ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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000xiさん、静波さん感想ありがとうございました!


第62話 黙らない少女たち

 「ではこれより、《結城藍人は一体何をしているのでしょう大作戦》を始めたいと思います」

 

 「皆のアイドルのネーミングセンスが想像以上に酷い!」

 

 時間は藍人がヴァイオレットとして、テトともにSoCの予選一回戦に臨むおよそ30分前。

 優奈と珪子が、藍人の家の前でしゃがみこんでいた。

 

 「というか、優奈ちゃん。57話で藍人の事信じてるって言ってたよね?」

 

 「え? だって藍人さん、バカだし。放っておいたら何しでかすか解らないのに、放っておくわけないじゃないですか」

 

 「……これから、ちょっと藍人に優しくしよう」

 

 藍人の家に忍び込んで、何をしてるのか探ろう。

 珪子は優奈にそう言われて、ここまでやってきたのだ。

 あれ? 信じてるとか言ってたような……という疑問も抑えていたのだが、結局、腹黒少女の存在が露呈しただけだった。

 

 「で、藍人の家で何するの?」

 

 「まあ、一か八かなんですけど……もしも藍人さんがコンバートさせた先のMMOが、パッケージ型なら、その箱があると思うんです。それを探し出してやろうと」

 

 「で、それから?」

 

 「乗り込んでしばきます」

 

 「過激!」

 

 いつもはツッコミに徹している藍人あるいは里香がいないので、今回は珪子がツッコミ担当。

 何段か過程を飛ばした優奈の理論にとりあえず突っ込む。

 

 「……もしも本当に、私たちの事を思ってくれてるのなら、私は話してほしいです」

 

 「優奈ちゃん……」

 

 「安全圏に置き去りにされるんじゃなくて、一緒に戦おうって……藍人さんに、そう言ってほしかったです」

 

 優奈の言葉に、珪子は黙った。

 それは多分、自分にも共通していることだから。

 巻き込みたくないとか、危険にさらしたくないとか、それはきっと、守る側の人間の言い分で。

 守られる側の人間の言い分は、対等に、一緒に戦いたいんだってこと。

 けれどそれは、守られる側の言い分であって、守る側が何も尊重していないわけじゃない。

 それが分かっていたから、優奈は藍人に直接は何も言わなかったのだ。

 

 「(でも……だったら、あたし達が今からやろうとしてることって、藍人の想いを裏切るってことになるんじゃないの……?)」

 

 巻き込みたくないから。危険な目に合わせたくないから。

 そう思っての藍人の行動を、こちらから台無しにすること。それは、藍人の想いに対する裏切りだと、珪子にはそう思えてならなかった。

 けれど、何も言えない。

 優奈だって、分かってるはずだから。

 分かってても、一歩先に、一人で行かれるのは嫌だから。

 珪子は、かつてSAOでシリカだった頃、ずっと先にいるとある剣士に、そんな感情を抱いたことがあったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦、と言いながら、堂々と玄関からチャイムを鳴らして結城家に入った二人は、家政婦の女性に案内されて、藍人の部屋に通された。

 藍人と、二人の事をあまり良く思っていないらしい藍人の母親は外出していた。

 藍人が外出、というのは想定だったが――――部屋で、アミュスフィアをかぶって横たわっているとばかり思っていたのだ――――今から行うことがすぐばれない状況なら、大した影響はない。

 普段ならここで18歳からの保健体育参考書を探すところなのだが、今日はそんなことをしている暇はない。

 

 「さすが藍人。漫画もラノベも出版あいうえお順のタイトルあいうえお順だ……」

 

 「超が付くほど几帳面ですもんね……」

 

 普段から、コレクション気質のある藍人は、当然書籍なんかも綺麗に整頓して並べている。

 それゆえに、探し物がしやすいのだから二人としては大助かりだ。

 

 「えっと……SAOとALOは当然だからいいとして……」

 

 「増えてるアミュスフィアのゲームは……これですかね? タイトルは……」

 

 優奈がゲームの棚のアミュスフィア対応のパッケージを手に取る。

 流石廃人と言うべきか、既に名前すら聞かなくなったファミリーなんちゃらとか、なんとかサターンのゲームまでもが、綺麗に並んでいた。

 藍人曰く、「ドット絵って、燃えるよな」。

 正直そこまでゲームに思い入れがあるわけじゃない二人には、分からない世界だった。

 

 「タイトルは……《スペルストリーム・オンライン》……? 聞いたことないタイトルだけど……優奈ちゃん、知ってる?」

 

 パッケージに書かれた青色のタイトルに見覚えのない珪子は首をかしげながら、優奈に聞いた。

 ALOのシステムが合わなかったプレイヤーが流れる場所、という意味では、藍人が知っているのは自然だし、優奈が知らないのも自然だった。

 当然、一家に一台アミュスフィアなプレイヤーたちでさえ、《スペルストリーム・オンライン》――――SSOは、ALOにあぶれた奴の流れ先という認識しかしていない。

 《ゲームコイン現実換金システム》を導入しているという点では、《ガンゲイル・オンライン》の方が有名だ。

 

 「優奈ちゃん……?」

 

 「スペル……ストリーム……?」

 

 珪子に聞かれた優奈は、問いには答えず、ただ呟くだけだった。

 そして、何かに気づいたかと思うと、タッチ式の携帯端末を取り出してインターネットに接続する。

 

 「ゆ、優奈ちゃん……?」

 

 「《スペルストリーム・オンライン》……どこかで聞いたかなって、思ったんです。珪子さん、昨日の《MMOストリーム》、聞きました?」

 

 「え、Mスト? 昨日はちょっと数学に手間取ってたから……」

 

