ソードアート・オンライン 《Violet Knight》   作:黒炉

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さて、いよいよ物語も大詰め……!

今回の内容、どんな反響が来るのか楽しみだぜ……ッ!

いや、来るかどうか知らんけど。


第73話 最後の戦い

 目覚めたらそこは、いつも通り、何の変哲もない自分の部屋だった。

 ヴァイオレットと共に全参加者中唯一のゴールを果たしたテト――――五条美海は、ヴァイオレット――――結城藍人に己の本名と住所を告げ、一応警察を呼ぶという約束をしてもらった。

 どうやらここは彼のダイブしていた場所からそう遠くないところにあり、彼もすぐに来ると言っていた。

 来てくれる。私のために!

 その事実が、美海に早まった行動をとらせた。

 今はまだ室内に犯人がいるかもしれないのに、跳び起きてしまったら――――

 その事実を、もう遅すぎるくらいになって認識する。

 

 「(やばっ……)」

 

 慌てて周囲を見回すが、人はいない。

 人の気配など、ない。

 それでも、どこかに潜伏しているのかと思い、キッチン、トイレ、風呂の浴槽など、さまざまな所を探したが、どこにも人がいた形跡すらなかった。

 やはり、相方の敗北を知って、逃走したのだろうか。

 

 「………っ、さむ」

 

 美海はようやく、室内とはいえ11月に、下着姿で部屋の中をうろつきまわっている事実に気が付いた。

 すぐに自室に戻り、ピンクと白のフリースの上にカーディガンを羽織る。スカートは、白のロングスカートを選んだ。

 全体的に白が基調なので、イメージとしては“清楚”だ。

 もっとも、自分はそこまで綺麗でも美しくもないが。

 少なくともこれから警察や、あの少年が来てくれるのだから、あまりにけばけばしい服装は避けようと思ってのチョイスだった。

 もはや、完全に恋する乙女である。

 鏡の前でおかしなところがないかチェックしていると、インターホンが鳴る。

 かなり速い到着に驚きながらも、美海はインターホンに接続された受話器を取る。

 画面に表示されたのは、右手にコンビニの袋をぶら下げた倉出だった。

 

 「あ…倉出さん?」

 

 『やぁ。SoC優勝おめでとう、美海。コンビニでジュースとスイーツ買ってきたけど、開けてくれるかい?』

 

 「はい、すぐ行きます」

 

 スイーツと言う単語に、少し目が眩む。

 美海もそこは女の子らしく、甘いものは普通に好きだ。

 倉出を外にずっと待たせるものよくないので、すぐに玄関へ行き、ドアを開ける。

 

 「うっわ、寒い……」

 

 「11月にしては、今日は寒い方らしいしね」

 

 そう笑いながら、倉出はすぐドアを閉めて鍵をかけ、チェーンロックをかける。

 そこで美海は、あれ、と思った。

 倉出の防犯意識はかなり高く、美海に戸締りやこまめな鍵かけの重要性を説いたのも彼だ。

 美海の家に来ると気も、倉出は絶対鍵を閉める。

 が、何か違和感があったような気がする

 

 「……室内でも玄関は寒いね。上がってもいいかな」

 

 「あ、どうぞ」

 

 不透明な違和感をとりあえずは払拭し、美海はスリッパを出した。

 このあたりも、倉出に教えてもらったことだ。

 倉出をリビングまで案内すると、すぐに暖房とホットカーペットをつける。

 12月の中旬くらいに冷え込むといわれる今日は、このくらいの方がいいだろう。

 

 「お茶かコーヒーか、どっちにします?」

 

 「気にしなくていいよ。ジュースも買ってきたし」

 

 美海の問いかけに対し、倉出はそう言って、コンビニの袋を掲げた。

 そう言われればそれもそうだと思い、美海は小さな皿とフォークを二つずつ出して、持っていく。食べる気満々だ。

 

 「ねぇ、美海。大会の話、聞かせてよ」

 

 「え……あ、はい。えっと……」

 

