ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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不能力者さん、春風さん感想ありがとうございました!


第7話 違うこころ ④

 ブリキ人形――――《ザ・オルフェウス》との戦いは、俺たちの防戦一方だった。

 まず、コイツは飛んでもなく手数が多い。本当に千本ありそうな腕を連続で振り回し、こちらがソードスキルを発動する暇さえ与えてくれない。

 打撃の中に時折混ぜてくる矢による攻撃が、少しずつ俺のHPを削り取る。

 

 「くそ……このままじゃ埒が明かない」

 

 呟き、ザ・オルフェウスの腕を剣で弾き返した。

 そのままバックステップで後退し、回復アイテムで削られたHPを回復しようとした。だが、

 

 「ぐ……おおっ!?」

 

 ザ・オルフェウスが、他のプレイヤーそっちのけで俺に全体重をかけてきやがった。

 コイツ……どういうつもりだ!?俺以外のプレイヤーには、背中ががら空きに……

 そこまで考えて、気がついた。ザ・オルフェウスの後ろで倒れている、プレイヤーたちを見て。

 HPバーを見ると、ギリギリまで減ってはいるが、まだゲームオーバーにはなっていない。

 このブリキ野郎が俺に全力で向かってきてるのは、もう他の連中をあらかたのしちまったからか……!!

 

 「ぐ…ああ!!」

 

 さらに力が加わってくる。

 まずい……このままじゃライトソードの耐久力も持たないし、何より俺のHPバーがイエローゾーン……5割を切った!!

 このままじゃブリキ野郎に圧殺される。だが、まだ序盤でまともにレベルが上がってない俺のステータスじゃ力任せにコイツをぶっ飛ばすなんてできない。

 せめて、ユウナにHPを回復してもらわないと押し切られる……!!

 

 「ユウナ、悪いけどHPの回復を……」

 

 ユウナのいる方を向いて、目を見開いた。

 大量のブリキ人形が、次々と出現(ポップ)しているのだ。ユウナも何とか応戦してはいるが、数が多すぎるせいでどんどん端の方へと追い詰められていく。

 これではユウナの助けは期待できない。ブリキ野郎は、俺だけで何とか倒すしか……

 

 「が、ああ……っ!!」

 

 さらに力がこめられ、俺を上から押さえつける数多の腕が重くなる。

 この重みは、とても仮想とは思えない。痛みは感じないように設定されているはずのSAOなのに、強大なプレッシャーが襲ってくる。

 ズン……と鈍い音が響く。

 何とか顔を上げると、ブリキ野郎の持つ全ての矢が俺を狙っていた。

 

 「あ……!!」

 

 思わず、剣を支える力さえ抜けそうになる。

 残りHPは3割、432。それに対して、矢は数万本。

 さっきは直撃7本と間接がおよそ20本でHPを2割削られた。この状況であれを一斉に喰らえば、間違いなく俺は死ぬ。

 死ぬ……ここでか? こんなところで? こんなブリキ野郎に負けて……?

 それは……嫌だ。まだ死にたくない。ユウナと約束したんだ。絶対に生きて帰るって。ユウナは一人で戦ってたんだ。俺だって、こんなところで簡単には諦められない!!

 

 「お、おおおおおおおお!!」

 

 雄叫びをあげ、剣で押し返す。

 だが、ブリキ野郎の……ザ・オルフェウスの幾千の腕はピクリとも動かない。ゲームシステム上のSTR値では、俺に出来ることはもうないのだろう。選択肢は諦めて潔く殺されるか、最後まであがいて無様に潰されるかだけ。

 それでも……例えそうだったとしても、俺は、絶対に諦めない!!

