ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
更新遅れてごめんなさい…
木曜辺り(つまり11月の1日目)から風邪気味で……昨日まで寝込んでました。
そのため、完成していたイラストもあげれずに……まあ、さっきあげたんスけどね。
というわけで、ヴァイオレット(ロリver)のイラスト完成、ピクシヴにアップしました!
男の方は描く気が起きたら……
以下URL
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=31292018
3分の1。
というのは、五条美海がアイドルとしての活動のために学校を欠席している日数である。
出席日数は超ギリギリ。それでもテスト点は学年トップクラスをとれるように努力してはいるので、留年はないだろうとは思っているが、人生何があるかは分からない。
現に、あのロリアバターを操る自称男と、ありえないほどに仲を深めてしまっているのだから。
今日は、朝早くから美海の住むアパートの前に車が止まっていた。10年ほど前の、高級車らしい。
さほど派手でない私服でアパートの階段を下りると、美海は急いで助手席に飛び乗った。
スタジオ入りの時間まではそこそこ余裕があるが、かといってあまりのろのろしすぎて、誰かに見られたい光景でもないのだ。
「おはよう、美海」
「おはようございます、
運転席に座る男の名は
アイドルである《五条美海》のマネージャーであり、保護者でもある。
両親が他界している美海にとって、《頼れる大人》と聞かれて真っ先に出てくるのが倉出であり、唯一出てくるのが倉出なのだ。
「あの、倉出さん、いつもありがとうございます。交通費とか浮いて、助かってるので」
「いいよ、別に。それより最近どう?」
「はいっ、今日は、SoCに出るんですよ!」
SoC、《スピード・オブ・チャンピオンズ》。
SSOで開催されるその大会の事を倉出が知っているのは、倉出自身がSSOのユーザーであり、そして美海にSSOを勧めた張本人でもあるからだ。
かつて、倉出は《ソードアート・オンライン》という、ゲームオーバーが現実での死を意味するデスゲームに、二年間囚われていた。
SAOの正式サービスが開始され、倉出がゲーム世界に閉じ込められた時、当然彼の首は飛んで、美海には別のマネージャーが付くはずだった。
それを、美海が『目覚めるまでは他のマネージャーでいいから、首にしないでほしい』と事務所の社長に直談判したのだ。
こうして倉出が帰還後、すぐに仕事ができるのは、美海のお陰と言っていい。
「……あれ? でも、今日ってタッグコースじゃ……」
「はい。それで、他の人とタッグを組んでます」
「そうか。私が協力してあげれればいいんだけど……」
トッププレイヤーである美海と違って、倉出の操るアバターのステータスパラメータはかなり低い。
社会人であるが故に、中々まとまった時間がとれず、SSOの接続料すら稼げていないのが彼の現状だった。
これが、《テト》のタッグの相手として倉出が浮かばない理由である。
「い、いえ、そんな! 倉出さんには凄いお世話になってるし、また今度一緒に狩りしましょうよ!」
「そうだね。そうさせてもらおう」
そう言ってほほ笑むと、倉出は前を向いてハンドルをきる。
その様子を助手席から見ていた美海は、倉出が横目でこっちを見てきた直後に視線を逸らした。
こういうのを恋って言うのかな、と、思わないこともない。
アイドルとしてデビューしたころからずっと身の回りの世話をしてくれて、自分の事をアイドルの《五条美海》ではなく、人間の《五条美海》として見てくれる数少ない人物。
ついでに顔も悪くはないし、少し老け顔の気はあるが、年齢も20代なので美海の中ではなくはない。
依存しすぎるのはよくないと分かってはいても、頼る場所のない美海にとって、倉出に依存気味になってしまうのは殆ど必然なのだ。
「そういえば、タッグを組んでるのは誰なんだい? 《カエサル》あたり?」
「それはないですよ。私あの人嫌いですし。アイテム分配のダイスロールでイカサマしてきたんですよ?」
「そういや、そんなこともあったね」
《カエサル》というのは、SSOでも最強と噂される人物の一人で、大規模ギルド《チャンピオンスターズ》のギルドマスターだ。
