ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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静波さん、ポンポコたぬきさん、月の書さん、エロゲマスター・シンさん、砂丘さん、雷影創牙さん感想ありがとうございました!


第55話 乙女の邂逅

 菊岡の、正直バカにしているとしか思えないお願い事を受けてしまったのは、実は単純に俺自身が《死銃》に対して興味を抱いていたからだ。

 《死銃》に殺されれば現実での体も死ぬ、という推測が本当だとすれば、それは俺達に『噂を証明したいから死んでこい』と言っているわけで、当然それに対して憤りを感じないわけがない。

 逆にいえば、菊岡だってそんな事態は避けたいはずだから、何かしらの対策は取ると思ってはいた。思ってはいたんだよ。けどさ……

 

 「モニタリングで看護師さんはいいよ。けど何でテメェがいるんだよ」

 

 「いやぁ、えっと、応援?」

 

 「死んでくれる?」

 

 某ゲームの最高位即死技の名前を言ってやる。ちなみに、俺の本心だ。

 この男――――菊岡が、何でじゃんけんで勝ちとったSSO、《スペルストリーム・オンライン》へのダイブに立ち会うのかさっぱりだが、と言うか消えてほしいが、消えろと言ったところで消える男ではないので無視する。

 場所は、俺がSAO事件で2年間入院していた家の近くの総合病院。家から持ち出してきたアミュスフィアに、SSOのROMカードを差し込む。

 

 「一応異変があれば、アミュスフィアを無理やりにでも外すけど……」

 

 ダイブ中の俺の容体をみててくれる看護師さんが、少し心配そうに言った。

 流石に命の危険があればそうしてほしいが、PvPの大会でそれをやるとあまりいい顔はされないだろう。

 今回の目的が《死銃》の正体を探る――――撃たれたくはないので仕事の内容を都合よく解釈――――こと。

 GGOとSSO、両方の《死銃》のターゲットの共通点が、《ハイランクプレイヤーであること》から、手っ取り早いのは《スピーディング・オブ・チャンピオンズ》に出ることだが、果たしてそれすらも間に合うかどうか……何せ、アイテムや金は初期値から始まるからなぁ……

 

 「けど、ALOの《ヴァイオレット》をコンバートさせたことが優奈や珪子に知られたらどうなるか……」

 

 アイテムや装備はコンバート時に失われてしまうので、必要なものはすべてエギルに預けてきたのだが、フレンドリストなどから《ヴァイオレット》が消えていることに気付かれれば、特に珪子に何をされるかなんて想像したくもない。気付かれる前に全て終わらせたいくらいだ。

 待ち受ける恐怖もとい珪子に戦々恐々しつつ、アミュスフィアを被る。

 

 「そっちの大会も《Mスト》で実況されるらしいし、僕も応援してるよ、藍人くん」

 

 「アンタに応援されても嬉しくないけどな……」

 

 作ったような笑顔を一切変えずに言ってくる官僚に嘆息すると、俺はベッドに横たわった。

 SSOにも現れる《死銃》――――本当に、ゲーム内部から人の心臓を止める力があるのかどうかは分からないけれど、そんなものがあるのなら、それは止めなければならないだろう。

 噂なら噂でも構わない。あとで、『あの時は無駄足だったな』って笑い話ができるだけだ。

 俺は一度大きく深呼吸し、仮想世界への扉を開く言葉を叫んだ。

 

 「――――リンク・スタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SSO――――《スペルストリーム・オンライン》において、アバターの容姿は幾万ものパーツからランダムに作られる。髪と目の色はゲーム内のアイテムで変えられるが、体格や顔については運任せと言うしかない。

 よって、作られたアバターが気に入らなければ、再度アバターを作るところから始めなければならないというわけだ。

 その点において、五条美海――――この世界でのトッププレイヤーの一人、《テト》は非常にラッキーと言えるだろう。流石にそこまで醜悪なアバターは滅多に見ないが(そんなものになりでもしたら、一生レベルのトラウマである)テトほど可憐な容姿のアバターもまた少ない。

 本来の美海よりも少し小さいテトは、俗に言うレアアバター《F1300番系》よりも更に上、《F1400番系》のアバターなのだ。目が飛び出るような大金で売ってくれと言われた経験は少なくない。

 そんな美少女アバターの名前の由来が、小型の熱帯魚の総称である《テトラ》からきているなどと知られれば、どんなことになるか。

 

 「(……いや、小さい熱帯魚なんて可愛いとか言われそう。きっと言われる)」

 

 先刻の戦闘をみていると気に起こった、炎に対する発作も既におさまっており、テトは気分転換がてら、首都である《ホリダール》に繰り出していた。

 消費してしまったアイテムの補充と、たまっていた素材アイテムの売却、それから来るべき大会に向けてマシンの強化が目的だ。ついでに何かおいしいものでも食べようかなとも思ったが、こちらで腹を満たして現実での食事をおろそかにすることが、テトはあまり好きではなかった。

