ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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第66話 SoC本大会、開幕

 俺がラフィンコフィンについて考えている間に、勢いで始まったとしか思えないSoC本大会。

 圧倒的な加速力に、俺はほとんど喋ることすら出来ずにいた。

 

 「そこに見える赤い線あるでしょ! アレ超えたらたプレイヤーへの攻撃許可圏内だから襲撃に備えてね!」

 

 なんとか視線を前方に向けると、数キロほど先に赤いラインが見えた。

 いや、でもこの速度で数キロって――――!!

 

 「来るよ!」

 

 「えっ、ちょ、のわああ!?」

 

 ラインを越えたかと思ったら、上空から電撃属性の攻撃魔法が降り注いできた。

 しょ、初っ端から容赦がねえ!!

 

 「ちょっと! 君オフェンス兼ディフェンスなんだからしっかりしてよ!」

 

 「あいあい!」

 

 立ち上がり、降り注いでくる魔法弾を槍で弾き返す。

 最初の2発は問題なく弾いたが、次の奴はちょっとデカイ。

 

 「ちっ! 《シールドロッド》!!」

 

 短く詠唱し、槍を回転させて魔法を弾く。

 レベル5の物理魔法《シールドロッド》だ。発動条件は、棒または槍を装備していること。

 

 「そんなのまで使えるなんて……君、今レベルいくつ!?」

 

 「昨日一晩やりこんで、物理6の補助魔法4だよ!」

 

 短くレベルを告げる。テトが驚きのあまり絶叫しているが、聞いている余裕はなさそうだ。

 槍を構え、《トライデント》を詠唱、発動する。

 三つの光が放たれ、上空にいる的をめがけて――――

 

 「なっ……!?」

 

 めがけて、しかし届かなかった。

 的がトライデントの攻撃範囲よりも外にいるせいか……!

 俺のトライデントのリーチでは、攻撃が届かない……!

 

 「《烈風衝破斬》は!? レベル6ならあるんじゃない!?」

 

 「うっしそれ決定! 《烈風衝破斬》!!」

 

 テトに言われ、今度は槍を薙ぎ払う。

 先端部分の刃からオレンジ色の光が放たれ、波上になって飛んでいく。

 

 「っしゃあ! 狙いばっちり!」

 

 思わずガッツポーズを決める。

 これなら必中――――

 

 「て、避けられたぞ!?」

 

 「いや、そりゃ避けるよ!」

 

 と思ったが、上手く避けられてしまった。

 どうやら、向こうも相当マシンの操縦が上手いらしい。

 また電撃属性の魔法弾が降り注ぎ、俺が《シールドロッド》で防ぐ。

 

 「しゃらくせぇ……!!」

 

 こっちの攻撃はどうにも的中する予感がしない。

 そもそも、向こうが上なのだからこっちが位置的にアドバンテージを取られているのは仕方がない。

 格なる上は……

 

 「テト、ちょい防御頼む!」

 

 「え!? ちょ、ちょっと――――どひゃぁ!!」

 

 極めて一方的にそう言うと、俺はその場で跳び上がった。

 テトの悲鳴は、その時の反動によってマシンそのものが揺れたからだ。

 ともかく、俺は跳び上がった。

 

 「どおおおうりゃああああああ!!」

 

 敏捷値と筋力値はステータス補強効果のある魔法によって底上げされており、それによってこの手法は成立するのだ。

 そう。敵のマシンに乗り込んで、直接攻撃すること――――これが、俺のSoC本大会での《秘策》である。

 

 「「な……なんだあああああ!?」」

 

 さっきから俺達にちょっかいを出していた二人組がそう叫ぶのも無理はない。

 いきなり幼女が飛び移ってくれば、誰でも驚く。

 というか、このスピードで飛び移るのはちょっと怖い……。

 

 「まっ、ともかくリタイアしてくれや、お二人さん」

 

 そう笑って言うと、明らかに余裕ぶっていた二人は顔をひきつらせた。

 直後、《エア・カー》の上で、爆発が起こる。

 レベル6の物理魔法《メガ・ブレイク》だ。

 いくら属性耐性で軽減されないからと言って、攻撃そのものの威力が低くては一撃で決めることは出来ないので、今俺が使える最大威力の魔法で攻撃したのだ。

 爆発で吹き飛ばされた二人は、かろうじてわずかにHPが残っていたが、爆風で吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、そのダメージによって消滅した。

 よし、一応ワンキル。

 

 「………っと?」

 

 小さくガッツポーズをすると、ガクンと足元が下がった。

 操縦する主を失ったエア・カーが、重力に従って効果を始めたのだ。

 ……やばいな。

 

 「このまま速度を落とされると、テトと差を広げられるな……」

 

 余裕を持って呟くが、実際にはかなり切羽詰まった状況だった。

 回収してもらうには、テトの移動速度が速すぎる。おそらく俺が地面に着くころには、地平線の彼方まで消えてしまっているだろう。

 となれば、頑張ってもう一度飛び移るしかない。

 だが、さっきと違い、今度はテトに追いつかなければならないのだ。

 跳べば向こうが勝手に飛んで来てくれるわけではないのだ。

 

