ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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ポンポコたぬきさん、エロゲマスター・シンさん、御剣澄和さん感想ありがとうございました!


「祝、60話!」

「数字が半端……」


槍使い(ランサー)の幼女――――ヴァイオレット

同じく槍使い(ランサー)の少女――――テト


第60話 ダンシング

 「離島、ねぇ……」

 

 「一応、離島でしょ」

 

 忌々しげに呟くヴァイオレットに、テトがそう返した。

 二人がいるのは、東京ドームより少し狭いくらいの無人島。島の面積のほとんど――――およそ9割が砂漠になっていて、身を隠せるものは何もない。視界は良すぎるくらいだ。

 

 「ここで予選を行うってわけか」

 

 「そう。相手が決まるまでは待機だね。といっても、そんなに時間はかからないだろうけど」

 

 テトが言うと、二人の目の前に《対戦相手が決定しました》というウィンドウが現れる。

 《スピーディング・オブ・チャンピオンズ》予選大会。

 エントリーを済ませた二人は、13時になると同時に、この何もない島にとばされてきたのだ。

 二人の位置から、約50メートルほど離れたところに、二つの人影が現れる。

 

 「おっ、アレ見たいだな」

 

 「そうだね……うーん、私の知らない人たちだなぁ。レベル差はそんなにないはずだから、向こうも相当ハイランカーのはずだけど」

 

 タグに表示された対戦相手のキャラクターネームを見て、テトが言う。

 表示された《クレバス》と《VOLT》の二つのネームには、当然ながらヴァイオレットも見覚えがない。

 名前から想像するに、黄色と黒を基調としたローブを身に付けたメイジがVOLT、青い鎧に身を包み、巨大な斧を持っている巨漢がクレバスだろうか。

 ヴァイオレットが、オブジェクトさせた槍を器用に回して構えながら言う。

 

 「テトが知ってるかどうかなんてどうだっていいさ。戦えばどんくらい強いのか解るだろ」

 

 「そりゃそうだけど……あ、ちょっと!?」

 

 SoCの予選大会は、両方のプレイヤーがフィールドに降り立った時点で戦闘が開始される。

 ヴァイオレットもそのことは分かっている。だから、テトの制止も振り切っていきなり特攻をかましたのだ。

 先に落とすのは、明らかに近接戦闘型じゃないメイジの方。

 

 「そ……ら!!」

 

 飛び上がり、槍を振り下ろす。槍というよりも棒の使い方だが、別に先端で突くだけが槍の戦い方じゃない。

 手ごたえはあった。攻撃速度も申し分ない。ALOは勿論、SAOでだって、この速度の攻撃を無傷で防ぎきるプレイヤーはそういなかっただろう。

 けれどヴァイオレットは、《スペルストリーム・オンライン》が他のVRMMOとは一線を画すものだということに、気付いていない。

 

 「………!?」

 

 速度と威力は一級品だが、攻撃はただの打撃。ゆえに、防ごうと思えば防げないわけじゃない。

 けれど……

 

 「(止められた……!? いや、その前にコイツ、こんな光る剣(・・・)持ってたか……!?)」

 

 攻撃を止められたことと、どこからともかく現れた正体不明の武器に戦慄する。

 もしもヴァイオレットが、SSOの古参ユーザーであれば、今のがレベル8の物理魔法《武器生成》であることに気が付けたかもしれない。事実、テトはメイジが、瞬時に武器を生み出すスペルを呟いたのをしっかりと見ていた。

 メイジが、剣を押し返してヴァイオレットの体勢を崩す。その瞬間、巨漢がヴァイオレットめがけて斧を全力で振ってくる。

 それを間一髪で回避すると、すぐさま体勢を立て直すためにバックステップで距離を取る。体勢を崩されたり、混乱した時にヴァイオレットが条件反射で撮る行動だ。

 だが、今回はそれが完全に裏目に出た。

 

 「《上級氷結魔法(ブリザード)》!」

 

 「《上級電撃魔法(ライトニング)》!」

 

 ヴァイオレットが距離をとって体勢を立て直そうとしたのをチャンスと見た敵が、同時に魔法攻撃を行ってくる。見た目通り、氷結系と電撃系の魔法だ。

 

 「………ッ!!」

 

 あまりにスムーズな近接と遠隔の二種の攻撃法の切り替えに、ヴァイオレットは動揺した(・・・・)