 それに、下手なNPCレストランに入れば、目を集めやすいテトは、一気にファンプレイヤーに囲まれてしまう。自意識過剰のもりはないが、過去にそういう経験が幾度となくあったことを考えると、大勢の人が集まるような場所に行きすぎるのは、単純に面倒くさい。

 よって、アイテムの売却は、いつも通りの裏路地の隠れショップで行うことにした。

 

 「マスター、今日も頼むよ」

 

 注意してみなければ見過ごしてしまうほどに巧妙に隠された扉を開き、店内に入る。

 中は少し前のバーのような内装で、カウンターの向こうにM型アバターが立っている。

 

 「よぉ、テト嬢じゃねえか。久しぶりだな。他のタイトルにコンバートしちまったかと思ってたぜ」

 

 「ごめんなさい。最近は、SoCに向けてダンジョンの深いところでレべリングしてたから」

 

 「いいけどよ。《ドラゴニック・ナイツ》の連中から声掛かってるぜ。最果ての古城のボス攻略手伝えってよ」

 

 「えー、あの人っちケチだもん。アイテム全然分けてくれないし」

 

 そりゃそうだ、と大声で笑うマスター。

 豪快な笑いが似合う厳つい体は、小柄なテトと比べるとかなり大きく見える。

 ようやく笑いを抑え始めたマスターが、メニューウィンドウを開きつつ言った。

 

 「で、今日はどんな用事だ?」

 

 「とりあえず、素材みてよ。全部売るつもりだから」

 

 アイテムストレージから、必要のない素材アイテムを全てマスターに渡すテト。

 マスターがそれらを確認すると、すぐに買い取り価格を提案してくる。

 

 「2万D、ってところだな」

 

 「それでいいよ。相変わらずいい値で買ってくれるね」

 

 「お前さんだからってのもあるがな。それに、今は《スレイヴウルフの目玉》がちと値上がりしてるんだ。過去の例を見るに、これからぐんぐん上がるだろうぜ」

 

 「ホント、いい店知ったわ」

 

 ふふ、とテトは微笑んだ。

 この店を知ったのは半年前だ。たまたま通った裏路地で、たまたま見つけた扉を開けてみたら、そこがたまたま店だったのだ。

 置いてある武器も一級品、買い取りの値段も良心的、これはまさに、隠れた名店だなと、素直に思ったものだ。

 ちなみに、隠れた名店のとおり、テトはこの店を自分以外の人間が利用しているところを、一度も見たことがない。

 

 「ねぇ……実は赤字?」

 

 「んなこたねぇ。これでも、ダンジョンで頻繁に狩りしてるんでな。ここにある武器は、殆ど材料費タダだ」

 

 なんて商売根性、とテトがツッコむ。

 今度はメニューウィンドウから自身のエア・スライダー《トワイライト・レイダー》を選ぶ。

 

 「それじゃ、スライダーの強化もお願い。こっちは自分じゃどうにならないし……あ、ついでにカーの方も」

 

 「おう。任せとけ」

 

 マスターは二つのマシンを受け取ると、その場でオブジェクト化させた。

 店内はそこまで広くないのだが、それでも二つならば何の問題もない。

 

 「あのさ、私、タッグコースの景品に興味あるんだけど、一緒に出ない?」

 

 「バカ言うな。お前とタッグ組んだら、せっかく隠しショップにしたこの店が人であふれちまうだろうが」

 

 「はは、それもそっか」

 

 少し残念そうに、テトが笑った。

 テトは一徹してソロプレイを貫いているので、特にこういうことを頼めるプレイヤーはほとんどいない。その最有力候補だった男に断られたのだから、他も同様だろう。というか、もういなかったりもする。

 しょうがない、ソロコースで出るか、とテトが呟く。その直後、のドアが開いてことを知らせるカランコロンという音が店内に響いた。

 自分以外の客が入ってくるのを見たことがなかったテトは、驚きのあまり振り向いてしまった。そして、驚いた、という点についてなら、それはマスターも同じだっただろう。

 

 なぜなら、店の入り口に立っていたのは、テトと同等、あるいはそれ以上に可憐な、長い藍色の髪の小柄な女の子だったのだから。

 

 「思ってたよりも簡単に見つかってよかった。やっぱ人には聞いてみるもんだな」

 

 SSOでは性別を現実と変えることは出来ないので、つまり目の前の少女は現実でも女性と言うことになる。

 少ししとやかさに欠ける口調で話す少女は、足早に店内に入ってくる。

 その姿に見とれていたテトは、あれ、と思った。

 この場所を知っているのは、かなりハイレベルなプレイヤーのみ。それは以前マスターから聞いたことだから間違いない。そもそもここを利用する者はここの存在を周囲に明かしたくはないらしい。

 けれど、この少女の装備は明らかな初期状態。おそらく、今この世界に来たばかりの、超ド級の初心者。

 なのに、何でこの場所を知っている――――?

