ソードアート・オンライン 《Violet Knight》 作:黒炉
ヴァイオレットがフードへと立ち向かうためにマシンを飛び降り得てから、テトはとりあえずはヴァイオレットの言うとおり、逃げ回ることにしていた。
いや、ゴールを目指した、と言った方が、聞こえはいい。
「(けど……けど、君はどうしてそんなに勇敢に敵に立ち向かえるの……? 君の考えが全くの見当はずれで、予想もしない方法で殺されちゃうかもしれないのに……)」
ヴァイオレットは、自分よりも危険な状況にいるテトをまきこまないように敵に立ち向かって行った。
自分よりも、他人を守るために。
彼がかつて、SAOでどれだけ多くのものを失ってきたかはテトには分からない。
そして、どうすれば自分よりも他人を優先できるかも。
「(だって、信じたって、結局はいなくなっちゃうんだよ? 裏切られたり、騙されたりするかもしれないんだよ?)」
そう言う意味では、ヴァイオレットだってそもそも怪しい。
もともと彼は死銃とはグルで、テトを確実に殺すために取り入り、今、敵を足止めするふりをして本来の仲間と合流したのかもしれない。
そこまで考えて、テトは自分の愚かな考えを振り払った。
彼は、他に目的があったとしても、テトのために命を賭けた。
今の自分の考えは、そんな人に対して抱いていい物ではない。
「(私に出来ること……私は、死ねない。でも、それはきっとヴァイオ君も同じ。……だったら!)」
テトの乗ったマシンが大きく旋回し、来た道を逆走する。
自分よりも他人を優先する。
それは、難しいようで案外簡単だ。
少なくともその他人が、テトにとってのヴァイオレットであるように。
特別とまでは言わずとも、少しは大切と思えるのなら。
つまるところ、テトの中でヴァイオレットは、もはや『ただの知り合い、一時的なパートナー』ではなくなっていたのだ。
☆
「……ぐ、ぁ……」
視界が紅蓮の閃光に眩んだ直後、爆音が響き、同時にとてつもない衝撃が身体を襲った。
一応、痛みと言える痛みはないが、体が言うことを聞かない感じがある。
HPゲージは、余裕のあった8割を大きく下回り、残りは1割ちょっと……既に赤くなっていた。
「んだよ、いまの、は……?」
「レベル9の超魔法《バーニングフレア》だ。SAO時代を引っ張る脳筋には難しいんだろォけどな」
「……ッ!?」
岩にもたれかかる俺の前に立ち、そう言った男がいた。
ジョニー・ブラック。ついさっきまで、俺と対峙していた男だ。
てか、マズ……!?
「コイツは目立つから使いたくなったんだよぉ。それを使わせるなんて、流石だぜ藍色」
不気味で気持ち悪い笑い声を洩らしながらそう言い、ブラックは小柄な俺の体を持ち上げた。
襟を掴まれているせいで、身体が思い切り下に引っ張られるような感覚が強くなる。
「ま、今は餓鬼だけどな」
「うっせー……。それよりよ……俺なりにお前
「ほぉー……」
本来なら最優先で隠すべきその手口をばらすというのに、ブラックは楽しげに口笛を吹く。
絶対に見抜かれない自信があるのか、それとも単にバカなのか。
多分、というか、後者だとありがたい。
「聞かせてくれよ」
「ああ……。どうしてゲーム内でPKされた時間に、現実でもそのプレイヤーが死ぬのか。それ自体は、俺も途中で確信を持てた。ゲーム内でPKされた瞬間に、
「…………」
ここまでに、ジョニー・ブラックは何の変化もなく黙りこんでいる。いや、黙っていること自体がもう変化だ。
ついでに、俺のバックにそう言うことに関しても調べることができる人間がいることも匂わせた。
普通なら、犯人にはすでに相当のプレッシャーだ。
「後は時間を決めて、行動に移すだけだ。最初の2件は普通のフィールドや町でもいいんだから、問題はなかった。問題は、このSoC本大会で始末する、
3人。
カストールにテラデール、そして――――テト。
「本大会はレース形式。つまり、綿密な時間の打ち合わせは無意味。当然、現実と仮想の両方の死亡時刻を合わせるのは困難だ。そこで役に立つのが、GGOで行われている大会になってくる」
