ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
今回はSSOにログインした次の日の藍人のお話。
「はーっ、毎日毎日古文で躓く俺って一体……」
食堂のおばちゃん特性裏メニュー《ギガ盛りチャーシューメン》通称《ギガ盛り》を抱え、食堂の端、中庭が見える4人席に座る。
ここが俺達の定位置になっていることは案外知られている事実で、和人さんと姉さんが加わるときは、他から椅子と机を二人分調達してくることが多い。
既にホットドッグを頬張り始めているリズベットこと篠崎里香が、ホットドッグを飲みこんで喋り始める。
「古文で躓いてるだけならまだいいわよ、アンタは1年なんだし。アタシなんて理系科目全部わからんわ」
「あー、文系とっても少しは数学とかやるのか……」
サインって何よコサインって何よオオサインは何でないのよーと頭を抱えている里香を一瞥した後、割り箸を割ってギガ盛りをすすり始める。
お悩みタイムが終了した里香が、直径38cmのギガどんぶりを見て嘆息した。
「……なんだよ」
「いつも思うけど、よくそんなの胃に入るわね……」
「健全な男子高校生は腹が減るんだ」
答えると、再び麺をすする。量があるので、さっさと食べないと伸びてしまうのだ。
あー、古文の後のチャーシューってなんでこんな美味いんだ……!!
「そう言えば、珪子と優奈ちゃんは?」
「珪子は先生の手伝い、優奈は先に図書館に本返すから先に行っててくれってメール来た」
「そ」
ホットドッグの最後の一欠片を口に放り込み、咀嚼する里香。
そこで、ニンニク不使用餃子と白いご飯を持った珪子と、メロンパンとコーヒー牛乳を持った優奈がやってきた。
「遅れてごめんなさい……って、藍人さん、またギガ盛りですか?」
「悪いかよ。てか、またって言うほどじゃないだろ。裏メニュー最安値とはいえ、4桁行くんだぞ。週一が限界だよ」
「一回でもそれを食べきれるだけで凄いと思うけど……」
そう言って、俺の隣に優奈が、里香の隣に珪子が座る。
机の上に乗っているものの違和感を無視して、優奈が小さい口でメロンパンを頬張った。ああもう、可愛いなぁ。
「……里香さん、藍人が犯罪に走りそうで怖いんですけど」
「コイツは存在そのものが違法だから大丈夫よ」
「何が大丈夫なのか聞かせて貰おうか」
失礼な事を言ってくる珪子と里香を黙らせる。
まったく、こいつらも少しは優奈のしとやかさというかそう言うスキルを見習えばいいのに。
「……って、そういや二人とも、今日は裏じゃないんだな」
「それは、遅れちゃいましたから……」
「一日3個限定、裏メニュー《極上クリームパン》は授業終了と同時に教室飛び出さないと手に入らないの」
いつもは裏メニュー獲得の常連である二人が、今日は普通のメニューだったので聞いてみたらそう言うわけだった。まあ、納得かな。
この学食にある裏メニューの内、さっき珪子が言った《極上クリームパン》と、《トロピカルソフトクリーム》は一日3食限定なので、はっきり言って入手が超難しい。
そしてこの学校の特色――――全員が元SAOプレイヤーである、つまり一度はMMOを経験しているということを考慮すると、実は裏メニューと言いつつ認知度はかなり高いのだ。
したがって、少しでも気を抜けば人気裏メニューの獲得は難しい。
逆に、ギガ盛りのような、そうそう数が出ない奴は安心して頼むことができるというわけだ。あー、やっぱスープ美味ぇ……。
「まあ、偶には他の人に譲ってあげるのもいいですよ。私たちはいつでも手に入れられますから」
「ていうか、なんであんたたちはそこまで裏メニューに必死なの……?」
最年長且つこの場で唯一、指定裏メニューを持たない里香が言った。
なぜ必死かって? そんなもの、決まっているじゃないか……
「「「裏ルートまで攻略してこそ真のMMOプレイヤーだから」」」
「あー、ホント仲いいわね」
うん、よくわかってるね二人とも。俺たち仲良し。
などとふざけている間に、俺の直径38cmギガどんぶりは空っぽになっていた。御馳走さんです。
「うわ、速い……藍人、食べる速度まで和人さんと争わなくていいんだよ?」
「違うよ、普通だって。なあ優奈?」
「はむはむ……え、何がですか?」
「超持ち帰りてぇ――――!!」
何この小動物いつも思うけど超テイクアウトしたいんだよ!!