 

 「約束したんだ……!! 必ず生きて帰るって……!! お前なんかに、感情を持たないシステム制御のCOMなんかに殺されてたまるかああああああ!!」

 

 必死に叫び、全力で腕を押し返そうとする。

 それでも、無慈悲なまでに、冷酷なまでにブリキ人形は動かない。

 ただ獲物をその目で捉え、確実に殺す。それだけの組まれたプログラムを実行しようとする。

 勝てない、殺される。そんな考えが一瞬頭をよぎった。

 同時に、音がした。すべてのボウガンに矢が装填され、俺をハチの巣にしようと構える。

 

 「(ダメだ、死ぬ……!!)」

 

 怖くなった。この世界から消えてしまうのが。ユウナと離れてしまうことが。もう、ユウナと一緒に過ごしたり、笑ったりできなくなるのが。

 それでも、俺は目を閉じなかった。最後までザ・オルフェウスを睨みつけた。

 そして、その一撃(・・)は放たれた。

 

 「………は?」

 

 俺は思わず声を上げた。今まさに俺を圧殺せんと俺を押さえつけていたザ・オルフェウスが左へと吹っ飛んで言ったのだ。

 その場には僅かだが、ソードスキルのライトエフェクトが残っていた。つまり、誰かがソードスキルを使ってあのブリキ野郎をぶっ飛ばしたんだ。でも、だれが……?

 疑問に感じた俺だったが、それはすぐに解決された。俺を助けてくれたその人が、声をかけてきたからだ。 

 

 「大丈夫、藍人君!?」

 

 その人は、こんなところにいるわけがなくて、いつも俺の話を聞いてくれてた、姉さん(・・・)だった。

 

 「明日菜……姉さん……?」

 

 「藍人君、まだ死んでないよね!? 生きてるよね!?」

 

 「……俺は幽霊じゃないよ」

 

 ついでに言うと、あまりMMOでリアルネームを晒さないでほしいんだけど……まあ、SAOはただのMMOじゃないし、問題にはならないか。

 

 「……!! そうだ、ユウナ……!!」

 

 あまりに自分が絶対絶命過ぎてそこまで頭が回ってなかったが、ユウナだってそこそこピンチだったはずだ。ブリキ人形――――《アウトロー・レディオ》の大群に追い詰められているユウナを視界にとらえる。

 

 「ユウ……ナアアアアアアアア!!」

 

 叫ぶと同時に、走る。

 右手に持つライトソードの耐久値はほとんど底を尽きかけていて、雑な扱いをすればすぐにでも折れてしまいそうだった。

 ――――それがどうした。

 アイテムなんてもう一度手に入れるか、もっといい物を探せばいい。けど、ユウナはそうはいかない。たった一度でも、失われてはいけないんだ。

 

 「どぉぉりゃああああああああ!!」

 

 低威力の範囲攻撃《ヴォルスレッド・サークル》を放つ。ライトソードが悲鳴をあげたような気がした。

 群がるアウトロー・レディオを片っ端からなぎ払い、駆け抜ける。途中でレベルアップを告げるファンファーレが聞こえたが、その音さえも無視して走り抜ける。

 

 「これで最後ぉおおお!!」

 

 最後の一匹に《ダウンスレイブ》を叩きこむ。青いライトエフェクトが飛び散り、アウトロー・レディオは一匹残らず全滅した。

 同時に、ライトソードがパキィン……という悲しげな音を立てて砕け散る。目の前に現れる『ライトソードの耐久値が0になったため、消滅します』という文字。

 俺が最初に受けたクエストの報酬として手に入れたライトソードは、『軽い剣』という名の通り、敏捷値が3も上がるという序盤にしてはチート染みた武器だった。そして、砕け散ったその瞬間まで常に俺とともにいた相棒でもあった。ライトソードがザ・オルフェウスの猛攻に耐え続けてくれなければ、今頃俺はとっくに死んでいただろう。

 ……ありがとう。今は、ゆっくり休んでくれ。

 今は亡き戦友に告げる。また同じ武器を手にするのか、違うものを手にするのかは今は分からない。それでも、俺は最初の相棒のことは忘れないだろう。

 

 「ヴァイオさん!!」

 

 「おわっ!?」

 

 いきなり後ろから飛びつかれ、思わず前に倒れそうになる。

 後ろを向くと、顔を涙でぐじゃぐじゃにしたユウナが俺のコートに顔を埋めていた。

 

 「凄く、怖かったです……ヴァイオさん、ありがとう、ございます……」

 

 「ああ……良く頑張ったな」

 

 強くコートを握ってくるユウナを、優しく抱きしめる。

 仮想空間だのただのデータでしかないだの、夢のないことを言う連中は多くいる。けれど、たとえ偽物でも、この世界で誰かの温もりを求めることは決して悪いことじゃない。確かにデータの産物かもしれないけど、俺にはユウナの温かさが伝わってくるし、ユウナには俺の温かさが伝わっているはずだ。