 「……シッ!」

 

 槍を構え、飛び出す。

 脚力にも自信があるので、これだけでも相当飛べる。後ろで爆発音が聞こえたが気にしない。

 だが、当然このままでは飛距離が足りない。

 瞬間的な速度ならテトよりも上だが、継続的な速度ではやはり追い付くには遅すぎるのだ。

 そこで、加速する必要が生まれるというわけだ。

 

 「《烈風衝破斬》!!」 

 

 身体を捻って後ろを向き、ついさっき放った衝撃波を放つ。

 衝撃波――――衝撃と言うくらいなのだから、当然反動の力も働くのだ。

 後方に放たれたそれは、瞬間的なブースタの役割を果たし、俺自身の加速につながる。

 

 「どおおりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」

 

 勿論、一発でどうにかなるような速度でもない。

 何発も、連続で、絶えることなく撃ち続け、より早く加速する。

 おそらく20発ほど――――憶えてないのでカンだ――――撃ったところで、テトのエア・カーに着地した。

 

 「……無茶しすぎ」

 

 「無茶でも何でも敵を倒したんだから、構わないだろ?」

 

 呆れるテトに、そう言い返す。

 周囲にはまだ2、3敵がいたが、俺が他人のマシンに飛び移って敵を薙ぎ払うという無茶を見せたら、飛び移られるのを警戒したのか皆どんどん離れて行った。

 どいつももう上級の魔法ですら届かないくらいに離れている。

 

 「やっぱ他の奴ら同士でも潰し合いってすんのかな」

 

 「そりゃするよ。この大会は《誰が一番にゴールするか》じゃなくて、《誰をゴールさせないか》を決める大会だもん。自分が一番になるには、他を潰した方が手っ取り早いってのは分かるでしょ?」

 

 「そりゃ確かに、筋は通ってるけど……なんか血気盛んな連中だなぁ」

 

 俺が言えたことでもないけど、と付け足しておく。

 確かに遠くの方で爆煙が上がったりしている。既に潰し合いは始まっているというわけか……。

 

 「なぁ……この本大会、何人くらい参加してるんだ?」

 

 「うーんとね……本大会まで上がってきたのは31組62人だね。それがどうかした?」

 

 マシンの操作用ウィンドウで、大会情報をみながらテトが言った。

 俺が気になったのは、勿論参加人数などではない。

 気になったのは、参加人数に対する、今生存(・・・)している(・・・・)人数(・・)だ。

 もしもあのフードの男が――――想像したくもないけれど――――ラフィン・コフィンのメンバーで、死銃あるいは同等の何かだとすれば、間違いなく何かアクションがあるはずだ。この大会に俺が参加していることも、『イッツ・ショウ・タイム』の《宣言》も含めて、何もしないとは考えづらかった。

 そして、その《何かのアクション》とは、信じがたいことだが、ゲーム内から現実の人を殺すということだ。ならば、その犠牲者となった人数分だけ、リストに《生存》とも《敗退》とも表示されないプレイヤーが現れるはずなのだ。

 俺が知りたいのは、その人数――――死銃が動いたという、確たる証拠だった。

 

 「なぁ、テト。今、《生存》でも《敗退》でもない奴っているか?」

 

 「え……? それって、アミュスフィアが強制切断されたりした人ってこと……? 今はいないけど、どうして?」

 

 「いや……ちょっと、な……」

 

 今のところは犠牲者はいないようだった。

 勿論、犠牲者など出ないに越したことはない。死銃へとたどりつくヒントがなくなってしまうが、それはあとでさっきの嫌味なプレイヤーに聞けばわかることでもある。

 捕まえるのは早い方がいいが、何も今日絶対というわけでもないのだから。

 近くにあのフードが現れたら、意識するようにはしようとだけ決め、俺はソファに座りこんだ。

 今は、すくなくとも俺が知る方法で攻撃を仕掛けられる範囲に敵はいない。

 

 「ねぇ……ヴァイオ君さ、さっきフードの人に何か言われてたよね」

 

 「……!?」

 

 突然切りだされ、思わず息を飲んでしまった。

 聞かれていたのか、と心の中で舌打ちする。

 テトには、詳しいことまでとは言わずとも、死銃と言う危険があるかもしれないと言っておくべきかとは思っていた。

 けれど、たかがゲームなのに本当の《死》の危険があるなどと言って、怖がらせてしまうのも望まれる状況ではない。

 移動手段を持たない俺にとって、テトを失うことは死銃への対抗策を失うことと同義なのだ。

 テトに話すべきかどうか。

 テトの問いかけに答えず、黙りこくって考えていた俺は、苦し紛れで視線を表示されたままのプレイヤーリストに向けた。

 そして、それを見た瞬間、俺は反射的に声を漏らしてしまった。

 

 「? どしたの……って……」

 

 テトも、横目で俺の視線の先にあるプレイヤーリストを見る。

 今まで《生存》と表示されていたカストールが、俺が見たくて、そして同時に見たくなかった《切断》に変わっていた。

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