異論は認めないよ!? だって俺の目の前の二人だって脳殺されてるからさ!!
「と、まあ事実をつついて遊ぶのはこれくらいにしよっか」
「け、珪子さん、事実だなんて、てれますよ……」
「藍人、優奈ちゃんアタシが嫁にもらっていい?」
「黙れレズベット」
バカ里香の戯言を一蹴する。
優奈は私の子だ、誰にもやらん!!
「あのー、二人とも優奈ちゃん争奪戦はそのくらいにして……」
「「優奈ちゃんじゃない!!ゆうなたんだ!!」」
「流石に気持ち悪い!!」
流石に気持ち悪いは心に来たので、里香と二人でふざけるのもここで終わりにする。
というか、優奈も既にメロンパンを食べ終えてしまったので、珪子一人がまだ昼食を取っている。もうすぐ終わりそうだけど。
「ふー、御馳走さまでした」
珪子が一息ついてから、手を合わせてお辞儀をした。
俺達の中でこういうことに関する行儀よさでは、姉さんや優奈以上の珪子だ。
一緒に持ってきていた水を全て飲み干すと、空になったグラスを置いて珪子は俺の方を向いた。
……? 何かあるのか?
「じゃあ藍人、ALOのヴァイオレットがいなくなってる理由を教えて?」
「え? ごめん、聞こえなかった。もっかいゆって?」
「藍人、ALOのヴァイオレットがいなくなってる理由を教えて?」
「え? ごめん、聞こえなかった。もっかいゆって?」
「優奈ちゃん、首輪と鞭」
「すんませんでしたぁぁ――――!!」
テーブルに額をつけて謝る。ここではすぐに土下座が出来ないので、今はこれが限界だ。
プライド? 何それ食えんの? 俺にあるのは生存本能だけだぜ?
「………まったく」
「? 珪子、いつもみたいにお仕置きしないんだ?」
「あれは、まあ、藍人が何も考えずにバカやった時だけですよ」
あれ、俺ってそんなにバカに見えてたのか?
「私たちは、藍人さんが何か意味があって、私達に内緒でアバターをコンバートさせたって、信じてますから」
「優奈……珪子……」
「あたし達は、詳しいことも聞かないし、何も言いはしないけど、絶対危ないことしないって、約束して」
そういう珪子の表情は、確かにいつになく真面目だった。
勿論、もしも《死銃》の力が本物だったら、二人をまきこめばそれだけ二人の命が危険にさらされてしまうことを考慮して、あえて何も言っていなかったのだ。
二人のうちのどちらか、あるいは両方がいなくなってしまうなんて絶対に嫌だし、それは里香でも、和人さんでも姉さんでもエギルでもクラインでも一緒だ。菊岡は……まあ、いいけど。
だから、そうならないように少しでも危険がないようにしていたのだ。
不意に優奈が、俺の左手をそっと握ってきた。
「優奈……?」
「藍人さん。藍人さんが、私たちのために何も言わないでいるってことは分かってます。でも、藍人さんが私たちの事想ってくれるのと同じくらい、私たちも藍人さんの事を想ってるんです。だから、危ないことだけは、絶対にしないでくださいね……?」
「……ああ、分かった」
優奈の眼を見て、そう言う。
次いで珪子の方を見て、それから里香を見た。
「分かった。俺は、いなくならない。今はまだ何も言えないけど、全部終わったらちゃんと話すよ。約束する」
本当は、人殺しと戦うのだから、かならずしも無傷で勝てるとは限らない。
肉体は無事でも、精神を攻撃されることだってある。
けれど、それでも、俺は必ず帰ってこなくちゃならない。
「……よっし、それじゃ、片づけましょうか!」
突然、優奈がそう言った。
それに合わせて珪子と里香も片づけを始め、俺だけが状況において行かれた。
「……? ……?」
「藍人さん、もうすぐ授業ですよ?」
優奈にそう言われ時計をみる。
確かに、あと数分で授業が始まる。
「……そうだな。行くか」
俺も巨大などんぶりを持ち上げ、3人の後に続いた。
確かに死んでしまう戦いかもしれない。
けど、優奈がいて、珪子がいて、里香がいて、そして俺がいる。
そんなこのちょっとした風景を守るためなら、俺は命をかけて戦ってやると、そう誓った。
だってさ、大切なものを守れないんじゃ、話にならないだろ……?
ロリなヴァイオレットが想像できない。
うん、俺もできない。
イラストとか描いてアップしたいんだけど、ちょうどいいサイトってないよなー……
ハーメルンも挿絵あったらよかったのに……