 

 「あー、こほん。お熱くやってるところ悪いんだが、今は戦闘中だ」

 

 シンカーの、そんな一言で現実に引き戻された。周囲を見ると、どいつもこいつもにやにやと温かい目でこっちを見つめてやがる。

 ……すげー居心地悪ぃー。

 おーおー。ユウナなんか顔から湯気が出てる。さすがSAOは感情表現オーバーだなぁ。

 

 「……藍人君、貴方の武器、さっき砕けちゃったけど、他に武器はあるの?」

 

 「俺の名前はヴァイオレットだよ、姉さん。MMOでリアルネーム呼びはやめてもらえないかな」

 

 「……?」

 

 おっと緊急事態です。このお方、MMOの大原則を理解していらっしゃらない。

 確かにリアルネームをもじったり、あるいはメジャーな名前ならカタカナにしただけでも問題はないが、俺の今の名前は《結城藍人》ではなく《ヴァイオレット》だ。というか、ユウナにも教えたことはなかったのに……

 

 「……パーティ申請するからキャラネーム確認して」

 

 「そう言えば、この辺に名前出るんだっけ」

 

 「おまけにソロプレイっすか……どんだけだよ」

 

 ま、姉さんは俺と違ってゲーム廃人じゃないし、しょうがないっちゃしょうがないんだけど……よく今まで生き残れたな。というか、ソロプレイでここまで強くなれるんだ……

 何故か俺の努力が全否定されてる気がしなくもないが、気にせずパーティ申請を行う。姉さんが了承し、俺の視界の左上に《Asuna》というキャラネームとHPバーが表示され……

 

 「ぶふっ!?」

 

 「な、何!?」

 

 思わず噴き出した。

 レベル……23!? トッププレイヤー達……たとえばシンカーでさえ、さっき聞いたが17だったんだぞ!? え、ちょい待って、この人もしかしてすげぇ強い?

 

 「……御見それしました」

 

 「え!? な、なんで土下座してるの!?」

 

 「ヴァイオさん!?」

 

 間違いない。姉さんは多分、現状で俺が知る限り最強のプレイヤーだ。多分サシで姉さんと戦ったら100%勝てない。

 そして、土下座のままなんで姉さんがSAOに居るのかを聞こうとしたのだが、そこで地響きがした。

 

 「うわっ……!?」

 

 「何……!?」

 

 姉さんがぶっ飛ばしたザ・オルフェウスが立ち直ったのかと思った。だが、現れたのは、さっきのブリキ人形ではなく、毒々しい色をした八本足のあの生き物。

 

 「「きゃああああああああああああああああ!?」」

 

 おそらくは虫嫌いと思われる女性陣が悲鳴を上げた。うんまあ確かに気持ち悪いな、あれは。

 

 「違うモンスターだと……!?」

 

 シンカーが俺の隣で驚愕の声を上げた。

 いや……

 

 「シンカー、カーソルをあいつに合わせてみろ」

 

 「え……? あ、ああ」

 

 俺もカーソルを蜘蛛に合わせる。表示された名前は《the・Orpheus》――――ザ・オルフェウス。

 

 「同名モンスター……いや、」

 

 「エクストラモンスター……」

 

 SAOの公式HPにあった隠しファイルをクラッキングしたときに手に入れた情報の一つ――――エクストラモンスター、またの名を変化ボス。

 戦況に応じて形状やスキルを変更してくるモンスターで、極めて低い確率でボス部屋のモンスターがこいつになることがあるらしい。まさかボス初戦で戦うことになるとは思ってなかったがな。

 

 「……シンカー、倒すぞ」

 

 「何?」

 

 「アイツのHPバー、最初に5本あった奴がもう最後の一本もレッドゾーンだ。全員でスイッチしながらソードスキルを叩きこめば、そんなに時間はかからないだろ」

 

 「そうは言っても、キミ、何も装備してないじゃないか」

 

 ……………………………。

 そうだったぁ――っ!? なんでいい雰囲気でそれをブチ壊しちゃうの俺!? 慌ててアイテムストレージの武器欄を確認し……

 

 「クロスダガーしかない……」

 