チャンピオン、という通り、メンバーのSoCでの成績も目を見張るものがあり、予選、本選を経るSoCで、かなり多くのプレイヤーが本選に出場しているのだ。昨日のソロコースでは、カエサルは出場していなかったらしいが、それでも優勝はチャンピオンスターズのメンバーが勝ち取っていた。
「で、結局、タッグを組んでるのは誰なんだい?」
「多分、倉出さんは知らない人だと思います。最近他のゲームからコンバートしてきた人です」
美海の言葉に、倉出が興味津々に反応する。
「へぇ、コンバートしてきたばかりで美海がタッグを組む相手か。前のタイトルじゃ、きっとトッププレイヤーだったんだろうね」
「はい。筋力値とか敏捷値は、カエサルよりもずっと高いですよ」
更に言うならば、彼の反応速度も常人より数段高い。
一般的にSSOでの戦闘が空中戦になりやすいのは、その方が回避がしやすいからだ。
空中での高速移動に慣れてしまうと気づかないのだが、実はSSOの魔法は低級であってもかなり速い。何の補正もない初期パラメータでは、地上での回避はまず不可能。熟練したプレイヤーでも、地上での回避より武器や防具で防御するほうが安全と考える。
それを、あの幼女少年はたやすく避けてしまうのだ。敏捷値自体はさっき美海が言ったとおり高いので、不可能な話ではないが、SSOに来たばかりの初心者の動きではない。本当に、前のタイトルでよほどハードなプレイングをしていなければ、ああはならないだろう。
レベル感で言えば、おそらくは《ガンゲイル・オンライン》で前線で散弾銃を使うプレイヤーの動体視力を軽く凌駕している、と言ったところか。
「(それになんて言うか……あの人は、普通のゲーマーじゃない気がする。あの世界で、ずっと生きてきたっていうか、モンスターとの戦闘を、単純な作業と思ってない感じ……)」
特に据え置き型のハードにある、一人用のRPGではよくある話。
モンスターとの戦闘が、金やアイテムを稼ぐためだけの手段となり、効率ばかりを求めるあまり、臨場感に欠ける《作業》になってしまう。
それはMMOでも同様で、VRMMOはそれでもまだマシな方だが、あまりにも雑魚すぎる敵との戦闘は、美海も時々うんざりすることがある。
だが、あの少年には、それがない。
パラメータで言えば、絶対負けるはずがない敵にも全力で挑む。本当に、負けたら死ぬ、とでも言うかのように。
普通ならただのバカと一蹴するところだが、美海にはそう思えない理由があった。
自分の横で運転をしている男性。
この男性は2年間、まさにそういう世界で戦っていたではないか。
もしかしたら、あるいは彼も……
そこまで考えて、美海は頭の中の思考を全てリセットした。
そのゲーム、《ソードアート・オンライン》のクリア者は、わずか6000人。正式サービス開始から、実に40%の人が死んでしまったのだ。
生き残った者の中には、VRMMOというジャンルから離れて行った人も少なくないと聞く。そう考えると、元SAOプレイヤーで今もVRMMOユーザーなのは5000人を下回るだろう。
全国で5000人。知り合いに該当者が二人もいるなど、確率的にはかなり低い。
やっぱりあれはただのゲームバカなんだろうな、と、美海はそう決めた。というか、決めつけた。
「そんな人なら、一度戦ってみたいな。ネームはなんて言うんだい?」
「たしか、ヴァイオレットだったはずです。コンバート前は《アルヴヘイム・オンライン》にいたって……倉出さん?」
ヴァイオレット、という、その単語が出た瞬間、倉出の表情が一気に険しくなった。
それは、美海が知る限り今まで一度も見たことのない、憤怒の表情だった。
だが、車が目的地のスタジオに到着すると同時に、倉出の表情はいつもの温和なものに戻った。
「ど、どうかしたんですか、倉出さん?」
「いや、なんでもないよ。思ったより時間かかったね。車とめてくるから、先に行っててくれ」
「は、はい」
答えると、美海は素早く車から降りて、建物の入口へ向かって行く。
ここは専用の駐車場があるので、倉出が駐車するのはそこだ。
建物横に作られた立体駐車場に、スムーズに車をとめる。
だが、エンジンを停止させた後も、倉出は一向に車を降りようとはしなかった。代わりに、懐から取り出した携帯端末から、《JB》のアドレスを選択し、短い文章のメールを打った。
そして、
「藍色、またテメェか……」
低い声で、そう呟いた。
倉出さんが誰か分かっちゃった人は静かに胸の中に秘めておいてくださいね。