 最初の2発を避けるが、3発目と4発目がそれぞれ左足と胸部に直撃する。

 軽いノックバックが発生し、ヴァイオレットはバランスを崩してその場に転がった。

 

 「ヴァイオレット君! 《上級風撃魔法(トルネイド)》!」

 

 開始早々にダウンしてしまったヴァイオレットをかばいながら、魔法で応戦するテト。

 隠れるものが一切ない、何処にいても見えてしまうこのフィールドで魔法の打ち合いになるのは、テトが一番避けたかった状況なのだ。

 敵はどう考えてもハイランカーで、たとえファイター系だったとしてもある程度魔法系のスキルを上げているだろう。相手に一人でもメイジ型がいれば、魔法が全く使えないヴァイオレットがいる分、テト達の方が不利になる。

 だからこそ、出方を窺って戦うべきなのだが、ヴァイオレットは無策の特攻をかましてしまった。

 

 「………ッッ!!」

 

 ヴァイオレットが、足元に槍を叩きつけて砂煙を立てる。

 普段ならばここで不意打ちをするところだが、敵が正体不明の魔法で攻撃してきている以上、深追いはしない。

 というよりは、出来ない、だろうか。

 

 「(ALOの魔法とはワケが違う……。スピードも軌道も、モンスターとだって比べ物にならない。これが……)」

 

 これが、MMOで金を稼ぐレベルの戦いなのか、と。

 ヴァイオレットは息を飲んだ。

 ALOでの魔法はスペルワードの詠唱に時間がかかり、その間に間合いを詰めることで攻撃を受けることなく魔法を封じる事が出来た。

 なんの面白みもなく、ただ魔法を打ちあうだけのALOでなら、かつてデスゲームで鍛え上げられたヴァイオレットの反応速度に追いつけるものはほとんどいない。

 だが、SSOは違う。

 

 「(ちょっと……いや、かなり甘く見てたな。予選くらい余裕かと思ったけど、詠唱もALOよりかなり速いし、プレイヤーの基礎的なポテンシャルの差がない……。これは、ちょっとまずいかな)」

 

 飛んでくる上級の魔法を避けながらの思考。

 目が慣れてきたというべきか、プレイヤーの操る高度な魔法に、ヴァイオレットの方が対応できるようになっているのだ。

 放たれた電撃魔法を宙返りで回避すると、ヴァイオレットは後方で援護に回っていたテトのすぐ傍に降り立ち、呟いた。

 

 「テト、俺はどうすればいい?」

 

 今度は、テトが驚く番だった。

 ただの特攻バカかと思っていたが――――というか、実際そうなのだが――――単独での撃破に無理があると分かった瞬間、熟練者であるテトに指示を仰ぐだけの判断力はあるようだった。

 ここで、テトは自身が感じた直感が、間違っていなかったことを実感する。

 一癖も二癖もある奴だけど、この人は強い――――と。

 

 「……そうだね」

 

 一息おく。

 こんなところで負けていられるわけがない。そのために、ヴァイオレットはこうして自分に指示を仰いでいるのだ。

 技術があることと経験があることは全くの別問題。ヴァイオレットが全力を発揮するには、自分の指示で的確であることが大前提。

 不的確な指示は、出せない。

 

 「どっちも、遠近両方に分がありそうだからね……。あっちのでかいの、30秒黙らせてくれる?」

 

 「30秒でいいんだな?」

 

 「うん。小さい方は、30秒あれば倒せると思う」

 

 テトがそう締めくくると、ヴァイオレットは幼い表情に笑みを浮かべた。

 やることがはっきりした。敵もはっきりした。敵の使う魔法に対して目も慣れてきたし、何より――――

 

 「一対一(サシ)なら、負ける気がしねえな」

 

 強い敵との決闘(デュエル)で、ヴァイオレットが燃え上がらないわけがないのだから。

 

 「楽しそうだね。それじゃ……でかいのは頼むよ!」

 

 そう言って、テトはさっきのヴァイオレットと同じように、砂煙を立てた。

 間合いを計り、魔法による攻撃だけを警戒していた敵の二人が、身構える。

 開始直後に奇襲を喰らったのだ。今度は二人で来るだろうから、返り討ちに出来るとは限らないのだ。

 砂煙の中から、氷属性の魔法が二発、二人に向けて放たれる。

 SSOの戦闘は高度だが、それでも魔法への対処は防御がセオリー。だからこそ、巨漢は斧で魔法をはじいたのだ。

 それが(・・・)悪手とも(・・・・)知らずに(・・・・)