 膝をついた。

 ダガースキルはほとんど上げてないし、使えるソードスキルもボス戦では役に立たないものばかりだ。

 アイテムストレージのほとんどをドロップアイテムで埋めていた俺にとって、まさかの戦友戦士はむしろ俺に死亡フラグが乱立なのです。

 

 「あ……ヴァイオレット君」

 

 「非常に言いづらそうなのでもう藍人でいいです」

 

 「じゃあ、藍人君。私が持ってる両手大剣でよければ上げちゃってもいいんだけど……」

 

 「マジッすか!?」

 

 大剣スキルもダガースキルと似たり寄ったりだが、攻撃力の面で心もとないダガーよりマシだろう。

 姉さんから受け取った両手装備用大剣《ディフェンダー》を装備する――――重っ!!

 

 「だ、大丈夫!? 藍人君!?」

 

 「な、なんとか……STR値ギリギリだけど」

 

 ディフェンダーを構え、ザ・オルフェウスの方へと向く。

 せっかくあちらさんが待っててくれたんだ、コイツで速攻叩き斬る!!

 

 「総攻撃だ!!」

 

 「「「おお――――!!」」」

 

 シンカーの掛け声とともに、全員が突撃する。

 蜘蛛に変化したときのコイツは、さっきまでのパワーゲーム型ではなく、糸を使ったトリッキーな戦闘を得意としているようだ。

 基本的には糸で相手をがんじがらめにして、足で斬撃を繰り出すというものだが……

 

 「遅い!!」

 

 はっきり言って、糸の軌道が見える。

 これだけ重い武器を装備していても、見てから避けられるのだ。コイツの攻撃なんぞ、当たるか!!

 

 「おおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 単発ソードスキル《アバランシュ》を打ち込む。

 俺だけじゃない、ザ・オルフェウスと対峙するすべてのプレイヤーが各々のソードスキルを打ち込み続ける。

 

 「くたばれええええええええええええええ!!」

 

 俺も、刃を止めることはしない。

 どうせ俺自身も殆どHPを残していない。このまま押し切れば俺の勝ち、押しきれず、カウンターを決められれば俺の負け。

 《アバランシュ》のライトエフェクトが激しくなり、ソードスキルの動きをアシストするシステムは俺に剣を振りきらせた。

 そして、それだけで終わらない。振り切った剣ごと俺は空中へ飛び出した形になり、そこから体を捻ってもう一撃を叩きこむ!

 

 「――――《アバランシュ・ツヴァイ》!!」

 

 アバランシュの上位2連撃、《アバランシュ・ツヴァイ》。

 2撃目の斬撃が、ザ・オルフェウスの体を真っ二つにする。

 青いライトエフェクトと、赤いダメージエフェクトが混じりながら、ザ・オルフェウスはその身をポリゴン――――データへと還して言った。

 訪れる、一瞬の静寂。そして。

 

 「「「おおおおおおおおおおお!!」」」 

 

 プレイヤーたちの歓声が響いた。

 

 「ふぅあ――……」

 

 俺も思わず次世代のため息をつきながら、その場に倒れてしまう。こんなに疲れたのはリアルでもSAOでも初めてだ……。

 

 「ん?」

 

 目を開けると、二つの顔が倒れた俺の顔を覗き込んでいた。

 

 「ヴァイオさん、カッコよかったです!!」

 

 「そ、そうか?」

 

 「そうよ、藍人君。中々様になってたじゃない」

 

 「うんやっぱそう?」

 

 片手直剣から両手剣に変えようかなーとか呟きつつ、ドロップアイテムや経験値の確認をする。

 すると、《You got the last attacking bonus!》の文字が浮かび上がってきた。

 アイテム名は――――《マントオブディーペストブルー》。最藍のマント。

 藍色とは中々気のきいたアイテムを落としてくれるじゃないかボス野郎、と思いつつアイテムストレージからマントを選択して装備しようとした時、シンカーが、間違いなく俺に向けて言った。

 

 「さっきは勢いで聞き流していたが――――ヴァイオレット君、君はいったい何者だ?」

 

 確かに、この俺に向けて――――。




藍人が何者かとかエクストラモンスターとかそういう細かい設定は次回(もしくは次々回)にて説明します!
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