《ガンゲイル・オンライン》では、現在《バレット・オブ・バレッツ》という大会が行われており、そちらはキリトさんが参戦している。
この大会は、GGOのプレイヤーでなくとも注目する規模で、《MMOストリーム》の独占生中継で試合の状況がリアルタイム放送されている。
「意外と知られてないんだけどさ……この大会、超マイナーなMMOチャンネルでライブされてんだろ?」
俺が言い放つと、それまでまだかろうじて余裕のあったブラックの立ち振る舞いが、一気に余裕のないものになる。
GGOの大会の方の陰になってしまっているせいで、プレイヤーしか知らないようなマイナー情報ではあるが……それでも、SoCもちゃんとリアルタイム中継されているのである。
その映像を見れば、死銃の力を発揮したように
「どういうふうにライブされてんのかは知らないけど、大方リアルで待機してるお前の相方も、ターゲットがどんなアバターしてるかくらいは知ってんだろ。だから、さっきの魔法は殺しのトリガーにはならない」
テトの証言から、おそらくだがあの《バーニングフレア》とかいう魔法がトリガーになっているとは予想していた。
万が一に備えてなるべく喰らわないように注意はしていたが、喰らっても俺が生きているのは、ようは俺の推理を証明しているようなものだ。
「これが俺の推理だ……言いたいことがあるなら言えよ」
「……あの女はもっと早くに消しとくべきだったな」
憎々しげにそう呟き、ブラックは俺の体を放り投げた。
防具もそこそこ、それに俺のステータスがあるので、ダメージはない。
「それに、藍色の相手もする必要はなかった。お陰でもう追いつけねえだろ、コレ」
ブラックは肩をすくめてそう言う。
だが、最低でも今日だけテトに生き延びてもらえば、後は彼女がログインさえしなければいい。
奴らの狙いはテトを殺すことではなく、そのことによって発生する噂なのだろうから。
最低限、彼女の安全は保障されるはずだ。
「あばよ、藍色」
だから、俺がここで殺されても、もう問題はない。
ブラックの言うとおり、今からテトに追いつくのはもう不可能だ。
だから、時間稼ぎは達成。もう粘る必要もない。
「(ただちょっと、悔しいだけ……)」
ブラックの持つ銃の銃口がこちらに向けられる。
喰らったところで、実際に命の危険があるわけじゃないのだから、関係ない。
そう、関係ない、はずだった。
彼女が再び、現れるまでは。
「おおおおおりゃああああああ!!」
ガッッ!!という轟音が響き、ブラックの体が吹き飛ばされる。お巡りさん大変です。人が撥ねられました。
……じゃなくて。
「て、テト……?」
「ヴァイオ君、まだ生きてる!?」
ブラックを撥ねたエア・カーから飛び降り、テトが駆け寄ってくる。
俺のHPバーをみて一瞬息をのんだ彼女は、すぐに回復魔法で体力を回復してくれた。
しかし、どうして彼女が……?
「テト、一体どうして……?」
「君だって100%安全ってわけじゃないのに、一人で戦わせるなんて、ちょっと卑怯だなって思っただけ」
「だけって……」
それで戻ってくるか、普通……?
突っ込んでやろうと思ったが、それはやめておいた。
どっちにしろ、助けれたのは事実だから。
「……で、アイツなの?」
「ああ。もう間違いない。アイツを倒せば、とりあえずは安全になる」
テトの手を借りながら立ち上がり、言う。
とりあえず奴を動けなくすれば、すぐに死ぬ危険はなくなる。
とりあえず、だが。
「ぐ……くっ、そ……!」
相当なダメージだったようで、ブラックのHPバーは大きく減少していた。
痛みがカットされていたとしても、今のは相当痛そうだったのだ。まあ、当然だろう。
「テト……アイツとは、俺が決着をつける」
「だいじょぶ。援護するから」
「ああ……頼む」
テトに手渡された《スタニング・ファタルラルド》を構える。
ここからが本番。
そして、あの夜の続きだ。