 

 「あんまりお金無いんだけど、一番安い剣ってどれかな。初期装備のこれじゃ軽すぎるんで、重い剣に変えたいんだ」

 

 「あ、ああ……悪いテト嬢、ちょっと待っててくれ」

 

 マスターはそう言うと、立てかけられていた一本の片手用直剣を少女に手渡した。

 確かにそれはこの店の中じゃ安い部類だけど、それでも初期プレイヤーに買える値段じゃない。それに要求STRだって相当のものだ。

 けれど、少女は重い剣を優雅に、しかし力強く振って見せた。同時に、テトは彼女が、他のタイトルからアバターをコンバートさせてきたプレイヤーだと気づく。

 それなら、要求STRの問題はクリアだ。もともとのタイトルでSTR値が高ければ、ここでのSTR値も高くなるのだから。

 

 「値段は?」

 

 「ご、5万D……」

 

 「……安くて5万?」

 

 それまで笑っていた少女の表情が、一気に固まる。

 初期参加プレイヤーの所持金は、スタート時が5000Dだから、必要な額の1/10だ。

 さらに言えば、彼女はこれから防具も揃えなければならないので、もっと多くの額が必要になるだろう。

 そう思いつつ、少女を見つめていたテトは、ある事を思いついた。

 彼女がコンバートしてきたというのは、あの高い要求STRの剣を振った時点で明らかだ。初期プレイヤーを装っているとも思えないし、もしそうならハイランクプレイヤーなのだからどの道同じことだ。

 そして、彼女は装備を買えなくて困っている。

 これは、自分と利害が一致するのではないか、と。

 テトは、そう考えた。

 ついさっき、マスターに断られたことを、彼女に提案するのは、アイデアとしては悪くなかった。

 

 「あ……あの、さ」

 

 「ん? 何?」

 

 声をかけてきたテトの事など、今まで見ていなかったとでも言うように、少女は興味なさそうに返事をした。

 これがリアルなら殴りたくなるところだが、彼女と今から共闘関係を結ぼうとしているのだから些細なことはスルーするべきだ。

 テトは落ち着いて、まず相手の利益から話し始めた。

 

 「あのさ、貴女の装備の代金、私が出そうか?」

 

 「え……ま、マジですかお姉さま!?」

 

 うわ、現金な子……と少し引いたテトだが、そういうところの線引きが現実なのだろうと解釈する。この子が現実でも子供だったら、悪い大人について行かないかどうか心配になった。

 

 「うん。その代わりっていうのもアレだけどさ、貴女ってコンバートしてきたんだよね?」

 

 「え? 何でわかって……あ、この剣か。要求STRの高さか。まあ、そうだけど」

 

 初期プレイヤーなら、この世界の知識はおそらくかなり少ないだろうが、それは今から詰め込めばいい。大会も、幸い明日だ。

 少女の肯定で、テトの気持ちは固まった。彼女を、タッグコースのペアにするのだ。

 

 「装備の代金は私が出すから、一緒にSoCに出てくれない?」

 

 この店で装備を整えられるのなら、おそらく相当な金額が浮くことになる。

 それは、明らかに金の足りない初期プレイヤーからすれば、とんでもないラッキーだ。

 読み通り、少女はテトの提案に頷いた。

 

 「いいよ。俺も最初から、SoCに出場するつもりだったし」

 

 「そうなんだ。………俺?」

 

 言葉の違和感にテトが気付くが、少女は既に装備選びに夢中になっていた。武器はさっきので納得できなかったのか、今度は槍をみているようだ。

 槍ならば、テトのメインアームだ。そこは少しばかりアドバイスしてやろうと、テトが顔を乗り出した。

 

 「えっとね、槍はリーチが長いから、魔法耐性か魔法反射の付属アビリティがあるのがいいよ」

 

 「そうなのか?」

 

 「うん。SSOじゃメインの攻撃手段は魔法だから、それを武器で防御(ガード)できれば、こっちは魔法を使わなくてもいいしね」

 

 「へぇー、物知りなんだな、アンタ」

 

 「そ、そう?」

 

 頭をかきながら、照れてしまうテト。

 そんなテトをスルーして、少女はこれまた要求STRの高い、両手槍《イグリミナル・ランス》を選ぶ。

 

 「うん……やっぱり両手武器の方がしっくりくるな。これにしたいんだけど、いいかな」

 

 「え? あ、うん。勿論」

 

 とりあえず、装備はテトが購入し、後でまとめて渡すことになった。

 次は彼女の服などの装備をみてあげようとすると、そこで、少女が男性用の装備をみていることに気が付いた。

 

 「ちょ、ちょっと、それは男の人用だし、君は着れないって……」

 

 「え………ああ、言ってなかったな。それに、名乗ってもいなかった」

 

 そう言うと、少女はテトの方を向いて、自身の名を名乗った。

 

 「俺はヴァイオレットだ。一応男。よろしくな」

 

 「え? ………はあああああああああああ!?」

 

 少女――――いや、少年ヴァイオレットの言葉に、テトだけでなくマスターまでも叫んでしまったのは、仕方のないことなのだろう。

 そうやって、ヴァイオレットは、可愛らしい笑顔で、二人を驚かせたのだった。




前々回キャラネーム明かしてなかったので今回登場。
玄関にあった水槽の中を優雅に泳ぐテトラ……ではなく、テトラポッドのテトラからとった名前と言うのは秘密。
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