ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
赤面する藍人を美味しくご堪能ください(笑)
「ラ……アアァッ!!」
振り払われた槍が、ゴリラのような獣人型モンスターを消しさる。
小さな体に不釣り合いなほどに長い槍を、器用に数回まわして背中に持って行ったヴァイオレットは、ふぅ、と息を吐いた。
「ねぇ、私は魔法で倒せって言ったわよね?」
「う……」
背後から声をかけてきた少女――――ヴァイオレットとタッグを組んでいるテトに言われ、うめき声を漏らすヴァイオレット。
そう。今は、ヴァイオレットの魔法特訓なのだ。
「そ、そうは言うけどな、魔法よりこっちの方が早いんだよ」
「本番は常に高速で移動してるのよ。どうやって槍で敵を倒すつもりよ」
「うう……」
追い詰められ、再びうめき声を漏らすヴァイオレット。
基本的に一切の魔法系スキルを育てていない彼は、スキルを習得した直後から使える低級魔法以外の全ての魔法が使えない。
明日の大会までに、一つくらいはレベルを上げることもできるかもしれないが、そんな付け焼刃でトッププレイヤーたちに対応できる訳もない。
「やっぱり、習得する魔法は
「そう思うならそうしてくれよ。俺は良く分かんないんだからさ」
「それじゃ、そうしよっか。付け焼刃の攻撃よりも、些細でもいいから自分を強化した方がいいだろうしね」
テトがそう言うと、ヴァイオレットは素早くメニューウィンドウのスキル欄を開き、自分のスキル構成から攻撃系の魔法をすべて外し、回復と支援の魔法を設定した。余ったスロットに、属性防御強化と敏捷力強化、物理ダメージ増加のステータス補助アビリティを装備する。
その様子を見ていたテトが、メニューウィンドウのアイテムストレージからアイテムをオブジェクト化させた。
いぶかしむ様子で、ヴァイオレットが聞く。
「……それは?」
「スキル熟練度を上げるアイテム。超レアで、ダンジョンボスから盗む以外に入手方法がないレア物よ。3つあるの」
「えぇ……何その便利アイテム……」
何そのふしぎな○メ的アイテム、とヴァイオレットが突っ込むと、テトは首を振った。
「そう便利でもないの。熟練度の低いうちに使えば一気にレベルが上がるけど、レベル8まで来ちゃうともうほとんど変化がないのよ。楽して上がるのは楽な最初の内だけなの」
「そ、そうなのか」
実はそう壊れたアイテムでもなかったそれを、ヴァイオレットはまじまじと見つめた。
そして顔を上げ、疑問を口にする。
「で、それをどうするんだ?」
「勿論、あなたが使うのよ」
「へぇー……え? い、いいのか?」
「いいのよ。どうせ私は使わないし、売るほどお金にも困ってないもの。それに、あなたが使った方が効率がいいわ」
そう言って3つの瓶を差し出してくるテト。
少しぎこちない手つきで、それを受け取るヴァイオレット。
これ3つで、支援系の魔法がレベル4まで上がるというのなら、遠慮なく使わせてもらうべきだろう。
「じゃ、じゃあ、頂きます」
ヴァイオレットは受け取った瓶を使用し、得たスキルポイントを全て支援魔法に割り振った。
新たなメッセージタブが開かれ、《加速魔法、減速魔法、攻撃力強化魔法、物理耐性魔法、魔法耐性魔法を習得しました》と表示される。
ヴァイオレットはウィンドウを閉じ、無事にポイントを割り振れたことをテトに伝えた。
「ありがとな、テト。これで少しは時間短縮になりそうだよ」
「いいわよ。それより、攻撃の方もちゃんと考えてね」
「うああ……あい」
三度テトに指摘され、またまたうめき声を漏らしてしまうヴァイオレット。
その様子を見ていたテトは、ふと思った。
この子、アバターかなりロリィけど、この画はかなり可愛いかも……、と。
小柄なテトと比べても更に小柄、少女と言うよりも、最早幼女に近い体型、長い濃紺の綺麗な髪。まさに美幼女のヴァイオレットが落ち込んでいる姿は、テトの心を掻き立てた。
「まあ、何か方法を考えるしか……ちょい、テトさん?」
「うん、なにかなヴァイオく……ヴァイオちゃん?」
「言いなおした!? 間違いなく『君』と言いかけたにもかかわらず、『ちゃん』と言いなおした!?」
両肩に置かれたテトの手と、そして何よりもテトの二つの目の色が明らかに身の危険を語っている。
これはやられる、と。本能的に、ヴァイオレットは自身の貞操の危機を感じ取った。
「逃げる!!」
「逃がさない!!」
「ぐあああ!!」
逃げ出そうとするも、がっちりと肩を固定されて動けなかった。とんでもない筋力パラメータである。
やがてテトの右手がヴァイオの胸当ての中に伸びていき、テトの表情も邪悪になっていく。
「ちょ、おま、何処触って……ひゃうん!」