 突然言われて承諾したものの、どこまで話したものか。

 とりあえず、倉出は自分の保護者だ。今後の活動に影響するかもしれないし、死銃の話は、しっかりとしておかなければならない。

 そう思い、余計な部分は省き、死銃の事を、大会中に現れた、人を殺す力を持つプレイヤーの事を倉出に話した。

 

 「……そうか。そんなことがあったのか。怖かったね」

 

 「はい……。あ、でもこの前話した人が大丈夫だって言ってくれて……」

 

 「あの小さい子かい?」

 

 「はい。あ、でもあれ見た目に反して、男ですけどね」

 

 そう言って、美海は笑った。

 本当に、あの少年には色々と驚かされた。そして、とても助けてもらった。

 そのことを、倉出に知ってほしかったのだ。

 それが、完璧すぎる(・・・・・)くらいに(・・・・)間違って(・・・・)いたとも(・・・・)知らずに(・・・)

 

 「美海ッ……!」

 

 「え……きゃっ…」

 

 コンビニの袋からスイーツを取り出そうとしていた美海は、突然自分を押し倒してきた倉出に反応できなかった。

 はずみで、袋とその中身が宙を舞う。

 最初は何が何だか解らなかった。

 すぐに自分が押し倒されていることに気づき、時期に藍人が来てしまうことを考えるとこの状況はまずいとじたばたする。

 が、大人の男の力で抑えつkられているのだから、当然拘束が解けるわけもない。

 そこでようやく、美海はさっきの違和感は倉出がチェーンロックをかけたことだと気づいた。

 普段の倉出はあそこまでしない。なのに今日に限ってチェーンロックをかけたのは、仮に美海が逃げても解錠に時間がかかってしまう。

 

 「暴れないでくれよ……死銃の秘密(・・・・・)を知って(・・・・)藍色とも(・・・・)かかわりを(・・・・・)持ってるん(・・・・・)じゃどうし(・・・・・)ようもない(・・・・・)んだから(・・・・)

 

 「え……!?」

 

 美海は倉出の口から発せられた言葉に、暴れるのをやめた。

 倉出は、あの少年の事を知っている……いや、それ以前に、『死銃の秘密を知って』って……!?

 頭の中がこんがらがる美海を気にすることなく、倉出は懐からプラスチック製の棒状のものを取り出した。

 長さは20cmほど。先端に銀色の金属製パーツが取り付けられていて、太さは筒部分で約3cm。筒部分の側面には目盛が書いてある。

 中には透明な液体。

 それは、以前ネットで噂された、《針で直接刺さない注射器》――――無針高圧注射器だった。

 

 「く、倉出さん……それって……?」

 

 「これは《サクシニコルリン》という薬でね……()が昔の仲間から借りたものだ。これが体内に入ると、即座に筋肉が活動を停止、肺と心臓が停止。つまり――――」

 

 ――――心不全になる。

 と、倉出は言った。

 心不全。それは、死銃の力によって殺された者たちの、共通の死因ではなかったか。

 

 「じ……じゃあ、倉出さん、が……?」

 

 「ああ。俺が、現実の死銃の一人(・・・)さ」

 

 の一人、というくらいだから、まだ他にもいるということだが、今の美海にはそこまで考えを追いつかせることは出来なかった。

 信じていた、世界で唯一信じていた人が、人殺し――――

 

 「う……う、そ…嘘、でしょ……?」

 

 「残念ながら、嘘じゃあない」

 

 美海が必死に絞り出した言葉を、倉出は切って捨てた。

 美海の両目から、大粒の涙が流れ出す。

 

 「なん……なん、で……っ……?」

 

 「そりゃあ、俺は殺人者(レッド)だし。奴らの……藍色どものせいで俺達は牢屋にぶち込まれたが、まだ何も終わっちゃいなかったしなぁ」

 

 そう言って、舌舐めずりをした倉出は、何も持っていない左手を美海の服の中に滑り込ませる。

 倉出の手が、美海の火傷の痕に触れた。

 

 「………っ」

 

 「ああ……やっぱいいわ、こういうの。“呪われた”って感じで」

 

 恍惚と語る倉出に、美海は再び目を見開いた。

 呪われた、とは、つまり――――

 

 「私が……私が、“普通じゃない”から……?」

 