 「昨日のMストで、ザスカーって会社が運営する二つのMMOで行われてる、大きな大会の事を言ってたんです。そこで聞いた名前が、《ガンゲイル・オンライン》と《スペルストリーム・オンライン》」

 

 優奈は手早く説明しながら、凄い勢いで端末を操作していく。

 開いているページは、MMOストリームが運営しているMMOに関する掲示板だ。

 目的のページを開くと、画面を珪子に見せた。

 

 「見てください、この書き込み」

 

 「えっと……」

 

 内容は、《ガンゲイル・オンライン》に現れた、《死銃(デス・ガン)》と名乗るプレイヤーが、ゲーム内からプレイヤーを殺しているというものだった。

 珪子も、勿論優奈も、ただの悪戯だと思う。

 突然強制ログアウトしたプレイヤーが、その後一切ログインしてこない――――衰弱死することなど、今では珍しいことではないからだ。

 具体的な死亡時間が分からない一般人が、そのタイミングでアバターに何かをするなど不可能だと考えるのが自然だからだ。

 けれど、優奈が指差すコメントには、二人には看過できない内容が書かれていた。

 

 「ここ……『死銃は本当に人を殺す力を持っている! そして、奴は《スペルストリーム・オンライン》にも現れる』って……!」

 

 スペルストリーム・オンライン。

 その単語で、珪子の表情が驚愕に染まる。

 詳しく読むと、書き込んだのは、死銃の被害者――――と思われる――――《ゼクシード》のリアルの知人。

 一緒にGGOをプレイしていたのだが、ゼクシードが突然落ち(ログアウトし)たのと、ゼクシード――――茂村保の死亡推定時刻が一致しているということだった。

 勿論、それが全て真実であるという証拠はないし、単に騒ぎを大きくしたいだけの愉快犯と言う可能性もある。

 ただ、もしもその内容が本当だったとしたら……

 

 「藍人のコンバート先に、ゲーム内から人を殺す力を持った奴がいる……?」

 

 自分で口にして、珪子はその場に力なく座り込んだ。

 おそらくは今も、自宅ではないどこかでSSOにログインしているであろう藍人は、そんな奴がいるところでゲームをしている。

 そんなに高い可能性ではなくても、殺されてしまうかもしれない。

 そう考えるだけで、息がつまりそうだった。

 

 「……藍人さん、死銃の事知らなかったのかな」

 

 唐突に、優奈が呟いた。

 そして、珪子も考える。

 藍人なら、その手の情報は知っててもおかしくない――――いや、コンバートさせるのなら、知っていなくてはおかしいのだ。

 そして、死銃の事を知りながらもコンバートさせるというのも、またおかしな話だ。

 

 「知っててコンバートした……いや、死銃の調査が目的だった……?」

 

 「ど、どういうこと?」

 

 優奈は端末をホーム画面に戻すと、それを上着のポケットにしまってから、顎に手を当てて考えるポーズをとった。

 

 「……前に、藍人さんが時々、菊岡誠二郎――――クリスハイトにいろんな調査をお願いされてるって、言ってました」

 

 「クリスハイトって……あの、リアルが役人って言うあの人?」

 

 「はい。キリトさんもそうらしいんですけど……今回のも、クリスハイト関連ってことなのかなって……?」

 

 もしも藍人が、死銃の事を知っていてコンバートさせたというのなら、十分にあり得る話だった。

 菊岡誠二郎――――優奈は名前を知っているだけだが、確か明日菜は、リアルでも面識があったはずだ。

 

 「……明日菜さんに、聞いてみた方がいいかもしれません」

 

 「そうだね……。もしかしたら、明日菜さんも何か知ってるかもしれないし」

 

 珪子が答えると、優奈は立ち上がって、さっさと撤退の準備を始める。

 元からそんなに散らかしてはいなかったので、片づけはすぐに終わった。

 

 「そう言えば、もうほとんど手遅れなんだけど、後で藍人に怒られないかな……」

 

 「まあ、怒られるでしょうね。十中八九」

 

 「やっぱり……」

 

 がっくりと、珪子が肩を落とす。

 普段は怒る側なので殆ど気にしていないが、アレで藍人はマジギレするととんでもないのだ。

 特にSAOのフロアボス戦などでは、ボスに気に入らないところがあってキレると、手の着けようがないくらいに大暴れしだして、どっちがボスだかわからなくなるほどだった。

 

 「でも、そんなに大したことじゃ、ないと思います」

 

 優奈がそう、口を開いた。

 珪子は一瞬、「えっ」となる。

 

 「珪子さんは、私のお父さんが事故で死んだって話は……」

 

 「うん。前に、話してくれたよね」

 

 「はい。……あの時、私はまだ幼稚園だったし、泣くことしかできなかったんです。大好きだった人がいきなりいなくなって、泣き喚いて塞ぎこむことしかできなかった……。でも、今は違う。もしも今、藍人さんが死んでしまうかもしれない状況にいるのなら、例え嫌われてもいいから、何かしたいなって……そう思うんです」

 

 もう、何もできずに、大好きな人を失うのは嫌だから、と。

 優奈はそう締めくくった。

 その気持ちが、分からない珪子ではない。

 珪子だって、SAOの75層攻略で、藍人が――――ヴァイオレットがヒースクリフに殺された時、何も出来なかった自分を呪ったから。

 

 「珪子さん……もう少しだけ、私と一緒に戦ってくれますか?」

 

 その問いかけに、珪子はすぐに答えなかった。

 藍人が強いせいで、いつも一緒にいる自分たちが見劣りする。そんなことは分かっていた。

 結局、今回も、藍人が一人で全部背負いこんだいるのだということも。

 なら……答えなど、問われる前から決まっている。

 

 「……勿論だよ。あのバカに、目に物見せてやろうよ、優奈ちゃん」

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