「うーん、まな板だけど、ロリィから許容範囲内……じゅるり」
「そのじゅるりって音がとんでもなく身の危険を感じさせるんですけど!?」
「大丈夫、すぐに気持ち良くなれるよ。いっぱいいっぱい、愛でてあげるからね……」
「いや――――――――!?」
何のバクか、テトの前にハラスメント警告が表示されたのは、それから30分後の事だった。
当然その間、幼女もといヴァイオレットはテトの生贄にされていた。
☆
「ねぇ、ヴァイオちゃ…………君ってば、本当に悪気はなかったんだよ?」
「そうは言っても……あれは本当にやめてくれ……」
何故か遅れて出現したハラスメント警告によって助けられたヴァイオレットは、隣を歩くテトから距離をとりつつ言った。
この世界での戦闘に不慣れだったヴァイオレットの特訓を終えた二人は、首都であるホリダールへと戻ってきた。
現実での時刻はもうすぐ夜の7時になるところで、ヴァイオレットの親が夕飯に遅れると煩いということで、即時ログアウトができる宿屋まで彼を送るところだった。
即時ログアウトするという意味でなら、テトのプレイヤーホームでも可能だったが、見た目美幼女でもヴァイオレットは男なので、考えるところがないと言えば嘘になる。実際には、テトの方からその提案をしたのだが、ヴァイオレットが《シリカ》と《ユウナ》という二つの単語を呟きながら震えだしたので自然に却下となった。
「……美幼女、かぁ」
「おい、今すっげー不穏な単語が聞こえたんだけど?」
「気のせいよ」
テトがそうはぐらかすと、ヴァイオレットはそれ以上追及してこなかった。ただ少しだけ、不機嫌そうな顔をしているだけだ。
そんな顔を見て、明日はこの生意気な美幼女に何を着せてやろうかと考える一方で、テトは不思議とも思っていた。
今まで、たとえどんなトッププレイヤーと組んでも、さっきのヴァイオレットとの共闘のような高揚感を味わうことは出来なかった。ただ、HPやMPの数値の増減に起因するものが増えただけで、『一緒に戦っている』という気持ちになったことはなかった。
今日だって、マスターに断られたら、SoCのタッグコースは諦めて、ソロコースに出場するつもりでいたのだ。テトが欲しいのはあくまで名誉で、優勝賞品はその付属品でしかないのだから。
なのに、今日初めてあった、しかも見た目は女とは言え、本質は男の、しかもコンバートしてきたばかりの超初心者にタッグを申し込んでしまうなど、《テト》としても、《五条美海》としてもあり得ないことだった。
けれど、こんな感情が今まで一度もなかったと言えば、それは嘘になる。たった一度だけ、つい最近、こんな風に心を乱されたことがあった。
遠山達に脅されていた時に、通りがかったあの少年。変なところで格好つけるくせに、肝心なところは締まらない少年。
そう。どこか似ているのだ。ヴァイオレットとあの少年が……。
「……おい、テト?」
「……えあっ!? え、えっと、ごめん、何?」
深く考えすぎていて、ヴァイオレットに声をかけられていることに気が付かなかったテト。
慌てて取り繕い、聞き返す。
「ああ、宿屋見えたからもういいよって。送ってくれてありがとな」
「そっか。それじゃあ明日の13時から大会開始だから、12時に迎えに行くね」
「おう。それじゃな」
短くそう言うと、ヴァイオレットはそそくさと行ってしまう。
体の大きさも、体格も、見た目の性別すらも違うのに、その背中はやはりあの少年の走り去る姿と似ているのだ。見た目というよりは、雰囲気のようなものが…。
振り返ってホームに帰るわけでもないテトは、少し迷った後、去っていく少年の背中に向けて叫んだ。
「ヴァイオレット――――!! 明日、頑張ろうね――――!!」
それは、クールで孤高な
重すぎる傷を負った美海が、ずっとしたかったことだった。
ヴァイオレットも振り返り、小さくて細い右腕を上げて叫び返した。
「ったり前だろ、頑張ろうぜ!」
繊細で美しいソプラノの声がホリダールに響き、少しだけ人目を惹いた。
視線に気づいたヴァイオレットは頭をかくと、また宿屋に向かって歩き出した。
そんな締まらなさも、美海を助けた少年に似ていた。
「……ヴァイオ君、キミの事、私は嫌いじゃないからね」
誰にも聞こえないような声でそう呟くと、テトは振り返って歩きだした。
ホリダールを抜けると、エア・スライダーを出して飛び乗り、大空へと飛び立つ。
空には、小さな雲ひとつなかった。
まるで、また明日ヴァイオレットと一緒に戦えることを喜んでいる、テトの心のように晴れ晴れとした空だった。
男の娘というよりもただのロリになった藍人……ロリコンがロリになるとは、ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこのことだ!!(自重しろ)