

 

 そう思いつつも、初めて見る火炎系レベル9魔法をじっと見つめる。気持ち悪いことこの上ないが、どうせのこの先も見続けるのだから、いつかは慣れなければならない。

 だが、私は次の瞬間、本当の意味でどうしようもなくなった。

 豪華はとてつもないスピードでメイジに迫った。そこまではいい。

 ただ、ダメージエフェクトが……あまりにも、生身の人間(・・・・・)を焼いてい(・・・・・)るかのよう(・・・・・)だった(・・・)

 

 「――――――!!」

 

 思い出すのは、もう何年も前。

 煙を吸い込みすぎて、意識を失ってしまった弟。

 燃え盛る業火に身を焼かれ、呼吸すらままならないパパとママ。

 それは、生活を助ける命の炎なんていいものじゃなくて、それは――――

 

 「………………強制、ログアウト………」

 

 気が付けば、私は自宅のベッドの上で横になっていた。

 いや、もともと横になっていたのだから、この表現は正しくない。

 ともかく、発作による動揺が激しすぎて、アミュスフィアに接続を強制切断されたのだ。

 

 「……何なの、あれ……おかしいよ……」

 

 まるで、本物の人間を焼いているかのようだった。

 目の前で炎に身を焼かれて死んでいくパパとママを見ているかのようだった。

 もう、見たくなかった。

 

 「何で……何で、あの世界まで、私を苦しめるの……」

 

 私は両手で自分の体を抱え、震えるしかなかった。

 あの世界でなら火を見ても大丈夫だったのに、どうしてあんなリアルな炎があるのだろう。あれではまるで、私を苦しめんとしているような――――そんなあるはずのない悪意さえ、私は感じてしまった。

 壁にかけた時計が、午後7時を知らせる音を鳴らした。




SSOのシステム等で不自然な点ありましたらご指摘ください。
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