 「ん、ああ、そうだよ。ただの餓鬼よりそっちの方が、よっぽどいい」

 

 自分でも悪趣味だと思うけどな、と言って、倉出は高笑いした。

 もう、なにもかもが絶望的だった。いや、もはや絶望そのものだった。

 信じていたのに。

 自分のことを理解してくれる、唯一の人だと思っていたのに。

 こんな身体でも、それを知ってなお傍にいてくれてるんだと思っていたのに。

 逆だった。

 こんな身体(・・・・・)だから傍に(・・・・・)いたのだ(・・・・)

 自分が、普通じゃないから。

 あまりにも残酷すぎる現実に、美海はもう涙すらも出なくなっていた。

 

 「いや、俺が美海を愛しているっていうのは本当だぜ。すぐに楽にしてやるからな」

 

 どこか遠くから聞こえるような倉出の声。

 首元に、ひやりとした感触があった。注射器が首筋に当てられたのだ。

 それでも、美海は声を上げることすらもできない。

 思うのは、どうして自分はこんなにもひどい仕打ちを受けなければならないのかということ。

 火事で両親を失い、弟は意識不明、身体には大きな火傷の痕。

 そして、ようやく自分のことを知っても逃げないでいてくれる人と会えたと思ったら、今度はその人に殺される。

 もう、散々もいいとこではないか。

 倉出が乱暴に美海の衣服をはぎ取り、美海の体を守るものは数分前と同じ下着のみとなった。

 

 「美海美海美海美海美海美海」

 

 呪文のように呟き続ける倉出にも、もう何も感じなかった。

 何も考えたくない。

 何も見たくない。

 何も感じたくない。

 

 

 もう、すべてが、どうでもいい。

 

 

 美海が完全に思考を放棄しかけた時、玄関側の窓が割れる音がした。

 だが、反応する者はいなかった。

 倉出は美海に夢中だし、美海はもうすべてに対して何かを感じる余裕はない。

 少なくとも倉出にとっては、それは致命傷であるのにもかかわらず。

 音のあと、()はすぐに現れた。

 

 「テト、無事か!」

 

 リビングのドアが一気に開け放たれ、そこから少し藍がかった黒髪の少年が飛び込んでくる。

 倉出は突然の出来事に反応できず、少年になされるがまま、テトから引きずりはがされた。

 

 「どいてろ!」

 

 「がっ!」

 

 そのまま突き飛ばされ、背中を強く打つ。

 

 「テト、無事か!? まだ生きてんな!?」

 

 「……ヴァイオ、くん……?」

 

 姿や声は全然違うが、目の前の少年がすぐに駆けつけると言ってくれたヴァイオレットであることはすぐ分かった。

 かなり急いでいたのであろう、息が上がっている。

 

 「ごめん、来るのが遅くなった。依頼人がバカで、説明に時間がかかって……窓は、ドアが開いてなくて、中から変な声が聞こえたから割って入った。アレは後で謝るけど……」

 

 早口でまくしたてたヴァイオレット――――結城藍人は、それだけ言うと、振り返って倉出を一瞥した。

 倉出はようやく激突のダメージから回復できたようだった。

 そんな倉出を一瞥した藍人は、こういった。

 

 「……クラディール、お前なのか……?」

 

 クラディール。

 かつてSAOで、一時的に追われる身となったユウナとアスナを捕え、凌辱しようとした男。

 その後どうなったかについては、藍人たちは知ろうともしなかったが、まさかラフコフに加わっていたとは、藍人は思いもしなかった。

 

 「藍色ォ……邪魔すんなぁ!!!」

 

 倉出が注射器を藍人に向けて、勢いよく突き出す。

 美海はすぐにあれが危険な薬であると伝えようとするが、声が出ない。

 

 「遅い!」

 

 だが、注射器は藍人には届かない。

 藍人は倉出の攻撃を簡単に避けると、注射器を払い落す。

 驚愕する倉出の腹に左フックを決めると、右ストレートをお見舞い。

 止めと言わんばかり左足で鳩尾を蹴る。

 倉出は血を吐きながら、壁に打ち付けら、呻く。

 