 

 「魔法を目くらましにするってのは、昔シリカにやられた手法だからな。忘れるわけねぇだろ」

 

 聞こえたと同時に、巨漢――――《クレバス》の体は右へ20メートルほど飛んでいた。

 蹴られたという事実は分かったが、どこから、どうやって――――

 

 「なん……だぁ!?」

 

 「装備にアンタほど筋力値割いてねーんだよ。体が翅みたいに軽いわ」

 

 ついさっきまで自身が立っていたところに、幼い少女の姿をした可憐なアバターがいる。

 それは少し不敵に笑うと、ヒュッという音を立てて姿を消した。

 

 「ど、どこに……がぁっ……!」

 

 いった、と言い切る前に、声が途切れる。

 突然目の前に現れた少女――――否、幼女が、顎に蹴りをかましてきたのだ。

 姿を見失ったことと言い、20メートルもの距離を瞬時に詰めたことと言い、速すぎる。

 

 「(速い、速すぎる! ボルトの野郎の援護がなきゃ、コイツと近接でやりあうのは無理――――!)」

 

 そこまで考えが及んだのはいいが、体が思考に追いついてこない。

 少しでも距離を取って魔法で戦うべきなのに、体は蹴りのノックバックで動かないのだ。

 

 「ぐ、うおおおおおおおお!!」

 

 ノックバックが解除されると同時に、クレバスは跳んだ。ヴァイオレットの追撃が空を切る。

 空中に跳び上がったところで、ヴァイオレットが追撃してくれば、おそらくクレバスにはなすすべがないだろう。

 だから、空中からMPの許す限り魔法を打ちまくる。

 手っ取り早く間合いを稼ぐには、空が一番だから。

 

 「《上級氷結魔法(ブリザード)》! 《上級氷結魔法(ブリザード)》! 《上級氷結魔法(ブリザード)》ォォォ!」

 

 自身の撃てる最高の魔法を連続で放つ。

 直径2メートルほどの氷塊が、小柄な幼女の立つ砂漠に降り注いだ。

 

 「(これだけ撃てば、絶対一発は当たるはず! あとはノックバックで止まってる隙に斧で潰して終わりだ!)」

 

 アバターの容姿ではあるが、こども相手の大人気ないとも思う。

 けれど、これが勝負なのだ。

 氷塊は未だに振り続け、MPもまだ半分以上残っている。

 だが、勝ちは確実と笑った時、クレバスは確かに見た。

 

 「(………!? 避けてる……というよりも、踊っている……!?)」

 

 氷塊を優々と避ける幼女の足には、オレンジ色のライトエフェクト。

 物理魔法のレベル3、中級魔法《ダンシング》。

 回避ボーナスが付くだけの、防御が主流のSSOではほとんど見ない魔法だ。クレバスも、見たのは2回か3回か、そのくらいだ。

 けれどクレバスは、あんなに美しく踊るプレイヤーを、見たことがない。

 身にまとった藍色のパレオが煌びやかに舞うその様は、まるで――――

 

 「(――――踊り子?)」

 

 気が付けば、クレバスは魔法の詠唱をやめていた。

 MPが底をついたわけじゃない。ただただ、美しく舞う目の前の少女に気を取られてしまっていたのだ。

 攻撃が止んだのを確認したヴァイオレットは、《ダンシング》をやめて、槍を天に向けた。

 

 「悪いな。見世物じゃないんだ――――高くつくぜ!」

 

 瞬間、槍が黄金色に光り、先端が3つの光に覆われる。

 ダンシングと同じく物理属性、中級魔法――――

 

 「《トライデント》!!」

 

 叫び声が響き渡ると同時に、槍の先端の3つの光から、攻撃が放たれる。

 物理魔法の最大の特徴――――《どんな防具を装備しても、耐性を得ることができない》魔法。

 ヴァイオレットの攻撃をモロに受け、クレバスの体が爆散する。

 

 「――――30秒もいらなかったな。20秒で事足りたぜ」

 

 四方に飛び散るかつてクレバスだったポリゴンの欠片を眺めながら、ヴァイオレットはそう呟いた。

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