 「まだ意識あんな……おら!!」

 

 髪をつかんで頭を持ち上げ、顔面に右ストレートを2発。

 それで完全に、倉出は気を失った。

 最初は少しやりすぎたかと思ったが、倉出が美海にしたことを考えれば、物理的な痛みで済んだ分マシかと思った。

 憂さ晴らしも兼ねて、止めの蹴りを鳩尾にぶち込む。

 

 「………」

 

 そんな藍人と倉出を見ていた美海は、完全に声を失っていた。

 だがそれは、藍人の強さに見とれていたからではない。

 思うのは、ただ一つ。

 

 やっぱり、私はもう終わってる。

 

 倉出もボコボコにされた。

 もう、全てがどうでもいい。

 思えば、楽しいことなんてほとんどなかった。

 辛いことばかりだった。

 苦しいことばかりだった。

 だったらもう、いっそのことやめた方がいい。

 

 「………」

 

 美海は無言で、転がっていた注射器を手に取る。

 これを自分の腕に打てば、それですべては終わる。

 楽になれる。

 美海はもう、何を考えるわけでもなく注射を自分の腕に打とうとしていた。

 

 「おいテト、だいじょうぶ……!? おい、何してんだ!!」

 

 だがそれは、すんでのところで藍人に阻まれる。

 藍人は美海を抑え込むと、注射器を奪って放り投げた。

 もう、美海の手では届かない。

 

 「あ……な、なんで……なんで死なせてくれないの……!?」

 

 「なんでって……んなことできるわけねえだろ!! お前、自分が何してたか解ってんのか!?」

 

 「分かってるよ! でも、だってしょうがないじゃん!! こんな身体だし、信じてた人には裏切られるし、人にはタカられるし……もう、いいことなんか何もないのよ!!」

 

 「だからって、死ぬのかよ!」

 

 「そうだよ!! 見てよ、この身体!! こんな穢い身体抱えて、私がどれだけ苦しかったかなんて知らない癖に、偉そうなこと言わないでよ!!」

 

 「………ッ」

 

 藍人はそれに、反論できなかった。

 美海も、大粒の涙を流す。

 背負ってきたものが大きすぎて、多すぎて、藍人にはどうすればいいか解らないし、美海は自分が奴あたりにも等しいことをしているという自覚があるだけに、自分が情けなかった。

 そもそも、自分は彼の事が好きだったはずなのに……

 全ては結局、この呪われたような――――いや、呪われた体のせいなのだ。

 この傷のせいで、私は彼にも嫌われる――――

 

 「……ごめん」

 

 だが、藍人の一言は、美海の予想を大きく裏切った。

 

 「そりゃ、そうだよな……俺は良く分かんないけど、きっとテトは、色々辛いことを経験してきたんだと思う。それは、きっと俺には分かんないことなんだろ。だから……知った風なこと言って、偉そうにするのが間違ってるのは分かってる」

 

 「…………」

 

 「でも……俺は、君のことを守れたと思ったんだ。その守れたはずの命が消えるのなんて、俺は見たくない」

 

 気が付けば、藍人は涙を流していた。

 両手を美海の両手に添えて、震えるように泣いていた。

 倉出も、美海のために涙を流すようなことはなかった。

 やっぱり、この人は……

 美海の中で、そんな感情が再び芽生える。

 

 「今までいいことなかったなら、俺が出来る限りのことするし、困ったらすぐ呼んでくれたっていい。一人で辛い時は俺が支える。だから……だから、」

 

 死なないでくれ。

 もう、目の前で大切な人が死ぬのなんて、見たくないんだ。

 そう、藍人は言った。

 

 「うん……うん……ごめんね………」

 

 美海もそう言って、藍人の胸に身体を預けた。

 藍人は何も言わずに美海の身体を優しく包みこんでくれた。

 感じたのは、初めての感触。

 

 「(誰かと一緒って……こんなに、心から幸せになれるんだ……)」

 

 この少年なら、きっと、自分の傷のことも、真摯に向き合ってくれる気がする。

 美海は藍人の温かい腕の中で、そっと瞼を閉じた。

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